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Shining Rhapsody

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326話 侵攻14

 326話 侵攻14

 

 

ティナから普段のニコニコ微笑む表情が消えた事で、全員が固唾を呑む。視線を集めたティナは、逸していた視線をカレン達へと戻す。

 

「・・・対応策を相談する前に、済ませておかなければならない事があります。」

「えぇ、時間が掛かりますからね。先にルビアさん達を――」

「昼食の支度をしましょう!」

「「「「「・・・・・」」」」」

 

議論が白熱した場合、ルビア達がルークと鉢合わせするかもしれない。そう考えたスフィアの提案を遮る形で、ティナが欲望を丸出しにした。本人は至って真面目なのだが、他の者達は呆れて物が言えない。

 

「どうしました?」

「・・・何でもありません。」

「?」

 

皆の様子がおかしい事に気付き、ティナが首を傾げる。だが説明する気も失せたスフィアが首を振ると、訳がわからないティナはさらに首を傾げたのだった。

 

 

大人数ということもあって、賑やかだが効率良く昼食の準備を済ませる。その後全員が――特にティナが腹を満たし、この場に居ない事になっている者達を全員アームルグ獣王国へと送り届ける。何故帝国ではないのかと言うと、今の状況では獣王国の方が安全だからである。

 

帝国からは相当な距離があり、ルビア1人を狙うには労力が要り過ぎる。加えて獣人は気配に敏感で、嗅覚や聴覚にも優れている。守るにはうってつけの場所なのだ。オマケにルビアが居る事で、ルークに敵視される心配が無い。ルビアが安全な限りはWin-Winの関係とあって、警護にも気合が入る。

 

ルビア以外に関しても『後で危険な目に合いました』では示しが付かない。下手をすればルークの怒りの矛先が向くとあって、ルビア同様の厳戒態勢である。

 

 

居るべき者達が居る、本来あるべき姿になった事で、漸く新たなルーク対策について話し合うティナ達であった。

 

 

 

一方その頃――

 

「こっちの・・・貴族家同士の婚姻について、皇室に伺いを立てる書状。これはまぁ、なんとなく理解出来る。貴族同士のしがらみなんかがあるんだろうさ。問題はこっちだ。『――カーネル男爵家のご令嬢は、心に決めた方が既にいらっしゃるのでしょうか?』・・・知るか!誰だよ!!」

 

帝国城内の執務室には、書状を放り投げ荒ぶる皇帝の姿があった。

 

 

処理や決済の必要な政務を終わらせ、貴族等から送られて来る書状に目を通していたのだ。嘆願や陳情等、割と重要な内容の物が多いとあって、確認しない訳にはいかない。しかし能力的にはスフィアに勝るルークも、致命的な弱点があった。貴族や役人に関する知識が皆無なのだ。

 

実はルークが匙を投げたこの書状も、貴族同士のしがらみあっての内容なのだが――今のルークにしてみれば、親しい友人からの相談としか思えない。一国の主としては落第である。自身もそれを痛感している為か、冷静になって愚痴を零す。

 

「・・・はぁ。四六時中カレンが貼り付いてれば大丈夫だろ・・・スフィアだけでも呼び戻すか?いや、それだと向こうの出方が変わってくる。それにカレンは真正面からの勝負なら強いけど、予想外の搦手で来られると後手に回る恐れがある。事前に想定して万全の準備を整えてたリノア達とは違って、カレンだけに任せ切りは流石にマズイ。」

 

比較的真っ直ぐな性格のカレンは、ある程度の搦手には対応出来ても、あまりにも複雑だと対処が遅れてしまう。単独ならばどんな搦手だろうと生還してしまえると信じているが、足手まといが居ては不安が残る。これはルークだけでなく、ティナ達も同意見だった。かと言って護衛を増やそうにも、信頼出来る実力者は嫁の誰かとなる。相手の狙いが絞れない以上、標的を増やすのは得策とは言えないのだ。

 

 

「・・・急いで返事を書かなきゃいけないもんでもないし、後でスフィアに頼むとしよう。」

 

あれこれ悩み抜いた結果、丸投げという結論に達したのだった。そうと決まれば、本日の執務は終了である。時刻は午後1時を過ぎた頃。規則正しい食生活のティナ不在という事で、昼食を後回しにした結果。思いの外、時間に余裕が生まれた事で、今後についての考えを改める。

 

「もう自重はしないと決めた事だし、いよいよ料理の方も解禁だな。」

 

スフィアが聞いたら卒倒しそうな事を呟き、腕を組みながら天井を見上げる。どうせ自重しても面倒に巻き込まれるのだから、やりたい放題して巻き込まれた方が精神衛生上良いだろうと考えての事。そうして考えているのは、何を作るかという事である。

 

「う〜ん・・・決めた!手間暇の掛かるアレにしよう!!」

 

驚異的な身体能力と魔法で時短は出来るが、それでも量を作るとなると完成までに要する時間は地球と大差無いだろう。冷ましたり感想させたりといった工程ならば短縮可能だが、焼く時間は短縮出来ない。オーブンの大きさは決まっているのだから。流石のルークも、火魔法で絶妙な火加減を継続する余裕は無い。料理となると、他にも作業は山積みなのだから。

 

結局ルークは、スフィアやカレンの予想から大幅に遅れてエリド村を訪れる。あまりにも心配になったティナが何度もルークを呼びに行こうとし、カレン達が何度も総出で抑え込んだ事をルークは知らない。

 

(何だかみんな疲れ果ててるな?・・・訓練を頑張った証拠か。それなら頑張って作った料理を振る舞って労うとしよう!)

 

見るからに疲れ果てたカレン達に、見当違いな事を考えたのは当然だった。

 

 

振る舞われた夕食は、この世界の人々が食べ慣れた物。だがルーク監修とあって、そのレベルは高い。だが全員に衝撃が走ったのはデザートだった。

 

「な、ななな、何ですかコレは!?」

「全部色が違う!?」

「か、かわいい・・・」

 

主に女性陣の食い付きが半端ないのだが、ルークは若干申し訳無さそうに説明する。

 

「これはマカロンというんだけど、時間が無くて7種類しか作れなかった。小さくて悪いけど、人数も多いから――」

「おかわり!」

「・・・は無いから、みんな味わって食べるように。」

「ガーン!」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

ルークが配膳してから説明するまでの間に食べ尽くしたティナが絶望する。まだだれも口にしていないというのに、恐ろしいまでの早業である。誰が悪い訳でもない為、ティナを叱りつける者は1人も居ない。

 

総勢38名分、ティナの消費量を換算すると約50名分となる。それだけの料理をしながら、計266個ものマカロン1人で作り上げるだけでも驚異的。誰も文句は言えないのである。

 

「美味しい!」

「じーっ」

「あまーい!」

「じーっ」

「サクッとしているのに、フワッとしているんですね・・・」

「じーっ」

「不思議な食感!」

「じーっ」

「あら?先程とは味が違うのですね!」

「じーっ」

「ティ、ティナ・・・?」

「じーっ」

「「「「「食べ難いわ!」」」」」

 

誰もが最初の12個に舌鼓をうったのだが、ティナの視線が気になりその手が止まる。マカロンを口に運ぶ度に顔を向けられては、とてもではないが食事を楽しむ事など出来ない。

 

 

流石に人数分をキッチリ作っているはずもなく、結局は見兼ねたルークがおかわりを出す事で落ち着いたのだった。