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Shining Rhapsody

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325話 侵攻13

 325話 侵攻13

 

 

 

ほぼ全員が呆気にとられる中、スフィアは思考をフル回転させる。

 

(少なく見積もって、とおっしゃいましたね?ルークが何処まで出来るかはその時になってみないとわからないと言う事。ならば今考えるべきは・・・)すみません、カレンさんに質問があります。」

「何です?」

「ルークはどうやって傭兵や冒険者達の命を奪ったのでしょう?」

「・・・・・。」

「カレンさん?」

 

カレンは上手く言葉を濁して説明を行ったのだが、スフィアの問い掛けに黙り込む。今嘘を吐いた所で、調べればすぐにバレる。どうやっても言葉では勝てない事を再認識し、迷った挙げ句正直に告げる事にした。

 

「・・・わかりません。」

「え?」

「推測は出来るのですが、確証が無くて・・・」

 

カレンは詳しく説明しなかったのではなく、説明出来なかった。暗にそう言っているのだ。

 

「推測でも構いません。教えて頂けますか?」

「・・・わかりました。恐らく合っているとは思うのですが、ルークは殺気を叩き込んだのだと思います。」

「「「「「え?」」」」」

「そ、それだけですか?」

「はい。それだけです。」

 

殺気を込めただけ。そう言われても到底納得出来ない。荒事がお手の物であるはずのエレナ達ですら、聞き間違いかと思ったのだ。戦闘などからっきしのスフィアが理解出来るはずもなかった。

 

「殺気で人が死ぬと言うのですか?」

「条件が合えば死にますよ?」

「条件、ですか?」

「えぇ。そうですね・・・例えば、目の前にドラゴンが現れたらどうなりますか?」

「・・・動けなくなります。」

「もう少し具体的な反応を答えて下さい。」

 

質問に対する答えとしては不十分。そこでカレンは具体的な答えを求めた。つまり肉体に何が起こるのかを考えさせようとしたのである。普通ならば経験の無いスフィアは答えられない。だが様々な体験談や物語で耳にした事を繋ぎ合わせ、想像を膨らませる。

 

「・・・身動きが取れず、声すらも出せなくなります。」

「それから?」

「その後は・・・・・体が震えるか、冷や汗が止まらな・・・え?」

「そうですね。つまり、先程の私です。」

「「「「「っ!?」」」」」

 

額が汗でびっしょりだった理由を知り、全員が息を呑む。つまり、カレンとルークはスフィアとドラゴンの関係に近かったと言うのだ。カレンの実力を知る者にとって、とても信じられるものではない。

 

「ある程度実力が拮抗していれば、殺気は耐える事が出来ます。ですが、実力差があると耐える事は難しいものです。」

「でも、カレンとルークの差はそこまでじゃないでしょ!?」

「そうですね。ナディアの言うように、スフィアとドラゴン程の実力差ではないでしょう。ですが、一般的な冒険者ならどうです?」

「それは・・・」

 

ナディアが答えられないのは、カレンと一般の冒険者でさえ、スフィアとドラゴンの差を上回るとわかりきっている為だ。それがルークとなると、赤ん坊かそれ以下と言わざるを得ない。

 

「スフィアの答えは一般的なものです。言い換えるなら平均になります。つまり、最悪の場合・・・命を落とす者も居る、という事です。そういう話を耳にした事はありませんか?」

「ありますが・・・作り話の類では?」

「強ちそうとも言い切れませんよ?心理的な負担というのは、無理をすれば命に関わります。身動き出来ず、声が出せない。酷ければ呼吸が止まるでしょう。体が震え、冷や汗が止まらない。鼓動が早くなり、最悪ショックで心臓が止まります。心理的な不調は肉体に現れるものです。今回の場合、子供がドラゴンの群れに遭遇したようなもの。急激な心理的負荷により、傭兵達の心臓が止まったのだと思います。」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

有り得ないとは言い切れない。納得させられた事で、誰もが言葉を失ったのだった。だが1人だけ異なる反応を見せた者が居た。

 

「カレンさんが殺気だけで済んだと言う事は、警告ではなく教育が目的だったのかもしれませんね。」

「どういう意味です、ティナ?」

「カレンさんは徐々に近付けたのですよね?」

「えぇ。」

「おかしくありませんか?いつ何処から敵が現れるかわからないのです。警戒するのであれば、態々範囲を狭める必要はありませんよね?」

「そう言われると・・・」

 

近付く事に必死だったせいで、不自然な点を見落としていたのかもしれない。カレンはそう思い始めた。

 

「ある程度接近した所で、突然範囲を広げられたらどうするつもりだったのです?」

「っ!?」

 

もっとも過ぎる指摘に、カレンが息を呑む。少なくとも、カレンが気付いた位置までは警戒範囲を広げられるのである。これが罠だった場合、カレンは対処が遅れていただろう。転移で逃げるという選択肢はあるが、確実に間に合う保証は無い。

 

「ですが今回の場合、そうせずいきなり殺気を向けられたのですから、何か別の方法でカレンさんの動きを把握していたのではないでしょうか?」

「そん・・・な・・・!?」

「・・・これは今後の対応を考え直す必要があるかもしれませんね。」

 

 

 

肉体、或いは神力だけでは説明出来ないような実力差がある。その事に戸惑いを隠せないカレン。もしティナの指摘通りなら、ルークとカレンの差は5倍どころの話ではない。10倍、もしくは数十倍の実力差があるかもしれない。

 

もしそうなった場合、ルークを止められる者が居ない事になる。それは嫁達にとって非常にマズイ状況とあって、珍しく食べ物以外で真剣な表情となるティナであった。