305話 前代未聞
305話 前代未聞
カレンとの作戦会議を兼ねた昼食の後、ルークは城内に居る役人達を一同に集めた。
「忙しい所、集まって貰った事に感謝する。」
「いえ、陛下が迅速に政務を執り行って下さったお陰で、皆に余裕が出来ましたので。」
感謝を告げたルークに、役人の1人が正直に答える。スフィアも優秀だった為、元々時間に追われている者などいなかったのだが。要はお世辞である。不在がちな皇帝に臍を曲げられては堪らないのだ。
そんな事などルークは百も承知。気にせず話を進める。
「早速本題に入るが、リノア達の行方と犯人の目星については?」
「・・・未だ何の手掛かりも得られておりません。」
全員の視線が集まる中、今度は軍人と思しき人物が気まずそうに答える。政務の全て、人事についてもスフィア達に丸投げしているせいで、ルークはこの人物についても一切知らない。だがルークは知らなくとも、相手はルークを知っている。旧帝国軍を、たった1人で滅ぼした悪魔の如き人物。知りたくなくても知っているのだ。
だからこそ、罰せられるのではないかと焦っているのだが、当のルークは感情を荒げた様子もなかった。
「そうか・・・。これだけ時間と労力を費やしても見付からないとなると、やはり国外に居るのだろうな。」
「「「「「・・・・・。」」」」」
1人納得した様子のルークに、誰もが気が気でない。当然カレンだけは事情を知っているため、白々しい演技を続けるルークに呆れていたのだが。
「さて、どうしたものか・・・。あぁ、言い忘れていたが、昨晩暗殺者が襲撃して来たから返り討ちにしておいた。」
「「「「「なっ!?」」」」」
ここまでルークは襲撃の事実を誰にも告げていなかった。土魔法で部屋中を覆った事で、血痕すら残っていなかったのだ。死体ごとアイテムボックスへ仕舞えば、完全犯罪の成立である。いや、今回の場合は正当防衛なのだが。
「完全な敵対行為なんだが、皆はどうすべきだと思う?」
「・・・皇帝陛下の決定に従うほかないでしょうな。」
この場に集められた者は・・・と言うか帝国内の役人や貴族のほとんどが、戦争に消極的だった。好戦的な者達のほとんどを、ルークが殺してしまった為である。そんな彼らの批判を事前に封じたのだ。流石に暗殺者まで仕向けられては、余程の策士でも反対出来ないだろう。
――戦争。その二文字が全員の脳内に浮かぶ。だがこれは容易に回避が可能。何故なら兵の数が足りないのだ。50万もの軍勢を滅ぼした魔王が目の前に居る。無事だったのは、街や帝都の守りにあたっていた兵達のみ。寄せ集めれば相当な数にはなるが、国内を空にする訳にはいかない。
そんなわかり易い反論を許すような魔王ではない。
「そうか。ならば・・・・・全ての兵を国内の守備に充てる。その上で、帝国は宣戦布告する!」
「「「「「ははっ!!・・・は?」」」」」
前半の命令に対し、全員が揃って返事をする。しかしすぐに揃って首を傾げる。それもそうだろう。全ての兵が国内の守備に充たると言う。ならば誰が?と考えるはずだ。だがこの場に居る者達ならば、すぐに誰が攻めるのかに思い至る。目の前の魔王様だろう。
しかし疑問はそれだけではない。イカれた魔王様は、一体何処に攻め込むつもりなのだろう。
「あの・・・陛下?」
「ん?何だ?」
「一体誰と戦うおつもりなのでしょう?」
「そんなの決まってるだろ?犯人が何処に居るのかもわからないんだ。全ての国だろうな。」
「「「「「はぁぁぁ!?」」」」」
世界征服。まさかの発言に、全員が大声を上げる。ラスボスがいきなり攻め込むというのだ。驚かない方がおかしい。だが残念な事に、魔王様の爆弾発言は留まる事を知らない。
「最初の内は反撃も予想されるから、まずはカレン1人で行ってくれ。国内の守備にはオレが充たる。攻め方や攻める国は任せるから、誰にも教えずに攻撃してくれればいい。」
「わかりました。」
トントン拍子に進むルークとカレンの会話。しかし、あっさりと了承するカレンに、焦って静止を促す者が現れる。
「お、お待ち下さい!そんな事をすれば、何の罪もない民達が犠牲となります!!」
「だろうな。」
「なっ!?」
「あぁ、言い方が悪かったか。リノア達が見付からないのは、きっと他国の民が非協力的だからだろう。カレン・・・1人残らず殺せ。」
「承りました。」
「「「「「っ!?」」」」」
命令する方もする方だが、あっさりと了承するカレンも大概である。あまりにも恐ろしいやり取りに、誰もが息を呑む。この時点で、反対するのは裏切り者か善人のどちらかだろう。そう予想していたルークは、反対した人物の顔を覚えた。
その人物への対処は後々考えるとして、今は宣戦布告の件である。
「明日、世界政府の緊急会合がある。議題は食料援助と交易を一方的に停止した件への抗議だろうから、その場で宣戦を布告する。」
「その時点で攻め込んでも良いのですか?」
「いや、相手にも準備する時間をやろう。3・・・1日だな。防衛配備ならそれだけあれば充分だろう。カレンは2日後から攻撃を開始してくれ。」
「はい。」
流れるように決められる状況に、表立って反対出来る者がいるはずもなく。詳細などあって無いような会議も終わり、ルークとカレンは連れ立って会議室を後にした。残された者達は暫し呆然とするものの、我に返っては慌ただしく動き出したのであった。