272話 SSS級クエスト14
272話 SSS級クエスト14
シュウとユキが密談から戻ると、既に昼食の後片付けは終わっていた。ナディア達を労おうと考えたシュウだったが、ユキが先に向かった事で行き先を変える。
「みんな、ちょっといいか?」
シュウが呼び掛けた意味を察し、声を掛けられたフィーナ達が揃って移動する。ユキに聞かれないようにとの配慮である。
「今後の予定を確認しておきたい。」
「無事に合流出来た事だし、戻ってもいいという事かしら?」
シュウが間に合った事で、自分達はお役御免なのではないか。そう思ったフィーナが尋ねる。
「いや、悪いけど30階層まで付き合ってくれ。」
「説得出来たんじゃないのか?」
「残念ながら無理だった。」
「じゃあどうするの?」
まさかの頼みに、アスコットとエレナが首を傾げる。他の面々も同じだったのだろう。同じように首を傾げたり、顔を見合わせている。
「隙を見てオレがケルベロスを仕留めるから、みんなにはユキの足止めを頼みたいんだ。」
「「「「「っ!?」」」」」
シュウの口から告げられたのは無理難題。思わず全員が息を呑む。ユキの戦闘を目の当たりにはしていないのだが、それでも自分達との実力差は感じ取っていたのだ。
「その反応は、何となく察してるみたいだな?みんなが感じてるように、ユキを抑え込むのは難しいだろう。わかり易く例えるなら、遠慮の無いカレンを相手にしていると思えばいい。」
「む、無理に決まってるでしょ!」
「全員掛かりで、もって数分だぞ!?」
「下手したら数秒で全滅よ!?」
あまりにもわかり易い例えに、誰もが否定的な答えを口にする。
「別に命の奪い合いって訳じゃないから、数秒って事は無いさ。ただ今回はその数秒が欲しい。」
「足止めなのよね?」
「細かく言うと、ユキの出鼻を挫いてくれればいいんだ。」
「「「「「?」」」」」
たった数秒の差がそこまで重要とは思えない。だからこそ誰もがシュウの頼みを理解出来なかった。
「単純な競争だったら間違い無くオレの方が速い。だが今のユキを相手に、後ろを取られるのは命取りなんだ。」
「・・・夫婦よね?」
背中を向けるのは危険だと告げるシュウに、サラが思わず疑問を口にする。どう解釈しても、到底夫婦の関係には思えなかったのだ。
「冗談に聞こえるかもしれないが、今回ばかりはオレも向こうも本気の勝負だ。いいか?ユキが飼い主になったら手が出せなくなる。ドラゴンよりもデカイ犬を連れ歩くんだぞ?」
「「「「「それは・・・」」」」」
「足が速けりゃ勝ちって競争じゃない。何でもアリの勝負なんだ。少しでも先行すれば背後から邪魔をされる。ダンジョンでなければ、ぶっちぎりで勝てるんだけどな・・・。」
真っ直ぐ進むのであれば、シュウには神力と魔力の合成技がある。しかし、未だコントロールの出来ない未熟な力。壁に激突している間に差を広げられるだろう。それはこの場の全員が理解していた。
「つまり、ユキの注意を引き付ければいいのね?」
「あぁ。その間にオレが全力で走り抜ける。問題はいつ仕掛けるかって事なんだけど・・・」
「向こうの出方も伺わなけりゃならない。となると、ある程度の博打は必要か。」
「父さんと母さんなら、確度の高い予測が出来るんじゃないか?」
「そうね・・・ティナだったら、油断させてから仕掛けると思うわ。」
「具体的には?」
「30階層よりも前かしら?」
「27から29階層って所だろうな。」
約200年間家族を続けた経験から、エレナとアスコットが予測を立てる。ティナが消え去ってユキになった訳ではなく、両方の記憶と性格を併せ持つ。その比率で言えば圧倒的にティナである。ユキの性格を考慮しなくて良い訳ではないが、現状それしか手が無いのだ。
「ユキとしてはどうなの?」
「それなんだけど・・・オレにもサッパリなんだよ。」
「「「「「え?」」」」」
誰よりも、と言うよりも唯一ユキを知るシュウが匙を投げている。それは全員にとっての予想外であった。
「夫婦だったんでしょ?」
「まぁな。けどユキは病弱だったから、今回みたいな行動を取った事が無いんだ。積極的に何かをするような性格じゃなかったし、正直戸惑ってる。」
「だけど、ティナでもないのよね・・・。」
「あぁ。見た目通り、別人って感じだな。」
肩を竦めるシュウに対し、エレナとアスコットが自分達の考えを口にする。3人が共通して感じている印象。それは確実にティナとは異なる人物という事。そして唯一ユキを知るシュウだが、自身の考え全てを曝け出してはいなかった。
(そもそも、みんなには話してないけど、口調が違ってるんだよな。ユキはあんなに砕けた喋り方じゃなかった。父さんの言うように、全くの別人って可能性が無い訳じゃないが・・・可能性は限りなくゼロに近いだろうな。となると、残された可能性は1つ。)
シュウはその性格から、憶測の上で物事を進めたがらない。先入観を持ってしまうのを避ける為であった。他者の意見によって解の得られそうな問題であれば積極的に相談するが、ユキに関して言えばそうではないだろう。だからこそ、誰にも告げずに自己完結を図る。
今回導き出した答え、それはユキが記憶を取り戻してからずっと演技をしているというものだった。だが、まだそれを口にする訳にはいかない。目的がサッパリわからない以上、正しいという確証が得られないのだから。