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Shining Rhapsody

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319話 侵攻7

 319話 侵攻7

 

 

―――まえがき―――

今回、残酷かつ不謹慎と言うか無神経な描写があります。最後まで悩んだのですが、カレンやルークの価値観が人族とは違う事を表現するために書きました。苦手な方は読まない事をお勧めします。

―――――――――

 

 

 

ミーニッツ共和国の王都、正確には首都へと転移したルークは現在、上空から城を見下ろしていた。正面から押し入ろうと考えたのだが、生首を掲げて歩くには距離があり過ぎる。なので、首都を飛ばしていきなり城へ向かう事にしたのだ。

 

「さて、どういう形で届けようかな・・・」

 

どうするのが最も効果的かを考えつつ、足元の城を見回す。正面切って乗り込むのも良いが、権力者に対しては派手さよりも気付かれない方がより効果的だろうとの結論に達する。即ち、目立つ場所にいつの間にか置かれているのがベスト。

 

「目立つ場所、目立つ場所・・・中庭?いや、中庭はちょっと弱いな。となると・・・あそこかな?」

 

ルークが目を付けたのは、王族が民衆に向けて演説等を行うバルコニー。外部からの侵入や暗殺を警戒し、比較的高い階に設けられている。そして観光客等が城を見上げた時、真っ先に目にする場所でもあった。つまり、常に人の目が向けられている事となる。

 

そんな場所に、誰からも姿を見られぬよう槍を突き立てる。ルークの実力ならば容易に達成可能なのだが、少しズレた理由で難易度が上がっていた。

 

「あそこに立っていられる時間は1秒にも満たない訳だ。それは簡単だけど、突き立てる力加減を間違えればバルコニーが崩落する、と。別にフリじゃないんだけど・・・やっちまいそうで怖いな。」

 

転移してから槍を突き立てれば良さそうなものだが、それを加減しながらやるとなれば、1秒などあっという間。転移と同時に突き立てるというのは経験が無く、力加減がわからなくなる恐れがある。練習すれば良い話ではあるが、人知れず生首付きの槍を振り回すのは気が進まない。

 

残された選択肢は、上空から急降下した勢いで突き立てるというもの。猛スピードで着地しつつ、その衝撃を完璧に殺さなければならない。その上で使い慣れない槍を突き立てるのだ。何方かの制御が疎かになれば、結果はお察しの通りである。

 

「勢いで刺したのも失敗だったな。せめて逆なら簡単だったものを・・・無理か。」

 

穂先を突き刺すならば容易だろうが、そうなると石突きを無理やり突き入れる必要がある。その光景を想像し、ルークは首を振った。現時点でホラーなのだ、どう考えてもスプラッターである。

 

 

土魔法を使えば良いと思うかもしれないが、転移以外の魔法を城内で使えば確実に気付かれる。他にも一旦首を外せば簡単なのだが、好き好んで触ろうとは思えなかった。結局自分で難易度を上げているだけの事。

 

ともかく悩んでいても仕方ない。覚悟を決めたルークは急降下を開始する。音も無く着地し、勢い良く槍を突き降ろす。だがここで予想外のアクシデントに見舞われる。首がすっぽ抜けたのだ。

 

――ガン!

 

「あっ!」

 

気付いた時にはもう遅い。かなりの勢いで突き立てられた槍は、大きな音を立てて床に刺さっている。今更抜いてやり直しなど出来るはずもない。ゆっくりと回転しながら落下を始めた辺境伯の首を眺めながら、必死に打開策を模索する。だが1秒にも満たない時間の中で、都合良く思いつくはずもない。

 

カッコよく決めるつもりが何とも締まらない結果となるも、このまま留まり続ける訳にもいかない。早々に諦めたルークは、すぐさま上空に向けて飛び上がる。首の落下先を見届ける必要があったのだ。

落ちたらすぐに拾いに行こう。そんなルークの決意は無駄となる。

 

――グサッ

 

「は?」

 

ルークが間抜けな声を上げたのには理由がある。落ちると思われた頭部が、頭頂部から槍に突き刺さったのだ。つまり逆さまの状態である。まさかの展開に、ルークも間抜けな表情を浮かべるしかなかった。

 

どうしよう。そんな事を考えるのも束の間、物音に気付いた使用人や文官が悲鳴を上げる。そして衛兵達と共にバルコニーへと駆け寄り騒動となる。

 

「ひぃっ!」

「きゃぁぁぁ!」

「何事か!?」

「あ、あれはシリウス辺境伯様!?」

「の、脳天から槍を突き刺すなど、なんと残酷な!?」

「一体誰が・・・」

「この槍は学園都市の警備兵の物!?まさか警備兵の誰かが・・・」

「いや、帝国の皇帝が攻め込むと言っていたとか。」

「ならば皇帝の仕業か!」

「では学園都市は・・・」

 

完全に事故なのだが、どこから刺そうと残酷な事に変わりはない。そう思ったルークは、一先ず学園都市に戻るのだった。とりあえず、どうにか自分の仕業だと伝わったようなので。

 

 

 

 

この時、遠くの建物の屋根から見守る者の姿があった。

 

「ぷ・・・ぷぷっ・・・ぶふっ!あははははっ!!」

 

堪えきれず、腹を抱えて笑い出すドレス姿の女性。カレンである。今居る場所が人目につかない事もあって、珍しく大笑いである。

 

「逆さまに、逆さま・・・ぶふぅ!あははははっ!!もど、戻らなくては・・・あははははっ」

 

 

彼女にとってのツボだったのだろう。どう頑張っても笑いを堪える事が出来ない。だが流石に大声で騒ぎ立てれば気付かれる。そう考えたカレンは、エリド村へと転移するのだった。・・・爆笑しながら。