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Shining Rhapsody

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293話 後始末

 293話 後始末

 

 

誰もが無反応だった事で、シュウは一先ず出来る事を考える。横たわる2頭のクリスタルドラゴンの処理だ。解体をこの場でするか、持ち帰ってするか。その答えはすぐに出る。

 

「オレのアイテムボックスには入りそうもないな。余裕がありそうなのはユキのアイテムボックスなんだけど、食材にしか使わないからなぁ。・・・そもそもコイツは食えるのか?」

 

表皮の硬さは他の竜種と同じだが、見た目は大きく異なる。一般的な竜種は全身が鱗で覆われている。だが目の前の竜種は、全身が大小様々なクリスタルで覆われているのだ。表皮が何であろうと、剥がしてしまえば同じかもしれない。だがこの見た目からはそう思えなかった。

 

「・・・無理してチャレンジする意味は無いな。」

 

未知なる食材に興味はあるが、荷物の空きに限りのある状態で無理に持ち帰る必要は無い。毒を持つ可能性だってあるのだ。更には現状、素材に興味も無い。そうなると次なる処分法を考えるしかない。

 

「放置・・・はマズイよな。なら燃やす、って燃えるようにも見えないし。う〜ん・・・」

 

ここまで辿り着ける者が居たとして、無事に持ち帰れるとは到底思えない。だがそれも絶対ではない以上、どうにか処分しておきたかった。しかし燃えるようには見えない。となると、埋めるかバラバラにするか。

 

「此処にまるごと埋めるのは難しいし、結局解体するしか・・・いや、待てよ?」

 

どうやって楽しようか考えた末、1つの名案を思いつく。

 

「次の階層に捨てちまえばいいんだ!」

 

冒険者や商人が聞いていたら必死に止めたことだろう。だが幸か不幸か、今この場には居ない。止める者がいないのだから、シュウが行動に移すのは当然である。持ちやすい尻尾の先を掴み、ズルズルと引き摺り始めた。

 

「シュウ君!?」

 

我に返って呼び掛けたのはユキ。収納や解体以外の行動を取ったシュウに慌てたのだ。その食材をどうするのか、と。

 

「ん?どうした?」

「それをどうするつもりです!?」

「次の階層に捨てるんだけど?」

「「「「「っ!?」」」」」

 

貴重であろう竜の素材を捨てる。信じられない発言を耳にし、全員が我に返って言葉を失う。特にユキは冷静ではいられない。

 

「た、食べないのですか!?」

「食えるのか?」

「そ、それは・・・試してみれば良いのですよ!」

 

至極真っ当な意見である。だがシュウにも否定する理由があった。

 

「ユキの言い分はもっともだな。でも安定供給出来る食材じゃない限り、オレが手を出す事は無いよ。それでもって言うならユキがやればいい。もしくは調理出来そうな者を自分で探してくれ。」

「随分と冷たいのじゃな。」

 

2人の会話を聞いていたエアが口を挟む。無視してもいいのだが、全員が同じような表情をしているのに気付き、ため息混じりに理由を説明する。

 

「はぁ。仮にコレが至高の食材だったとしよう。もしも存在が知れたらどうなる?」

「どう?・・・手に入れようとする者達がこぞって押し寄せるじゃろうな。」

「そいつらはコレを倒せるのか?」

「それは・・・」

 

シュウの問い掛けに、言い淀むエア。言うまでもなく、答えは否である。つまりは無駄な犠牲が増えるだけなのだ。そして理由はそれだけに留まらない。

 

1度に全部食べ切れればいい。だが人間が毒味する訳にもいかないんだ。魔物に味見をさせようとしたり、調理法を試行錯誤してる段階で間違いなくバレる。そうなると、オレ達にちょっかいを出してくる者が現れる。しかも相手は権力者だ。それも大量に、な。料理人として言うなら、食い物で争ってもらっちゃ困るんだよ。夫としても、妻を危険に晒す訳にはいかない。」

「「「「「・・・・・。」」」」」

「だから捨てる。欲しいのならくれてやるけど、オレ達に被害が及ばない所で処理してくれ。」

「・・・少し考えさせて欲しいのじゃ。」

 

自分達の知らない竜種に対する興味が捨てられなかったのだろう。エア達竜王が揃って距離をとり、何やら相談し始めた。そちらからユキへと視線を移し、今度はユキに対して厳しい言葉を発する。

 

「自分で料理人を探せとは言ったけど、あれは建前だ。本音を言えば探すべきじゃない。」

「どういう事ですか?」

「量が限られてると言っても、みんながみんな信じる訳じゃない。隠し持っていないか詮索する者は必ずいるし、入手した場所を聞き出そうとする者が寄って来る。それじゃ困るんだ。」

「そうでしょうね。」

「それを避けるためには、どうしたらいいと思う?」

「え?・・・・・。」

 

ユキは暫く考えるが、思いつく考えでは完全に防ぎ切れない。時には非情な選択も出来るとは言え、やはり優しいのである。

 

「簡単だよ。エリド村みたいな人の近寄らない辺境で調理して、余った素材は処分するのさ。料理人と一緒にね。」

「「っ!?」」

 

ユキだけでなく、静かに聞いていたナディアも揃って息を呑む。思ってもみなかった様子の2人に、シュウは微笑みながら口を開く。

 

「出来ないだろ?」

「そうね。」

「無理ですね。」

 

人として間違った選択をしなかった2人に安堵し、シュウは視線をクリスタルドラゴンへと移しながら告げる。

 

「だから捨てるんだ。関わらないのが一番いい。誰も近寄れないような秘境だったらまだ良かった。欲しがる者も諦めがつくからね。けど此処はそうじゃない。準備を整えれば辿り着ける。辿り着いてしまえる。」

「大規模なパーティなら来れるものね。」

「・・・生きては戻れませんけど。」

 

視線を合わせるユキとナディア。その表情は真剣そのものであった。

 

 

誰も来ないという仮定が無いのが不思議かもしれない。だがそれは、覆す事の出来ない事実があるから。単純明快、ドラゴンは例外無く美味なのだ。例え口にした事は無くとも、世界中の人々が知っている。

 

未だその存在が知られていないクリスタルドラゴン。唯一の例外と思う者が皆無だと予想するのは、仕方のない事だろう。