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Shining Rhapsody

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284話 50階層へ2

 284話 50階層へ2

 

 

「ゔぁぁぁぁん!ごべんなざぁぁぁい!!」

「泣いてもダメ!」

「許してぇぇぇ!」

「絶対に許しません!!」

 

仁王立ちするシュウと、その足に縋り付くナディア。何故このような状況に陥っているのかと言うと、シュウが本気でキレた為である。

 

基本的にシュウは嫁達に寛大である。過去にその怒りを爆発させた相手はスフィアだけとあって、他の嫁達に危機感は無かった。

 

 

普段温厚な者程、怒った時は恐ろしい。それはシュウにも言える事。決して女性に手を上げない分、最も効果的な罰となって襲い掛かる。大人の女性であるスフィアは、大人しく受け入れたのだが・・・中身がまだまだ子供のナディアには受け入れられなかった。それ故に必死の抵抗である。

 

「自業自得じゃな・・・」

「それはそうかもしれませんが・・・」

「えげつねぇな・・・」

「・・・・・。」

 

シュウが下した沙汰に、竜王達が戦慄する。ユキに至っては声も出せない程だ。これがもし自分だったら。そんな想像を巡らせたのだろう。

 

 

一体何が起こったのかと言うと―――

 

「食べ物を使った悪戯は料理人として見過ごせない!ナディアは1ヶ月間プリン禁止な!!」

「なっ!?」

 

あまりの厳罰にナディアが凍りつく。その隙に、シュウはナディアの持つアイテムボックスに魔力を込める。この階層では魔法を使えないが、魔力を込める事は出来るのだ。

 

「製作者権限で、今持ってるアイテムボックスは使用禁止にしたから!」

「えっ?・・・え?・・・えっ!?」

 

驚愕の事実に、ナディアは必死にアイテムボックスを操作する。だが何度やっても反応しない事で、シュウの顔とアイテムボックスを何度も見返したのだ。だが何度見返しても、初めて見るシュウの表情に変化は無い。結論は覆らないと判断し、それなりに頭の回るナディアは対処法を考える。

 

(帝都の商会で・・・は売ってないんだったわ。なら城の料理人に頼めば・・・ルークの目があるから無理!寧ろ1ヶ月は献立から消える。あとはティナの非常食に・・・残ってる訳ないじゃない!!・・・・・詰んだ・・・。)

 

 

どう足掻いてもプリンを入手する事は出来ない。そう理解し、呆然とするナディア。だが大人しく受け入れられる性格ではない。いや、元Sランク冒険者でありギルドマスターだった彼女は、強者というか権力者故の傲慢さを持っている。結果、最後の悪足掻きに打って出た。泣き落としである。

 

自分に甘い夫ならば、もっと軽い罰にしてくれるだろうと。だがそれはナディアの考えであり、シュウの考えとは違う。そもそも、1ヶ月はかなり軽い罰なのだから。

 

シュウが作るスイーツは、プリンだけではない。今では数え切れない程の種類を提供しているのだ。1ヶ月どころか半年プリンを作らなくとも、他の嫁達は気にも止めないだろう。ナディアだけが食べられないようにするなら性格が悪いかもしれないが、シュウにその気はない。みんな平等に食べられないのである。

 

一見公平且つ平等に見えてしまう罰ではあるが、見方を変えれば恐ろしい事でもある。一時的ではあるが、この世界からプリンが消えるのだ。どれだけ努力しようとも、決して入手する事が出来ない。大げさに言うなら、ロストマジック、古代の遺産である。

 

 

 

何故このような状況に陥っているのかと思うかもしれないが、それは当然ルークが調理法を秘匿しているからにほかならない。とは言っても、欲に目が眩んでの事ではない。

 

ルークとしては、調理法を知られるのは構わなかった。聞かれれば懇切丁寧に教えただろう。だがそれは、この世界が平和ならという注釈が付く。

 

卵の希少性だけでなく、砂糖を始めとした調味料も貴重なのだ。一時の利益に群がる相手は、販売する商人に留まらない。生産者すらも危ういのである。根こそぎ奪ってしまえば、その希少性は跳ね上がる。後々出回らなければ、価格は安定して上がるのだから。

 

そこまで考えた上で、ルークは調理法を含めた材料までを秘匿したのだ。現状を維持すれば、余計な騒動には発展しないだろうと踏んで。そしてそれは正解だった。現在帝都の地下で作られている砂糖に関しても、帝国の軍隊が警備にあたっている。そこまでしなければ守り切れない物なのだ。

 

 

 

 

縋り付くナディアを振り払い、シュウはユキ達の下へと歩み寄る。

 

「・・・少し厳し過ぎるのではありませんか?」

「本当は1年でも良かったんだけどな。」

「ひぃっ!?」

 

シュウのとんでもない発言に、ナディアが泣き止む。

 

「今回はそこまで時間を無駄にしなかったし、もし水を持って無くても故意に道を間違えれば戻る事は出来た。」

「「「「あぁ・・・」」」」

 

ここまで30分しか経っていない事もあって、時間のロスは少ない。最悪の場合でも、道を間違える事で40階層へは容易に戻る事が出来る。厳罰を与える程ではないと判断したのだ。

 

「だが、何が起こるかわからないダンジョンでやっていい事ではないだろ?」

「そう、ですね。」

「まぁ、食べ物を使った悪戯は別にいいんだけどさ。」

「良いのか?」

「あぁ。粗末にしなければ構わないよ。お菓子に激辛な香辛料を使った悪戯もあるでしょ?」

「確かにありますね。」

「今回のは、相手と場所次第では命の危険を伴う内容だったから、かな。」

「なるほどのぉ。確かに干物になるかと思ったのじゃ・・・。」

「オレも体験してるから、あの辛さはわかる。だから総合的に判断して1ヶ月。」

「「「「なるほど。」」」」

「・・・・・。」

 

全員が納得の結論。それはナディアも同じだった為、これ以上の異議を申し立てる事は出来ない。だが素直に受け入れる事も出来ない為、無言を貫くしかなかったのだ。

 

それよりも、ユキ達にはもっと気になる事があった。

 

「それはそうと、魔道具には製作者権限という物があるのですね?」

「ん?あぁ。やっぱり悪用された場合を考慮する必要はあるからね。都合良く製作者が対処出来る事は少ないだろうけど。」

「なるほど。」

「ならば、お主が付けておる魔道具が機能しておらんのもソレか?」

「え?」

 

エアの問い掛けに、驚かされたのはシュウである。自身が製作した魔道具しか所持していないのだから、それもそのはず。だからこそ、シュウにはどの魔道具を指しているのかがわからない。

 

「ほれ、その服に付けておる飾りじゃ。魔石が付いておるのじゃから魔道具なのじゃろ?」

「っ!?あ、あぁ・・・コレか?コレは今必要じゃないんだよ。」

「なんじゃ、そういう事か?」

「エア、アイテムボックスとか言うのだって常に機能してる訳じゃないだろ?」

「おぉ!確かにそうじゃの!!」

「「・・・・・。」」

 

シュウが見せた刹那の動揺。エアとアースは気付かなかったようだが、アクアとユキは何かを感じ取ったのだろう。2人が眉をひそめたのだが、それに気付く者はいなかった。

 

 

 

(隠蔽の魔道具が機能していない、だと?一体何時から・・・。アイテムボックスは問題無く機能している。2つの大きな違いと言ったら、使用者に合わせて作られているかどうかだけど・・・まさかっ!!ひょっとして、シュウの姿には反応しないのか!?だとすると・・・間違いなく母さんには気付かれただろうな。まぁ、気付かれても特に問題じゃないからいいけど、詳しく検証する必要はあるだろうな。)

 

使用者に合わせて作られた、隠蔽の魔道具。だがそれは使用者の魔力を登録するだけの物。姿が変わっただけだと思っていたシュウにとって、この情報は重要なものであった。自身に施された封印が露見する事については何の問題にもならない。何となく隠しているだけなのだから。

 

問題なのは、魔力の質について。シュウとユキの肉体が齎す影響を、放置する訳にはいかないだろう。この先に待ち受けるのは、かつて引き返す事となった強敵なのだから。