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Shining Rhapsody

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330話 侵攻18

 330話 侵攻18

 

 

一方その頃――

 

政務に励むスフィアの手が止まる。今日は訓練する雰囲気ではなかった為、全員が地下室へと集合していたのだが――何人かがスフィアの様子に気付いて顔を向けた。

 

「・・・学園長。昨晩、学園都市が魔物の襲撃に遭ったようです。」

「っ!?」

「世界政府が派遣した兵士約2000名の内、死者約100名、負傷者は重軽傷合わせて400名以上との事です。」

「・・・・・。」

「保って今日明日、といった所でしょうか?」

「・・・・・。」

「帝国が地下通路の出入り口を封鎖している為、利用者に混乱が広がり避難に遅れが出ているとか。魔物が学園都市内部に入り込むようであれば、各国が地下通路の利用を禁止するでしょう。それだけではありません。賠償問題にまで発展するでしょうね。」

「・・・何が言いたい?」

 

淡々と事実を述べるスフィアだが、本心は別の所にある。そう感じた学園長が聞き返す。

 

「数日掛けて避難した者達が無事に受け入れて貰えると良いな、と心配しただけですよ。」

「どういう意味じゃ!?」

「難民の受け入れに関し、帝国は一切言及していません。いないのですが、いいえ、言及していないからこそでしょうか。難民を受け入れる事は、帝国と敵対する事に繋がるのではないか。そう考える国が無いと良いですね?と考えた次第です。」

「なんじゃと・・・」

 

驚愕する学園長に、冷徹な笑みを浮かべたスフィアが追い打ちを掛ける。

 

「王都陥落となれば、まずは帝国に対する賠償となります。その後で、避難民が押し寄せた各国に対して賠償を支払うだけの余力が残っているでしょうか?」

「あ・・・」

「只でさえどの国も厳しい状況でルークを敵に回すはずもなく、帝国に回すだけの賠償も期待出来ない。余程優しい国主でもなければ、無条件で受け入れるような真似はしない。そうは思いませんか?」

「・・・・・。」

 

敵を匿ったな?そうルークに言われれば、相手は謝罪するか敵対するかの二択である。国同士の謝罪の場合、ただ頭を下げて済むような問題ではない。難民受け入れは人道的な配慮だが、全ての国が人道的な配慮をするとは限らない。特に今回の場合、皇族に手を出された帝国は充分な根回しを済ませている。帝国側に落ち度が無い以上、自分達から手を出す事など出来ないのだ。

 

「心配ではありますが、打開策が無い訳でもありません。」

「な、何じゃ!?」

「帝国が事前に通達すれば良いのですよ。難民の受け入れに関して、帝国は一切関知しないと。」

「っ!!」

「まぁ、しませんけど。」

「・・・・・。」

 

好きにすればいい。そう帝国が言えば済むと聞き、学園長の表情が明るくなる。だが次の瞬間、スフィアの冷酷な一言で再び沈んでしまうのだった。だが学園長も気付く。

 

「・・・どうすれば良いのじゃ?」

「帝国にとって利益となる取引であれば、それもやぶさかではありませんね。」

「・・・私が出し渋っておる情報が望みと言う事じゃな?」

「どうでしょう?」

 

学園長が頑なに黙り込むだけの秘密。だがそれが本当に帝国の利益に繋がるかは、今のスフィアにはわからない。だからこそ明言を避けたのだ。

 

実際は無意味な情報でも構わない。帝国が難民の受け入れさえ拒んでいれば、ルークの怒りを買う恐れはないのだから。好きにすれば良いとは言っても、難民の中に犯人が居た場合は受け渡しを要求すれば良い。態とそういう態度をとる事で、スフィアは手札の価値を一層高める事に成功したのだ。学園長の情報が価値の低い物だった場合、さらに搾り取ってやろうと考えて。

 

「・・・学園都市があの場所に作られたのは、安全が保証されておったからじゃ。」

「どういう意味です?」

「何時の世も、人にとっての驚異は人なんじゃよ。どういう原理か、魔物が溢れる事のない魔の森によって背後は守られる。この上ない立地と言えるじゃろう。」

「それは帝都にも言える事ですね。ですが正面はどうするのです?」

「その悩みを解消するのが、大規模な設置型の魔道具じゃった。」

「「「「「?」」」」」

 

学園長の説明では、肝心な部分が伝わらない。だからこそ、その場に居合わせた者達は揃って首を傾げた。

 

「酷く燃費の悪い魔道具じゃが、その効果は絶大でな・・・一国の軍隊を相手にする事も可能な代物じゃよ。」

「どんな魔道具なのです?」

「あらゆる魔法や魔道具を封じる魔道具じゃ。」

「「「「「はぁ!?」」」」」

「正確には、大気中に集められた魔力を霧散させる代物じゃな。大気中じゃから、人体に害は無い。じゃが魔法も魔道具も使う事が出来ん。いいや、使っても直ぐに掻き消えると言うのが正しいじゃろ。」

「つまり・・・意気揚々と攻め込んだ所で、魔法を使えないルークに投石や弓矢で集中攻撃という訳ですか?」

「まぁ・・・そうじゃの。」

「「「「「っ!?」」」」」

 

単身で一国の軍隊を相手に出来るのは、圧倒的なまでの魔法に依るもの。それを知る者達が言葉を呑む。すぐに転移で駆け付けようとしたカレンだが、ティナと視線が合った事で何故かその行動を中断したのだった。