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Shining Rhapsody

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277話 ケロちゃん!

 

277話 ケロちゃん

 

 

30階層のボスが居る部屋。そこに踏み込んだシュウ達は今、映り込む光景に言葉を失っていた。全員が口を開けたままで。

 

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

目の前の光景は信じられないのだが、それでも経験豊富なエレナとアスコットが言葉を発する。

 

「・・・ねぇ?」

「・・・何だ?」

「アレもカエルなのかしら?」

「・・・多分?」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

エレナとアスコットが言うように、目の前に鎮座する生物の特徴はカエルである。ならば何故そのような質問をしたのか。それはとてもカエルとは思えない程のサイズだったからだ。目算で体長20メートルに及ぶカエル。そんなカエルは未だかつて見た事が無い。

 

さらに疑問に拍車を掛けたのはその頭部。巨大なカエルには首が3つある。これこそが鑑定魔法にあった名前の由来。大まかに、本当にざっくり大別するとケルベロス。そこにカエルのケロを掛けたのだろう。即ちケロベロスである。

 

 

「・・・上手い事言ったつもりかよ!?」

「ちょ、落ち着きなさい!」

 

どうしてもツッコまずにはいられなかったシュウと、それを宥めるフィーナ。いつもなら真っ先に文句を言うはずのナディアだが、今回ばかりは大人しい。何故なら、例に漏れずシュウの嫁は変わり者揃いだからである。

 

(ケロベロス・・・な、中々いいセンスしてるじゃない。)

 

長年むさ苦しいギルド努めだった事で、ナディアのセンスはオッサン寄りにシフトしていた。それでも声に出さなかったのは、かつて女性職員達に注意されていたから。思った事を何でも口に出すのは婚期が遠のく、と。

 

それなりに結婚願望のあったナディアは、女性職員達の忠告を素直に受け入れた。それでも男勝りな性格だけはどうする事も出来ずに行き遅れていたのだが、今その話は置いておこう。

 

 

 

みんなが思い思いの言葉を口にし、それに伴った行動をする。それは当然ユキも同じで、彼女の場合は目的が果たせなかったショックから、実に大胆且つ過激な行動に出る。

 

ーーチン

 

「「「「「・・・え?」」」」」

 

ーーズドン!

ーーブシュュュー!!

 

突如鳴り響いた微かな金属音だったが、場違いな音に全員が揃って顔を向ける。そこには刀の柄を握り締めるユキの姿があった。そして目の前に鎮座していたはずのケロベロスから頭部が落下し、胴体からは血が吹き出す。

 

一体何が起きたのか。その答えに気付いたのはシュウだけである。

 

「・・・斬っちゃったの?」

「何をです?」

「いや、ケロベ「居ませんでした。」え?」

 

シュウの言葉を遮るユキ。その表情は何処か鬼気迫るものだった為、思わずシュウは聞き返す。だがユキの答えが変わる事は無い。

 

「ですから、此処には大きなカエルしか居りませんでした。」

「いや、でも・・・」

「少し大きなカエルしか居りませんでした。何か問題でも?」

「すこ・・・いえ、何も問題ありません。」

(((((あ、逃げた・・・)))))

 

有無を言わせない迫力のユキに、シュウは逆らう事を諦める。非常に珍しい光景に、その場に居合わせた全員がシュウの敗北を悟る。無かった事にしたいユキと、 ケルベロスでなければ割とどうでも良いシュウ。ここで下手に刺激する意味は無いのだ。

 

 

「お父さん、お母さん。」

「「は、はい!」」

「あのカエル、解体して頂けますか?」

「「かしこまりました!!」」

 

まさか自分達に飛び火するとは思っておらず、ユキにつられて丁寧な口調で答えるエレナとアスコット。この時点で胸を撫で下ろしたシュウが、ユキの異変に気付く。

 

(口調が変わってるのに、誰も気付いてないな。いや、暫くそっとしておこう。・・・ユキが落ち着くまで。)

 

 

自分から火に油を注ぐ必要は無いと思い、ユキの事には触れないでおこうと考えたシュウ。しかし黙って見ているのも不自然とあって、話題を別な物へと向ける。

 

「じゃあ、オレ達はこれからの事を話し合おうか。」

「そ、そうね!」

「え〜と、私は・・・解体を手伝って来るわ!」

 

同意するしかないナディアと、何とかこの場から逃げ出そうとするフィーナ。そんな2人を一瞥して、ユキはシュウの下へと歩み寄る。

 

「シュウ君はナディアと一緒に先へ進むのでしたよね?」

「え?あ、あぁ。」

「でしたら私はみなさんと一緒に戻ろうかと思うのですが・・・」

「っ!?そ、それはイケない!(ユキを野放しにしては堪りません!考えましょう、オレ!!)

 

今度はシュウが慌ててしまい、口調が可笑しなものへと変化する。そんなシュウの様子に、ユキは黙って首を傾げる。

 

「折角この姿なんだ、もう少し一緒に居てくれてもいいだろう!?」

「これから先もずっと一緒ではありませんか?」

「うぐっ!ほ、ほらっ!ユキの食事があるじゃないか!!」

「城の料理人達が居れば問題ありませんよ?」

「うっ・・・」

 

もっともらしい言い分なのだが、ユキはいとも簡単に論破してしまう。これが真剣勝負であれば、どんな相手だろうと僅かながらに勝機も見出せる。しかしユキが相手とあってはそうもいかない。シュウ並の知力を誇るユキが相手では、それも難しかった。

 

何より決定的だったのは、女性に口で勝つ事が難しいという事だろうか。そんなシュウに対し、ナディアが助け舟を出す。

 

「一緒に来れば、毎食後にプリンが食べられるわよ!?」

(プリン?・・・料理もスイーツも、シュウ君の方が明らかに美味しい)・・・わかりました。私も同行させて頂きます。」

 

 

ナディアの一言で瞬時に心変わりしたユキ。どうせ食べるのなら、美味しい方を選ぶのは当然の事。こうして何とか事なきを得たシュウは、ナディアへの礼をどうするのか考えるのであった。