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Shining Rhapsody

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256話 SSS級クエスト7

 256話 SSS級クエスト7

 

 

黒髪の美女がギルドへと足を踏み入れた時、そこには地獄とも呼べる光景が広がっていた。血と排泄物の入り交じった臭い、耳に突き刺さる悲鳴。それとは対象的な、下卑た笑い声や怒声。

 

しかし黒髪の美女は顔色一つ変えず、カウンターへと歩みを進める。カウンターの上には、無理やり犯される女性と気色悪い笑みを浮かべながら行為に勤しむ男性の姿があった。

 

ーーキンッ!

 

静かに鳴り響く金属音に、全員が視線を向ける。そこに佇んでいたのは、誰もが見惚れる程の美女。数秒後。誰もが口を開こうとした時、視界の端に落下する物体と吹き上がる物体を捉える。

 

ーードン!

ーーブシューッ!!

 

あまりにも突然の出来事に、事態を飲み込めたのは更に数秒が経過してからであった。

 

「伍の太刀『散華』・・・まず1匹。」

「「「「「なっ!?」」」」」

 

美女の呟きに、悪逆の限りを尽くしていた男共が驚きの声を上げる。落下したのは獣人男性の頭部。吹き上がったのは血液だと理解した。美女の仕業と判断するのに、それ程時間は掛からない。

 

女性の数が足りず、拷問に回っていた5人が一斉に飛び掛かる。ただ欲望に塗れただけの愚か者だったなら、どんな手を使ってでも眼前の美女を意のままにしようと考えただろう。しかし男共はかなりの実力を有しており、自分達の置かれた立場を理解している。それ故、何を優先すべきか正しい判断を下す事が出来たのだ。

 

即ち敵の排除。生かして無力化出来れば幸運、そう考えた。いや、逃げ出さなかった時点で、正しい判断とは言えないかもしれない。しかし、この場に居座っていた者達が知るはずもない。

 

 

「このアマ!」

「死ねっ!」

 

飛び掛かりながらそう叫ぶ男達だったが、いつの間にか美女の右腕に握られていた風変わりな剣に気が付く。この時点で手遅れなのだが、それを理解する事は出来なかった。何故なら、既に事切れていたからだ。

 

ーードーン!

 

黒髪の美女を通り過ぎ、全員が壁へと激突する。その光景には見向きもせず、美女が静かに呟いた。

 

「壱の太刀『紫電』・・・あと3匹。」

「クソがぁぁぁ!」

「うぉぉぉ!」

 

女性との行為を中断し、残る3人の内2人が飛び掛かる。先程の5人を上回る速度で距離を詰めた辺り、この者達の方が実力も身分も上なのだろう。しかし黒髪の美女がそんな事に気を回すはずもない。

 

 

ゆらりと動いたようにも思えたが、その動きを捉えられた者はいなかった。先程の5人と同様に、壁へと向かって吹き飛ぶかと思われた。しかし結果は全くと言って良い程異なる。

 

吹き飛んだのは全身ではなく、両腕と両足。飛び掛かった際の勢いは失われ、2人は美女から3メートルの距離で床へと崩れ落ちる。

 

「漆の太刀『朧』・・・あと1匹。」

 

残る1人を見つめながら、黒髪の美女が呟く。焦ったのは、最後まで動かなかった男である。まさか自分達がこうも一方的に、何も出来ずにやられるとは信じられない。

 

「き、貴様、一体何者だ!?」

「・・・・・。」

「答えろ!」

 

自分の問い掛けに対し、無視を決め込む相手に怒りと焦りが入り混じる。しばしの沈黙の後、背筋が凍る程の冷たい声が静かに響き渡る。

 

「下衆め・・・死で償え。」

「っ!?がっ・・・」

「玖の太刀『穿空』」

 

ーードサッ!

 

飛び道具でもなければ届かない程の距離があったにも関わらず、喉に大きな風穴の開いた最後の1人が藻掻きながら崩れ落ちた。

 

瞬く間に悪党を殲滅した美女は、壁に磔られている男性へと視線を向ける。静かに歩み寄り、男性の状態を確認して声を掛ける。

 

 

「重症だけど・・・まだ大丈夫ね。少し待ってて貰える?」

「・・・・・。」

 

喉を潰されており、声を発する事の出来ない男性がゆっくりと頷く。返答を確認した美女は、すぐさま意識を失っている女性達の下へと駆け寄る。

 

「ヒドイ・・・。クリーン!ハイヒール!!」

 

無理矢理犯されただけでなく、暴行の跡もあってか怪我も見受けられる。心までは癒やす事が出来ないが、せめて体だけでも綺麗にしてあげようと魔法を唱えた。4人の女性を癒やし、抱き上げて1ヶ所へと運び込む。入り口からすぐには見えない、カウンターの陰を選んだのだった。

 

女性達を運び終え、アイテムボックスから衣服を取り出して近くに置く。その中から上着を広げ、体の上に掛けてやるのだった。

 

 

一先ず自分に出来る事を全て済ませ、やっと磔られた男性の下へと戻る。こちらも傷の手当をしようとするのだが、男性とは一定の距離を保ったまま。何か不都合でもあるのかと、男性は自分の体を確認する。その様子に気付いた黒髪の美女は、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「あ〜、貴方に問題がある訳じゃないの。これは私の問題。」

「?」

「私、夫以外の男性に触れたくないのよ。」

「・・・・・。」

 

とんでもない言い草に、何とも言えない表情を浮かべる男性。そんな彼に対し、謝罪しつつも女性が魔法を唱える。

 

「ごめんなさい・・・ウィンドカッター!ハイヒール!!」

「んっ!?」

 

ーードサッ!

 

最初に唱えられた魔法に、男性が耳を疑い声を上げる。しかし喋る事が出来ず、言葉になる事はなかった。拘束を解かれるも、受け止めて貰えずに落下する。一瞬激しい痛みに襲われるが、すぐに痛みは消え去った。

 

 

「助けてくれた事は感謝する。だが・・・ちょっとヒドイんじゃないか?」

「先に謝ったでしょ?だから、これで貸し借り無しって事でいいわ。」

 

彼女は恩を着せるつもりが無かった為、礼は不要と告げたのだ。しかし男性にしてみれば、到底帳消しになど出来ようはずもない。自分ばかりか、女性達の命も救って貰ったのだ。返し切れない程の恩を感じるのは、人として当然の事だろう。

 

 

「いや、流石にそうもいかん。一体どれ程の礼をすべきか、全く思いつかない程だ。何かオレに出来る事はあるか?」

「う〜ん、そうね・・・なら、ダンジョンに入る許可を貰える?」

「お安い御用だ。なら、ギルドカードを出してくれ。」

「あ・・・無いわ。」

「は?・・・無くしたのか。ならタダで再発行しよう。」

「違うの!まだ登録してないから、一緒に登録もお願い。」

「え?・・・は?・・・はぁぁぁ!?」

 

冒険者ギルドに未登録。つまりは新人だと告げる美女に、男性は激しく動揺する。頬を掻きながら苦笑する美女に、男性は声を荒げてしまう。

 

「お、お前、新人なのか!?あの強さで!?」

「まぁ・・・そうね。」

「・・・なら、オレの権限でSランク冒険者にしよう!」

「え?・・・はぁ!?」

「帝国の皇帝陛下以来の快挙だ。喜べ!」

「えぇぇぇ!?」

 

 

夫婦でFランクから楽しむつもりだったので、いきなりSランクと言われて動揺を隠せないユキ。ルーク、即ちシュウとお揃いの記録は嬉しいのだが、何となく一緒にされるのは嫌だと思ったのだった。