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Shining Rhapsody

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333話 侵攻21

 333話 侵攻21

 

 

遠距離からの投擲か、乗り込んでの蹂躙か。悩み続ける事十数秒――先に動いたのは敵兵だった。

 

「っ!?ぜ、全軍突撃!!」

「「「「「うぉぉぉ!」」」」」

 

指揮官の号令と共に全兵士が一斉に駆け出す。想定外の事態に驚いたルークは、思考を瞬時に切り替えた。

 

(っ!?罠じゃなかったのか?自分達から魔法無効化の領域外に出るなんて、殺してくれと言ってるような・・・いや、仕掛けて来るならそのタイミングか)

 

数千、数万の兵士を犠牲にした上での罠。そう考えれば合点がいく。兵士を盾にした上で、何かをするつもりなのだろう。そうなると、自ずと対処は決まってくる。

 

「酷い事をするもんだ。まぁ、わかっていながら命を奪おうとするオレが言えた義理じゃないが・・・オレが採るべき行動は、魔法での牽制か蹂躙。だが・・・それだと情報は得られない。少し付き合ってやるか。」

 

危険な真似をすべきではないのだが、今後も同じ様な真似をする輩が現れないとも限らない。その対象が嫁達だった場合、取り返しのつかない事態になる可能性が高い。だからこそルークは検証を優先する事にした。

 

腰から美桜を抜き放ち、無造作に歩き出す。徐々に歩調を速め、接敵まで50メートルという所で急加速。先頭集団とすれ違いざまに美桜を一閃するが、ルークが足を止める事はなかった。

 

瞬きをする間に次々と倒れる兵士。だが全兵が全速力で進軍しているため、誰も足を止める事が出来ない。対するルークも、相手が向かって来る勢いを利用して一刀で数人を斬り伏せる。しかし敵兵の数は数万。流石に正面から漏れなく全員を相手にも出来ず、時に後退、右へ左へと跳躍を繰り返す。

 

激突から数分――死体が二千を超えた辺りだろうか。地面に転がる死体や血に、注意を向ける時間が増えた頃。ついに双方の思惑が重なり合う。

 

――ガチャリ

 

「っ!?ちぃっ!!」

「へへへっ・・・ぐふっ!」

 

死体と思われていた兵士の1人が、ルークの足に向かって手を伸ばしていたのだ。足元の敵兵に慌てて美桜を突き立てるが、同時に異変を察知する。

 

「何だ?・・・足枷?いや、アンクレット、というより足輪だな。」

 

重苦しい見た目のそれを分析し呟く。元々敵兵が死体に扮する事を想定して位置取りを決めていたのだが、死体が増えれば目の届かない場所も増える。ルークが迂闊だったと言うよりも、敵が一枚上手だったと言う事だろう。

 

反省よりも、目先の問題である。自分が何をされたのか、そこから考えられる対処は何か。急いで導き出す必要がある。冷静に判断し、ルークは敵集団から距離をとる。

 

(隷属・・・は魔道具を付けただけじゃ効果が無い。なら、何かを抑え込むための物?)

 

単なる重りという考えもあるのだが、その程度では問題にならないため候補には上がらない。それ以外となると、何らかの魔道具しか考えられない。ならば一体何の魔道具なのか。そこまで考えて、思考を一時中断する。

 

「いや、考えた所で答えが出るとは限らない。まずは外して――」

「全軍後退!」

「「「「「おぉ!」」」」」

「何っ!?」

 

相手の狙い通りと思われる状況での後退。これには流石のルークも驚きを隠せない。優位に立っているのなら、そのまま攻めるのが定石である。そうでなければルークに逃げられる恐れだってあるのだ。だがその優位を捨て去るような行動に、ルークは混乱する一方だった。

 

「・・・ホントに何がしたいんだ?まぁ、とにかくコイツを外すのが先か。魔拳で・・・っ!?」

 

しゃがみながら右拳に魔力を集めとして異変に気付く。右の足首に嵌められた魔道具が光り輝いていたのだ。咄嗟に右拳から注意を逸らすと、連動しているかのように魔道具の輝きも収まる。

 

「何だ?まさか・・・」

 

ふと1つの仮説が脳裏を過る。それを確かめるべく、ルークは火球を放とうとしたのだが――

 

「魔法が出ない!?いや、魔力自体が放出出来ない。そうか!魔封じの魔道具か!!」

 

魔法どころか魔弾すら撃てない事実に、漸く足に嵌められた物の正体に辿り着く。普通であれば絶望的な状況なのだが、当のルークが悲観した様子は見られない。それもそのはず、魔力による肉体強化は可能だったのだ。

 

魔力を放出出来ないため、魔力による皮膚の強化や障壁を展開したりと言った真似は出来ない。だが筋力を強化出来れば、そこらの有象無象程度はどうとでもなる。だがそれを悟られては面倒な事になる。そう考えたルークは、一計を案じる事にした。

 

「ファイアーボール!ファイアーボール!!くそっ!何故だ!!魔法が、魔法が撃てない!!!」

 

へっぴり腰で両腕を突き出しながら叫ぶ。わざとらしいにも程があるのだが、当の本人に自覚は無い。何でも出来るこの男。残念ながら、演技の才能だけは皆無だった。

 

 

 

その光景を遠くから眺めるミーニッツ共和国の国王ラカムス。平時ならば大根役者の演技など、いとも容易く見抜いていた事だろう。だが今の彼は冷静とは程遠い。城を破壊された怒りに震えていたが、策が成功した反動で大喜び。

 

「くははははっ!やったぞ!!見ろ、忌々しいクソガキの慌てよう!ははははは!!」

 

ルークが魔法を使えない。それは敵兵に勘違いさせるのにも充分だった。魔法の使えない皇帝など怖くはない。そう思ってしまったのだ。自分達の仲間がどのようにして殺されたのか。その事実を忘れるには、充分過ぎる程の衝撃を与えたのである。