人気ブログランキングへ

Shining Rhapsody

オリジナル小説の投稿がメインです

312話 侵攻作戦5

 312話 侵攻作戦5

 

 

帝国へと戻ったカレンは、着いて早々溜息を漏らす。

 

「はぁ。全く彼女達は・・・」

「カレン?」

 

執務室にて支度中だったルークが、不思議に思って声を掛ける。しかしカレンは、ルークと視線を合わせると首を横に振った。

 

「いいえ、何でもありません。」

「そう?まぁ、カレンがそう言うならいいんだけど・・・。それじゃあ、カレンも戻って来た事だし、そろそろ行くとするか。」

「あ、待って下さい。」

「ん?」

 

出発しようとしたルークをカレンが呼び止める。特に心当たりの無いルークは、首を傾げるしかなかった。

 

「留守番の必要はありませんよね?」

「まぁ、そうだな。・・・出掛けるの?」

「えぇ。用事が出来ましたので。とは言っても、ミーニッツ共和国ではありませんよ?」

 

嫁達の避難は終わっており、カレンが護らねばならない相手は帝国内に居ない。寧ろ居残ったカレンが狙われる事になるが、そんな面倒を押し付けようとも思わない。出掛けて貰った方が負担も少ないだろうと、ルークは結論付けた。

 

例え夫婦であろうと、意思の疎通は大切である。

 

「ふーん。(自身の安全には)くれぐれも気を付けてくれよ?」

「ありがとうございます。(やり過ぎないよう)気を付けますね。」

(時間を掛けて攻めるから)暗くなる前に帰って来るつもりだけど・・・」

「そうなのですか?私は(一撃で終わらせる予定ですから)それ程時間は掛かりませんよ?」

 

2人の盛大なすれ違いにより、頭を抱える者が続出する事となるのだが―――この時のルークが知る由もない。

 

結局はカレンが書き置きか伝言を残す流れで落ち着いた。他に話す事も無いと言うので、ルークはそのまま学園都市へ向けて出発したのである。

 

 

 

帝都の北にある魔の森を越えた所へ転移し、前方に見える学園都市に向け歩き出す。ゆっくりとした足取りは、戦いへ向かうと言うよりは散歩と表現するのが相応しいだろう。

 

地下通路を通れば楽なのだが、使わないのには訳がある。1つは、地下通路を進んだ先が学園都市内部だと言う事。殲滅のみを目的とすれば、内側から攻撃した方が早い。だがそれをしてしまうと、地下通路を軍が封鎖するだろう。それでは民が避難出来なくなってしまう。そこまでは望んでいないのだ。

 

もう1つは、純粋な自信の現れである。人、魔物を含めて、今の自身を害せはしないと確信しているのだ。例え軍と魔物に前後から挟まれようとも、無傷で対処出来ると考えている。そこには何の根拠も無いのだが、しかし純然たる事実だった。

 

 

のんびりと歩いていたルークだが、心にゆとりがあると意外な発見があるもの。報告に無い現象を目の当たりにする。

 

「暇だな。魔物の姿も無いし、この辺は前と変わらず安全・・・魔物が、いや、何もいない?」

 

想定外の事態に、ルークは立ち止まって周囲を見回す。だが魔物どころか、動物さえも見当たらない。

 

「・・・生き物が居ないのは多分、魔物の餌になったから。もしくは危険を察知して逃げたんだろう。だが、魔物の姿まで見当たらないのは何故だ?」

 

以前から魔物の姿は見られなかった。だがそれは、魔物が魔の森を抜け出す事が出来なかったからである。その為、魔の森の外には動物の姿があった。動物達にとっては、魔の森外周が安全地帯だったのだ。

 

だが現状から判断するに、その安全地帯も過去のものとなった。しかしである。安全地帯を脅かしたであろう、肝心の魔物が居ないのは何故か。

 

「食い尽くしたから、餌を求めて移動した?だが、魔物の群れが移動したなんて情報や報告は無かった。何処へ行った?・・・・・魔の森?」

 

ルークが呟いたのは、考えられる可能性として最も高いもの。しかし、そのような話は聞いた事が無い。出て来れないのは元々森に住む魔物だけか。それとも足を踏み入れた魔物も該当するのか。本来ならば、確かめる必要がある。だが今のルークにその選択肢はなかった。

 

「身体能力の高いゴブリンやコボルトが主だって言うし・・・出て来たら対処すればいいか。詳しい調査は終わってからにしよう。」

 

国を滅ぼしかねない凶悪なゴブリンやコボルトの群れも、今のルークには取るに足らない相手であった。寧ろ学園都市を脅かしてくれるであろう、貴重な戦力である。自ら進んで討伐する理由は無い。そう結論付けると、再び歩き出した。

 

 

やがて、学園都市から1キロ程の距離へと到達する。一応ぐるりと周囲を確認するも、人の姿は見られなかった。念の為補足しておくと、帝国のある南側から少し西へと回り込んでいる。

 

「ここなら邪魔される心配は無さそうだな。さて、防壁は頑強な石造り。材質は・・・花崗岩かな?となると、温度差に弱い訳だ。加熱からの急冷却がお約束なんだろうけど、それを見せる訳にもいかない。確か種類によっては500度を超えると急激に強度が低下する、って論文を読んだ記憶がある。1100度を超えると急激に強度が増し、1200度で溶融する・・・だったか?」

 

この男、前世では妻の治療に繋がればと、ありとあらゆる知識を集めていた。岩に関する知識が一体何の治療に役立つのかは不明だが、それだけ必死だったのだ。そんな背景もあって、頭の中だけでも相当な驚異である。数年あれば、この世界の文明を地球と同レベルにまで押し上げる事が可能だった。

 

訳あってそのほとんどを秘匿しているのだが、その理由は後に本人の口から語られる事となる。

 

 

「禁呪や大魔法で壊すのは簡単なんだけど、やり過ぎず、且つ自然に見せる為には・・・弱火でじっくり、かな?」

 

 

まるでスープでも煮込むかのように呟くと、無数の火珠を周囲に浮かべるのだった。