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Shining Rhapsody

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239話 語られる真実

 239話 語られる真実

 

オークと思しき生物に驚くも、下手に声を上げては不敬罪となるかもしれない。そんな理由で何とか声を上げずに済んだエリド村の住人達。

ティナ達はルークに任せると決めていた為事なきを得る。残すはルークただ一人なのだが、駆け引きには大分慣れていた事で何とか無言でやり過ごした。

結果として全員が無言を貫き通したのだが、その表情までは取り繕う事が出来なかった。そんなルーク達の様子を伺う事なく、第二王女が追い打ちをかける。

「あれがこの国の王妃と第一王女です。」
「「「「「はぁ!?」」」」」

想像の遥か斜め上の事実を告げられ、全員が揃って声を上げる。これには第二王女も苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

「はははっ・・・それが普通の反応ですよね。」
「「「「「・・・・・。」」」」」

第二王女が一切咎めなかった理由。それは少し前、彼女自身も同じ反応だった事によるものであった。数十年ぶりに顔を合わせた母と姉。それが一切の面影を残していなかったのだから当然だろう。


「ふ、二人の処遇に関しては任せる!」
「引き渡さずともよろしいのですか?」

動揺したルークに対し、無意識に追い打ちを掛ける第二王女。これ以上ない程の強力な一手であった。

「か、かかか、構わないとも!(あんな化物、こっちから願い下げだ!!)」
「そう、ですか・・・。では、あの二人の処分は此方で引き受けましょう。ところで陛下は、どのようなご用件で我が国を訪れたのです?」

これ以上王妃と第一王女の件に触れるのは得策ではない。そう判断した第二王女が話題を逸らす。これが他の話題であればとことん突き詰めるのだが、ルークとしても王妃達を押し付けられては叶わないと思い話を合わせる。

「調べものをしようと思ってな。」
「調べものですか!?よろしければお手伝いさせて頂きますが!!」
「申し出はありがたいんだが、一度戻らなければならなくなった。」
「そうですか・・・戻る?では、いずれまたお越し頂けるのですね!?」
「そのつもりだ。」
「その時は城へお立ち寄り下さい!此度の件、改めてご報告させて頂きます!!それとお渡しするモノの準備をしておきますので!!!(荷物を纏めておかなくては!)」
「あぁ。(迷惑料か・・・受け取っておいた方が後腐れ無さそうだな)」


盛大な食い違いに気付かないルーク。それもそのはず、ルークは肝心な部分を聞き逃していたのだ。彼女はルークとの駆け引きの中でこう言っていた。

【ーー私が皇帝陛下のモノとなりーー】と。

つまりアストリア王国において、第二王女はルークが娶るものとなっていたのだ。フィーナ達があと少し早く来ていれば、このような事にはならなかっただろう。本当にタッチの差で、ルークは頭を抱える事となるのだが・・・それはまた後日。

 

まずはティナとアークの話を聞かなければならない。そう考えていたルークは第二王女に別れを告げ、控えているティナ達の下へ。アークと顔を合わせた事もあり、エリド村の者達も一緒に連れて転移するのであった。

 

「消えた・・・物語に出て来る転移魔法ですね!?これは迎えに来て頂けるのはすぐかもしれません!急いで支度を整えなくては!!」
「皆の者!この国を救って頂いた皇帝陛下に無礼があってはならん!!急ぎ姫様がお持ちする物を用意するのだ!!」
「「「「「ははっ!」」」」」


後ろで魔物の群れが殲滅した経緯を聞かされていた宰相が、総力を挙げて第二王女の嫁入り道具を揃えるべく命令を下す。この国の政治を預かる身としては、大恩ある皇帝陛下と繋がりを持てるのは大きい。

第二王女の喪失は痛手だが、残された第一王女がいれば王族の血は守られるだろう。今までお飾りの王だったのだ、あと数百年はそのままでも良いだろうと判断したのである。彼の英断は、今後のアストリア王国発展に大きく貢献する事となる。

 


一方、城へと戻ったルーク達だが、すぐにティナの話を聞く訳にもいかなかった。嫁それぞれに仕事があり、急に時間を作る事が出来ない。結局は普段通りの行動を余儀なくされた。ただいつもと違うのは、食料確保に向かうのがティナ1人ではない事だろう。連れて来られたエリド村の面々が同行を申し出たのだ。


そしてルークはと言うと、ティナに頼まれて料理を作っていた。大盤振る舞いした分の補充を言い渡されたのだ。自分が頑張っている時にそんな事をしていたのかと思わなくもなかったが、ティナが料理を振る舞った事に対する驚きの方が大きかった。故にあっさりと引き受けたのである。まぁ、作ったのは当然ルークなのだが。

 

大人数での夕食を終え、一息ついていると約束通りアークがやって来た。

 

「さて、随分と人数が多いようだが・・・全くの無関係でもないしな。長くなるし、さっさと始めるとしよう。」
「村のみんなにも関係あるのか?」
「ん?神器を求めているって聞いてるからな。無関係とは言い切れない。」
「神器?・・・いや、何でもない。」

どういう意味か気になったルークなのだが、それは他の者達も同じだと気付き質問を切り上げる。説明はアークが順序立ててしてくれるのだから。


「さて、まずはティナに関する説明からしよう。」
「お願いします。」


覚悟を決めた様子のティナが頭を下げる。それから語られたのは、アークが事前にティナだけに説明していた内容と全く同じものであった。


「ティナが異世界からの転生者・・・」
「霊樹って一体・・・」
「姉さん達にそんな事が・・・」

思い思いの事を口にする嫁とエリド村の住人達。その中で1人、しっかりとアークを見据えて礼を述べる者の姿があった。アスコットである。

「アーク様のお陰で、私と妻は家族を看取る事が出来ました。本当に感謝致します!」
「オレは口しか出してない。礼ならいつか霊樹に言ってくれ。」
「質問なんだが、その霊樹ってのは何処にあるんだ?」

我慢出来なかったルークが口を挟む。全員が気になっていた事もあり、室内は水を打ったように静かになる。

「霊樹があるのはお前達が求める神器が安置されている場所とは別大陸。行くなら気をつけろよ?そこには鬼を封じてるからな。」
「「「「「鬼?」」」」」
「あぁ。吸血鬼、鬼人といった種族だ。それはまぁ、行けるだけの強さを手に入れたとオレが判断した時に教えてやる。行き方も含めてな。それは置いといて、まずはルークとティナ、お前達だ。」
「「?」」

自分達が何だと言うのか。事情を飲み込めていないルークとティナは、互いに顔を見合わせながら首を傾げる。

「まずはティナ。いや、神崎雪!お前に本当の肉体を返そう。」
「お断りします。」
「そうか、それじゃあ早速準備を・・・何ぃ!?」

アークのとんでもない発言に、ティナは落ち着いて答える。そしてアークは断られると思っていなかったのだろう。話を進めようとして驚きを顕にした。

「あの人があそこまで動揺したのは初めてね。」
「私も記憶に無い。明日はお祝い。」
「ヴィクトリア様、シルフィ様、それはちょっと・・・」

珍しい物が見られた事で、ヴィクトリアとシルフィがほくそ笑む。いつもならばヴァニラも乗っかる所なのだが、本気で動揺するアークに驚いて余裕が無かった。

「い、今なんと言った?」
「ですから『嫌だ』と言いました。」
「ば、馬鹿な!?」
(素で「馬鹿な!?」って言う奴、初めて見た気がするな。)

呑気な事を考えるルークも大概なのだが、これには理由がある。

「本当の肉体とおっしゃいましたが、前世の私は既に死んだ身。今更何の未練もありません。」
「い、いや・・・しかしな・・・(マズイ、非常にマズイぞ!雪の肉体を返し、その流れで秀一の肉体を返すという計画が・・・)」

前世の肉体に未練は無い。これは本心なのだが、本音は別の所にある。それはルークだけが理解していた。

(十中八九、飯絡みだと思うんだよな。食べるのが大好きなティナが、前の病弱な肉体に戻ったら食が細くなる。少食なリノアの半分だ。今更耐えられるもんじゃないだろ・・・。)

ルークの予想通り、ティナは恐れていた。お腹いっぱい食べられる健康な肉体を捨ててまで、かつての姿を取り戻す理由は無い。そんな事に考えの及ばないアークは、焦って判断を誤る。

「ならばルーク!お前にも以前の肉体を!!」
「当然却下だな。(オレの体、アークが持ってたのか・・・)」
「何故だ!?」
「何故って・・・あのなぁ?天涯孤独の身の上で、知り合いも一切いないってなら考えたかもしれないぞ?だが、今のオレは一応皇帝だ。それに沢山の妻がいる。それなのに受け入れる理由を見つける方が難しいだろ?」
「くっ・・・」

たらればの話をすると、アークが企んだようにティナが雪の肉体になったとする。そうすればルークも秀一の肉体を望んだだろう。当然それは、嫁達全員の同意の上でという注釈が付くが。

アークが困っているのを見ているのは楽しいが、流石にそのままでは困ると考えたシルフィとヴィクトリアが助け舟を出した。外堀を埋める形で。

「別に今の肉体を捨てろと言っている訳じゃない。むしろ吸収に近い。ティナの場合、変わるのは見た目と種族だけ。しかも見た目を自由に切り替えられるようになる。」
「・・・そう、なのですか?」
「それにみんなだって、ルークがアークと全く同じ容姿なのは少なからず抵抗があるでしょ?」
「「「「「それは・・・」」」」」

嫁達全員が思っていた事。親子が似るのは仕方ないが、瓜二つというのは若干の抵抗があった。早い話、アークの見た目が若すぎるのである。

「私達は黙ってるから、一度きちんと話し合ってみなさい?」
「そうですね・・・。お義母様のおっしゃられるように、家族会議を開くとしましょう!」


スフィアの提案に、嫁達が揃って頷き返した。こうして初の家族会議が開催される事となったのである。