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Shining Rhapsody

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274話 存在理由

 274話 存在理由

 

 

ユキと合流した事で急ぐ意味を失くし、ペースを落とした一行。落としたと言うよりは、落とさざるを得なかった。

 

真っ先に挙げられる理由がユキの狩り。虱潰しに魔物を探すのだから、当然時間が掛かる。まぁこれに関しては、人手が増えた事で寧ろ時間短縮になっている。その分、ユキの提案で解体を行っているのだ。これまで1匹も解体せずに突き進んで来たユキ。彼女の懸案事項がここで解消されたのである。

 

食べられない部位を取り除く事が出来れば、その分アイテムボックスは空く。容量の限界が近付いていただけに、ユキとしては大助かりだったのだ。

 

 

もう1つの理由がシュウの負担増である。良く食べる冒険者の人数が一気に増えた事で、料理に掛かる労力が何倍にも膨れ上がった。この点に関しても人手は増えているのだが、それ以上に食べる者が居る。ご存知、ユキである。

 

単独行動の時は若干控えめな食事量だったのが、シュウという頼もしい存在により気にする必要が無くなったのだ。食べる量が増えるという事は、それだけ食事に費やす時間も増える。そして全員分の食事を作るだけでも大忙しなのに、その倍の量を作る必要があったのだ。

 

ここまでにフィーナ達が消費した料理。ユキがどうするのかは不明だが、最低限フィーナ達が帰る際の食事は補充しておきたい。だからこそ、シュウの移動時間は極端に落ちるのだ。無理に作らずとも、充分な量の作り置きはある。だからと言って作らない理由にはならない。何が起こるかわからないのだから。

 

そのような事情もあって、この日は27階層まで進んだ所で夜を迎えていた。

 

 

「ねぇシュウ君?」

「どうした?」

 

後片付けを終えて一息ついていると、ユキが話し掛けてくる。

 

26階層から湿地帯でしょう?」

「あぁ、そうだな。・・・?」

 

見たままの光景を口にするユキに、シュウは首を傾げる。

 

「両生類とか爬虫類が多いじゃない?」

「カエルとかトカゲは不満?」

 

大型のカエルやトカゲといった魔物ばかりだったのが不服なのかと、シュウが尋ねる。実際はリザードマンも居たのだが、食用には適さないと思って口には出さなかった。そんなシュウの問い掛けに対し、ユキは首を横に振る。

 

「そういう訳じゃないの。私が気にしてるのは、30階層でケルベロスが出るのかどうかって事。」

「あ〜・・・どうなんだろうね?」

 

出ないだろうとは思ったのだが、悲しませる事もないと曖昧に答える。シュウが真っ先に思い浮かべたのはリザードマンだったのだ。そしてそれはユキも同じであった。

 

「私の予想だと、リザードマンの群れだと思うの。」

「・・・・・。」

「もしそうなら、私はどうしたらいいの?」

「ナディアを手伝えばいいんじゃない?」

「「・・・・・。」」

 

大人しく帰ってくれと言い掛けたのだが、それだと今度はフェンリルを探しに行きかねない。目を離す位ならば目の届く範囲に居て貰った方が良いと判断し、別の案を提示する。

 

期待していた答えと違っていた事で、半目になるユキ。他に答えようが無くて、無言になるシュウ。お互いの気持ちが手に取るように理解出来てしまう為、どうする事も出来ないのだ。そんな2人を見兼ねたフィーナが間に割って入る。

 

「ほら2人とも!明日も早いんだから、さっさと休むわよ!!」

「・・・わかったわ。ごめんね、シュウ君。」

「いや、オレの方こそ悪かった。」

 

自らの非を認め、互いに謝って休む事にしたのだった。とは言っても、シュウの睡眠時間は少ない。休むフリをして、見張りをするエレナ達の下へと向かう。

 

 

 

「ちょっといいかな?」

「えぇ。近くの魔物は狩り尽くしてるから、特にする事も無いもの。・・・どうしたの?」

「母さん達は、このダンジョンに来た事ある?」

「無いわ。」

「ダンジョンを攻略した事は?」

「幾つかのダンジョンは攻略してるけど、それがどうかしたの?」

 

何時にも増して真剣なシュウに、エレナは怪訝な表情を浮かべる。

 

「最深部には何があるのかと思って。」

「ボスが居て、宝物があるわよ?」

「宝物?それってどんな?」

「う〜ん、魔道具や武器、金属塊に魔石かしら?」

「それって何度も手に入る?」

「え?えぇ、そうね。」

 

まるでゲームを彷彿とさせる答えに、シュウは腕組みして首を撚る。

 

 

(やっぱり矛盾してるよな。まるでダンジョンに来て欲しいみたいじゃないか。いや、待てよ?来て欲しいのは冒険者、つまり・・・人間か?その上で神は遠避けておきたいが、妨害するにも限界はある。だからこそ、人目を引く事で神が近寄り難く・・・いや、目立ちたくないのはオレだけだ。)

 

自らの仮説にはあまりにも大きな穴がある。そう考えたシュウは、思考を全く別な方へ向ける。

 

(そもそもダンジョンを一括りにする事が間違ってるのかもしれない。転移出来ないダンジョンには神族を近付けたくない何かがある。それ以外のダンジョンには人を集めたい。転移を封じない事から、神族の動向は気にしてないのか?つまり目的は別にある?転移出来ない方は置いとくとして、今は人を集めている方のダンジョンだ。)

 

ダンジョンという分類に誤魔化されているのではないか。そう考えたシュウは、ダンジョンを大きく2つに分ける。転移が可能な物と、不可能な物に。これにより、目的に大きな違いがある事に気付く。

 

(宝物や魔物が増える原理も不明だけど、それより人を集める理由は何だ?・・・装備品?魔力?いや、どちらも人から集める必要は無いはず。装備品に至っては、寧ろダンジョンは放出してるしな。あと考えられるのは・・・魂?)

 

スケールの大きな話に、シュウは思わず首を横に振る。

 

(う〜ん、新しいダンジョンでもなければ対策が練られる。死人の数はそれほど多くないはず。・・・やっぱ情報が少なすぎる。これは一度行ってみるべきかもしれないな。)

 

急に黙り込んだシュウを心配して、エレナが声を掛ける。

 

「ルー・・・シュウ?」

「ん?あぁ、ごめん。考え事をしてた。それより教えて欲しいんだけどさ?」

「何を?」

「攻略が簡単なダンジョンと、まだ攻略されていないダンジョンの場所。」

「え?」

「気になる事が出て来たから、ちょっと攻略して来ようかと思って。」

「ちょっとって貴方・・・」

 

まるで買い物にでも出掛けるかのように軽く告げるシュウに、エレナは呆れて言葉に詰まるのだった。

 

 

 

シュウが考えているのは、初心者向けのダンジョンとまだ攻略されていないダンジョン。それも此処とライム以外の。そもそもクリスタルドラゴンの問題が片付かない限り、このダンジョンを攻略する訳にはいかない。そしてライムにあるダンジョンは、単なる道としての役割。しかも近々エレナ達を送り届ける約束になっている。ならばそれ以外となるわけだ。

 

(オレの予想が正しければ、少なくとも高難易度のダンジョンには11つ異なる存在理由がある。念の為カレンも連れて行った方がいいだろうな。引き摺ってでも・・・。)

 

 

 

 

ーー 同時刻 ーー

 

「今日の紅茶も美味し・・・はっ!?」

「どうかしましたか?」

「・・・何故か、茶葉を大量に確保しなければならない気がします。」

「「「「「は?」」」」」

「ルビアさん!紅茶は何処で栽培していますか!?」

「何処って、カレンの為に地下でも栽培してるわよ?」

「案内して下さい!今すぐ!!」

「別にいいけど・・・まだ収穫出来ないからね?」

「ガーン!」

 

 

勘は鋭いが、何処か抜けているカレン。その後、シュウ達が帰って来るまで紅茶集めに奔走するカレンなのだった。