318話 侵攻6
318話 侵攻6
蹂躙劇から数分後、防壁の外に立つのはルークだけとなっていた。とは言っても、全員の命を奪った訳ではない。かなりの人数を撃ち漏らしてした。と言うのも、学園都市内に逃げ込まれたのだ。回り込んで逃げ道を塞ぐ事も出来たのだが、敢えてそうしなかった。何故かというと、揺さぶりや恐怖を与える為である。
辺りを見回した後、ずっと見えていた者達の所へと転移する。
「責任者は誰だ?」
「「「「「っ!?」」」」」
突然目の前に現れ、驚きを顕にする兵達。そのせいでルークの問い掛けを理解することが出来なかった。仕方なく同じ質問を繰り返す。
「責任者は誰だ?と聞いている。」
「え・・・」
「あ・・・」
その場に居た兵士の視線が1人の男性へと向けられる。全員の視線を浴びせられた事で、誰の事かを理解した隊長が姿勢を正して応える。
「・・・オレ、いえ、私です!」
「それは皇帝に剣を向けた者達の上官、という認識で合っているか?」
自分だと答える兵士を観察し、コイツではなさそうだと感じたルークが聞き返した。何故なら、明らかに兵士と思えない者達が混じっていたからだ。ルークの予想通り、別人の名が告げられる。
「ソイツを此処に連れて来い。」
「相手は大貴族ですので、そう簡単には・・・」
「なら不敬罪でソイツに殺されるか、敵としてこの場でオレに殺されるか。今すぐ選べ。」
「「「「「っ!?」」」」」
究極の2択を迫られ、隊長以外の兵達が息を呑む。決断を迫られた隊長は、両方の選択肢を検討する。生き残る可能性があるのは何方か。そう考えた時、間違いなく後者だろう。仮に力ずくで連行したとしても、目の前の皇帝の行動如何では助かるかもしれない。
「辺境伯をお連れしろ!力ずくでも構わん!!」
「「「「「はっ!」」」」」
上官の命令では仕方ない。仮に不敬だと喚かれようと、下っ端に責任は無い。素晴らしい判断を下した隊長に全員が感謝する。だからこそ、彼らは全速力で駆け出した。彼らにとって良い上司は貴重なのだ。あまりにも時間が掛かれば、隊長が殺される可能性もある。隊長の為に、そして自分達の為にも、一刻も早く帰還しなければならないのだ。
数分、或いは数十分。ただ待つ事となったルークは、アイテムボックスから美桜を取り出して腰に挿す。そのまま振り返り、気になっていた事を確認する事にした。
「周囲に魔物の姿は無いが、防壁には真新しい傷が幾つもあるな。つまりスタンピードで出て来た魔物は、魔の森を自由に出入り出来る、と。帝国側に来ないのは・・・ティナ達のお陰か。ココの防壁を壊したら、帝国側から威圧しておいた方が良さそうだな。」
周囲の情報を分析し、今後の対応を決めて行く。実はティナ達が里帰りしている現在、魔物は少しずつ帝国側へと移動していた。牽制する意味を込め、森で暴れる事にしたのだ。
「それと、姿を見せても刺客は来ないな。アイツらは学園都市じゃなく、王都からの客でほぼ決まりと。王都を滅ぼすのは確定として、問題は学園都市だよな。誘拐の実行犯が今も此処に居るのか、それとも王都か。この辺の情報は手に入らな・・・待てよ?」
何かに気付いたルークが振り返り、直立不動で待ち続けている隊長へ声を掛ける。
「聞きたいんだが、リノア達が攫われた当日、門を出た馬車はあったか?」
「我々が担当する門は、1度も開けられておりません。」
「そうか・・・我々が担当する門?」
「実は学園都市には東西南北以外にも門があるのでは、と言われてまして・・・」
詳しく聞くと、どうやら貴族街の奥に秘密の門がある。そう兵士達の間で囁かれる噂があるらしかった。以前から、街を出た記録のない貴族が外から帰って来る事があり、兵達が訝しんでいたようなのだ。違う門から出たと言われてしまえばその場ではわからず、後になってから記録を照らし合わせて判明する。問い合わせようにも記録を付け忘れた兵士の責任だと言われ、それ以上の追求は叶わない。
しかも彼らの主な任務は学園の警備。貴族街は担当外なのだ。本来は学園周辺の警備だけで良いのだが、より確実な防犯という観点から門も担当する事となったらしい。これに反発したのが当時の貴族街に住む貴族達だったのだが、世界政府の決定には逆らえなかった。
その後、秘密裏に門を作って隠蔽しているのではないか。と言うのが兵士達の噂であった。
「調べたりはしなかったのか?」
「えぇ。何しろ随分昔の事らしく、我々も先輩方に教えられただけでして。それに何度も貴族街側の防壁を外から調べてはみたのですが、それらしい痕跡は見付からず・・・。防壁の外側に門番が居る訳でもありませんから、場所を特定する事も難しいのです。」
「そうなると出口専用、あぁ、だから気付いたという事か。」
「はい。」
恐らく魔法か魔道具によって隠蔽されているのだろう。そしてこれまでは人気の無い夜中に門を出ていたのだろうが、今は日中でも外に人気が無い。好き勝手に出入りしているのかもしれないが、危険を犯してまで確認に向かわなかったという事である。
「リノア達が地下通路を通った形跡が無い以上、そこが怪しいな。少し調べ・・・」
まだ時間はあるだろうと思っていたのだが、ルークの予想よりも大分早く連れて来たのだろう。不敬だなんだと喚き散らす声が聞こえ、全員の視線がそちらへ向けられる。
散々騒いでいた男性が突き出され、ルークが単刀直入に切り出す。
「お前が辺境伯か?1時間だけ待ってやる。オレに刃を向けた愚か者共を全員集めろ。」
「巫山戯るな!誰が貴様の言う事など聞くか!!」
「・・・なら死ね。」
言葉と同時に美桜を一閃。辺境伯の首が宙を舞った。
「「「「「なっ!?」」」」」
あまりの展開に、兵達は同様を隠せない。だがルークはお構いなしに隊長へと告げる。
「ソイツの代わりにお前達が集めろ。門の外に放り出してくれればいい。出来なければ学園都市を滅ぼす。わかったか?」
「わ、わかりました!」
「それと、槍を1本貰えるか?」
「槍ですか?・・・おい!」
隊長の呼び掛けに、控えていた兵士が槍を差し出す。それを受け取り、ルークは転がっている辺境伯の首に突き刺した。
「一体どうするおつもりで・・・?」
「届けてやるのさ。王宮に、な。」
隊長に答えると、そのままルークは転移してしまう。残された者達は暫く呆然とするのだが、すぐに再起動を果たした。
「・・・た、隊長!」
「っ!?ぜ、全兵に告ぐ!皇帝陛下に刃を向けた者達を連行しろ!!寝ている者達も叩き起こして構わん!」
「「「「「はっ!」」」」」
バタバタと走り去る兵達を見送り、残った副隊長が口を開く。
「まさか、あんなにあっさりと辺境伯の首を撥ねるとは思いませんでした。」
「宣戦布告の際、一切の交渉に応じないと言ったそうだ。ハッタリだと思っていたが、本気だったみたいだな。」
「そう、ですね。私なら戦わずに投降しますよ。ははっ・・・」
隊長が、諦めたように告げる副隊長へと視線を向ける。
「・・・この分だと、貴族達も気付いていないな。」
「何がです?」
「交渉に応じない、と言ったんだぞ?」
「はい。・・・はい?」
隊長の言いたい事が理解出来ず、副隊長が首を傾げる。
「降伏も交渉に含まれる。そう言えば理解出来るか?」
「降伏も交渉・・・はぁ!?」
「相手の了承あっての事なんだ。当然だろ?」
「で、では!我々が皇帝陛下の要求を呑む必要など・・・」
「それは違う。少なくとも、要求を満たせれば学園都市が滅びる事は無いと言った。つまり、連行した者達は助からないだろうが、それ以外の者達は助かる・・・はずだ。」
「それって、隊長の願望が含まれてますよね?」
「はっはっはっ。何を言っている!願望しか含まれていないぞ!!」
「笑えませんよ!」
深刻そうな部下の手前、意図して巫山戯た隊長だった。少なくとも皇帝は有言実行タイプだろうと思おったのだが、彼がそれを口にする事は無かった。彼がそう感じただけであり、何の確証も無いのだから。