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Shining Rhapsody

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288話 50階層3

 288話 50階層3

 

 

黙り込んでしまったユキ達から視線を外し、シュウはゆっくりと歩き出す。少し距離を開ければ気が付くだろうと思っての事。そしてシュウの予想通り、ユキ達は慌ててシュウの後を追った。

 

 

数分後、辿り着いたのは見覚えのある扉。目的地であるボス部屋だ。扉に手が届く距離で、シュウが振り向いた。

 

「じゃあ予定通り、オレがクリスタルドラゴンの相手をする。ナディア達はどうするのか、改めて確認してくれ。」

「えぇ、わかったわ。」

 

頷くナディアから視線を移すと、竜王達も揃って頷き返す。誰が何をするのか、きちんと話し合っておかなければならない。何がキッカケで不測の事態が起こるかわからないからだ。

 

ナディアと竜王達が輪になったのを確認し、シュウはユキへと視線を移す。話があるのだと瞬時に悟ったユキは、静かにシュウへと近付いた。

 

「どうしました?」

「コレをユキに頼みたい。」

「コレは・・・プレゼント、ではありませんよね?」

 

シュウが手渡したのは、小さな魔石をあしらったペンダント。アクセサリーと呼ぶには無骨なデザインに、ユキは思わず聞き返したのだ。

 

「それは出発前に急いで作ったアイテムボックスだよ。」

「アイテムボックス・・・ですか?」

 

ユキは大容量のアイテムボックスを幾つも所持している。あって困る物ではないが、この場で渡す意味がわからない。

 

竜王達が問題無いと判断したら、ナディアの姉を収納して欲しい。」

「っ!?」

 

ユキの目が大きく見開かれるが、何とか声を出さずに済んだ事でシュウは続きを口にする。

 

「ナディアの姉を水晶ごと入れられるサイズのアイテムボックスだから、ナディアに渡して欲しい。」

「・・・何故私に?」

「収納出来ると断言出来ないから、かな。」

「あぁ・・・。」

 

アイテムボックスに、植物以外の生き物は入らない。結晶化という聞いた事の無い状態ではあるが、分類するなら鉱物だろう。シュウは、ほぼ確実に入ると考えたのだ。だがそれをナディアに任せた場合、万が一収納出来なかった時の動揺は計り知れない。クリスタルドラゴンを相手にしたまま、ナディアに気を取られるのは危険極まりない行為だろう。

 

「そして収納が済み、倒しても構わないと竜王達が判断した場合。すぐオレに教えて欲しい。」

「わかりました。ですが・・・一体何を急いでいるのですか?」

 

1秒でも早く倒したい、その場を離れたい。そんなシュウの気持ちを感じ取ったのか、不思議そうにユキが首を傾げる。

 

「結晶化・・・その仕組みが理解出来ないからだよ。」

「?」

「パッシブスキルみたいな能力だとマズイでしょ?」

「っ!?」

 

シュウに言われるまで、ユキは気付かなかった。相手が竜種とあって、ブレスか魔法と思い込んでいたのだ。冒険者として経験豊富なティナの固定観念。いや、これはルークも同じであった。

 

初対面のあの時、互角の勝負を繰り広げていたら―――後になって、そう考えるようになっていただけの事。冷静に分析する時間があったに過ぎない。

 

「そういう訳で、分析は出来る限り急がせて欲しい。」

「わかりました。」

 

ユキが警戒を一段階引き上げたのを読み取り、シュウはナディア達へと視線を移す。ユキもまた、そんなシュウの考えを理解してナディア達の下へと歩き出す。

 

 

だがシュウはすぐにユキの、その後ろ姿へと視線を戻した。

 

(・・・1番の問題は、ナディアの姉が結晶化した理由なんだけどな。その理由如何によっては、次の標的がナディアって事も・・・)

 

これ以上の憶測は口にすべきでない。そう考えて、自身の胸の内に留める事にしたのだ。もしユキに告げてしまえば、まず間違いなくユキの行動に支障が出るだろう。ナディアの姉が狙われた理由を探ろうとすれば、本来取るべき行動が遅れかねない。それはユキ達の危険に直結するのだから、シュウとしては放っておけないのである。

 

 

 

一方のナディア達はと言うと――

 

「クリスタルドラゴンはシュウに任せるとして、私達はどうするの?」

「うむ。最も優先すべきは、ナディアの姉の状態を確認する事じゃな。次が相手の確認となる。」

「恐らく相手は地属性でしょうから、何方もアースが適任なのですが・・・。」

「ならオレは最優先事項だろ。」

 

アースの言葉に、ナディア達は揃って頷いた。今大事なのは、ナディアの姉の安全確保。それが済まない事には、捕獲も討伐も行えないのだ。

 

「私は地竜との交流が一切ありませんから、アースの補佐とナディアの警護にあたります。」

「それが良い、か。ならば妾は、ナディアの夫の陰で万が一に備えるとしようかのぉ。」

「・・・エア。」

「何じゃ?」

「手は出せないだろうが、代わりに口を出して貰えるか?」

「口じゃと?・・・あぁ、そういう事か。」

 

アースの提案に、エアだけがなるほどとばかりに頷き返す。意味のわからないナディアとアクアは、眉間に皺を寄せた。

 

「今のナディアが手出し出来ぬ相手となれば、アチラ側の可能性が高い・・・か。妾の顔見知りかもしれんな。いいじゃろう、機を見て呼び掛けるとしよう。」

「あぁ、なるほど。」

「・・・アチラ側?」

 

納得した様子のアクアと、対象的な表情を浮かべるナディア。だがその疑問に答える事もなく、アースは近付いて来たユキに声を掛けた。

 

「オレ達は決まったが、お前はどうする?」

「私はナディアと行動を共にします。」

「・・・そうか。なら、お前達の夫の所へ行くとしよう。」

 

少しだけ待つが、ユキがそれ以上答える事はない、自分達に教えるつもりが無いのだと悟り、アースは諦めたように返事を返して歩き出す。エアとアクアも無言で後に続いた。

 

来たばかりのユキだったが、特に気にする事なく後を追い掛けようとした。だが、険しい表情を浮かべて横を向くナディアに気付いて声を掛ける。

 

「・・・ナディア?」

(私が手を出せないとアチラ側?それって何かの比喩?それとも・・・)

「ナディア!」

「え?あ、あぁ、今行くわ!」

「?」

 

ナディアの様子がおかしいとは思いつつも、今は引っ掻き回すべきではないと判断して無言で歩き出したユキであった。