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Shining Rhapsody

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329話 侵攻17

 329話 侵攻17

 

 

翌朝、ルークの姿はエリド村にあった。朝食を終えて一息ついた頃という、少し遅い時間帯。本日の政務が滞るのはマズイという体で、書類がある程度揃うのを待ち全て持参した格好だ。

 

「――と言う訳で、スフィアには此処で執務をして貰いたい。」

「・・・貴族絡みの案件が大半を占めているのは何故でしょう?」

「・・・偶々、じゃないかな?」

「・・・はぁ。わかりました。」

「・・・よろしく頼むよ。」

 

何となく事情を察したスフィアは、それ以上追求する事なく了承した。ルークとしても、何を言っても藪を突く事にしかならないと判断し余計な弁解はしない。単に押し付けただけなのだから、弁解の余地も無いのだ。

 

「それで、カレンはどうする?」

「どうすると言うのは?」

「見学に来るのかって意味だけど?」

「やめておきます。スフィアが受け持った政務の内容如何で、城へ赴かねばなりませんから。」

「そうか。悪いけど、カレンもよろしく頼むよ。」

 

急ぎ処理しなければならない案件に備え、スフィアの傍らで待機すると告げるカレン。貴族絡みの案件は時に迅速な処理を要するとあって、呑気に見物してなどいられない。その辺の機微に疎いルークだが、カレンの言葉に認識を改める。素直に謝罪を口にしたルークに、カレンは頷き返したのだった。

 

 

引き継ぎを済ませたルークは、アイテムボックスから美桜を取り出して腰に差す。それを見ていたナディアが疑問を口にした。

 

「武器は必要ないんじゃないの?」

「ん?いや、手加減するには必要だよ。」

「手加減?・・・するの?」

 

自重しない。昨日そう告げたばかりだと言うのに、それを翻すような発言に噛み付く。だがルークの説明は、言われれば納得の行くものだった。

 

「そういう意味の手加減じゃないから。何から何まで、本気で壊せばいいってもんじゃない。最低限、要職にある者達の首級は必要になるだろ?」

「それはわかるけど、それと武器に何の関係があるって言うのよ?」

「あぁ・・・今のオレだけど、力を持て余してる状態なんだ。」

「えぇ。・・・で?」

「どんなに手加減しようとしても、魔法も打撃も・・・跡形も残さず消し飛ばす自信がある。」

「は?」

「首級が必要となった時、肉片を集めても人物の特定なんか不可能だろ?それともナディアが復元してくれるのか?」

「む、無理!」

 

近付きたくもない難解なパズルを想像し、ナディアは全力で後退った。辛うじて頭蓋骨ならば組み立てられるかもしれないが、そんなものがあっても人物は特定出来ない。そこまで進んだ文明でないし、アンデッドを研究する魔女と噂になるかもしれない。科学とは、少しずつ進歩しながら浸透して行くのがベストなのだ。だがそれも、この世界には当て嵌まらないとルークは考えているのだが。

 

「それじゃあ何かあれば昼頃来るけど、無ければ夕方って事で。行って来るよ。」

「えぇ、わかりました。」

 

全員に見送られながら、ルークはミーニッツ共和国の王都近郊へと転移する。本来ならば人通りの多いその街道も、今は無人であった。だからこそ、ルークはいきなり街道へと転移したのだが。

 

「さて、まずは王都前に並んだ兵士達を・・・居ない?」

 

旧帝国の時と同様、王都の外でルークを待ち構えているものとばかり考えていた。だがルークの視界には兵士の姿が写ってはいない。これは流石に予想外だった。

 

「どういう事だ?まさか、地下通路の出入り口で待ち構え・・・いや、防壁内部に大勢の気配があるな。オレが近付いた所を蜂の巣にしようって作戦か?」

 

ある種の常套手段とも言える迎撃体勢なのだが、相手がルークでは意味を為さない。まだ王都の防壁までは2キロ以上離れているが、近付かねばならない理由も義理も無い。

 

「昨日と違って、小細工の必要も無いしな。少し派手に行こう。」

 

そう呟くと、ルークは頭上に特大の火球を浮かべた。距離があり過ぎて精密射撃は出来ないが、的が大きい為そこまで狙いを付ける必要も無い。もし狙いが外れても王都内部に着弾すれば良いと考え、防壁の若干上側を狙って撃ち放つ。だがその後の光景は、ルークを驚かすのに充分であった。

 

「なっ!?火球が消えただと!?」

 

目算で防壁の100メートル手前。突如として特大の火球が掻き消えたのだ。何かに防がれた訳でも、相殺された訳でもない。いや、この距離では見逃したのかもしれない。そう考えたルークは一気に距離を詰める。

 

「この距離なら見逃す事は無いだろ。」

 

王都まであと1キロの距離に立ち、先程と同規模の火球を今度は3発連続で撃ち放つ。今度は目を凝らし、僅かな異変も見逃さないよう注視する。だが結果は変わらない。

 

「・・・やっぱり消えたな。何かしたようにも見えなかったが・・・いや、既に何かしてると考えるべきか。」

 

兵士の姿は無い。だが通常とは異なる方法で、準備万端待ち構えていたのだろう。そう結論付けると、どう攻略するか思考を巡らすのだった。