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Shining Rhapsody

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338話 侵攻26

 338話 侵攻26

 

 

宣言通りに5割の魔力を放出し、ルークは上空を眺める。だが特に変化が見られなかった事で、魔力を一気に高めて行く。

 

「・・・60・・・80・・・100%」

 

たったの数秒で全開に達し、再度上空へと視線を移す。だがまたしても変化は見られない。この時点で検証を止めるべきだったのだが、ルークは半ばムキになっていた。

 

「へぇ・・・これでもダメか。抑え込むんじゃなくて散らすって言う特性のせいなんだろうけど、良く考えられた魔道具みたいだな。ただその分、燃費は悪そうだけど。しかしこのままだと検証にならないし・・・限界までブーストしてみるか?いや、壊す前にアレを確かめないと・・・」

 

魔力は全力で放出しているが、ルークにはまだ神力がある。だがそのまま神力を放出して、万が一魔道具を破壊してしまうのはマズイ。まだ確かめなければならない事が残っているのだ。

 

魔力を全開にしたまま、右の掌を上に向ける。意識を集中し、ほんの少しだけ神力を集めた結果――

 

――ゴォッ!

 

「うおっ!・・・火柱になっちまったけど、とりあえず出たな。神力なら魔法は使える、と。ん?魔力じゃないから魔法じゃないか?なら・・・神法?う〜ん、語呂がイマイチ」

 

何とも下らない事を呟いているが、先に済ませておくべき検証は無事に終了した。件の魔道具と思われるモノは、魔力を用いた魔法には作用するが、神力には作用しない事が判明したのである。マッチ程度の火を灯すつもりが、特大の火柱を掌から浮かべて。それから拳をギュッと握り締めて炎を消す。

 

「さて、それじゃあ神力を魔力に変換して・・・面倒だから・・・全開だぁ!!」

 

 

――パリィィィン!ドンッ!!

 

ガラスが割れたような音が鳴り響き、王都を覆っていた結界のようなモノが消え去る。同時に魔力の放出を抑えられれば良かったのだが、そう思い通りにはいかない。その結果、この世界に住む者達が今まで感じた事の無い程、強大な魔力が瞬時に吹き荒れてしまったのだ。

 

その結果、広範囲に渡って魔物達が一斉に逃げ出したのだが、この時のルークが知るはずもない。何故なら、当の本人は違う事に意識を向けていたのだから。

 

「神力の方が効率が良いはずなのに、思った程じゃないな。これって・・・1回に神力の2割程度しか魔力に変換出来ないって事か?それとも単なる練習不足?・・・折角の機会だし、神力の方も確認しとくか!」

 

いつの間にか、魔道具の検証が自分の実力把握へと変化する。本人は折角の機会などと言っているが、面倒を一度で済まそうとしただけの事。何度も言うが、この時点で止めておけば良かったのだ。いや、最早手遅れである。何しろ、一部の者達は既に大慌てだったのだから。

 

 

 

 

◇エリド村◇

 

「「「「「っ!?」」」」」

「何事だ!?」

「な、何なのよ、この魔力!?」

「この方角は、ミーニッツの・・・王都!?」

 

異変を察知して騒ぎ出したのは、エリド村に居た者達。あまりにも膨大な魔力に、数百キロ離れた彼らにも余裕で感じ取る事が出来たのだ。大凡の位置を割り出したのは、凄腕の魔術師であり長らくこの村に住んでいたエレナ。彼女が齎した情報により、全員が何者の仕業なのかを悟る。代表してその名を口にしたのはティナ。

 

「ということは、ルークですね」

「もの凄い魔力量ね・・・」

「フィーナさんの言う通りですが、ここまで魔力を放出する事態に陥ったのでしょうか?」

「・・・答えは恐らく、学園長の言う魔道具のせいでしょうね」

 

スフィアの問いに答えたのもティナ。しかし何が言いたいのか理解出来ず、全員が揃ってティナへと視線を移す。

 

「実験したのだと思いますよ」

「実験、ですか?」

「えぇ。魔道具に対抗出来るかを、確かめたのだと思います。徐々に魔力を高めて行って、魔道具を打ち破った為に私達が感知出来たのでしょう」

「なるほど・・・」

「ですが、ちょっとマズイかもしれませんね」

「「「「「?」」」」」

「突然強大な魔力が放たれたのです。驚いた魔物達が一斉に逃げ出したはず」

「「「「「っ!?」」」」」

 

これまで誰よりも多く魔物を狩ってきたティナである。当然その生態に関しても熟知している。だからこそ、誰よりも早く次に起こる事が予測出来た。

 

「相当な広範囲に渡って魔物が移動するでしょうから、スタンピードの再来と言って良いかもしれません」

「ちょっと、マズイじゃないのよ!?」

「ですから、そう言っているじゃありませんか」

 

慌てふためくナディアに対し、ティナが淡々と答える。何を呑気な事を、とナディアは思ったのだが、お陰でスフィアは冷静になる事が出来ていた。

 

「確かにマズイ状況ですが、落ち着けば対処は可能です」

「ホントに!?」

「えぇ。今回魔物達は、ミーニッツ共和国の王都・・・つまりルークを中心として、放射状に移動するでしょう。ある程度の動きが予測出来ますから、各国へは時間差で到達するはずです」

「そうか!近い所から順番に討伐して回ればいいのね?」

「ナディアさんの言う通りです。ただ・・・」

 

 

何とか出来る。そう考えたナディアの表情が明るくなるが、頷き返したスフィアの表情は優れない。何故なら彼女が言い淀んだように、そこには大きな問題を抱えていたのだ。

 

 

この場に居る者達だけで、数時間おきに数カ国を回らねばならない。しかもカレンとティナ以外の苦戦は必死。戦力に不安を抱えた状態で、果たして無事に守り切れるのだろうか、と・・・。