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Shining Rhapsody

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323話 侵攻11

 323話 侵攻11

 

 

あっさりと防壁を破壊し、学園都市を守る兵達の下へと移動したルーク。彼は生き残った傭兵や冒険者辺境伯の私兵が集まるのを静かに待っていた。

 

「・・・ん?」

 

両腕を組んでいたルークは、不審な気配を察知する。

 

(随分離れた位置で反応したヤツがいるな。この感覚は・・・カレン?ふ〜ん、気付いたのは流石だけど、その後の行動がダメだな。自分が感じ取れるという事は、当然相手にも気付かれたと考えるべきだ。距離をとるなら全力で後退しないと)

 

 

自身の警戒に引っ掛かるも、瞬時に数歩後退ったカレンを称賛する。しかしその後すぐにダメ出しを行った。偵察等の場合、気付かれた時点で失敗なのだ。相手が余程格下でもない限り、逃走以外の選択肢は無い。まぁ、格下ならば気付かれる事もないのだが。

 

ルークの警戒網を逃れたつもりのカレンだが、実はそうではない。その気になればルークの警戒範囲は、広大な学園都市をすっぽりと覆い尽くせる程。だがそれでは情報過多となり、確実に処理が追い付かなくなる。そこで独特の手法を編み出していた。

 

まず今立っている位置。学園都市の最外周で、外を眺めている。前方を目で直接見る事で、感覚を背後に集中させる事が出来たのだ。これで情報量は半分となる。これだけでも流石と言えるのだが、ここからが本領だ。

 

まず最も警戒しているのは、自身から背後数メートルまでの距離。例えカレンが不意打ちを仕掛けても、この距離ならば確実に対処出来るという絶対の自信を誇る。ここまでは普通なのだが、今回のルークはその先が異なる。500メートル間隔で境界線を設け、その線上のみに強く意識を向けたのだ。

 

ある程度の実力者であれば確実に察知するよう、しかもわかり易く。その上で境界線の前後数メートルに気付かれぬよう網を広げる。こうする事で、相手は無意識の内に境界線へと意識が向く。あとは気取られないように意識を向けるだけである。

 

 

「カレンは潜入や尾行に向かないだろうけど、教えといて損は無いだろうな。こういう場合は逃げろって教えるだけで、特に練習する必要もないし。まぁそれは皆と一緒の時に教えるとして・・・暇だったのかな?」

 

カレンの行動目的は暇つぶしの野次馬、そんな結論に達したルークはカレンから意識を背ける。敵でもなければ、積極的に邪魔をするような相手でもない。コソコソしている理由はわからないが、特に気にする事もないだろうとの判断だった。

 

 

その後もカレン以外に警戒を続けたルークだが、特に異変も感じられなかった事で徐々に警戒範囲を狭めて行った。

 

 

――と、カレンは思っている。その為、然程警戒もせずに接近を続けたのだ。

 

(・・・流石と言えば流石だな。でもカレンなりに警戒はしてるみたいだけど、オレの警戒範囲に合わせて移動するってのはちょっとお粗末だな。急に広げられたらどうするつもりなんだ?あぁ、いや、対処出来ると思われてるのか。・・・やっぱ後でお灸を据えよう)

 

ニヤリ、と悪そうな笑みを浮かべたルーク。初めはカレンの考える通りだったのだが、途中からカレンの行動に気付き遊び始めていた。一定の速度で範囲を狭め続け、途中で止める。カレンがそれに対処すれば、今度は狭める速度に緩急をつけたりと、カレンの対応力を伺っていたのだ。

 

 

 

何でも力技で解決出来てしまった弊害。駆け引きにおける、圧倒的な経験不足。カレンの実力的に知る必要など無いのかもしれないが、気付いたのならば教えるべきだろう。嫁が危険な目にあって心配しない夫などいないのだから。

 

やがてお互いの距離が500メートル程となり、カレンのテストが終了する。そして暇を持て余したルークの思考は、明後日の方向に飛んで行った。

 

 

「にしても、一向に馬鹿が減らないのはどういう理屈だ?」

 

旧帝国を真っ向から叩き潰したというのに、敵対する者が跡を絶たない。他人の思考など到底理解出来ないのだから、理由を知る事は不可能なのかもしれない。だが、何らかの解決法は見出しておくべきだろう。

 

「リノア達の魅力・・・そんなのはオレと出会わなくても変わらない。スフィア達の優秀さだってそうだ。纏まった今の方が厄介だろうに、手を出す者が減るどころか寧ろ増えてる気がするんだよな。となると、やっぱオレか?・・・・あぁ、そうか。舐められてるんだな?」

 

今頃になって気が付いた事実に、沸々と怒りがこみ上げる。一度火が着いたネガティブな思考というのは、意識するかキッカケが無い限り反転しない。

 

「手加減してればいい気になりやがって。自重してるからダメなのか。そうだな、もういいか・・・」

 

不穏な言葉を発したルークに、傭兵や冒険者達を集め終わった事が告げられる。眼下に集められた者達を一瞥し、協力した兵達が防壁の内側に駆け込む姿を見届けると、ルークは再び傭兵達に視線を向ける。だがそこには、先程までとは全く別の感情が込められていた。

 

 

――ドサッ!ドサッ!!

 

次から次へと傭兵や冒険者達が倒れて行く光景に呆然とする兵士達。千人以上の人間が一人残らず倒れた事で、今度はルークへと視線を移す。

 

「・・・へ?」

「い、一体何が・・・?」

 

理解の追い付かない彼らの呟きには答えず、ルークは隊長へと振り返る。

 

「貴族街の防壁を一部破壊したのは伝わってるか?」

「は?・・・は、はい!」

「餌はバラ撒いたし、穴も開いてる。敵対してる以上、応援する訳にもいかないが・・・頑張って避難してくれ。」

「・・・え?」

 

隊長の反応を待たずに歩き出すルーク。だがふと忘れていた事を思い出して足を止め、視線を遠くへと移す。

 

 

皇帝の行動の意味がわからず、誰もが首を傾げるのだが――ルークは答える事もなくその場から消えてしまうのだった。

 

 

 

 

「っ!?・・・・・・ぷはぁっ!はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

ルークの視線の先に居た人物が、ルークの転移と共に息を吐き出す。上手く隠れていたつもりだったのだが、完璧に捕捉されていたのだ。そしてルークが向けていたのは視線だけではない。身を持って体験した人物は、呼吸をする事が出来なかったのだ。息を整えようとするも、今度は全身がカタカタと震え始める。

 

「ふぅ・・・コソコソするな、という忠告でしょうか?その辺は夕食の時にでも聞くとして・・・認識を改める必要があります。まずはスフィアに報告しましょう。今の私の手には負えませんよ。」

 

 

正直な感想を呟き、急いで転移したカレンであった。