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Shining Rhapsody

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242話 残された神器1

 242話 残された神器1

 

突然目の前に現れた幼女の扱いを決め兼ねる者達。そんな事には気にも止めず、口論に発展するのは叩いた者と叩かれた者。つまりはユグドラシルと名乗った幼女とルークである。

「何で叩くの!?」
「巫山戯た呼び方をするからだ!」
「ダーリンの方が良かった?残念だけどそれはダメかなぁ!だって私は、みんなのユグちゃんだもん!!」
「誰がダーリンだ!そもそも、お前は何だ!?」
「何って、ユグドラシルのユグちゃん「やかましい!」いひゃい!」

同じ事を繰り返す幼女に我慢ならなかったルークが、両頬を摘んで引っ張る。


そもそも、ルークが怒っているのは自身の呼ばれ方に不満があったから、だけではない。前世で唯一遊んでいたゲームの登場キャラに、ユグドラシルと言う名があった。簡単に言えばそのキャラがルーク、秀一のお気に入りだったのである。

故に目の前の巫山戯た幼女が同じ名前である事に我慢がならなかったのだ。下らない理由ではあるが、誰にでも譲れないモノがあるという事だろう。本当に下らないが。


「それで・・・コイツは何なんだ?」
「認めたくないだろうが、ソレが霊樹だ。」
「しぇいかくにはいしきたい」
「意識体?」

頬を引っ張られたままの幼女だが、話す言葉は聞き取る事が出来た。しかしその内容を完全には理解出来ず、一番近くにいたルークが聞き返す。しかしルークは指を離すつもりが無かった為、幼女は答えられそうにない。仕方なくアークが答えるのであった。

「そんなナリをしてるが、霊樹は特別なんだ。なにせ、一番最初に誕生した植物だからな。」
「「「「「えっ!?」」」」」
「だからと言うべきか、創生2柱は霊樹に特別な役割を与えた。」
「それが霊界を支えるという事か・・・。」

ルークの言葉にアークが頷く。目上の存在には敬意を払うルークは、ようやくその手を離すのだった。


「何故私なのですか?」
「雪ちゃんが花を、植物を愛でる優しい子だったから。何より美人だったから。」
「え?」
「ユグちゃんはねぇ、全ての世界の植物と繋がってるんだよ。だから雪ちゃんが沢山の花に愛情を注いでた事も知ってるんだ!」
「確かに雪は花が好きだったな・・・。」


ユグドラシルの言葉に、ルークは前世の記憶を呼び起こしていた。


生来病弱だった雪は、そのほとんどを神崎家で過ごした。体調を考慮し、外出するのは月に1度あるかどうか。そんな雪がする事と言えば、読書をするか花を育てる事。花といっても庭いっぱいなど不可能な話で、屋内の鉢植えを十数種類。その分、大切に大切に育てていた。

余談だが、ユグドラシルは美しい女性が好きである。特に何がある訳でもないのだが、それは事実。繰り返すが、その事に意味は無い。


「そんな雪ちゃんだからこそ、ユグちゃんは力を貸してあげようと思ったんだよ。時期が来たら巫女になって貰おうって打算もあったけどね?」
「後半を言わなきゃ好感を持てたんだけどな。」
「巫女とは・・・何をするのですか?」
「時々お話して〜、悪い事を考える者達からユグちゃんを護ってくれればいいよ。」
「護る?」

アークも言っていたが、霊樹を護るとはどういう事なのか。具体的な説明を求め、ティナが聞き返した。

「数十年に一度現れるのさ。おかしな事を考える神や魔神が、な。」
「おかしな事?」
「霊樹は霊界を支えると同時に、霊界へと繋がる唯一の道でもある。で、亡くなった者を生き返らせようだとか、魂から力を奪おうなんて馬鹿な事を考える者が後を絶たない。」
「生き返らせる?この世界には蘇生魔法が存在するんだよな?」

アークの説明に疑問を抱いたルークが問い掛ける。ルーク自身も使えないので確証は無いが、恐らく聖女のみが使える禁呪というのが蘇生魔法の一種だと推測していた。それを肯定するかのようにアークが答える。

「確かに幾つか存在する。だがそれは、魂が霊樹に到達するまでの時間制限付きなんだ。この制限は神々に対しても言える。だからこそ、オレも雪の転生を急いだんだしな。つまり、霊樹を通して魂を霊界から引きずり出せば、蘇生も不可能ではない事になる。まぁ、転生してしまってれば無理だから、理論上の話だ。」
「なるほど。じゃあ、魂の力を奪うってのは?」
「極稀にだが、魂を食らう魔物が産まれる時がある。そいつを利用して、自身の力にしようと考える輩が出て来るのさ。」
「それ・・・大丈夫なのか?」
「問題無い。そんな他力本願な奴ってのは、大した事の無い奴ばかりだからな。全て未遂に終わっている。だが、霊樹が傷つけられるのを黙って見ている理由にはならないからな。そんな馬鹿者から護って貰おうと考えた訳だ。」

そう言いながら、アークはティナに視線を向ける。当然不安でいっぱいのティナは、確認の意味で口を開いた。

「そのような大役、私に務まるでしょうか?」
「問題無いよ!私の巫女になれば、雪ちゃんの力は劇的に増えるからね。」
「え?」
「霊樹の巫女だからな。役目を果たす為に、霊樹の力が分け与えられる。ティラミスは形だけの巫女だったから、微々たるもんだったがな。」
「・・・わかりました。必要な事なのですよね?」
「うん!」

覚悟を決めた様子のティナに、ユグドラシルが笑顔で答えたのだった。

 

「とりあえず今は力だけ渡しておくね!具体的な話は、雪ちゃんがユグちゃんの本体を訪れた時にするよ。急いでる訳でもないからね。」
「あの・・・」
「うん?」
「今の私の名はティナですけど・・・?」
「あ〜、それなんだけどね、巫女になるのは雪ちゃんだから。」
「何か理由でもあるのですか?」
「ティナちゃんは花を愛でたりしたかな?」
「・・・していませんね。」
「「「「「・・・・・。」」」」」

ユグドラシルの言葉に、一瞬考える素振りを見せたティナ。しかしすぐに否定の言葉を返す。誰もが言葉を発しなかったのは、そんな姿を目にした事が無かったからだった。

日々のほとんどを食材補給に費やすティナが花を愛でるなど、これ程までに似合わない言葉は無かったのである。もしもあるとすれば、それは食べられる花という事だろう。

「だから私が選ぶのは雪ちゃんの方。私の力を振るえるのも雪ちゃんの姿だけ。すっごく大きな力だし、それ位の制約は付けさせて貰うよ!」
「・・・わかりました。」
「それじゃあ、ほいっ!」

ユグドラシルが掛け声と共にジャンプし、ティナの額に触れる。何かが起こると思い、全員で見守っていたのだが、特に何かが起こる事は無かった。

「あの・・・」
「もう終わったよ!」
「「「「「は?」」」」」
「私との繋がりを確立しただけだから、変化が起こる訳ないじゃん。ぷぷっ、何か期待しちゃってた?」
(((((コイツ・・・)))))

アークを含めた全員を見回し、小馬鹿にしたような態度を取るユグドラシル。これには全員がイラッとしたのだった。中でも我慢ならなかったのがルーク。ティナを含めた嫁達を馬鹿にされ、黙っていられる程お人好しではない。すぐ様お仕置きしようとしたのだが・・・。

「っ!?じゃあ、待ってるからね〜!」
「あっ!・・・アイツ、今度会ったらタダじゃおかねぇ!」

ルークの動きを察知して、すぐに姿を消したのであった。自身も含め、このままでは霊樹に対する怒りが膨れ上がる。そう危惧したアークは話題を変える事にした。


「まぁ、どんな力なのかは後で確認するといい。」
「そう、ですね。」
「とりあえずオレの要件は以上だが、他に聞きたい事はあるか?」
「個人的に聞きたい事は沢山あるんだけどな。う〜ん・・・ティラミスが残した神器ってのは?」
「「「「「っ!?」」」」」

ルークの質問に反応を示したのはエリド村の者達。争いの火種となる強力な武器である以上、破壊すべきと考えているのだが、詳しい由来に関しては一切が不明なのだ。知っておくのは悪い事でもないだろう。

「あれか・・・あれは神族以外でも魔神達に対抗出来るようにと生み出された代物だ。お前達が知っているのは幾つだ?」
「3つ、です。」
「ふむ。ロマリアの剣、マルトの槍、シシリーの杖か。」
「それが名前なのですか?」
「そうだ。ティラミスの神器は全部で5つ。その内3つがこの世界の住人に与えられたと聞いている。」
「どんな武器なんだ?」
「斬りたい物を斬り、それ以外はすり抜ける剣、瞬時に50倍まで伸びる槍、消費する魔力を100分の1にする杖だ。」
「「「「「はぁ!?」」」」」

アークの説明に、全員が驚きの声を上げる。と言っても、驚いたのはシシリーの杖に対して。他の武器は正直微妙だと思ったのだ。しかしルークとカレンだけは違う。

「そのような剣は非常に危険ではありませんか!」
「そんな槍、どうやって対処するんだよ!」
「「「「「?」」」」」

2人が何を言っているのか理解出来ない全員が首を傾げる。その様子に、カレンとルークは理由を説明した。

「斬りたい物を斬るという事は、素人でも他の神器をも斬る事が出来るという事です。魔法も斬るでしょうから、近付く必要があります。ですが、近付けばこちらの武器も・・・。」
「「「「「っ!?」」」」」
「槍の長さが2メートルと仮定しても、瞬時に100メートルまで達するって事だ。槍を突く予備動作も無いんだから、気付いた時には串刺しだろうな。」
「「「「「っ!?」」」」」

シシリーの杖は魔法に長けた者が使って初めて効果が現れる。しかしロマリアの剣はそこそこの使い手でも驚異となる、防御不可能の剣。マルトの槍に至っては、持つ事さえ出来れば良いのだ。充分にチートと呼べる武器だろう。

「剣と槍はそれなりに魔力を要する武器だと聞いている。それなりに脅威だろうが、転移出来る神族ならば対処出来るだろう。」


アークの言葉に、誰もが胸を撫で下ろす。しかしそれは、5つある内の3つに対して言える事。この瞬間、その事実に至った者はいない。残る2つの神器がどのような物か、アークが淡々と告げる事になる。