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Shining Rhapsody

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311話 侵攻作戦4

 311話 侵攻作戦4

 

 

スフィアの意見を聞き、これからどう行動するべきかを考えるカレン。だがそれには、圧倒的影響力を誇る人物の考えが反映されていない。しかしこの場に居ない以上、カレンとしてはどうする事も出来なかった。

 

「私の行動方針を決定する為にも、是非彼女にもお話を伺っておきたかったのですが・・・仕方ありませんね。あまり時間もありませんし、そろそろ戻らせて頂きます。」

「彼女って・・・ティナ?」

 

カレンが思い浮かべる人物の名を、ナディアが口にする。何故カレンがティナの意見を参考にしようと考えたのかと言うと、対立した時に最も厄介な相手となるからだ。加えて、カレンが政治に疎いというのもある。

 

それに本音を言えば、何処の国がどうなろうと別に構わない。帝国に対してすら、情も愛着もないのだ。面倒な事は、得意な者に任せるに限る。流れに身を任せ、自由気ままに過ごせれば良いのだが、どんな流れでも良い訳ではない。

 

予め変化するのが予想出来るのであれば、前もって移動しておく位の事はしなければならない。

 

「えぇ。ティナ、と言うかユキさんの意見でしたら、今のルークも無視出来ないでしょうから。」

「かもしれませんね。ルークが右と決めていても、ティナさんが左と言えばそちらに舵を切りそうです。」

「そのような事はありませんよ?」

「「「「っ!?」」」」

 

ひょっとしたら、ルークと真っ向から対立するかもしれない。僅かながらも残された可能性を否定出来ずに呟たスフィアの言葉は、突然現れたティナによって否定された。

 

「ルークの決定に従うのが私の基本方針です。余程皆さんを蔑ろにでもしない限り、それが変わる事はありません。」

「納得出来ないような内容だとしても、ですか?」

「はい。」

「・・・何故です?」

「もしもルークと対立して、食事を用意して貰えなくなったらどうするのです?」

「「「「・・・・・。」」」」

 

何とも言えない理由に、カレン達は言葉を失う。だがそんなカレン達の様子に、ティナは笑みを浮かべながら謝罪する。

 

「ふふふっ。冗談ですよ?」

「「「「・・・・・。」」」」

 

あまりにも分かり難い冗談である。おそらく半分近くは本心なのだが、誰も口にはしなかった。

 

「陰ながら夫を支えるのが妻の努めです。表立って意見するものではありません。私達を想っての行動であれば、尚更の事ではありませんか。」

「・・・どういう意味です?」

「スフィアはルークが衝動的に行動していると考えているのですか?」

「それは・・・」

 

 

自重せず、本能の赴くままに物事を決めている。そうは思わない、と言えば嘘になる。だからこそ、スフィアは答える事が出来ない。

 

「では質問を変えましょう。ナディア?仮に貴女の上司がルークだった場合と、フィーナさんだった場合を想像して下さい。・・・どちらが良いですか?」

「そんなのフィーナに決まってるじゃない。」

「何故です?」

「何故って・・・ルークが上司だったらと考えると、恐ろしくて落ち着かないもの。何を考えてるのかわからないような上司は御免よ。」

「つまり、役人達もそう考えるはずですよね?」

「「「「っ!?」」」」

 

ティナの言わんとしている事に気付き、全員が息を呑む。ルークと役人達の関係は、単に上司と部下に留まらない。下手な真似をしようものなら、叱責どころか命が危ないのだ。しかも役人達には、激情に身を任せる予測不能な皇帝にしか見えない。

 

「今回の一件が終息した時、スフィアやルビアの復職を待ち望む者で溢れ返ると思いますよ?」

「そうかもね・・・」

「そして、ルークの狙いはそれだけではありません。私達が帝国内に留まる事で起こるであろう問題を回避しようとしているのです。」

「さらなる誘拐や暗殺ですね?」

「はい。スフィアの言う通りですが、実は少しだけ違っているのです。」

「「「「?」」」」

 

ティナの意図が読めず、カレン達が揃って首を傾げる。

 

「皆さんは一体、誰に誘拐されるとお考えですか?」

「え?リノア達を誘拐した奴でしょ?」

 

ティナの問いにナディアが答え、他の者達も揃って頷く。しかし、ティナは首を横に振る。

 

「違います。いえ、正しくは半分正解です。」

「半分、ですか?」

「はい。リノアさん達の誘拐が中途半端なままで、ルークの暗殺に失敗したのですから、追加で刺客を放つのは間違いないでしょう。ですが・・・それだけですか?」

「・・・他にもあるって言うの?」

「あると言うより、居ると言った方が正しいでしょうね。今回の犯人とは別に、犯行を企てる者が現れるはずです。」

「・・・何故です?」

 

流石のスフィアもそこまでは読めなかったのか、素直に尋ねた。

 

「リノアさん達が攫われてから随分と日が経ちましたが、未だ発見に至っていません。そうなると、他の者を攫っても見付からないのではないか、と根拠も無しに考える者が出て来る可能性があるのです。」

「あ・・・」

「先に誘拐されたリノアさん達を全力で捜索しているのに、帝国は発見出来ていない。その上他の者まで誘拐された場合、そちらまでは手が回らないだろう・・・と考える訳ですか。」

「でも、私達がそこらの刺客に遅れを取るとは思えないわよ?」

 

相手がエリド村の住人でもない限り、負けるつもりはない。そう考えるフィーナが否定的な意見を述べるが、ティナが危惧しているのはそこだけではない。

 

「そうかもしれませんが、絶対ではありませんよね?スフィアやシノン、カノンが人質に取られた場合はどうです?」

「それは・・・」

「それに、私達の誰かが狙われる時点で、注意が散漫となるでしょう。そうなると、良い事は1つもありませんよね?」

「そう、ですね。全て読み通りに進む保証などないですから、足手まといが居ないに越したことはありません。」

 

護る対象が増えた分だけリスクも増える。当然犯行に及ぶ者の数も増えるのだから、中には突拍子もない手段をとる者が現れるかもしれない。想定していない事への対処はどうしても遅れる為、出来る限り排除すべきなのだ。

 

リノア達に集中すべき時に、他の者へ気を回すのは良くない。不測の事態に出遅れるようでは、後悔してもしきれないだろう。ティナの説明に納得し全員が頷く中、微妙な表情を浮かべる者の姿があった。

 

「あの・・・」

「どうしました?」

「・・・私が狙われるのは構わないのですか?」

 

自分だけ仲間外れにされている。そう感じたのはカレンだった。

 

「カレンさんでしたら、軍隊が相手でも軽くあしらえますよね?」

「えぇ、まぁ・・・」

「いざとなれば転移で逃れられるでしょうし、放っておいても心配無いと思いますよ?」

「寧ろ、やり過ぎないか心配よね。」

「返り討ちのつもりが、いつの間にか侵略してたりして?」

「先に城に穴が開くんじゃない?」

「「「「あははは・・・はは・・・。」」」」

 

軽口を言って笑い合うティナ達とは正反対に、額に青筋を浮かべるカレン。漏れ出した殺気に、ティナ達は口を噤んだのだった。

 

「・・・・・正直、心外です。」

「「「「すみませんでしたぁぁぁ!」」」」

 

 

鋭い視線を向けられ、全員が条件反射で一斉に頭を下げる。誰も気付いていないが、実はこの時、カレンは苦笑していたのだ。

 

陰でコソコソと言われていたら、それなりに頭にきていたかもしれない。だが目の前で堂々と軽口を言える関係というのは、カレンにとって初めての事だった。

 

(こういう関係も、案外良いものですね。さて・・・この関係を壊そうとする愚か者に、神の怒りを思い知らせてあげるとしましょうか)

 

 

そんな事を考え、気合を入れ直すカレン。この後勘違いして焦ったティナ達が、本気で謝罪したのは余談である。