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Shining Rhapsody

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257話 SSS級クエスト8

 257話 SSS級クエスト8

 

 

このままでは不味い。そう判断したユキは、手続きに向かおうとした男性職員を呼び止める。

 

「ちょ、ちょっと待って!貴方の権限でって、ひょっとしてギルドマスターなの!?」

「ん?あぁ、お互いに自己紹介がまだだったな。オレの名はレクター。察しの通り、ギルドマスターをやってる。」

「そう・・・。私はユキ。ユキ・カンザキよ。」

「どこぞの貴族か?」

「似たようなものね。それで私の冒険者登録なんだけど・・・」

 

あまり自分の素性を詮索して欲しくなかったのか、ユキは適当に答える。その上であれこれ思考を巡らせながら、先程の話に戻る。

 

「やっぱりやめておくわ。」

「は?いやいや、優秀な人材を逃すはずないだろ!」

「貴方の気持ちは理解出来るけど、やっぱり主人と一緒に登録したいの。」

「既婚者だったのか!?・・・まぁ、その容姿なら当然か。」

 

まるっきり嘘でもないユキの言い訳に、思わず驚くレクター。しかし冷静にユキを観察し、世の男性が放っておくわけがないと納得する。その上で困ったように言葉を続けた。

 

 

「しかし、そうなると参ったな。謝礼は払うが、それだけではオレの気が済まん。だがどうやって礼をしたもんか・・・」

「それなら、特別にダンジョンに入る許可を貰えない?」

「ダンジョン?そんな事でいいのか?」

「えぇ。私がこの国を訪れたのは、ダンジョンが目的だもの。」

「ふむ。それ位なら構わんが、ダンジョンには黒狼族が・・・いや、問題無いな。」

 

少し前に受けた報告を思い出し、忠告しようとして思い留まる。ユキの強さなら、黒狼族が何人いようと問題にならないと考えた。寧ろ、ユキを向かわせれば殲滅してくれるかもしれない。そう判断したのだ。

 

「いいだろう。特別に許可証を発行してやろう。いいや、発行させて貰おう。少し待っててくれ。」

「ありがと。」

 

 

許可証の発行に向かったレクターの後ろ姿に、ユキは笑みを浮かべながら感謝の言葉を述べた。その後、許可証を受け取ったユキが足早にギルドを後にしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「という訳だ。」

「そうか。まだそれ程時間も経ってなさそうだし、急いだ方が良いな。」

 

ルークの言葉に、フィーナ達が頷き返す。その様子を眺めていたレクターが問い掛ける。

 

「彼女について聞かないって事は、知り合いだな?」

「あぁ。知人の奥さんだよ。彼女の身柄を確保すべく、オレが依頼を出した。」

「なるほど。彼女なら万が一も無いとは思うが、命の恩人なんだ。オレからも頼む。」

 

ユキの強さを目の当たりにしていたと言うよりも、自らけしかけたのだから心配などしようはずもない。だが冒険者の最高戦力が向かうのならば、安心出来るのも当然だった。誰よりも恩を感じていた事もあって、レクターは素直に頭を下げて頼むのであった。

 

 

許可を与える為、全員からギルドカードを受け取って手続きを行うレクター。これが普通の職員であれば許可を出して終わりだっただろう。しかし、何かが気になったレクターは、手続きを行いながら依頼について確認し始める。

 

SSSランクの依頼だと!?やっぱりどこぞの王族か!?」

「やれやれ・・・。そうじゃない。」

「なら何でこんなデタラメな難易度になる!?」

「それは彼女を野放しにしておくのが危険だからだ。」

「だからそれなりの身分「違う!良く聞け!!」」

 

尚も食い下がるレクターに、ルークが声を荒らげる。

 

「彼女の身が危険なんじゃない!彼女を放置しておくのが危険だと言っているんだ!!」

「・・・ん?」

「何を仕出かすかわからない、爆弾が歩き回っているようなものなんだよ。」

「スマン、意味がわからない。」

 

ルークの言い分が理解出来ず、レクターは降参とばかりに聞き返す。それに答えたのはフィーナであった。

 

「今回彼女がダンジョンを目指した理由ね、ケルベロスを飼うつもりなの。」

「・・・へっ?」

 

少し遅れて、レクターは間抜けな顔で声を上げた。無理もないと苦笑しつつ、フィーナが説明を続ける。

 

 

「大きな犬が飼いたいそうよ。」

「大きな・・・いやいやいや!馬鹿だろ!?」

「馬鹿なの。」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

フィーナの辛辣な物言いに、エレナ達は何も言い返せずにいた。ルークだけは訂正しようと思ったのだが、それはそれで面倒な事になりそうだと胸の内に留める。

 

(誰よりも頭はいいはずなんだけどな。・・・暴走しなけりゃ。)

 

 

ルークも、秀一も知らなかった雪の思わぬ一面に、雪が病気で良かったのではないかと初めて思った瞬間であった。だがそれも、すぐに思い直すのである。病気になるのが良い事であるはずがないのだから。

 

 

 

 

一悶着あったものの、何とか許可を得てダンジョンの入り口前に立つフィーナ達。そんな彼女達に、ルークは改めて声を掛ける。

 

 

「手間を掛けさせて悪いけど、ユキを頼む。」

「えぇ、任せて頂戴。」

「必ず追い付くから、無理だけはしないでくれ。」

「大丈夫よ。連れ帰るだけだもの。」

「いや、下手したらユキとやり合う羽目になるかもしれない。」

「「「「「え?」」」」」

 

見つけたら話し合うだけ。そう思っていた全員が、思わず聞き返す。

 

「さっきギルドで見たユキの手口が妙に気になってな・・・。」

「どういう事?」

1人、両手両足を斬り落とされた奴がいただろ?」

「いたわね。」

「あれさ、ユキの性格からは考えられないんだよ。」

 

真剣な表情で告げるルークに、経験豊富なアスコットが推論を述べる。

 

「人を斬る事に魅了されたって事か?」

「う〜ん、多分ちょっと違うかな?どちらかと言うと、技に溺れる1歩手前って表現が適切かもしれない。」

「それって・・・」

「覚えた技を試したい。子供みたいな状態かもって事。思い過ごしな気もするけど。とにかく気を付けてくれ。もしユキと闘うような状況になったら、迷わず撤退して欲しい。」

「・・・わかった。」

 

 

暫しの沈黙の後、覚悟を決めたアスコットが答える。それ以外の者達も、真剣な表情で頷くのだった。

そうしてダンジョンへと消えて行くフィーナ達。その背を見守りつつ、ルークは内心で声を掛ける。

 

(必ず追い付く。だからそれまでは無茶しないでくれ。)

 

 

自分と良く似た性格のユキ。だからこそ、敵対すれば家族であろうと容赦はしない。みんなを不安にさせまいと口には出さなかったが、誰よりも良くわかっているだけに気が気でないルークだった。