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Shining Rhapsody

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335話 侵攻23

 335話 侵攻23

 

 

幾ら無防備だったとは言え、鍛え抜かれた人間の頭部のみを蹴り飛ばす。そんな芸当を目の当たりにしても、3人は到底信じられない。一体どれ程の力があれば、そんな事が出来るのだろう。そう思わずにはいられない。だからこそ、彼らは自分達がとんでもない思い違いをしていた事に気付く。

 

「「「バケモノ・・・」」」

 

戦慄する彼らを他所に、ルークは美桜へと視線を向ける。放り投げはしたのだが、愛刀である事に変わりはない。敵の武器よりも回収する優先度は高いのだ。そう考え、美桜を回収すべく移動する。何気なくただ移動しただけなのだが、3人の暗殺者にとってそうではなかった。

 

「「「消え・・・っ!?」」」

 

10メートル以上離れているのに、その動きが追えなかった。と言うより、その姿を見失ったのだ。手や足といった一部分ではなく、全身の動きを見失う。それも離れた場所で。即ち、実力差は絶望的なまでに開いている事を意味する。

 

これが意味する事は何か。それは幾度と無く闇夜に紛れ、背後から標的に迫った彼らと同じ事が出来るという事。それも白昼堂々、衆人監視の場で。例え凄腕の暗殺者と言えど、一方的に狩られる側へ回れば脆い。それでも立ち直る者は居るだろう。だが相手が悪い。彼らの前に居るのは、敵に対し一切の情け容赦も無いルークなのだ。

 

――ヒュン!

 

「「「あ?」」」

 

すぐ近くで風切り音が聞こえたと思ったら、突然景色が回りだす。何をされたのか理解出来ない。そんな彼らの視界に映るのは、回転しながら宙を舞う仲間達の首と、置き去りにされた自身の体であった。

 

 

「それなりに手練ではあるんだろうが、暗殺者が表に出て来てどうするよ。そう言った意味でもコイツラは下っ端・・・いや、持ってる刀はそれなりか。判断に困るな・・・」

 

鹵獲という選択肢を瞬時に切り捨てた理由の1つに、恐らくこの者達は下っ端だろうという事があった。証拠や黒幕に繋がる手掛かりは持っていないだろう。そう考えたのだ。それでもこの者達が所持している武器は、今回の一件を抜きにしても情報となる。さっさと回収してしまおう。そう考えて敵の刀を手に取るのだが――

 

「・・・アイテムボックスが使えない。魔力を封じられるってのは、本当に不便だな」

 

普通は不便で済まないのだが、十全に力を振るえる今のルークにとっては些事である。だが回収という点に関して言えば問題がある。まだ残っている敵兵は相当数。この場に置いておくのはいいが、乱戦になれば何処かへ行ってしまうかもしれない。そう考えると一気に殲滅したい所なのだが、魔法は封じられている。

 

「う〜ん、カレンみたいに斬撃を飛ばせれば・・・それも確実じゃないか」

 

やれなくはないのだが、カレンのように上手くコントロール出来る訳ではない。威力が弱過ぎれば無事な敵兵が押し寄せて乱戦にもつれ込むし、強過ぎれば衝撃で仮置きした刀諸共吹き飛ぶだろう。どうするのが効率的か――考えていて、ふと思いつく。

 

「そう言えば・・・魔力が封じられていても、殺気で人は死ぬんだろうか?」

 

誰に聞かせるものでもないせいか、ルークの言葉は説明が不足している。正確には、魔力を封じられたルークとの実力差を、格下の相手に感じ取れるのか、という意味である。

 

具体的に観測出来る魔力とは違い、第三者が殺気の量を推し量る事は出来ない。明確な基準も無ければ、研究しようと考える者も居ない。気絶したり恐慌状態に陥り、まともに調べられない事だろう。

少なくともルークは、生き延びられるかどうかを、本能的に察知していると考えていた。

 

 

例えば猛獣の群れに放り込まれた女性が、突然気を失う光景を想像して欲しい。殺気を放つルークは、それを遥かに上回る恐怖の対象なのだ。しかしライオンやトラ等の猛獣が何かを放っているだろうか?答えは恐らくNOである。

 

それなのに、ルークの与える恐怖の方が遥かに大きいのは何故か。恐らくルークが内包する魔力を無意識に感じ取っている可能性が高い。そう結論付けたのだ。

 

即ち――現状で幾ら殺気を放とうとも、学園都市の様にはならないのではないか。という事である。

 

 

 

「・・・まぁ、やってみればわかる話だ」

 

三者には何となく読める展開も、当事者には当て嵌まらないらしい。結果、ルークは敵兵に向けて全力の殺気を叩き込んだ。

 

――ドサ!ドサドサドサ!!

 

「・・・・」

 

予想外の光景に、ルークも思わず言葉を失う。たっぷり数十秒の硬直の後、誤魔化すように呟いた。

 

「殺気と魔力は無関係・・・と」

 

 

どうせ殲滅する予定だったのだから気にする必要は無い。だが思わぬ展開に、内心焦りまくりのルークであった。