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Shining Rhapsody

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321話 侵攻9

 321話 侵攻9

 

 

スフィアと別れたカレンが向かった先は学園都市――ではなく帝国の城内。ここからルークの大まかな位置を特定して移動する事にした。何故そんな回りくどい事をするのかと言うと、いきなり転移してルークと鉢合わせを避ける為である。

 

気付かれないように注意しているのだから、当然気配を消している。だが突然視界に入れば誰だって気が付く。ドレス姿のカレンはとにかく目立つのだ。だがカレンが心配しているのはソコではない。

 

(今後も気付かれない為には、臨戦態勢のルークに察知されない距離を把握しておく必要がありますね。ルークの気配は・・・防壁の辺りですか。森なら絶対に見付かりませんが、近付く事も出来ません。となると、学園都市内ですか・・・はぁ)

 

気が進まないとばかりに息を吐く。普段、転移を行うのは街や村から離れた場所。これは人に目撃されるのを避ける目的だが、見られてはならない決まりがあるからではない。騒ぎになるのが面倒なだけ。当然今回も見られる訳にはいかないのだが、やらなければならない。

 

 

実は視力を強化したカレンならば、数キロ先からでも相手の表情を窺い知る事が出来る。今回もそうすれば済む話なのだが、カレンの考えは違う。

 

(集中した私が、完全に気配を断った斥候を判別出来る距離がおよそ500メートル。ルークの実力が私を僅かに上回るとして、約600メートル程だと思うのですが・・・)

 

具体的な予測を立てるカレンだが、その顔に自信は見られない。何故ならルークの実力がわからないのだ。いや、実力はわかっている。だがその感覚に自信が持てなかった。

 

 

(あまり時間もありません。反対側の森から転移を繰り返し、少しずつ距離を詰めるしかありませんね)

 

のんびりしていてはルークが戻って来るかもしれない。そう考えたカレンは覚悟を決め、城を後にした。

 

 

首都を攻めるであろう翌日に検証を行えば良いと思うかもしれない。だが万が一を考えると、首都侵攻の際は出来る限り近くで警戒にあたらなければならないのだ。呑気に検証していてルークに危険が及びました、では目も当てられない。そう考えると、今この時しかチャンスは無いのである。

 

 

ルークが居る位置とは反対側の森へと転移し、ルークの姿が無い事を確認する。だが防壁の上には兵士の姿が。闇に紛れる事の出来る夜ならまだしも、白昼堂々と忍び込むには難しい状況。だがカレンは驚くべき行動に出る。完全に気配を消しタイミングを測ると、防壁の外を警戒する兵士の背後に転移したのだ。

 

突如切り替わった視界から、転移可能な場所を瞬時に把握。すぐさま学園都市内部へと足を踏み入れた。防壁の上に居た時間は1秒にも満たない。補足すると、防壁の上から問題ない転移先が見つけられなければ、一旦森に戻るつもりだった。

 

 

中に入ってしまえばもう大丈夫と、カレンは堂々と歩き出す――はずもなく、近くにあった建物の屋根へと飛び移る。そこから屋根伝いに移動し、徐々にルークとの距離を詰めて行く。

 

「っ!?」

 

常人には豆粒程度にしかルークの姿が確認出来ない位置にも関わらず、突如カレンが息を呑んで停止した。

 

「まさか、これ程とは・・・っ!?」

 

思わず声に出して呟くのも無理はない。何しろカレンとルークの距離は、まだ数キロ以上離れていたのだから。だがカレンには感じられた。いや、カレンだからこそ感じ取る事が出来た。自分は今確実に、ルークの探知範囲内に居るのだと。

 

動揺を見せたカレンだったが、すぐに数歩後退する。探知範囲に入ったからと言って、すぐに気付かれる訳ではないからだ。長距離となると同時に360度警戒出来る訳ではなく、ある程度の指向性を持つ。

感覚を広げれば広げる程、得られる情報量は爆発的に増える。大雑把に把握しつつ、違和感を感じた位置を詳しく探るというのが正しい表現だろう。

 

故にカレンであろうとも、緊張状態を続ければルークに疑念を抱かせる。いや、既に手遅れだろう。だからこそカレンは移動した。心を落ち着かせるよりも、数歩下がる方が手っ取り早いのである。

 

警戒するルークとしても、一瞬感じた違和感は気のせいだったと思うかもしれない。加えて数キロ先の僅かな違和感が範囲外に出たとあれば、それ以上気を回す必要は無い。近付いて来た時に判断すれば良いのだから。

 

 

「一概には言えませんが、感覚から判断すると私の数倍の実力、と言う事でしょうか。出会った当初は間違いなく私の方が上だったはず。まさか短期間でこれ程の強さを身に付けられるとも思えませんし、実力を隠していた事になりますね。まぁ、それは後で追求するとして・・・ふふっ、充実した日々が送れそうです。」

 

ルークが居れば確実に逃げ出す程、素晴らしい笑みを浮かべるカレン。1人で剣を振るのも良いが、格上の胸を借りる方が上達するのは当然。カレンの言う充実した日々とは、鍛錬を指していたのだ。

 

素敵な妄想に浸るカレンだったが、目の前の問題を放置する訳にも行かない。すぐさま気持ちを切り替える。

 

「そんな事より、問題はこの距離をどうするかですね。」

 

そう呟くカレンの視線は、目に見えない境界に向けられていた。ルークの実力が知れた事は喜ばしいが、その距離が余りにも遠過ぎる。この場合の距離は物理的な方なのだが、それが却って悩ましい。

 

 

転移という切り札はあるが、転移を封じられるダンジョンの存在を考えるなら、常に使える保証は無い。それに転移しながら魔法を使うといった、器用な真似はカレンに向かない。どんな状況にも対応出来る事を考えると、ルークに危機が訪れた場合、一足で詰められる距離に控える事が理想なのだから。