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Shining Rhapsody

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226話 ブランシェ家の秘密2

 226話 ブランシェ家の秘密2

 

城へと戻ったオレ達は、真っ先にティナを休ませる事にした。ベッドに連れて行くと、すぐに眠ってしまったティナ。精神的なダメージが大きかったのだろう。

目を覚ました時にどういう行動をするかわからなかった為、ティナの部屋にはフィーナとカレンを残しておく事に。心配した嫁さん達が押し掛けたが、ティナが眠っていると知り戻って行った。

オレも戻ろうと思ったが、先に頼んでおかなければならない事がある。


「カレンとフィーナに頼みたい事がある。」
「何でしょう?」
「ティナが目を覚ましたら、多分両親の元へ行こうとするはずなんだ。」
「止めればいいのね?」
「いや、下手に止めるのは逆効果だろう。だから2人にはティナに同行して欲しいんだ。出来る限り好きなようにさせたいから、監視と制止を頼みたい。」
「・・・1人で無茶するよりマシね。」

自暴自棄になって反発されるのは良い結果にならないはず。危険はカレンが、揉め事はフィーナが防いでくれると信じよう。

「ルークはティナに着いていなくて良いのですか?」
「今の状況だと、オレの顔を見るのはツライと思うんだ。オレって義理の息子でしょ?オレを見ると、自分も義理の娘って考えるかもしれないから。仮にそうだとしてもね。」
「確かにそうかもしれないわね。」
「少しでも情報を集めたいけど、オレが今母さん達に接触するのは良くない気がしてさ。とりあえずは入国禁止の理由を探ろうと思う。あとは学園長の故郷に行っておきたい。」
「そういう事であれば、私達にお任せ下さい。」

2人が快く引き受けてくれたので、オレは心置きなく情報収拾に励む事にした。一応部屋を立ち去る前に、カレンを連れて目ぼしい所へ転移しておいた。カレンにとっては未知の領域。ティナに頼まれても転移出来なければ意味が無いからね。


ティナの部屋を後にし、次に向かうのはスフィアの所。国として正式に抗議しなければならない。そうしないと、オレが勝手に暴れて帰った事にされかねないから。

「・・・という訳なんだ。頼んでもいいかな?」
「わかりました。任せて下さい!」

いつもなら溜息混じりに渋々了承するのだが、どういう訳か今回のスフィアは張り切っている。いや、随分と不機嫌である。・・・やっぱり怒ってるよね?

「何ですか?」
「いや、ひょっとして怒ってる?」
「当たり前です!そのような女の敵に警備を任せるなど言語道断!!ルークが攻め込まなかったのが不思議な程です!!!」

あ、オレに対して怒ってるんじゃないのね。条件反射で謝る所だったよ。しかしまぁ、みんな本気でティナの心配してくれて、本気で怒ってくれてるのが伝わって来る。お陰でオレの溜飲は下がってしまったよ。ホント、嫁さん選びに失敗しなくて良かったと思う。

「一応抗議するとは言ったけど、聞き入れて貰えなかったらどうしようか?」
「宣戦布告の後、徹底的に滅ぼして構いません!」
「・・・え?」
「別に感情的になって言っている訳ではありませんよ?王族を侮辱しておきながら、その者を匿うのです。立派な敵対行為に当たります。知らなかった、で済まされるなら衛兵など要りません!!」

子供の喧嘩みたいだけど、この世界では普通なんだよな・・・。王侯貴族のプライドを護らないと、無法地帯になる世の中だった。弱肉強食、権力や金力、力のある者が強い。ある意味わかり易くてオレは好きだ。

「なら、オレの判断で戦争になってもいいって事?」
「えぇ。構いませんよ?もっとも、戦争になった所で此方から軍を差し向ける事は出来ませんけど。」
「ん?」
「一体どれだけの距離があると思っているのですか?しかも道中には軍でも手に負えないような魔物ばかり。ルークやカレンさんといった化け物以外、無事に辿り着けるはずもないではありませんか。」
「・・・・・。」


一瞬『スフィアさん男前!』とか思って損した気分。早い話、対岸の火事って事だ。旦那が船に乗って野次馬に行こうと、お好きにどうぞってヤツ。

「・・・勘違いしないで下さいね?別にお好きにどうぞ、という意味ではありませんから。ルークと肩を並べる事が出来ないだけの話です。私に出来るのは政治的な闘いだけですから・・・。」
「スフィア・・・。」

悲しげな表情を浮かべたスフィアを、思わず抱き締める。考えを読まれた事を誤魔化そうとした訳じゃない。・・・違うからね!?

 


頼もしい嫁さん達に任せ、オレは学園長と共に再びエルフ国へと赴いた。抗議の件はスフィアに任せてあるので、明日まで王都へ近づく事が出来ない。やむを得ない措置として、王都から視認出来ないよう大きく迂回している。当然上空を。

「うっひょ〜!気持ちいいのじゃ!!」
「少し静かにしろ!」

両脇を抱えるか手を繋ぐかで迷った挙句、学園長の希望によりおんぶとなった。オレの体勢は地面に対して並行。つまり、学園長はオレに跨る形となる。乗馬みたいなイメージだ。コイツ、かなり警戒してやがる。

だって手で支えるという事は、オレが手を放せば落ちる事を意味している。それがどれだけ危険な事か、短い時間で想定したのだろう。全く忌々しい。


「かなり迂回してるから、迷ったらすぐに言えよ?」
「大丈夫じゃ。この辺りまで来ればわかる。」

空からなんて見た事も無いだろうに。良くわかるもんだと関心してしまう。オレなんて事前に地図を頭に叩き込んだと言うのに、すでに現在地がわからない。・・・別に方向音痴じゃないからね!?

 

「そう言えば、良くこの国まで無事に来れたな?」
「ん?それならば造作もないぞ。途中までお主の嫁に送って貰ったからのぉ。」
「はぁ?」

詳しく聞くと、ドラゴニア武国の外れから正規のルートに入れるとの事だった。道と呼べるような物では無いらしいが、その道に入ってしまえば比較的安全なのだと言う。定期的に実力者が巡回する為、今では魔物が寄り付かないのだとか。マーキングみたいなものだと思っておこう。

一刻も早く森を抜ける事が最も安全に繋がる為、その道は最短距離を突き進んでいるらしい。学園長の足でもオレ達を追い抜く事が出来、予めフィーナに聞いていたルートから合流ポイントの目星を付けたのだとか。その頭脳、もっとまともな事に使って欲しいと思う。

結局カレンが転移で送り、フィーナがリークする事で合流してしまったという訳だ。ここで2人を責められないのは、ユーナの里帰りがあるから。道案内を学園長に頼んでも、結局は同じ事。寧ろ政務が滞り無く進められる点で、嫁さん達の評価は高い。オレの個人的な意見など、黙殺される運命なのだ。


休憩は必要無いという事なので、かなりスピードを出して進む事3時間。どうやら目的地に到着したようだ。

「見えたのじゃ!あそこが儂らの産まれた村じゃ!!」
「村?・・・ここなら心配する必要は無かったな。」

思わず呟いてしまったのは、移動距離を思い返しての事だった。オレはほぼ真っ直ぐ飛んだのだ。体感時速100キロで。つまり直線距離にして約300キロ。ヒマラヤ山脈1700キロを約160日間かけて横断するツアーがあったと記憶しているが、ここはその比じゃない。

魔物が出るのだから、野営中も気が休まる事は無い。命がけのツアーに挑むのは超人奇人変人等のビックリ人間達だが、それでも1月は掛かるだろう。仮にゴブリンさん達が偶然立ち寄るにしても、2月は掛かるかもしれない。それも王都から。

「早く降りるのじゃ!」
「いやいや、このまま村に降りたら警戒されるだろ!」
「大丈夫じゃ。今の時間帯ならば、村には年寄りしかおらん。」
「何?」

最悪転移で逃げればいいかと思い直し、言われた通りに村へと降りる事にした。

「数百年ぶりなのじゃ〜!」
「あ!こら!!・・・辺境と言うより秘境だな。ユーナも簡単には帰れない訳だよ。」

駆け出した学園長を制止するが、耳に届いた様子も無く走り去ってしまう。改めて村を見渡すと、村というより遺跡と呼ぶに相応しい景色。何故ならそこは、崖の中腹に位置していたからだ。家屋と呼べる物は無く、洞窟と思われる穴が無数に開いている。

「追い掛けるか待つか・・・部外者だし、ここで待ってみるか。」

崖の中腹ではあるが、洞窟の前には随分と開けたスペースがある。ここは共同のスペースなのだと思い、近くに転がっていた岩の上に腰掛けて待つこと10分。やっと学園長が戻って来た。

「待たせたのじゃ!」
「すまないな、お客人。見ての通り年寄りしかいなくてな・・・大したもてなしも出来ん。」
「あぁ、お構いなく。今日は学園長をお連れしただけですから。妻の様子も気になりますし、すぐにでもお暇するつもりです。」
「「「「「学園長?」」」」」

村人達が一斉に首を傾げるが、皺くちゃの爺さん婆さんじゃ可愛くもない。すぐさま学園長を手招きして事情を確認する。

「お前・・・自分の仕事を教えてないだろ?」
「・・・あっ!忘れておったのじゃ!!」
「全く・・・。食料を置いて行くから、数日ゆっくりしたらどうだ?」
「う〜む。迎えに来てくれるんじゃろうな?」
「流石に村の人達に迷惑は掛けられないしな。それは約束する。」
「どういう意味じゃ!?」

どういう意味って、そういう意味に決まってるじゃないか。村の人達だって、こんなトラブルメーカーを置いて行かれても迷惑だろ?何かあった時の為にと、ユーナが持つ通信用の魔道具を渡していたし。

ゴブリンさんの姿も見えなかったし、立地的にも魔物の大軍が押し寄せる可能性は低い。年寄りしかいないのがいい例だろう。色々と聞きたい事はあるが、ティナより優先される事は無い。

 

村の規模がわからない為、1月分の食料を置いて退散する事にした。次に向かうはエルフ国の村。オレとティナが救った村である。そこで何をしたのかと言うと、情報収集と協力者を募る事。

ブランシェ家について知る者はいないか、もしくはオレの作戦に協力してくれる者はいないか聞いて回ったのだ。結果、数組の協力者を確保する事が出来た。報酬は勿論食料。危険な仕事ではないが、労働に対する報酬としては破格かもしれない。だがオレには出来ない事なので、ケチるつもりは一切ない。


転移で王都近郊まで移動し、王都内へと送り込む。持たせた金をばら撒いて、徹底的に情報を集めて貰ったのだ。愛するティナの為、転移を隠すような真似はしない。自重している状況ではないのだ。

夕方までの数時間という短い時間ではあったものの、予想以上の成果を齎してくれた。かなりの大盤振る舞いだった事もあるが、危険な情報を取り扱った訳ではないのが大きいだろう。何しろ、真っ当な人物の過去なのだから。


報告を聞くのは城内。これは嫁さん達と情報を共有する為である。


「では、集めた情報をお聞かせ願えますか?」
「は、はい。まずはーー」


こうして集められた情報を各々が聞き取る間に、オレは協力者達を順に送り届ける。報酬を渡し、全員の嬉しそうな顔を見ながら城へと戻る。非常にハードな1日だが、休んではいられない。ティナが目を覚ます前に、ある程度の結果を残す必要があるのだから。

 

「で?どんな感じ?」
「エレナが子供を産めない体なのは本当みたいね。それが40代の頃の話みたい。」
「そうか。ならフィーナが知らないのも無理ないか。」
「えぇ。そもそも私が知ってるのは、エレナ達が10代の頃なのよ。」
「そんなに若い頃の・・・ん?結局フィーナって何歳なの?」

そう言えば答えて貰ってなかった事を思い出し、改めて聞く事にした。失礼します!

「今思えば、あの時きちんと答えておくべきだったわ。・・・530歳よ(多分)。」
「え?ティナの両親は600歳って・・・あれ?」
「そもそも、それが変なのよ。あの2人、精々400歳って所なの。」
「じゃあ、鯖を読んでたのはフィーナじゃなくてあの2人の方?」

スパーン!!

「痛っ!」
「人聞きの悪い事を言わないで!・・・話を戻すわ。600歳なのは、あの2人の兄と姉よ。」
「「「「「兄と姉?」」」」」

嫁さん達が揃って首を傾げる。美しいです!そして頭が痛いです!!

「エレナの兄とアスコットの姉。その2人も夫婦だったの。」
「だった?」
「今は行方不明らしいわ。」
「それで?」
「私が知ってるのはそこまでよ。」
「そうか・・・。」

色々と推測は出来るが、雲を掴むような話になりそうだ。

「では今度は私が。ティナさんの入国禁止命令ですが、どうやら王宮からの指示のようです。」
「王宮?王族がティナに恨みでもあるのか?」
「いいえ。どうやら古くからある命令らしく、調べるのが少し大変だったみたいですが・・・ティナさんの両親によるものとの証言が得られたようでした。」
「「「「「はぁ?」」」」」

スフィアの言葉に、全員が声を上げる。

「父さんと母さんが?何のために?」
「そこまではわからなかったようですが、おそらく探られたくない過去があるのでしょうね。」
「思うんだけど、今回みたいに親の名前を出したら嘘つき呼ばわりされるでしょ?そしたら当然調べるわよね?」

ルビアが言いたいのは、自分達の嘘が発覚するのを防ぐ為、か。当然王都まで辿り着かなければ調べられない。その為の入国禁止・・・その線が濃厚かな。

「ですが、年齢まで偽っては意味がありませんよね?1歳2歳ならともかく200歳は・・・。」
「そうですね。リノアさんが言うように、詰めが甘いとしか言いようがありません。」
「うっかりにしては大雑把だし、何か他に狙いでもあるのかしら?」
「「「「「う〜ん。」」」」」

今度はみんな揃って腕組みをする。普段ならばアホな事を考えるのだが、今回ばかりはそんな気になれない。

「これ以上は、本人に直接聞くしかないわね。」
「いや、それはティナに任せよう。」
「何故です?」
「父さんと母さんが素直に白状するとは思えない。ましてや部外者だろ?」

オレの言葉に、全員が無言で頷く。あの2人じゃなくても言わないだろうし。

「だからオレはもう1つの方を突いてみようと思う。」
「「「「「?」」」」」
「王族だよ。」
「「「「「あっ!」」」」」

突いた藪から蛇が出るのか、それとも何も出て来ないのか。試してみる価値はあると思う。

「ティナが起きたら2人の下へ向かうだろうし・・・って、あの2人は何処にいるんだ?」
「王命で出陣したみたいよ。ドワーフや獣人も同行してるみたい。あと、双璧?と一緒に。」
「・・・・・。」

フィーナにはティナを任せてあるから、こっちも家族と再会になりそうだな。ドワーフや獣人ってのは、多分村のみんなか?そうなるとカレン1人に任せるのも酷だな。きっと手心を加えるだろうし。


理想はオレが全員引き受ける、次点で戦力の均等な分断。それにはオレが舌戦を制するしかない。そう気持ちを引き締めるたのであった。