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Shining Rhapsody

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280話 足踏み

 280話 足踏み

 

 

ダンジョン内の砂漠地帯は暑さを感じなかったが、今シュウ達が立っている雪原は違う。一面が砂で満たされていれば、気温に関係なく砂漠である。例えどれ程の高温や低温であろうと砂が消える事は無い。

 

だが雪は違う。暖かければ溶けるのだ。その雪が消えずに残っているという事は、気温が低いという事。ここまで軽装だったシュウ達は、時間の経過と共に震えだす。その影響をモロに受けたのが竜王達、ではなくナディアであった。

 

「どうしてアンタ達は平気なのよ!?」

「雪や氷は水属性ですし・・・」

「風魔法で冷気を遮断出来るしのぉ・・・」

「土の属性竜は温度変化に鈍いからな・・・」

「「・・・・・。」」

 

納得のいかないナディアが食って掛かるも、それなりの理由で躱される。そんなやり取りを無言で眺めているシュウとユキ。何故ならナディアは今、毛布に包まって顔だけ出しているのだから。

 

 

キツネは通常、寒さに強いと言われている。しかし何事にも例外は付き物。運悪くその例外に当て嵌まったのがナディアであった。

 

さっさと先へ進もうとした一行だが、1人戻ろうとしたナディアに振り回された格好となる。まぁ、防寒着など用意していなかったのだから、あながち間違った行動とは言えない。寒さで動きが鈍れば、それだけ危険が増す。だからこそ強く言えないシュウは、ログハウスを出して暖を取る事にした。

 

 

 

ログハウスに避難はしたものの、無人だった為に暖かくはない。暖炉に薪を焼べて、室温を上げ始めたばかり。それを請け負ったのがシュウとユキであった。自分達も寒かった為、火の近くに居たいと思ったのである。ナディアもそうすれば良さそうなものだが、彼女はとにかく動きたくなかった。

 

「・・・キツネって寒さに強いんじゃなかったっけ?」

「それは地球の話ですよね?それにナディアはキツネではなく、キツネの獣人です。」

「あ〜、それもそうか。そもそも個人差もあるよな・・・オレ達も寒いんだし。」

 

火加減を調整しながら、シュウとユキが小声で会話する。ユキが言うように、ナディアは只のキツネではない。キツネの獣人である。しかも希少な白狐という種族。一般的なキツネの獣人とは全く異なる種族と言っても過言ではない。

 

人間だって寒さに対する反応には個人差がある。真冬に半袖で活動出来る人もいれば、完全防備でカイロを複数所持する人だって居るのだ。ナディアが極度の寒がりであっても、おかしい事は無い。

 

そんな事を考えていたシュウだったが、唐突にユキが思い出したように語りだす。

 

「そう言えばシュウ君は知らないのですね・・・」

「何を?」

「ナディアがカイル王国に根を下ろした理由です。」

「ん?黒狼達から逃れる為でしょ?」

「それもそうなのですが、でしたら他の国でも良くはありませんか?」

「そう言えばそうだな。」

 

ナディアは黒狼族の手から逃れる為、遠く離れた他国へと移り住んだ事は聞いた。しかしそれは、カイル王国を選ぶ理由の1つにしかならない。今更ながら、少し弱いのではないかと気付かされる。

 

「カイル王国は他国に比べて温暖な気候なのですよ。」

「標高の低い国では最南端だからなぁ・・・って、それが理由?」

「そうです。まぁ、有事の際に魔境であるエリド村の方へ逃げる為でもありますが・・・。」

「・・・・・。」

 

エリド村から最も近い、カイル王国のギルド支部。そのギルドマスターであったナディアは、ティナ達の本拠地を知っていた。魔境と呼ばれる危険地帯とあって、単身で訪れる事は出来ない場所。だが僅かながらも助かる可能性はある。どうにかして近くまで行ければ、異変を察知した誰かが偵察に来るはず。そういった狙いもあったのだ。

 

「もし仮に、エリド村がもっと北にあった場合。きっとナディアは、今も冒険者を続けていたと思いますよ。」

「暖かい国で、頼れるティナが割と近くに居る。そんな場所なら、自分の足で姉を探すよりもギルドの職員になった方が情報は集まる、か。偶然が重なった結果とは言え・・・ナディアもツイてるな。」

「いいえ、少し違います。」

「ん?何が違うんだ?」

「ナディアをギルドマスターに推薦したのは、お母さんですから。」

「それは・・・ナディアの事情をある程度把握した上での提案って事?」

「はい。因みに、お父さんは何も知りません。脳筋ですから。」

「・・・・・。」

 

素直に美談で終わらせれば良いものを、ユキは余計な一言を付け加える。意味も無くディスられたアスコットに同情しつつ、シュウはエレナの事を考えた。

 

「とにかく、母さんには改めて礼をしないとな。何がいいと思う?」

「ふふふっ。私達が協力するだけで充分だと思いますよ。」

「それはそうだけど・・・帰るまでに考えておくか。」

 

エレナの機転がなければ、ルークがナディアと出会う事は無かっただろう。無論、ティナがルークの嫁に誘う事も。だからこそシュウは、エレナに感謝していたのだ。

 

 

ユキとの会話を終え、ようやく部屋が暖まってきた事に気付く。そして一度他の事に気付くと、また別の事にも気付き始める。ナディアとエアの会話もその1つ。

 

「のぉ、ナディアよ?」

「何よ?」

「今のその姿、嫁としてどうなのじゃ?」

「仕方ないでしょ!体が冷え切ったんだもの!!」

「これが噂に聞くグータラ亭主とやらかのぉ・・・」

「ちょっと!私は妻!!亭主じゃないわよ!」

「「「・・・・・。」」」

 

毛布に包まり、顔だけ出してゴロゴロ転がるナディア。手を出すのも嫌なのかと、呆れた視線を向ける竜王達。そしてそれは、会話に加わっていなかったユキも同様であった。立ち上がり、頭を抱えて呟く。

 

 

「・・・私は人選を間違えたのでしょうか?あれではシュウ君の方が主夫ではありませんか。」

「・・・どの口が言ってるんだ?」

「え?」

「え?」

「「・・・・・。」」

 

 

コチラにも何とも言えない沈黙が訪れる。売り言葉に買い言葉ではないが、ユキが漏らした本音にシュウも思わず本音を漏らす。

 

 

基本的な家事は使用人がする。しかし使用人の居ない状況では、ほぼ全てをルークが行っていた。ルークの嫁は王族が大半を占めるとあって、全員が『食う』『寝る』『働く(遊ぶ?)』である。

 

家事が嫌いではないシュウは、基本的に文句を言わない。だが改めて口にされると、言ってしまいたくなるのが人である。

 

 

シュウの冷ややかな視線に取り繕う事も出来ず、ダラダラと冷や汗を流すユキなのであった。