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Shining Rhapsody

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232話 閑話 海1

 232話 閑話 海1

 

夏・・・それは数多くのイベントを抱える、四季の内で最も多忙な季節。恋人達が距離を縮め、恋人のいない者にとっては出会いの多い季節。

 

「今年は特に暑いわね〜。」
「・・・・・。」

だらけきった姿で床に横たわる少年と、彼のお腹を枕にしている女性。世界一の大国であるフォレスタニア帝国。その皇帝と皇后の1人である。この2人にとって、距離感など無いようなものである。

因みに皇帝であるルークが無言だったのは、暑いならくっつくなと思ったからである。

「ルークはいつもの事ですが、ナディアさんまでだらしないですよ!」
「仕方ないじゃない。耳と尻尾の分、スフィアよりも熱が篭もるのよ。」
「その分、涼しそうな服装をしているではありませんか!」
「素肌を晒せないなんて、王侯貴族も大変よねぇ〜?」
「貴女も王侯貴族です!!」

どんなに暑くとも、不特定多数の前で素肌を晒してはならない。それが貴族の常識。もっとも、大抵の女性がそうである。治安の悪い世界において、扇情的な格好は危険を招く。それ以外にも、冒険者が素肌を晒す危険については言うまでもない。例え小さなキズであっても、毒を受ける可能性がある。

高ランクの冒険者であればある程、ガードは徹底しているのだ。なのにナディアが薄着をしている理由。それはこの部屋にはルークとその嫁達しかいないからであった。


「でも、ナディアが人前でルークにくっつくのも珍しいわね?」
「暑いって言う割にね・・・」
「「「「「・・・・・。」」」」」

フィーナとルビアの指摘に、嫁さん達が目を細める。中でも確信に至ったらしいフィーナがルークに近寄り、その体に触れる。

「冷たっ!」
「「「「「はぁ!?」」」」」

水魔法で極薄い氷を精製し、体温で溶けないように温度を維持し続ける。加えて結露しないよう、風魔法を駆使して水分を取り除いた空気の膜を作り出していた。圧倒的な魔力量と技術力を駆使した、言わば才能の無駄遣いである。

自分達だけが涼しい思いを楽しんでいたとあって、ルークとナディアは嫁達に正座させられる事となった。

「ナディアのせいでバレたじゃないか!」
「私は暑いのが苦手なの!ちょっと位いいじゃない!!」

形だけは反省中とあって、小声で不毛な言い争いをするルークとナディア。スフィアが注意しようとした瞬間、勢い良く扉を開ける音が響く。

ーードカン!

「頼もぉぉぉ!」
「「「「「学園長?」」」」」

学園長の登場に、嫁達が揃って眉を顰める。理由は当然、ろくな事にならないから。補足すると、勝手に入室してもお咎め無しなのは、学園長の妹が嫁だからである。そのユーナは頭を抱えている真っ最中だが。

「流石に暑くてかなわん!という訳で1つ、氷の禁呪をぶちかまして貰えんじゃろうか?」
「おぉ!それは名案だな!!」
「「「「「却下!」」」」」

珍しく良い事を言ったと思い、学園長の案に賛同するルーク。しかし嫁達が声を揃えて切り捨てる。確かに涼しくはなるだろうが、住人達の迷惑を考えると許可する事は出来ない。

「ルークの嫁達は相変わらず固いのじゃ・・・。」
「迷惑というものを考えなさい!」
「むぅ・・・ならば泳げる場所に連れて行ってくれんか?折角じゃ、みんなも泳げば良い!」
「泳げる場所?そうは言っても、川や湖は人が多いだろ?」

この世界に水着など無い。それっぽい物はあるが、地球のような素材が無い為、気持ち良く泳ぐ事は難しかった。全裸になれる男性や、学園長のような猛者は別だが。


「ワシは見られても気にせんぞ?」
「少しは気にしなさい!」
「フィーナの言う通りだな。服を着たまま泳ぐか、誰もいない場所に行くか・・・。」
「なら水着を手に入れればいいじゃない。」
「は?」
「「「「「水着?」」」」」
「水着というのはですね・・・」

ヴィクトリアの言葉に、嫁達が揃って首を傾げる。そんな嫁達に説明するヴァニラ。その様子を黙って見守るルークだったが、ある事実に気がつく。

(いつの間にかナディアも混ざってやがる・・・。正座してんのオレだけじゃねぇか。)

水着に関する指摘が無いのは、言うだけ無駄だと理解しているから。束になった女性に勝てない事は身に染みてわかっている。口は災いの素、黙って成り行きに身を任せるのが賢い男なのだ。

 

説明を続けるヴァニラを他所に、何処かへ転移したヴィクトリアとシルフィ。ルークが首を傾げていると、シルフィが異世界召喚組を連れて戻って来た。

「水着なんて、10代の頃にグラビア撮影して以来だわ・・・」
「私は最初の写真集の撮影で着ました。」
「声優さんも写真集なんて出すんですね・・・。」

女優の月城さんは10年以上前。声優の石原さんは3〜4年前だろうか。女子高生の早坂さんが写真集に食い付いたのは、自身は水泳の授業で着ているからだろう。敢えて説明する必要は無い。

ルークが3人の会話に聞き耳を立てていると、大量の水着を抱えたヴィクトリアが戻って来た。これから水着ショーが開催される雰囲気を察し、ルークは静かに退出する。

(時間掛りそうだし、オレは泳げる場所を確保しに行くか・・・。)

嫁達の裸は見慣れている為、態々着替えを覗く意味は無い。下手すれば集中口撃に見舞われるのだから、いない方が良いのだ。


こうしてルークは1人、目星を付けた場所へと転移するのであった。

 


「うわっ!やっぱネザーレアはもっと暑いかぁ。気温60度ってトコか?それよりも、前回確認しなかった海水温は・・・熱っ!!」

前回は視認しながらも、素通りした海岸。この近辺に住む者がいない事はわかっている為、プライベートビーチに出来ないかと考えた。淡い期待を込めながら海に手を突っ込んでみたが、熱湯コマーシャルが出来そうな温度であった。

「気温が高いから水温も高いとは思ってたけど。まさかここまでとは・・・。仕方ない、他を当たるか。」

気持ちを切り替えて、次の候補を思い浮かべる。

「とは言うものの、この分だとフロストルは氷風呂。中間のグリーディアは人目につくからダメ。あとオレが知ってるのは・・・重曹生産拠点か。」

幼少の頃より度々訪れていた秘密の砂浜。海水を汲み上げる為、簡易的な桟橋を作り上げていた。ルークにとって、言わば秘密基地である。ティナにも話していないその場所を知られるのは、中々に気が引けたのだ。

「あの場所、滅茶苦茶釣れそうなんだよなぁ・・・。はぁ。」

時間が出来たら釣り道具を作って釣りをしよう。そう考えていた場所だけに、思わず溜息が零れる。嫁達に知られるのは構わない。問題なのは、ティナが大人しくしているとは思えない事である。正確には、大人しく泳ぎだけを楽しむはずが無い。彼女は根っからの狩人なのだから。

「間違い無く乱獲、最悪の場合は根こそぎ捕るに決まってる。まぁ、海中を確認した訳じゃないんだけど。」


潜って魚影を確認する釣り人などいない。ルークの呟きは当たり前の事であった。すなわち獲る程獲物が棲息しているのかは、実際に潜ってみなければわからないのである。釣りでの調査など当てにはああらないのだから。

「桟橋から覗いた限りじゃ、危険な魔物の類はいないんだよな・・・。かと言って潜って確認したら、1人だけ先に泳いでズルいって叱られるだろうし。・・・学園長が泳げばわかるよな!」

様々なものを天秤に掛け、最もヒドイ結論に至る。人柱がいれば、安全確認は容易に出来る。学園長が襲われれば危険だし、何も無ければ安全であると。当然危険が迫れば全員で対処する事だろう。

そもそも、事前に確認したからと言って安全が続く保証は何処にも無い。移動して来る魔物だっているはずだ。どれだけ入念に調査したとしても、ごく短期間でわかるはずもない。ある程度の安全を確保しておけば、後の事は冒険者組が対処する事だろう。


「料理はまぁ良しとして、問題なのは屋根か・・・。」

日焼けを気にするような嫁達ではない為、正確には壁も必要となる。と言うのも、危険は海だけに潜んでいる訳でもない。背後には森が広がっており、様々な魔物が生息しているのだ。

辺境のエリド村を越えた最果ての地。当然その辺の冒険者では手に負えない程の強さである。非戦闘組の事を考えると、気休めでも身を潜める場所は必要だろう。


とりあえず現地で考える事にしたルークは転移を行う。

「ここに来るのも3年ぶりか。流石に桟橋はボロボロだな。・・・あれ?良く考えたら、桟橋が残ってるのも変だよな。あまり魔物が来ない場所なのか?」

所々朽ちてはいるものの、桟橋は原型を留めている。普通であれば魔物によって破壊されている可能性が高いのだが、そんな様子は見られない。つまり魔物が来ていないか、桟橋には見向きもしなかった事になる。

「縄張りと縄張りの境目なのかもな・・・。これなら野営用のテントで充分か。」

ログハウスを取り出せない状況に備え、大小様々なテントを所持している。今回は大人数ということで、全てのテントを設営する。全員が同時に休むとは思えないが、食事のタイミングが被る事は十分に有り得る。そう考えての行動だった。

テントを張ると言うよりも、取り出して地面に固定するだけの作業。あっという間に設置し終え、そろそろいいかと思って城へと戻る。そこにはなんと、未だに水着を選んでいない嫁達の姿があった。

「まさか・・・このまま夜になったりしないよな?」
「可能性は大いにあると思うのじゃ。」
「そうか・・・。ところで質問だが、学園長の水着はソレなのか?」
「そうじゃ!革新的じゃろ?」
「すまん、聞き方を間違えたな。・・・学園長のソレは水着なのか?」
「水着と言っておったぞ?確か・・・まいくろびきに?とか言っておったな!」
「・・・只のヒモじゃねぇか!!」

ルークが声を荒げるのも無理はない。大事な所が全く隠れていないのだから、水着と呼ぶのも疑わしいデザインであった。幼女体型の学園長ならばお約束のスク水だと思っていただけに、ルークのツッコミが激しかったのも頷けるだろう。


別に幼女の裸を見ても何も感じないが、持って来たヴィクトリアに一言文句を言うべく嫁達の輪に向かって行くルークであった。