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Shining Rhapsody

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229話 アストリア王都強襲3

 229話 アストリア王都強襲3

 

アスコット達から遅れる事1時間。ついに王都へと辿り着いたエリド村の住人達。引き連れていた兵士達もまた、王都周辺に展開する部隊に合流を果たした。アストリア軍は王都から上がる煙に気付き、急ぎ引き返している最中だったのだ。

王都を目前にし、全ての者達が目を疑った。目の前に広がる光景は、夢なのではないかと思いたかった。それは当然エリド村の住人達も同じである。

「な、何じゃ!?」
「あの4人がやられたの!?」
「しかもあれってルークだよね!?」

それぞれが思い思いの言葉を口にする。当然聞こえていたルークは、内心で舌打ちをする。

(ちっ。合流しちまったか。やっぱり木刀を作りに行った時のロスが痛いな。時間は・・・あと10分もあるじゃねぇか!コレ壊れてんじゃねぇの!?)

懐から取り出した時計を見ながら文句をつける。残念ながら壊れてなどいない。只の八つ当たりである。態々取引で用意してもらった、手巻き式の懐中時計。しかも日本製というヤツだ。性能に関しては説明するまでもない。


元々腕時計にするつもりだったのだが、どうやら1日の時間が地球と少し異なるらしく断念した。時間を計る目的で手に入れたのだが、それならストップウォッチにすべきかもしれない。

だがそちらは別の理由で断念する事となる。電池で動く、デジタル表示はマズイのだ。落とすつもりは無いが、誰かに見られた時の説明が面倒になる。異世界の存在を知る者は少ないのだから。

 

残り10分。約20名の鬼ごっこを思い浮かべ、大きく溜息を吐くルーク。その意味に気付いたエレナとアスコットが、残る体力を振り絞って叫ぶ。

「お願い!ルークを止めて!!」
「ぜ、全員、本気で頼む!」
「やれやれ・・・。」

まだそんな元気があったのかと関心しつつ、ルークは転がっている4人を見回した。エレナは攻撃を受けていない為、魔力切れで座り込んでいるだけである。双璧の2人もそこそこダメージを受けてはいるが、どちらかと言えば疲労から倒れ込んでいる。

ティナ達が世話になったアスコット。彼に関しては気の毒と言う他ない。いや、こうなる事を想像出来なかった彼の責任なのだろうか。まるでリンチにでも合ったかの如く、体の至る部分が赤青黒に変色していた。顔以外は。


ルークが顔を狙わなかった理由は、攻撃する意味が無かったから。殺し合いともなれば、目を狙う事はあるかもしれない。しかしそれ以外で顔を攻撃する必要は無い。態々硬い頭部を狙わなくとも、首を刎ねれば済むのだ。これは勿論、剣や刀に限った話。殴り合いともなれば、頭部への打撃は脳を揺さぶる有効打となる。

今使っているのは木刀じゃないかという意見もあるだろう。しかしルークとしては、刀と同じ扱いであった。

 

ルークは自分に向かって駆け出す同郷の者達を見ながら、どう対応すべきか考える。

(面倒だなぁ。相手してやる理由も無いんだけど、今はまだ敵として扱う訳にもいかないし・・・時間まで適当にあしらうか。)

考えが纏まり、木刀を左手に持ち替える。若干誇張した表現をすると、先程放り投げた枝を拾って右手に装備する。ただし2刀流ではない。木刀は保持するだけの為、実質片手で相手しようというのだ。
もっとも、この状況下では枝が最強なのだが。


枝最強理論を実践するかの如く、次々に襲い掛かる者達に対して枝を振るう。狙うは勿論、隙の出来た部位。約20人という大人数を相手にしながら、息一つ切らす事なく10分間を凌ぎ切る。

「ぐっ!ば、化け物じゃねぇか・・・」
「カレン様はもっと強いのよね!?」

最後まで立っていたのは僅か2人。狼の獣人であるアレンと、兎の獣人であるターニャであった。敏捷性に優れた2人には、枝の一撃があまり当たらなかった。これは躱されたという訳ではない。

(この2人のスピードを捉えようと思ったら、流石に枝じゃキツイな。しかしカレンの方が強い、か。実際どうなのかね?後で確認するか。)

如何に魔力強化を施していようと、枝は枝でしかない。あまり強く振れば、当たった瞬間に折れるだろう。だからこそルークは無理に攻撃しなかった。ルークの目的は闘う事ではないのだから。気になる疑問を振り払い、まずは問題を解決すべく歩き出す。


追撃を仕掛けるチャンスなのだが、アレンとターニャは踏み止まった。手に負えないルークを追うよりも、仲間達の状況を確認する方が先決だからだ。


そんな2人には目もくれず、ルークは王都の入り口の前で声を張り上げる。

「時間だ!さっさと我が妻達を愚弄した愚か者を差し出せ!!どうしても要求が飲めぬと言うのなら・・・王都内部に居る者全てが庇い立てする罪人とみなし、尽く根絶やしにしてくれる!!」
「「「「「なっ!?」」」」」

風魔法を使い、王都内だけでなく近郊に展開する軍にまで声を届けていた。故に聞こえないなどと言う戯言を受け入れるつもりはない。

「ルークの・・・皇帝の妻を愚弄?」
「愚か者って誰の事だよ?」
「これって、私達が悪者なんじゃ・・・」

事情を知らないエリド村の者達はともかく、ある程度を理解しているエレナ達は違う。王都を攻撃していたのだから責められるべきはルークだと思っていた。しかしルークの言葉を聞く限り、非はアストリア王国側にある。

ターニャとアレンが魔法薬を飲ませ、元気になったエリド村の者達が議論を始める。

「考えられるのは、その者が見つからんという事か?」
「それなら使者か国王が説明すんだろ。」
「ルークは聞き分けの良い子ですよ?」
「なら考えられるのは・・・」
「「「「「引き渡し拒否?」」」」」
「何の為に?」
「要人とか?」
「そんなの理由になんねぇだろ。」
「「「「「う〜ん・・・」」」」」

ここで言い合っても答えなど出ない。そう判断したエレナとアスコットが方針を打ち出す。

「直接問い質すしかないだろ?」
「えぇ。私達と双璧のお2人で、今すぐ王宮に向かうべきだと思うわ。」

ある程度の発言力を持つ4人が向かうしかない。そう考えたのだが、思わぬ横槍が入る。

「それは認められない。」
「「「「「ルーク?」」」」」
「これより王都へ出入りする者は全て敵とみなし、我が全力を以て排除する!女子供でも容赦はしない!!」
「「「「「はぁ!?」」」」」

事実確認を許可しないというルークに、全員が呆気にとられる。しかし構ってはいられないとばかりに、ルークはエレナ達の背後を見つめる。

「何かの大軍が向かって来ているな。ゴブリンとコボルトか?・・・邪魔されるのも癪だし、少しの間近付けないようにしておくか。折角だし、少し試してみるとしよう。」
「「「「「?」」」」」

ルークの呟きに、周囲の者達が首を傾げる。だがそんな事には見向きもせず、ルークは詠唱を始めるのであった。


「氷よ氷
その身は我が矛
その身は我が盾
我が前に平伏し我が命を聞け
我が望むは永遠
我が望むは停滞
今この時より我が名を以て
悠久を刻みし王国を・・・」


「詠唱・・・?」
「何じゃ?聞いた事も無いぞ?」
「(ルークの妻達に聞いていた物とは違うけど・・・やはりこれも禁呪だわ!) みんな!すぐにルークの後ろへ避難して!!」
「「「「「っ!?」」」」」

必死の形相で叫ぶエレナに、ただ事では無いと走り出す。鈍足のランドルフですら、見た事も無い程の速度であった。『脱兎の如く』と表現するのを控えたのは、ターニャの動きが速過ぎたから。エレナが叫び終えた時には、既にルークの遥か後方に移動していたのである。


「彼の地に咲き誇る青薔薇は
あらゆる生命を糧として
彼の地に降り立つ王の為
ただ祝福せんと
狂い咲け! 氷の千年王国 (スノーホワイト)!」


ーー キーン!!


かつてアリドが使った時と同様、甲高い音と共に周囲一体が凍りつく。地面に咲き乱れる氷の薔薇は同じだが、アリドの時とは異なる部分があった。アリドの時は、彼女の背後に作り出された氷の城。それが今回は、ルークの前方にあったのだ。この結果を受け、ルークは内心で呟く。


(禁呪は威力の調整が出来ないけど、それ以外の細かい部分は多少思い通りになるみたいだな。そして詠唱さえわかっていれば、脳内に浮かばなくても使う事が出来る。)

ルークの実験が意味するもの。それは即ち、禁呪も魔法と同じという事になる。

(つまり・・・原理は不明だが、禁呪を使える者の前で不用意に使えない事は確かだ。特にこの禁呪は反則級。生命力を吸う度に魔力を消費するみたいだが、今のオレなら10万人はイケる。場所が場所なら無敵じゃねぇか。その分の代償は計り知れないけどな・・・。)


何が言いたいのかと言うと、詠唱を知られるのはマズイという事である。もしルークの脳内に全ての詠唱が浮かんでいれば、そんな心配も無かった。しかし実際は違う。このスノーホワイトという禁呪、未だに自然と唱える事は出来ない。過去の記憶を呼び起こしたに過ぎないのだ。

1度聞いただけで覚えてしまったルークにしか出来ない気もするが、可能性はゼロでは無い。何処かで聞かれる恐れがある以上、他の者が使えないとも限らないのだ。


問題点を洗い出す中で、ルークはふと思い出す。アリドの肉体が変化していた事に。

(溢れる生命力を行使する為に、肉体が変化するって言ってたが・・・・・特に変化は見られないな。つまりは、今の状態がこの肉体の全盛期。いや・・・まだアレを試してなかったか。)


自身の身に起こった変化が無い事を確認し、ルークは王都へと向き直る。これで暫くの間は、魔物に邪魔される事なく問題と向き合える。そう考えると、自然と笑みが零れるのであった。


ルークの様子を伺っていた全ての者達が震撼しているとも知らずに。