人気ブログランキングへ

Shining Rhapsody

オリジナル小説の投稿がメインです

231話 アストリア王都強襲5

 231話 アストリア王都強襲5

 

使者が命令に従い、王妃の下へと遠見の魔道具を運び込む。未だに服を着る様子も見られない事から、出来る限り下を向いていたが。

「お、王妃殿下、遠見の魔道具をお持ちしました。」
「ご苦労様。」
「っ!?」

男性である使者が両手で抱える程の大きな水晶玉。それを王妃は片手でヒョイと持ち上げたのだ。使者が驚きに声を失うのも無理はない。その水晶玉を机の上に置き、魔力を込め始めるリリアルカ王妃。ララトラーザ第一王女が反対側から覗き込んでいると、すぐに何かが映し出される。

「「っ!?」」

遠見の魔道具と呼ばれる水晶玉に映し出された人物を見て、王妃と王女は息を呑んだ。

「何と言う美少年!今すぐ私の筆頭愛人に・・・」
「お、おおお、お母様!私の夫にして下さいまし!!」

リリアルカの呟きに、焦ったララトラーザが口を挟む。魔道具が運ばれて来るのを待つ間、彼女は必死に考えていたのだ。万が一自身の好みだった場合、どうすれば母親に取られずに済むのかと。

王妃の愛人と王女の夫。どちらが優先されるのかは馬鹿でもわかる。自らの欲望を満たす事しか考えていなかった王妃だが、予想外の提案に考え込む。

(確かに私の愛人として飼うよりも、ララの夫にした方が体裁は良いわね。そして子作りを見守るついでに、私も混ざれば良いだけの事。ララの案に乗るとしましょうか。)

とんでもない事を考える王妃であったが、実は全く無い話でもなかった。貴族の箱入り娘ともなると初心だったりプライドが高過ぎるが故、性行為に失敗する場合がある。その対策として、子作りを見守る家も存在するのだ。

流石に監視役が混ざる事は無いのだが、この王妃には言うだけ無駄である。そもそも誰も忠告出来ないのだが・・・。

「そうね。ララの夫に迎えましょう。」
「本当ですか!?ありがとうございます、お母様!あぁ・・・想像したら濡れて参りましたわ!!」
「まずはこの疼きをどうにかしましょうか。ララも混ざりなさい!」
「かしこまりました!」

自分達の好みの男が手に入る。そう考えた王妃と王女は、使者の目を気にする事も無く男達の上に乗る。相手の事など思いやる様子も無い激しい動きに、使者は魔道具を抱えて退出したのだった。

(あんな化け物達に襲われたら死んでしまう!・・・帰ったら妻に癒して貰おう。)


逃げるように走り去る使者がそのような事を考えているなど、誰にも想像出来なかった。この使者がそう思った理由。それは王妃達の見た目にあった。

数百年に渡る贅沢の末、嫁いだ頃の面影など微塵も無い。現在の王妃の体重は推定400キロ台。王女は若さ故か300キロ台に収まっているが、追い付くのは時間の問題だろう。

美しいエルフ族だが、それは体型を維持出来ての話。大きい女性が好みという男性もいるかもしれないが、何事にも限度はあるだろう。少なくともこの使者には、王妃と王女がオークに見えてならなかった。そのような者達の裸体など、見たくないのが本音である。

 

王妃と第一王女が欲望に塗れている頃、ルークの宣戦布告を受けた家臣達は右往左往していた。

「どどど、どうすれば良いのだ!」
「王妃様に判断を仰ぐ他あるまい!」
「オレは嫌だぞ!?」
「ワシだって嫌じゃ!」

右往左往と言うよりも、只の擦り付け合いと化していた。下手な事を言えば命は無く、過度のゴマすりは美味しく食べられてしまう恐れがある。良くて廃人、悪ければ死人。そんな役割を進んで引き受けるような者など存在しない。

「かつての陛下がご顕在なら・・・」
「いらっしゃらないお方の事を言っても仕方ないだろ!」
「なら、シャルルーナ王女殿下はどうだ?」
「クーデターか!?」
「「「「「う〜ん・・・。」」」」」


彼等がクーデターに踏み切れないのには訳がある。


臣下の1人が口にした女性。シャルルーナ第二王女は、幼少の頃から人気があった。エルフ族の中でも特に美しく、優しく気品に溢れた女性。正に王族と呼ぶに相応しい彼女は、嫉妬した王妃と王女によって幽閉の身となっている。

もし彼女を担ぎ上げ、王妃と第一王女に反旗を翻したとする。しかし心優しい第二王女は、それを良しとしないだろう。そもそも王妃と第一王女は、あまり政治に口を挟まない。彼女達の興味は男漁りにしか無く、それ以外は臣下に任せ切りであった。

国王は王妃の1番の被害者であり、既に廃人。ルークが一切発言しないのを不審に感じていたのは、発言出来る精神状態では無かった為であった。同行する臣下は国王の状態を悟られぬよう、物言わぬ壁役に徹する。結果、参加はするが終始無言の不思議な国が出来上がったのだ。


つまりは、第二王女を担ぎ上げる大義名分が無いのである。否、無かったのである。ルークの殴り込みにより、国家存亡の危機。これは最初で最後の好機となるだろう。そう感じた宰相が重い腰を上げる。

「ワシが説得しよう。」
「「「「「本当ですか!?」」」」」
「あぁ。だからそれまで・・・皇帝陛下を抑えておいてくれ。」
「「「「「っ!?わかりました!」」」」」

宰相の言葉に、一瞬全員がズルいと考える。だが冷静になると、第二王女を説得出来なければ国が無くなる事に変わりない。乗り気ではない第二王女の説得と、交渉に応じてくれそうな皇帝の足止め。どちらが責任重大か瞬時に悟り、難しい方を宰相に任せる事にしたのであった。


臣下の者達が足早に退出するのを見送り、宰相は小さく呟く。

「シャルルーナ王女殿下が皇帝陛下を説得出来なければ、この国は滅ぶんじゃがな・・・。」


折角見出した一筋の希望。態々壊す事もないかと黙っていたのだ。ルークが要求しているのは、第二王女ではない。その事に気付くのは、第二王女が現れてからになるだろう。そう考えた宰相は、誰かに噛みつかれる前に説得しようと急ぐのだった。

 


そして再びルーク達へと話は戻る。と言うのも、意気揚々と皇帝の足止めに向かった役人達が接触していないのだ。彼等も自分が可愛い。故に少しでも生存率を上げようと、王宮の兵士達を掻き集めていた。こうしてモタモタしている間にエレナ達が接触し、出て行くタイミングを逃してしまったのである。

しかし結果的に足止めは成功していた。だからこそ静かに見守っていたのだが、武力による足止めも限界に差し掛かったのだろう。守護神と双璧の敗北が濃厚となった今、政治的な解決を計るしかないのだ。


「お待ち下さい!」
「・・・何だ?」

門の中から役人と思しき人物が現れ、ルークに呼び掛ける。

「皇帝陛下がお探しなのは、この者でしょうか?」

その者の背後から、担架を担いだ兵士達が歩み寄る。そこに載せられていたのは、確かにティナとフィーナを侮辱した男であった。

「(口封じ?にしては外傷が見られないな。妙にヤツレて・・・ってイカ臭っ!)この野郎・・・いや、この国もか?」


行為の直後に口を封じた。そう結論付けたルークが怒りに震える。男と恐らくは国に対し、瞬間的に沸点を迎え爆発する。そんな最悪の惨事を招く寸前で、エレナとアスコットが叫び声を上げた。

「「ペロタン!?」」
「ペ、ペロタン・・・だと?」

エレナとアスコット、2人の視線を何度も何度も追い掛けるルーク。しかしゴールは変わらない。辿り着くのは担架の上に横たわる男。どう料理してやろうか今尚悩み続けた相手。

そんな憎き男の名前が『ペロタン』だと言うのだから、怒りの矛先は行き場を失ってしまう。悪人らしくない可愛い名前に、吹き出してしまわなかったのは本気でキレていたお陰だろう。

(なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。・・・どうしよう?これで終わりにする訳にもいかないだろうし。)

こうなってしまうと本格的に国同士の問題。しかしルークには興味のない話である。そうは言っても、このまま投げ出してはスフィアに迷惑が掛かるだろう。周囲の様子を伺いながら、どう対処すべきか模索する。

「ペロタンがティナと!?」
「じゃあ私の体の事も・・・」

2人がルークを見ているが、それについてはティナと2人の問題。旦那や家族だろうと、余計なお節介は控えるべきだと思っている。頼られた場合は全力でサポートするが、積極的に介入してややこしくなるのは避けたい。だからこそ、ルークは無視しようと決め込んだ。

そんなルークに対し、役人達の背後から駆け寄って来た人物が話し掛ける。

「皇帝陛下!」
「・・・誰だ?」
「アストリア王国第二王女、シャルルーナ=アストリアと申します。此度は我が国の者が不敬を働き、大変申し訳ございませんでした。」

この国の第二王女の登場に、ルークは内心でホッと胸をなでおろす。エレナとアスコットに詰め寄られた場合の対処が思いつかなかったのだ。

名前を尋ねるのに少しだけ間が開いたのは、シャルルーナが如何にも王女だったから。慣れ親しんだ王女像とは似ても似つかない雰囲気に、一瞬思考が停止したのである。


(正直助かったけど、思い描いてたような王女様の登場かよ。スフィアは女王様だし、ルビアはお転婆王女。リノアやクレアは残念王女だからなぁ・・・これが本当の王女様か。芸能人とは違った感じのオーラを纏ってるな。思わず跪きそうになったわ。しかもとびきりの美人。ただ箱入り、我儘ってのがなぁ・・・。)

そんな事を考えながらも、怪しまれないよう言葉を選ぶ。


「・・・謝罪を求めていた訳じゃない。」
「では・・・」
「不届き者を生きた状態で引き渡せないのだから、オレが求めるのはお前達の命だ。(頭に血が昇ってたとは言え、今更無かった事には出来ないもんなぁ。・・・何とか軌道修正して、穏便に済ませた方がいいのかな?)」
「っ!?(世間知らずが叩くような大口ではなく、強者のみに許される傲慢。この圧倒的な威圧感・・・何万回も読み直した物語の魔王様ではありませんか!)」


正直に告げる事の出来ないルーク。やむを得ない以上、このまま最後まで貫き通すしかない。そんなルークと相対し、シャルルーナが勘違いするのも無理はなかった。そして勘違いしているのはルークも同じ。シャルルーナもまた、ある意味残念王女なのだ。

実に100年以上も軟禁されていた彼女。出来る事と言えば読書である。王宮内の全ての書物を何千、何万回と読み返して来た。特に英雄の物語を好んで読んでいたのだが、読みすぎておかしくなっていたのである。彼女が好きなのは、主人公ではなく敵。特に魔王が好物であった。魔王様と呼んでしまう程に。

ある意味魔王のようなルークに対し、普通ではない感情を抱くのは当然と言えるかもしれない。

 

結果、ルークが予想もしていなかった不運が重なり、事態は最悪の方向へと突き進む。・・・ルークにとって。但し最高の出来事も同時起こる、という事は付け加えておく。