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Shining Rhapsody

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270話 踏み止まるべき一線2

 270話 踏み止まるべき一線2

 

 

振り向きざまにシュウから放たれた弾丸だが、ユキを狙ってのものではない。事実、ユキの顔から20センチ右側に逸れていた。態々反応せずとも良かったのである。しかしユキは反応してみせた。厳密には手を出してしまったのだが・・・。

 

銃弾を真っ二つに切り裂いたユキは、誇らしげに笑みを浮かべる。だがそれも長くは続かない。何故ならシュウもまた、笑みを浮かべていたのだから。こちらは不敵な笑みと表現するのが適切だろう。そのままユキは数秒見つめ続けるが、シュウの笑みが崩れる事は無い。

 

この時点で疑念を抱く。自分の対処に問題があったのではないか。斬ってはならない物だったのではないか・・・と。ありとあらゆる想像を巡らせ、ついに一つの結論に辿り着く。

 

眉根を寄せていたその表情が、ついには絶望を浮かべた表情へと変化したのだ。この段階で、シュウが口を開く。

 

「気付いた?」

「嘘・・・そんな・・・」

 

ユキは一体何に気付いたのか。当然の事ながら、シュウが自らを害そうなどと考えていたとは思っていない。ならば他に何があるというのだろう。

 

「完全に不意をついた一撃だったにも関わらず、しっかりと・・・ハッキリと見えただろ?」

「・・・・・。」

 

シュウの問いに、ユキは答える事が出来ない。いや、答えたくなかった。事実を認めたくなかったのだ。しかしこの場合、沈黙は答えているのと同義である。

 

冒険者の強さに関してはティナの方が詳しいはずだ。だからこそ聞くけど・・・どの程度なら反応出来ると思う?」

「・・・・・Aランク。」

 

聞く者によっては漠然とした問い掛けに、的確に答えるユキ。

 

 

そう。自身が反応出来た事は問題にならない。どれ程の者が反応出来るかが問題となるのだ。しかし、動揺するユキにはシュウの考える半分も理解出来ていない。

 

「ちなみに、ルークがこの銃を完成させたのが12歳の時。試し撃ちして、すぐに封印したよ。当然だよな・・・魔法の方が上なんだから。」

「で、でも!」

ライトノベル、だっけ?ユキは影響され過ぎだと思うよ?」

「どういう事?」

「この世界の生物は強い。地球で例えるなら、小学生がライオンやゾウの群れに素手で立ち向かえる位に。オマケに魔法まであるんだ。魔法の無い世界にありふれた武器じゃ、話にならないよ。」

 

シュウの説明は、かなり控えめである。実際にはゴジ○並の怪獣に、剣や槍で立ち向かう集団が多数いると思えばいいだろう。・・・勝てるかどうかは別として。ミサイルでも作れば別だろうが、大魔法を連発すれば同じ結果を齎す事が出来るはず。資源と労力の無駄なのだ。

 

銃の種類によっては音速へと到達する弾丸。走って追い付ける物では無いだろうが、驚くべき事に視認は出来る。体の一部分であれば、その速さに付いていく事も。マシンガンならば手に負えなくなるかもしれないが、そうなったら魔法で防げば良い。

 

遠距離からの狙撃に関しても、様々な方法で難なく対処してしまうだろう。そういう類の武器だと言っているのである。

 

 

「弱い魔物や大多数の人間には効果があるだろうけど、それをオレ達が持つ意味は無い。それにね?問題なのはそこじゃないんだ。」

「?」

「魔物に効かない武器は、何に使われると思う?」

「っ!?」

 

この時点で理解が追い付いたらしく、ユキが再び驚愕する。

 

「そう、魔物に使えなくても人には向けられる。Aランク以上の冒険者は少ないからね。戦争のあり方が一変するはずだ。いや、戦争に用いられなかったとしても、犯罪には使われる。魔法に適正の無い者達でも使えるんだから。」

「・・・・・。」

「法で縛るのも現実的じゃない。これもさっきの話に通じる部分があるんだけど、やはり王侯貴族の権力が邪魔をする。」

「なら、王制や貴族制を廃止すれば・・・」

「残念だけど、それは無理だろうね。」

「どうして!?」

「この世界には魔物が居るから。」

「え?」

「驚異となるのが人だけなら改革や革命が起きるだろうけど、結果的に魔物がそれを妨げる。革命によって多くの血が流れれば、臭いに釣られて魔物が集まる。そうなった時、先導する者や盾となる者がいないだろ?」

「革命で命を落としているから・・・」

「そう。国を挙げての戦争とは違って、革命は都市単位だ。起こる場所も良くなければ、人員に余裕も無い。そして人が強いのも良くない。結局は強者が権力を欲するだろうからね。別の王が生まれるだけだよ。」

 

 

戦争は総力戦ではない。第三勢力からの防衛を考慮し、国防にも戦力を割く。片や革命は総力戦。度重なる離反でも起こらなければ、圧勝とはならない。それ程の戦力が集まっていれば、気付いた相手が制圧に赴くのだから。

 

シュウが言うように、多くの血が流れる。そうなれば大量の魔物が押し寄せるのが、この世界の理なのだ。ルーク達の場合は戦争に勝った後、ついでに魔物も狩っていた。そうでなければ、今頃帝国地図から消え去っていただろう。まぁ、馬鹿みたいな極大魔法が放たれた場所へ近付く魔物も少ないのだが。

 

 

人の強さに幅があるのも問題だった。一時は落ち着いても、必ず強者が現れる。強者の周りには甘い汁を吸おうと人が集まり、やがては大きな勢力となるだろう。歴史は繰り返されるのだ。

 

 

「とにかく複雑な電子機器と違って、銃は再現出来る可能性が遥かに高いんだ。だからこそ、絶対に見られる訳にはいかない。この世界では、知らなければ作られたりしない。それが銃だと思うんだ。」

「そっかぁ・・・私は夢を自分の手で打ち砕いちゃったんだね。」

 

 

そう呟きながら空を見上げるユキの表情は、悲しげながらも何処かスッキリとしたものであった。