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Shining Rhapsody

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310話 侵攻作戦3

 310話 侵攻作戦3

 

 

カレンが向かった先は、村から少し外れた所にある広場。そこにはエリド村の住人以外の姿もあった。

 

「皆さんの訓練は順調ですか?」

「カレン様・・・見ての通り順調です。」

 

呼び掛けられたアスコットがカレンを一瞥してから視線を向ける。その先には、汗を流すスフィア達の姿があった。

 

「張り切っている所をすみませんが、少し時間を頂きたいのです。」

「全員ですか?」

「いいえ、スフィア以外は希望する者だけで構いません。」

「わかりました。では、少しだけ失礼します。」

 

断りを入れ、エレナの所へと歩き出すアスコット。スフィアの指導を努めているのが彼女であった為、先にエレナへ断りを入れようとしたのである。

 

カレンとユーナが暫く待っていると、訓練を中断したスフィアとエレナ、それとフィーナ、ナディアが揃ってカレンの下へと集まる。

 

「どうかしましたか?」

「実は―――」

 

スフィアが尋ねると、カレンがルークとの詳細なやり取りを説明する。

 

 

一通りの説明を終えるものの、反応の薄いスフィアにカレンが問い掛ける。

 

「随分と冷静ですね?」

「え?・・・あぁ、激昂するとでも思われていましたか?」

「えぇ。」

「ふふっ。私は穏便に済ませようとしていましたから、無理もないですね。」

「どういう事?」

 

スフィアの語る理由がわからず、ナディアが思わず口を挟む。

 

「簡単に言うと、私から戦争を仕掛ける訳にはいかなかった、と言う事です。」

「それって・・・戦争には賛成って事?」

「う〜ん、ちょっとナディアさんの言い方はアレですが・・・反対ではない、と言う意味でしょうか。」

「そう・・・正直意外ね。」

「正式には婚約者ですが、私達の扱いは既に正室と側室になります。ですから、リノアさん達に手を出した時点で宣戦布告となります。オマケに皇帝の暗殺まで企てたのですから、指を咥えて見ている訳には行きません。国内の貴族が反発しますから、戦争は不可避です。」

「でもスフィアはしなかったでしょう?」

 

矛盾する説明に、今度はフィーナが口を挟む。そもそも、ナディアもフィーナも生まれながらの貴族ではない。その辺の機微には疎いのだ。

 

「私の場合、しないのではなく出来なかったのです。お二人は今現在、帝国軍にどれ程の兵士がいるかご存知ですか?」

「え?冒険者の数なら知ってるけど・・・」

「どの国の軍も、最低20万は居るはずよ。」

「だったら20万かしら?」

 

ナディアから視線を向けられ、各国の軍に関する記憶を呼び起こすフィーナ。その情報を元に、かつての軍事大国から現在の規模を予想するナディア。だがそれは、スフィアによって一蹴されてしまう。

 

「残念ですが、今の帝国軍に在籍する兵数は約5万です。」

「「えっ!?」」

 

余りにも予想外の数字に、ナディアとフィーナが揃って声を上げる。

 

「総勢60万にも及ぶアルカイル帝国兵を、ルークが真っ向から殲滅しました。その影響です。」

「何で増やさないのよ!?」

「簡単に言わないで頂けますか?そもそも、一体何処にそれだけの人数が居ると言うのです?」

「それは・・・」

「幾ら子供を作ろうとも、産まれてすぐに成人にはならないものね。」

「そういう事です。それに成人全てが兵士となる訳でもありません。・・・する訳にもいきませんけど。となると、取れる手段は限られます。一時的にであれば奴隷を徴兵する事も出来ますね。まぁ、後々の問題がありますから、なるべく避けたい手段です。それに犯罪奴隷も大した人数にはなりませんし、本当に最後の手段でしょうか。」

 

奴隷は大抵、契約主がいる。それを飛び越えての報奨となれば、本人の活躍次第では奴隷からの解放に繋がってしまう。結果的に奴隷を奪う行為となってしまうのを考えると、激しい反発を買うだろう。

 

「話を戻します。私が宣戦布告する場合、実際に戦うのは5万の兵士です。どの国を相手取っても圧倒的に兵力で劣るのですから、勝っても負けても被害は甚大です。上手く作戦を練れば圧勝も有り得るでしょうが、博打で国力を削いでは目も当てられません。ですから、私の一存で戦争は出来ないのですよ。」

「ルークの決定ならいいの?」

 

スフィアの説明ならば、戦争は絶対に回避すべき。だが自身の一存でなければ構わない。もっと言うと、ナディアには皇帝の決定であれば問題ないような言い方に聞こえたのだ。だからこそ、ナディアは素直に尋ねた。

 

「えぇ。ルークやカレンさんでしたら、単騎で突撃し無傷で帰って来られるでしょう?国力には一切響かないではありませんか。バケモノの心配をするのは無駄と言うものです。」

「その言い方はちょっと・・・」

 

スフィアの言い方が気に入らないカレンが苦言を呈する。やや控えめなのは、人外である事を自覚しているからであった。

 

「あ・・・すみません。少しずつ戦えるようになって、改めてカレンさんやルークがどれだけ規格外なのかを実感しまして・・・。まぁ、ともかくです。ルークの決定について、私に異論はありません。民が犠牲になる事を気にしている方もいらっしゃるようですが、亡命する時間は充分にあります。勿論、安全な移動手段も。そもそも好き好んで捕虜となる物好きは少ないですから、敵国に逃げ込むような民もいません。ですから、一切交渉しないと告げたルークが、特別無茶を言っている訳でもないのです。充分人道的な配慮が為されていると思いますよ?」

「そういう見方もあるのね・・・」

「その気になれば皆殺しにだって出来るのに、それをしないだけでも優しいって事かしら・・・」

 

ルークを擁護するような言い回しだが、当然スフィアの本心ではない。

 

(そう。フィーナさんがおっしゃるように、その気になれば皆殺しに出来るのです。そしてルークの恐ろしさは、あっさりとその気になってしまえる事。そんな最悪の状況を回避する為、私に出来るのは・・・不干渉を貫く事だけです)

 

ちぐはぐな理論のようだが、スフィアの考えは正しい。嫁達の誰かに言えば、聞かされた者はルークを止めようとするだろう。だがそれは逆効果なのだ。

 

 

人道的配慮へと傾いている天秤は、決定的な重りを乗せ忘れた状態でしかない。何故なら黒幕を炙り出して始末するという結末は、民諸共始末すれば達成してしまうのだから。即ち、誰かがルークを諌める事は、最悪の状況を決定付けるのと同義。

 

いつかは弾の出るロシアンルーレット―――スフィアに出来るのは、誰にも引き金を引かせないよう誘導する事だけだった。