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Shining Rhapsody

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339話 侵攻27

 339話 侵攻27

 

 

ルークは自身の魔力に関する確認を終え、次いで神力の確認へと移行する。普段は魔力のみを使っているとあって、神力については保有量すら正確に把握していない。何となくこれ位、という感覚でしかないのだ。

 

おまけに、力を封じて来なければ、その感覚もそれなりに正しかっただろう。要は全身に取り付けていたギプスを外したものの、その後の確認を後回しにしていたのだ。感覚との齟齬があって当然である。

 

 

神力を蔑ろにしているようにも思えるが、一応ちゃんとした理由もある。きちんと教わったのが魔法、つまり魔力の扱いだったのが1つ。まだまだ魔力操作に向上の余地がある為、納得するまで極めようと考えていた。魔力だけでも困らなかったというのが、これに拍車を掛けているのだが。

 

 

もう1つが、神力の特別な用途があまりにも抽象的だった事。本来ならば神族には権能と呼ばれる力が有り、大半がこれに用いられる。だが身近な同族はカレンしかおらず、しかも彼女は未だ権能を持たない。神力で出来る特別な事と言えば転移のみであり、他の使い方は魔力と相違無い。

 

つまり、ちょっと出力の大きい魔力程度の認識なのだ。ならば日頃は精密な魔力操作を習得しておき、威力に困ったら神力でゴリ押しすれば事足りる。ルークが魔力と神力を併せ持つ唯一無二の存在というのが、このような状況を引き起こしていた。もし他の神族のように、神力しか持っていなければ、とっくに権能を発現させていた事だろう。

 

 

 

この件について、他の神々が口を挟む事は無い。最高神の息子とあって、その資質に疑う余地はなかった。彼を上手く導き、恩を売っておくのも良いかもしれない。だがそれには相当なリスクを伴う。接触する機会が多ければ、当然ルークの親族の目に止まる。面倒事を敬遠する神達にとって、最も忌むべき行為なのだ。

 

さらに資質そのものもまた厄介だった。優秀な者の子が優秀と限らないのは人も神も同じ。付くべき者を間違えた場合、挽回するのは容易ではない。面倒を避けると言うのは、慎重であると言う事。上に立つ神ほど、付け入る隙を見せないのだ。チャンスの少ない下の者達にとって、愚息に問題を起こされるのは再起不能と同義だった。

 

 

こういった背景から、カレンやルークに近付こうと考える神は居ない。結果、彼らの教育を担う者が現れなかったのである。だがそうなると、万が一カレンやルークが問題を起こした場合、父親であるアークが追求されるかもしれない。しかし実際は、ほぼ有り得ないと断言出来る。

 

まだまだ未熟な下級神の2人。出来る事と言えば、精々住んでいる星を滅ぼす事だろう。当然かなりの大事ではあるのだが、文字通り星の数ほど有る世界。とりわけ珍しい事でも無いのだ。

 

そして他の神々が騒ぎ立てる程の問題を起こした場合。神々は親の監督責任を追求する事が出来ない。そもそも何と言えば良いのか。

 

『そんな事も予想出来なかったのか?』

 

そんな風に問うのは愚の骨頂。何故ならそれは自分にも跳ね返るからだ。お前に予測出来なかった事を、私に予測出来ると思っているのか。逆にそう問われてしまえば、返す言葉も無い。何しろ彼らは神なのだから。逆に予想出来ていた場合はもっとマズイだろう。予想出来ていたにも関わらず、何の対策も講じなかったと責められる。

 

誰かに噛み付く神というのは、大抵自分が相手よりも下なのは不満なもの。自分の方が上だと優越感に浸りたいが、それでは逆に自らの責を問われかねない。つまり口煩い神々の方が逆に物静かという、何とも不思議な状況に陥っていた。あまりにも永い時を生きるというのは、このような停滞を生み出すものなのかもしれない。――閑話休題

 

 

 

そんな物言えぬ神々すらも大騒ぎする程の事態。それを引き起こしたのは、紛れもないルークである。思い付きで行動するからそうなるのだが、トラブルメーカーなどそんなもの。ちょっとは加減すれば良いものを、この時のルークは正真正銘の全開だった。

 

「行くぞ・・・これがオレの・・・全力だぁ!!」

 

――キーン!

 

嵐の如く吹き荒れた魔力放出とは異なり、神力の解放は非常に静かな物だった。だがそれは大多数にとっての話。何故ならルークの神力はこの世界に住むほぼ全ての生物にとって、認識出来る上限の遥か彼方にあったのだ。惑星が内包するエネルギーを正確に認識出来ないのと同じ。仮に常日頃から感じ取ってしまえたら、魔物や他者の気配がその陰に隠れてしまう。それ以前に、常時大きすぎる力を感じ取っては気が触れてしまう。

 

つまり認識出来る者というのは、世界そのものをどうにかしてしまえる者となる。具体的には、中級神と同等以上の力を持つ者。中でも人一倍の狼狽を見せたのは、他ならぬ最高神であった。

 

 

 

 

◇神域◇

 

「っ!?な、何だ・・・これは・・・ルークか!?」

 

アークは異変を察知し、手を止めて顔を上げる。眉間に皺を寄せながら感覚を研ぎ澄ませ、感じ取った力の持ち主を突き止める。その後、目を見開き激しく狼狽したのは、ルークの力に驚いたからではない。

 

「馬鹿な・・・完全に予定外だ!オレの力を上回ってるじゃねぇか!!これでは計画が・・・いや、その前に勘付かれるぞ!?」

 

執務机を両手で叩き、叫びながら立ち上がる。今すぐルークの下へと転移しようとしたのだが、既の所で踏み留まる。何故ならアークの居る場所が、全ての世界と繋がりを持つ神域だった為。

 

「・・・ダメだ。ここでマークされてるオレが対策もせずに動けば、あの2柱は確実に動き出す。それにまだ、察知出来たのは神域に居た者達だけのはず。しかもあの世界はここ以外と隔離してある。今は気付かれない事を祈るしかない・・・」

 

アークが導き出したのは、何の皮肉か神頼み。祈る相手の居ない彼も、この時ばかりはそうする他なかった。だが何もしない訳にもいかない。出来る限り急いで向かえるよう、全ての執務を放り投げて外出準備に取り掛かる最高神であった。