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Shining Rhapsody

オリジナル小説の投稿がメインです

338話 侵攻26

 338話 侵攻26

 

 

宣言通りに5割の魔力を放出し、ルークは上空を眺める。だが特に変化が見られなかった事で、魔力を一気に高めて行く。

 

「・・・60・・・80・・・100%」

 

たったの数秒で全開に達し、再度上空へと視線を移す。だがまたしても変化は見られない。この時点で検証を止めるべきだったのだが、ルークは半ばムキになっていた。

 

「へぇ・・・これでもダメか。抑え込むんじゃなくて散らすって言う特性のせいなんだろうけど、良く考えられた魔道具みたいだな。ただその分、燃費は悪そうだけど。しかしこのままだと検証にならないし・・・限界までブーストしてみるか?いや、壊す前にアレを確かめないと・・・」

 

魔力は全力で放出しているが、ルークにはまだ神力がある。だがそのまま神力を放出して、万が一魔道具を破壊してしまうのはマズイ。まだ確かめなければならない事が残っているのだ。

 

魔力を全開にしたまま、右の掌を上に向ける。意識を集中し、ほんの少しだけ神力を集めた結果――

 

――ゴォッ!

 

「うおっ!・・・火柱になっちまったけど、とりあえず出たな。神力なら魔法は使える、と。ん?魔力じゃないから魔法じゃないか?なら・・・神法?う〜ん、語呂がイマイチ」

 

何とも下らない事を呟いているが、先に済ませておくべき検証は無事に終了した。件の魔道具と思われるモノは、魔力を用いた魔法には作用するが、神力には作用しない事が判明したのである。マッチ程度の火を灯すつもりが、特大の火柱を掌から浮かべて。それから拳をギュッと握り締めて炎を消す。

 

「さて、それじゃあ神力を魔力に変換して・・・面倒だから・・・全開だぁ!!」

 

 

――パリィィィン!ドンッ!!

 

ガラスが割れたような音が鳴り響き、王都を覆っていた結界のようなモノが消え去る。同時に魔力の放出を抑えられれば良かったのだが、そう思い通りにはいかない。その結果、この世界に住む者達が今まで感じた事の無い程、強大な魔力が瞬時に吹き荒れてしまったのだ。

 

その結果、広範囲に渡って魔物達が一斉に逃げ出したのだが、この時のルークが知るはずもない。何故なら、当の本人は違う事に意識を向けていたのだから。

 

「神力の方が効率が良いはずなのに、思った程じゃないな。これって・・・1回に神力の2割程度しか魔力に変換出来ないって事か?それとも単なる練習不足?・・・折角の機会だし、神力の方も確認しとくか!」

 

いつの間にか、魔道具の検証が自分の実力把握へと変化する。本人は折角の機会などと言っているが、面倒を一度で済まそうとしただけの事。何度も言うが、この時点で止めておけば良かったのだ。いや、最早手遅れである。何しろ、一部の者達は既に大慌てだったのだから。

 

 

 

 

◇エリド村◇

 

「「「「「っ!?」」」」」

「何事だ!?」

「な、何なのよ、この魔力!?」

「この方角は、ミーニッツの・・・王都!?」

 

異変を察知して騒ぎ出したのは、エリド村に居た者達。あまりにも膨大な魔力に、数百キロ離れた彼らにも余裕で感じ取る事が出来たのだ。大凡の位置を割り出したのは、凄腕の魔術師であり長らくこの村に住んでいたエレナ。彼女が齎した情報により、全員が何者の仕業なのかを悟る。代表してその名を口にしたのはティナ。

 

「ということは、ルークですね」

「もの凄い魔力量ね・・・」

「フィーナさんの言う通りですが、ここまで魔力を放出する事態に陥ったのでしょうか?」

「・・・答えは恐らく、学園長の言う魔道具のせいでしょうね」

 

スフィアの問いに答えたのもティナ。しかし何が言いたいのか理解出来ず、全員が揃ってティナへと視線を移す。

 

「実験したのだと思いますよ」

「実験、ですか?」

「えぇ。魔道具に対抗出来るかを、確かめたのだと思います。徐々に魔力を高めて行って、魔道具を打ち破った為に私達が感知出来たのでしょう」

「なるほど・・・」

「ですが、ちょっとマズイかもしれませんね」

「「「「「?」」」」」

「突然強大な魔力が放たれたのです。驚いた魔物達が一斉に逃げ出したはず」

「「「「「っ!?」」」」」

 

これまで誰よりも多く魔物を狩ってきたティナである。当然その生態に関しても熟知している。だからこそ、誰よりも早く次に起こる事が予測出来た。

 

「相当な広範囲に渡って魔物が移動するでしょうから、スタンピードの再来と言って良いかもしれません」

「ちょっと、マズイじゃないのよ!?」

「ですから、そう言っているじゃありませんか」

 

慌てふためくナディアに対し、ティナが淡々と答える。何を呑気な事を、とナディアは思ったのだが、お陰でスフィアは冷静になる事が出来ていた。

 

「確かにマズイ状況ですが、落ち着けば対処は可能です」

「ホントに!?」

「えぇ。今回魔物達は、ミーニッツ共和国の王都・・・つまりルークを中心として、放射状に移動するでしょう。ある程度の動きが予測出来ますから、各国へは時間差で到達するはずです」

「そうか!近い所から順番に討伐して回ればいいのね?」

「ナディアさんの言う通りです。ただ・・・」

 

 

何とか出来る。そう考えたナディアの表情が明るくなるが、頷き返したスフィアの表情は優れない。何故なら彼女が言い淀んだように、そこには大きな問題を抱えていたのだ。

 

 

この場に居る者達だけで、数時間おきに数カ国を回らねばならない。しかもカレンとティナ以外の苦戦は必死。戦力に不安を抱えた状態で、果たして無事に守り切れるのだろうか、と・・・。

 

 

337話 侵攻25

 337話 侵攻25

 

 

一先ずの答えを導き出し、ルークは王城へと視線を向ける。敵兵を殲滅したのだから、次は王城である。邪魔する者はほぼ居ないだろう。住民や冒険者が立ちはだかる可能性はあるが、それも極一部のはず。普通は単独で軍を滅ぼすようなバケモノに近付いたりはしない。

 

最早のんびり歩いて向かっても良い程なのだが、ルークが向かう様子は無かった。

 

「あとは王城を落とすだけなんだが・・・その前に、残っている検証を済ませるとしようか」

 

残っている検証。それは他でも無い、ルークの魔力を封じている魔道具。更には王都に張り巡らされた結界のようなもの。どちらも滅多にお目にかかれる代物ではなさそうとあって、今の内に確かめておく必要がある。

 

「両方同時にってのは些か欲張りすぎだろうな。まずはコイツから行くか・・・」

 

右腕に視線を向けながら呟く。別に同時でも良さそうではあるが、相乗効果が無いとは言えない。恐らく試せるのは一度きりと予想し、順番に検証する事にした。

 

「いきなり全力ってのもなぁ・・・やっぱ半分か?いや、面倒だけど半分までは少しずつにしておくか」

 

実はこの半分には、ルークの抱える事情が加味されていた。未だルークは力を持て余しているのだが、数日を掛けて半分の魔力量までは何とかコントロール出来るようになっていた。だがそれを超えればどうなるかは保証出来ない。6割の力を込めるつもりが、いきなり9割の力を放ってしまう恐れがあるのだ。

 

そして矛盾する事に、ルークは現状の全力を把握していない。戦闘時でもないのに、全力で魔力を放つのは色々と迷惑が掛かる。何事かと人が集まるし、変な誤解を生みかねない。それに周辺の魔物が逃げ出せば、その先にある街や村が被害を被る可能性もある。だから半分というのも、本人の感覚頼りなどんぶり勘定だった。

 

「さて、まずは1割・・・2割・・・」

 

目と閉じて集中し、口に出しながら徐々に魔力を解放して行く。そうでもしないと、一気に魔力を解放してしまい兼ねなかった。そして魔力が3割を超えたあたりで異音が鳴り響く。

 

――バキッ!

 

「あっ・・・4割のちょっと手前か。これって母さんでも壊せないレベルだぞ」

 

魔力量では群を抜くエレナでも、力技では外せない。その事実に少しだけ驚く。それはつまり、魔力で無理やりどうにかする事の出来る者が居ない事を意味していた。しかしルークに慌てた様子は見られない。何故なら、物理的に破壊する事は出来そうだったからだ。

 

壊す際に怪我する恐れはあるが、そんなのは外してから治癒魔法で治る。最悪、手首を切り落としてしまえば容易に外せるだろう。それから治癒魔法でくっつければ良い。欠損を元通りにするのは限られた者にしか出来ないが、切れたモノを繋ぎ合わせるのは難しくない。

 

「ま、まぁ、強力な魔道具である以上、ほぼミスリル製だし・・・」

 

頑強さで言えば上位の金属にアダマンタイトやヒヒイロカネがあるのだが、ミスリルだって鉄よりは上。それに壊れたのは、魔力がミスリルに直接影響を与えたからではない。内部に埋め込まれた魔石が、ルークの魔力を抑え切れずに破裂したせいである。だが作るつもりは無いため、その辺りを検証しようとは思っていない。壊せれば良いのである。

 

大きな亀裂の入った腕輪を力ずくで引き千切り、アイテムボックスへと仕舞い込む。投げ捨てても良かったが、誰かに研究されても面倒なのと報告用にキープしたのだ。

 

 

「さて、次はあっちの大掛かりなヤツだけど・・・どうするかな」

 

王都を眺めながら呟く。パッと見た限り、効果的な検証法が思いつかない。たった今壊した魔道具と違い、あちらは魔力を霧散させる。すぐに思いつくのは、込める魔力を徐々に増やして魔法を放つというものだ。しかしこれには問題がある。

 

上手いこと結界のようなモノだけを破壊出来れば良い。しかし現実には、結界を破壊した魔法はそのまま王都へ直撃するだろう。仮に限界がルークのほぼ全力だった場合、王都は跡形も無く消し飛ぶ。立ちはだかる者には容赦しないが、それ以外の者もとなると流石に躊躇いがあった。

 

「やっぱ中に入って、魔力を高めてみるしかないか」

 

無駄だとは思うが、後の影響を考えると無難だろう。腕輪の方は魔力を封じる――つまり外から押さえ付ける代物。即ち、それを上回る力で跳ね除ければ良いだけのことだった。だが霧散するのでは、中途半端な力技が通用しないと思われる。暖簾に腕押し、柳に風である。

 

とは言うものの、魔道具である以上は限界があるはず。試してみる価値はあるだろう。そう考え、ルークは防壁の前へと移動する。防壁の上、もしくは内部まで行かないのは邪魔されるのを嫌ったため。

 

「・・・体の内側には作用しないみたいだな。あくまで大気中の魔力に限定されるわけだ。なら、今回は半分から行ってみるか」

 

火球が掻き消えた位置よりも奥に立ち、自身に変化が無い事を確認する。効果を限定する事で、威力を高めるのは良く使われる手段とあって納得する。これは結界内で敵兵が活動していた事から、ある程度は予想していた。

 

そして破壊した魔道具よりも大規模なのと効果の違いから、先程よりも魔力を高める。ひょっとしたらルークの全力でもダメかもしれない。そんな直感に従い、先程よりも魔力を解放するペースを上げるのだが――様々な者達にとって想定外の事態を引き起こすのだった。

 

 

336話 侵攻24

 336話 侵攻24

 

 

思わぬ展開だったのはルークに限っての事ではない。王城から事態を見守る者達も同様であった。

 

「今のは一体・・・」

「な、何が起こった・・・」

「魔法、ではないのか・・・」

 

ルーク以外の全員が倒れ伏す光景に唖然とする国王達。例え気を失っただけにしても、魔法以外の手段が思いつかない。だが彼らが腹を抱えて笑っていたように、ルークの魔力は封じられている。それを画策し、実行させたのは他ならぬこの者達なのだ。だからこそ余計に信じられなかった。

 

「へ、陛下!如何致しますか!?」

「このままでは何れ此処に来てしまいますぞ!?」

 

戦う力を持たない宰相達が慌てふためく。彼らはルークと対峙した瞬間に負けが確定するのだ。冷静な判断を下せない彼らは、ただ縋るべく国王に詰め寄るしかない。だが国王とて同じ事。腕っぷしで掴み取った地位ではない。だからこそ、荒事は誰かに任せるのみ。その相手を探し、キョロキョロと視線を彷徨わせてから案を絞り出す。

 

「こ、近衛兵!今すぐ城門の守りを固めるのだ!!」

「「「「「は?・・・ははっ!」」」」」

 

突然の命令に、事態の飲み込めない近衛兵が呆気に取られる。しかし国王の命令を理解して、全員が足早に退出して行った。護衛を1人も残さずに。だがそれは、万が一の際に盾となる者がいない事でもある。あまりの不安に、宰相は震えながら声を掛けた。

 

「へ、陛下?」

「近衛騎士団が精鋭揃いと言えど、持ち場へ分散していては万が一という事もある。ならば城門に集結させて迎え討った方が良い」

「な、なるほど!」

「流石は陛下!」

「それに設置型の魔道具もある。どの道あのガキは魔法を使えんのだ!はっはっはっ!!」

 

国王の説明に胸を撫で下ろす宰相達。彼らが明るい表情を取り戻す傍らで、1人俯く使用人の姿があった。この城のメイド長を務める女性である。出来る女性である彼女は、当然頭の回転も早い。

 

(魔法を使えないのは此方も同じ。しかも城門から攻め込まなければ、一体どうするおつもりなのでしょう・・・)

 

メイドは決して口を挟まない。職務に忠実な彼女ではあるが、この時ばかりはそれが裏目に出る。とは言うものの、例えどのような手段を採ろうと、結末が変わる事は無いのだが。

 

 

 

一方のルークは、少し前に思い付いた検証を始めようとしていた。

 

「オレが嵌められた魔道具のせいってだけじゃない。その前に撃ち込んだ魔法が掻き消された事を考えても、似たような魔法か魔道具で王都全体が守られてるはず。いや、この魔道具は魔力を封じる物。で、あっちは魔力が霧散する類の物。一度に二つの検証が行える訳だ。」

 

薄っすらと笑みを浮かべながら呟き、ルークは右手に意識を向ける。するとそこには、本来ならば現れるはずのない火球が浮かんだのだった。しかも特大サイズの。

 

「・・・コントロールは難しいけど、一応出たな。と言う事は、文字通り『魔力』を封じる魔道具だった訳だ。で、次は王都になるんだが・・・今は防壁にしとくか」

 

そのまま王城に向けて放てば良いのだが、どういう訳か防壁に向けて火球を放つ。

 

――ドォォォン!

 

火球と言うより爆弾でも放ったかのような爆音と共に、防壁諸共正門が吹き飛ぶ。ルークが思うよりも威力が高かったのは、不慣れな部分が大きい。

 

「力を持て余してるのもあるが、神力で魔法を使うのは慣れないな。まぁともかく、神力には効果が及ばないらしい」

 

そう、ルークが検証しておきたかったのは、魔道具が神力にまで作用するのかという事である。現状神力を使えるのはカレン、ティナ、リリエル達、そしてルビアとなる。だがそれは他の者達に問題があっての事ではない。特に急ぐ必要を感じなかったため、後回しにしているだけなのだ。

 

純粋な神族のカレンとティナ、神力で活動しているリリエル達はともかく。何故ルビアだけ神力を使えるようにしたのかと言うと、ルビアが魔法主体で戦うスタイルだった為だ。そして彼女、それ程強くはない。それなのに仕事上城外へ出向く機会が多いとあって、自衛目的で効率の良い神力へ切り替えたのだ。どうしようもない状況に陥った場合、派手に暴れれば良いと割り切って。

 

ならばスフィアやリノア達もと思うかもしれないが、彼女達はまともに戦う事が出来ない。まともに魔法も使えない以上、下手に大きな力を持つのは危険である。

 

その一方で、ナディアやフィーナ達はそこそこ戦える。だがティナの域にも達していない、名ばかりの元Sランク。そんな状況で、突然大きな変化を伴うのは危険だろう。やるなら腰を据えて取り組まねばならない。持ち前の身体能力だけでカバーしてしまえるティナとは違うのだから。

 

そう言った事情もあり神威解放を行っていない嫁達だが、この一件を踏まえて急ぐべきだろうとルークは考える。

 

「村で訓練してるスフィア達は近日中として、リノア達も出来るだけ急いだ方が良さそうだな。神力を封じるような魔道具・・・神器があるかもしれないけど、魔導具よりは少ないだろう。・・・多分」

 

 

神族にしか効き目の無い魔道具の類は少ない、或いは皆無。ルークは、そんな希望的観測を口にしたのだった。

 

 

335話 侵攻23

 335話 侵攻23

 

 

幾ら無防備だったとは言え、鍛え抜かれた人間の頭部のみを蹴り飛ばす。そんな芸当を目の当たりにしても、3人は到底信じられない。一体どれ程の力があれば、そんな事が出来るのだろう。そう思わずにはいられない。だからこそ、彼らは自分達がとんでもない思い違いをしていた事に気付く。

 

「「「バケモノ・・・」」」

 

戦慄する彼らを他所に、ルークは美桜へと視線を向ける。放り投げはしたのだが、愛刀である事に変わりはない。敵の武器よりも回収する優先度は高いのだ。そう考え、美桜を回収すべく移動する。何気なくただ移動しただけなのだが、3人の暗殺者にとってそうではなかった。

 

「「「消え・・・っ!?」」」

 

10メートル以上離れているのに、その動きが追えなかった。と言うより、その姿を見失ったのだ。手や足といった一部分ではなく、全身の動きを見失う。それも離れた場所で。即ち、実力差は絶望的なまでに開いている事を意味する。

 

これが意味する事は何か。それは幾度と無く闇夜に紛れ、背後から標的に迫った彼らと同じ事が出来るという事。それも白昼堂々、衆人監視の場で。例え凄腕の暗殺者と言えど、一方的に狩られる側へ回れば脆い。それでも立ち直る者は居るだろう。だが相手が悪い。彼らの前に居るのは、敵に対し一切の情け容赦も無いルークなのだ。

 

――ヒュン!

 

「「「あ?」」」

 

すぐ近くで風切り音が聞こえたと思ったら、突然景色が回りだす。何をされたのか理解出来ない。そんな彼らの視界に映るのは、回転しながら宙を舞う仲間達の首と、置き去りにされた自身の体であった。

 

 

「それなりに手練ではあるんだろうが、暗殺者が表に出て来てどうするよ。そう言った意味でもコイツラは下っ端・・・いや、持ってる刀はそれなりか。判断に困るな・・・」

 

鹵獲という選択肢を瞬時に切り捨てた理由の1つに、恐らくこの者達は下っ端だろうという事があった。証拠や黒幕に繋がる手掛かりは持っていないだろう。そう考えたのだ。それでもこの者達が所持している武器は、今回の一件を抜きにしても情報となる。さっさと回収してしまおう。そう考えて敵の刀を手に取るのだが――

 

「・・・アイテムボックスが使えない。魔力を封じられるってのは、本当に不便だな」

 

普通は不便で済まないのだが、十全に力を振るえる今のルークにとっては些事である。だが回収という点に関して言えば問題がある。まだ残っている敵兵は相当数。この場に置いておくのはいいが、乱戦になれば何処かへ行ってしまうかもしれない。そう考えると一気に殲滅したい所なのだが、魔法は封じられている。

 

「う〜ん、カレンみたいに斬撃を飛ばせれば・・・それも確実じゃないか」

 

やれなくはないのだが、カレンのように上手くコントロール出来る訳ではない。威力が弱過ぎれば無事な敵兵が押し寄せて乱戦にもつれ込むし、強過ぎれば衝撃で仮置きした刀諸共吹き飛ぶだろう。どうするのが効率的か――考えていて、ふと思いつく。

 

「そう言えば・・・魔力が封じられていても、殺気で人は死ぬんだろうか?」

 

誰に聞かせるものでもないせいか、ルークの言葉は説明が不足している。正確には、魔力を封じられたルークとの実力差を、格下の相手に感じ取れるのか、という意味である。

 

具体的に観測出来る魔力とは違い、第三者が殺気の量を推し量る事は出来ない。明確な基準も無ければ、研究しようと考える者も居ない。気絶したり恐慌状態に陥り、まともに調べられない事だろう。

少なくともルークは、生き延びられるかどうかを、本能的に察知していると考えていた。

 

 

例えば猛獣の群れに放り込まれた女性が、突然気を失う光景を想像して欲しい。殺気を放つルークは、それを遥かに上回る恐怖の対象なのだ。しかしライオンやトラ等の猛獣が何かを放っているだろうか?答えは恐らくNOである。

 

それなのに、ルークの与える恐怖の方が遥かに大きいのは何故か。恐らくルークが内包する魔力を無意識に感じ取っている可能性が高い。そう結論付けたのだ。

 

即ち――現状で幾ら殺気を放とうとも、学園都市の様にはならないのではないか。という事である。

 

 

 

「・・・まぁ、やってみればわかる話だ」

 

三者には何となく読める展開も、当事者には当て嵌まらないらしい。結果、ルークは敵兵に向けて全力の殺気を叩き込んだ。

 

――ドサ!ドサドサドサ!!

 

「・・・・」

 

予想外の光景に、ルークも思わず言葉を失う。たっぷり数十秒の硬直の後、誤魔化すように呟いた。

 

「殺気と魔力は無関係・・・と」

 

 

どうせ殲滅する予定だったのだから気にする必要は無い。だが思わぬ展開に、内心焦りまくりのルークであった。

 

 

334話 侵攻22

 334話 侵攻22

 

 

見ていられないような演技を続ける大根役者。彼は演技をしながら考え込んでいた。そんな事だから下手な演技に拍車が掛かるのだが、この場にそれを気にする者が居ないのは救いだったのだろう。考え事に集中するあまり、顔まで変になっているのだが。

 

「ウィンドカッター!ウィンドカッター!!ひ○ちカッター!!!」

 

(しかし、敵が引いた理由がわからないな。向こうの魔法無効化を解除して、遠距離攻撃するつもりか?いや、それだとオレに逃げられるだろ。あと考えられるのは・・・なるほど、そういう事か)

 

敵兵の中から抜け出し、ルークへ向かって歩み寄る者達の姿。相手が5人とあって、一騎打ちとは呼べない。だが確実にルークを始末するべく用意された実力者達なのだろう。敵が引いたのは、彼らの邪魔をしないようにという配慮からだったのだ。

 

(全身黒ずくめってのは如何にもだよな。腰に剣をぶら下げてる所からして、近接戦がメインって感じか。ん?あれはまさか・・・刀?)

 

近付くにつれハッキリとしてくる独特の形状。鞘に仕舞われているが、その鞘自体が反りを持っている。柄巻きも見えるし、鍔もしっかりとある。外観上は、日本刀と呼んで差し支えない代物だった。

 

(この世界で作刀出来るのはオレとランドルフさんだけのはず。ランドルフさんが教えたとも思えないが・・・ティナが持ってるからな。似たような物なら作れるか)

 

ルークが思ったように、ティナは隠し持っていない。随分前から堂々と腰に差しているのだ。実際に振るう姿を目撃した者も居るだろうから、似たような形状の剣を作製して貰った者も居るかもしれない。そう判断するしかなかった。それに、もし日本刀が出回ったとしても大した問題ではない。そこらの鍛冶師が作る日本刀より、ランドルフが打った剣の方が遥かに強靭なのだから。

 

(問題なのは、実力者が出来損ないの刀を持つのかという話だ。仮に日本刀と呼ぶべき代物だった場合、出処が何処かって事になるんだが・・・まずは確かめてから、だな!)

 

ルークが一先ずの結論を出すのと同時に、相手の1人が一気に距離を詰める。

 

――キン!

 

「「っ!?」」

 

ほぼ同時に抜刀しての鍔迫り合いとなる。この展開に互いが驚くのだが、考えている事は全く異なっていた。

 

(刃文!?それも数珠刃だと!?)

 

互いに動揺していた事で、ほぼ同時に距離を取る。唯一の違いは、相手が5人組だったという事だろう。ルークに斬り掛かった1人が動きを止め、呼吸を落ち着ける。だがルークにそんな余裕は無い。他の4人が順番に斬り掛かったのだ。

 

本来ならば全てを躱す所だが、今回ばかりは全ての太刀を受け止め弾き返す。

 

――キン!キン!キン!キン!

 

(全員数珠刃・・・。地鉄までは判別出来なかったが、コイツらが使ってるのは間違いなく日本刀。だが直刃じゃないって事は、少なくともランドルフさんは無関係!)

 

ルークが作る刀の刃文は基本的に直刃。他の刃文も出来なくはないのだが、最も美しいと思っているのが直刃なのだ。これはランドルフの意見とも一致していた。だからこそ、ルークとランドルフ以外の鍛冶師の作と言える。そこから導き出される1つの可能性。

 

(転生、或いは転移者が居る!)

 

ルークでは断定する事が出来ない。だが日本からやって来た者が居るのだけは間違いない。しかも鍛冶師である。アークが厳しく制限する中、その網を掻い潜ったというのは大問題である。誰の仕業であれ、無関係とは言い切れない。アークの方針に逆らう以上、味方でないのは明らかなのだから。

 

(だが捕らえて情報を得るのは・・・難しいだろうな)

 

この場が戦場でなければ、もっと敵兵の数が少なければ捕まえて尋問も出来ただろう。だが現状、敵兵から邪魔されずに尋問するなど不可能。エリド村へ連れ帰り、みんなの協力を得るというのも考えたのだが、自爆するような魔道具や危険な毒物を所持していないとも限らない。安全が保証されない以上、連れ帰る事は諦めるしかなかった。

 

(今回は刀の回収だけで満足するとしよう)

 

敵の鹵獲から武器の回収へと狙いを修正し、刀を構え直すのであった。

 

 

 

 

一方の5人組だが、全員が顔を隠しているため外から表情を窺い知る事は出来ない。だが彼らの動揺は、覆面の上からでも一目瞭然だった。

 

(・・・・・)

(斬れない!?)

(あれは刀!?)

(何故持っている!?)

(刃こぼれしただと!?)

 

最初に斬り掛かった人物は、他の者達よりも少しだけ立ち直る時間があった。その為、何を考えているのかは伺い知れないのだが、逆に他の4人は動揺を隠せずに居た。

 

それでも相当に訓練されているのだろう。不測の事態――この場合はルークが日本刀を所持していた事――に採るべき行動に移る。

 

2人が別々に逃走し、残る3人が逃げる1人とルークの間に割って入る。こうする事で、守るべき者の居ない方の1人を追い掛ければ挟撃が可能となる。最悪の場合でも、3人が庇った方の1人は逃げられるだろう。中々考えられている作戦だなと感心しつつ、ルークは瞬時に行動に移す。

 

――ヒュッ!

「「「っ!?」」」

 

ルークが放り投げた何かが、猛スピードで3人の間を通り過ぎる。誰も反応出来ない、それ程のスピードとタイミングだったのだ。

 

――ドスッ!

 

「ぐふっ!」

「「「なっ!?」」」

 

背後から聞こえた声に振り向くと、そこには日本刀で首を貫かれた仲間の姿があった。魔法を封じられた者が、早々に武器を手放すとは予想だにしなかったのである。だが一瞬とは言え、振り向いたのは油断でしかない。すぐ様向き直った3人だったが、そこにルークの姿は無かった。

 

「「「っ!?」」」

「逃げられると・・・ましてや生かして捕らえるとでも思ったか?」

「「「なっ!?」」」

 

3人が声のした方へ顔を向けると、頭部の無い仲間とそれを蹴り飛ばしたルークの姿があった。

 

 

333話 侵攻21

 333話 侵攻21

 

 

遠距離からの投擲か、乗り込んでの蹂躙か。悩み続ける事十数秒――先に動いたのは敵兵だった。

 

「っ!?ぜ、全軍突撃!!」

「「「「「うぉぉぉ!」」」」」

 

指揮官の号令と共に全兵士が一斉に駆け出す。想定外の事態に驚いたルークは、思考を瞬時に切り替えた。

 

(っ!?罠じゃなかったのか?自分達から魔法無効化の領域外に出るなんて、殺してくれと言ってるような・・・いや、仕掛けて来るならそのタイミングか)

 

数千、数万の兵士を犠牲にした上での罠。そう考えれば合点がいく。兵士を盾にした上で、何かをするつもりなのだろう。そうなると、自ずと対処は決まってくる。

 

「酷い事をするもんだ。まぁ、わかっていながら命を奪おうとするオレが言えた義理じゃないが・・・オレが採るべき行動は、魔法での牽制か蹂躙。だが・・・それだと情報は得られない。少し付き合ってやるか。」

 

危険な真似をすべきではないのだが、今後も同じ様な真似をする輩が現れないとも限らない。その対象が嫁達だった場合、取り返しのつかない事態になる可能性が高い。だからこそルークは検証を優先する事にした。

 

腰から美桜を抜き放ち、無造作に歩き出す。徐々に歩調を速め、接敵まで50メートルという所で急加速。先頭集団とすれ違いざまに美桜を一閃するが、ルークが足を止める事はなかった。

 

瞬きをする間に次々と倒れる兵士。だが全兵が全速力で進軍しているため、誰も足を止める事が出来ない。対するルークも、相手が向かって来る勢いを利用して一刀で数人を斬り伏せる。しかし敵兵の数は数万。流石に正面から漏れなく全員を相手にも出来ず、時に後退、右へ左へと跳躍を繰り返す。

 

激突から数分――死体が二千を超えた辺りだろうか。地面に転がる死体や血に、注意を向ける時間が増えた頃。ついに双方の思惑が重なり合う。

 

――ガチャリ

 

「っ!?ちぃっ!!」

「へへへっ・・・ぐふっ!」

 

死体と思われていた兵士の1人が、ルークの足に向かって手を伸ばしていたのだ。足元の敵兵に慌てて美桜を突き立てるが、同時に異変を察知する。

 

「何だ?・・・足枷?いや、アンクレット、というより足輪だな。」

 

重苦しい見た目のそれを分析し呟く。元々敵兵が死体に扮する事を想定して位置取りを決めていたのだが、死体が増えれば目の届かない場所も増える。ルークが迂闊だったと言うよりも、敵が一枚上手だったと言う事だろう。

 

反省よりも、目先の問題である。自分が何をされたのか、そこから考えられる対処は何か。急いで導き出す必要がある。冷静に判断し、ルークは敵集団から距離をとる。

 

(隷属・・・は魔道具を付けただけじゃ効果が無い。なら、何かを抑え込むための物?)

 

単なる重りという考えもあるのだが、その程度では問題にならないため候補には上がらない。それ以外となると、何らかの魔道具しか考えられない。ならば一体何の魔道具なのか。そこまで考えて、思考を一時中断する。

 

「いや、考えた所で答えが出るとは限らない。まずは外して――」

「全軍後退!」

「「「「「おぉ!」」」」」

「何っ!?」

 

相手の狙い通りと思われる状況での後退。これには流石のルークも驚きを隠せない。優位に立っているのなら、そのまま攻めるのが定石である。そうでなければルークに逃げられる恐れだってあるのだ。だがその優位を捨て去るような行動に、ルークは混乱する一方だった。

 

「・・・ホントに何がしたいんだ?まぁ、とにかくコイツを外すのが先か。魔拳で・・・っ!?」

 

しゃがみながら右拳に魔力を集めとして異変に気付く。右の足首に嵌められた魔道具が光り輝いていたのだ。咄嗟に右拳から注意を逸らすと、連動しているかのように魔道具の輝きも収まる。

 

「何だ?まさか・・・」

 

ふと1つの仮説が脳裏を過る。それを確かめるべく、ルークは火球を放とうとしたのだが――

 

「魔法が出ない!?いや、魔力自体が放出出来ない。そうか!魔封じの魔道具か!!」

 

魔法どころか魔弾すら撃てない事実に、漸く足に嵌められた物の正体に辿り着く。普通であれば絶望的な状況なのだが、当のルークが悲観した様子は見られない。それもそのはず、魔力による肉体強化は可能だったのだ。

 

魔力を放出出来ないため、魔力による皮膚の強化や障壁を展開したりと言った真似は出来ない。だが筋力を強化出来れば、そこらの有象無象程度はどうとでもなる。だがそれを悟られては面倒な事になる。そう考えたルークは、一計を案じる事にした。

 

「ファイアーボール!ファイアーボール!!くそっ!何故だ!!魔法が、魔法が撃てない!!!」

 

へっぴり腰で両腕を突き出しながら叫ぶ。わざとらしいにも程があるのだが、当の本人に自覚は無い。何でも出来るこの男。残念ながら、演技の才能だけは皆無だった。

 

 

 

その光景を遠くから眺めるミーニッツ共和国の国王ラカムス。平時ならば大根役者の演技など、いとも容易く見抜いていた事だろう。だが今の彼は冷静とは程遠い。城を破壊された怒りに震えていたが、策が成功した反動で大喜び。

 

「くははははっ!やったぞ!!見ろ、忌々しいクソガキの慌てよう!ははははは!!」

 

ルークが魔法を使えない。それは敵兵に勘違いさせるのにも充分だった。魔法の使えない皇帝など怖くはない。そう思ってしまったのだ。自分達の仲間がどのようにして殺されたのか。その事実を忘れるには、充分過ぎる程の衝撃を与えたのである。

 

 

332話 侵攻20

 332話 侵攻20

 

 

 

ティナ達が学園長から情報を引き出そうとしている頃。ミーニッツ共和国の王都へと侵攻していたルークは、攻略法を模索していた。無論考えるだけではなく、同時に行動も起こしている。

 

「他の属性魔法や魔弾を撃っても効果無し。つまり魔力を掻き消すのは確定。あとは吸収と霧散のどちらかを判断する必要がある、か。乗り込んでみるのが手っ取り早いけど・・・それで身動き取れなくなったらアホだよな。」

 

突撃してみて魔力を吸われたら吸収。非常にわかり易い検証方法だが、試す事は出来ない。否、王城へと赴く必要がある以上、いずれ試さねばならないのだが、それにはまだ早いというだけの事。ある程度の安全を確保しなければならないからである。

 

「接近出来ないのに、魔法はダメ。普通に考えたら詰んでる所だけど・・・物理的な飛び道具を用意すればいいだけだしな。それに、滅ぼすだけなら近付く必要もない。」

 

石弾や風刃、氷の礫といった魔法も掻き消された事から、魔法による事象は一切が無効となっているのだろう。だが自然界に存在している岩や金属等であれば攻撃に使える。これは防壁がその形を成している事からも明らか。

 

そしてルークであれば、魔法による間接的な攻撃で責め滅ぼす事も出来る。例えば火災旋風。炎の竜巻を無数に作り出し、周辺や王都内部を灼熱地獄に変えてしまえば良いのだ。対処する為には障壁のような物を解除しなければならず、その隙に魔法を叩き込んでしまえば良い。

 

他にも試しておくべき手段があるのだが――それは最後でいいだろうと考えていた。

 

 

 

「とにかく、まず試してみるのは・・・投石だな。」

 

ニヤリと笑い、防壁まで500メートル程の位置へ近寄ると、アイテムボックスから無数の石を取り出す。何処でこんな物を、と思うだろう。答えは単純、学園都市の防壁である。粉々に破壊した際、適当に回収していたのだ。簡単に復元出来ないよう、嫌がらせ目的で。

 

 

この世界では弓矢の射程圏内にあたるのだが、弓矢単独であれば幾らでも対処可能。近付いたのは寧ろしっかりと狙いを定める為。

 

「開幕の魔法が不発だったからな・・・1投目は派手に行こう。」

 

何やら不吉な呟きと共に振りかぶる。非常に美しい投球フォームから繰り出されたボール、ではなく石の塊は防壁の門へと一直線。かと思いきや上方へと大きく逸れる。

 

しかしこれはルークの狙い通り。遥か先に見える、王城向かって左手の尖塔最上階を吹き飛ばした。

 

――ズドォォォン!

 

「よし!ストライク!!」

 

余程嬉しかったのだろう。極力控えていた英語を口にする。だが喜んだのも束の間、すぐさま2投目3投目を放つ。

 

――ズドォォォン!ズドォォォン!!

 

2投目は右手の尖塔、3投目は中央の尖塔にそれぞれ命中。どれも見事に最上階を吹き飛ばしたのだった。

 

「我ながら恐ろしいコントロールだな。もう石だけで勝てるんじゃないか?」

 

本当に恐ろしいのは威力である。だがそんな事にも気付かず、呑気に呟くルークには呆れるしかない。確かに投石だけで勝てるのだが、それは石と体力が無限ならばの話。数万の兵と投石だけで戦えるかと言うと、幾らルークでも時間が掛かり過ぎる。

 

「さて・・・城が攻撃されても出て来ない所を見ると、オレを王都内部に引き込む前提の作戦みたいだな。暇なら付き合ってやってもいいんだが、リノア達の件もある。」

 

そう言うと、ルークは腕を組んで考え込む。今回の場合、敵を消し飛ばして終わりではない。ちゃんと首級を手に入れておく必要があるのだ。もし標的が隠れていれば探し出すのに時間が掛かるし、そもそも犯行に加担した人数も定かではない。リノア達の居場所だって捜索する所から始めなければならないのだから、王都侵攻に費やせる時間は半日程度だろう。

 

「あまり時間も無い事だし・・・まずは最初の絶望を味あわせてやろう。」

 

 

そう呟くと、ルークは次々と石を投げ始める。――今度は防壁に向けて。

 

――ズドドドドォン!!

 

ルークの正面に見える防壁が、右側から左へ向かって次々と吹き飛ぶ。巻き起こった砂煙が晴れるのを静かに見守ると、そこには死屍累々となった兵士達の姿が見えた。

 

「被害は・・・防壁付近に居た者達だけか。しかし妙だな。」

 

これ程の被害を受けて尚、相手が攻め込んで来る様子も無い。動かなければ的になるというのに、彼らに動きは見られない。撤退する場所は無いのだから、攻め込むしかないはず。誰でもそう思うのに、そうしないのは何故か。

 

「余程オレを王都に引き込みたい理由があるのか?これは・・・罠、だよな。」

 

十中八九罠だろう。そう断定したルークだが、誰にでも間違いはある。いや、相手によっては正解だったのかもしれない。と言うのも、今回ルークは自分を基準として考えた。それがそもそもの間違いだとは気付かずに。

 

魔法を封じられた状況下で、且つ単身で防壁を破壊。いとも容易く。そのような事を一国の兵達が理解出来るはずもなく、どう対処して良いのかわからなかっただけなのだ。

 

 

そうと気付かないルークは、罠と思いつつ進むのか、それとも回避するかで悩むのだった。