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Shining Rhapsody

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285話 50階層へ3

 285話 50階層へ3

 

 

肩を落としてトボトボと歩くナディアを尻目に、シュウ達は少しだけ移動のペースを落とす。単にナディアを案じてのものではない。先頭を歩くシュウが黙り込んでしまった為だ。そんなシュウの様子が気になったのか、アクアがユキに小声で話し掛ける。

 

「貴女達の夫は、先程から一体何を悩んでいるのです?」

「・・・わかりません。」

「あの魔道具の後から様子がおかしいようですね。」

「えぇ。おそらく、本来は常時起動する類の物だったのだと思うのですが・・・」

「そうですか・・・。」

 

ユキならば何か知っているかもしれない。そう思い至っての質問であったが、答えは得られないと知り落胆するアクア。それもそのはず。封印に関してはエレナ、魔道具に関してはランドルフしか知らないのだから。つまり両方を知るのはシュウだけである。

 

そのシュウはと言うと、様々な仮説を立ててはどう立証するかに思考を割いていた。

 

 

――隠蔽の魔道具が機能していないのは、魔力の質が変化した。これはほぼ確定だろう。アークが融合と表現していた事からも、異物が混ざり込んで変質したと考えるのが妥当。ひょっとしたら肉体が2つになってて、どちらかの肉体が致命傷を負っても生き延びられるなんて期待も少しあったけど・・・融合なら違うだろうな。検証する訳にもいかなかったから、この情報は凄くありがたい。

 

次に魔力の質が変化した事についてだが・・・影響はこれまでの魔道具だけに留まりそうだ。魔力登録型の魔道具はこれしか無いし、この点も問題無い。魔法も従来通りに使えるし、何の違和感も無かった。今の今まで気付かなかったくらいだしな・・・。オレとユキに限ってはどっちの姿でもいいように、魔道具を2つずつ用意する事にしよう。

 

ここまでは後でユキにも伝えておこう。問題はそれ以外だ。

 

 

気が回らなかった、というかすっかり忘れてたんだけど・・・この体になってもルーク時代の封印は有効のまま。ユキの病を治療した事や肉体を作り変えた事を考慮しても、単純に混ぜ合わせただけ。問題なのは、これが魔法ではなさそうだって事だ。

 

神の能力に関してはサッパリだが、アークが最低でもそういう能力を有しているのはわかった。だが問題はソコじゃない。大事なのはオレとユキ、カレンの能力について。態々アークが出張って来た事を考えると、1柱・・・というか11人の能力は違うと見るべきだろう。これはつまり――

 

 

シュウが導き出した結論。それは『自力で発現させなければならないのではないか』というものだった。個々人によって異なるのであれば、手取り足取り教える事は出来ない。概要ならば可能かもしれないが、詳細については無理だろう。そう思わざるを得ない。だがここまで考えて、ふと脇道に逸れる。

 

 

――同じ能力じゃない?いや、転移については同じ・・・厳密には違うのか。違う?本当に?――

 

 

異世界転移を使える条件は何か。上級神達の言を信じるのであれば、『脱下級神』である。この時までシュウは、いずれ中級神になれば使えるようになると思っていた。思考を放棄していたのである。だが思い返してみると、色々と矛盾している事に気付く。

 

 

――カレンは上級神に匹敵する実力があると言っていた。にも関わらず、未だ下級神のままなのはどういう訳だ?これはつまり実力・・・神力の量ではない?いや待て、今は転移だ。

 

異世界転移は1度、中級以上の神に連れて行って貰うものだとばかり考えてた。だがそれだと、全面的に異世界転移を禁止する説明が出来ない。教えを請う類の能力であれば、その時しっかり説明すればいいんだから。これはつまり・・・その気になれば、どんな下級神でも異世界転移は出来る!?――

 

 

 

突拍子もない結論。それを導き出したのは、シュウが2人目であった。1人目が誰で、何故禁止となったのか。この時のシュウは知る由もない。現時点で言える事。それは・・・最高神にとって不幸中の幸いだったのが、シュウの現在地が転移禁止のダンジョン内だった事だろう。

 

この時もしも転移出来る状態であれば、シュウは確実に試していた。だがすぐには転移出来ない状況なのと納得のいく結論を出した事で、この件を暫く棚上げしたのである。まぁ、忙しくて忘れたとも言うのだが・・・。偶然にも救われたアークではあったが、彼がこの事実を知る事は無い。

 

 

 

 

ゆっくりとしたペースで進む一行。49階層出口付近での野営を挟み、翌朝には50階層へと足を踏み入れたのであった。