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Shining Rhapsody

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340話 侵攻28

 340話 侵攻28

 

 

自身の全力を確認し、満足そうに頷くルーク。とは言っても、彼の表情に笑みは無い。何故なら正確な比較対象が無く、それがどの程度の物なのかを測りかねていたのだ。故にその感想はと言うと――

 

「まぁこんなもん・・・なのか?考えてみたら、他の神族の実力なんて知らないんだよな。カレンは別にして」

 

そう。幸か不幸か、他の神族とまともに争った経験が無い。戦闘が全てではないが、手っ取り早く実力差を測るのなら戦ってみるのが一番である。とは言うものの、ルークは別に戦闘狂でもない。食料調達や自衛の為に力を振るう事はあっても、好き好んで自分から殴り掛かるような真似はしない。だからと言って、敵に情けを掛ける事も無いのだが。

 

「それに神力の量で優劣が決まるもんでもないだろうし。シルフィやヴァニラ、それとアークに至っては何となく不気味だしな・・・仮に戦う事になっても、真っ向勝負は避けるべきか」

 

どうして戦う前提なのかは不明だが、ルークの中では一応の方針が決定したらしい。

 

「さてと。自己分析は一旦ここまでにして、まずは目先の処理だ。本当は正面から乗り込んで直接手を下すつもりだったけど・・・この分だと学園都市と同じでいいな」

 

予定通りに行ってないのは自分のせいなのだが、ルークは事実から目を背ける。本来ならば首謀者と思しきミーニッツ国王は、自分自身の手で葬るつもりだった。だが彼を守り抜けるであろう兵士の数は多くない。何しろその尽くが今、ルークの眼前に横たわっているのだから。

 

あとは入り口さえ作れば、魔物勝手に滅ぼしてくれるだろう。そう考えたルークは、王都の防壁に向かって攻撃を開始した。周辺に居る魔物の殆どが逃げ出したとは知らず。

 

 

 

防壁の半分程を破壊し、今度は王城の城壁へと狙いを変更した時だった。移動しようとしていたルークが気配を感じて振り返る。

 

「ん?・・・ティナか」

「ルーク・・・何をしているのですか?」

「何って、王都の襲撃を魔物に任せようと思って防壁を壊してた所」

「来ませんよ?」

「え?」

「ですから、この近くに魔物は居ませんから、此処へは来ないと言ったのです」

「え?何で!?」

「何故って、ルークの魔力に驚いて逃げ出したからですけど?」

「・・・はぁ!?」

 

ティナの簡潔な説明に、驚いたルークが目を見開く。

 

「どうしよう!?」

「はぁ・・・まぁいいです。実は、お願いがあって参りました」

「溜息つかれた・・・オレに頼み?」

「はい。魔物が一斉に逃げ出したせいで、周囲の国へ一挙に押し寄せてしまいそうなのです。帝国とカイル王国は我々の方で対処するつもりですが、その他の国までは手が回らなさそうでして・・・」

エリド村に居る者達で話し合ったが、今回逃げ出した魔物は前回のスタンピードとは質が異なる。多種多様な魔物が一斉に押し寄せるとあって、カレンでも手間取りそうなのだ。尤もそれは、世界の状況を鑑みて、魔物の素材を無駄にしないよう戦う必要があるからで。

 

「やむを得ない場合は一掃しますが、出来れば食材は確保したいのです。それには余りにも手が足りず・・・」

「余裕で切り抜けられるような戦力が欲しい、と」

「はい。お願い出来ませんか?」

「・・・・・」

 

上目遣いで尋ねるティナに、ルークは暫し考え込む。本音を言えば、帝国以外がどうなろうと知った事ではない。だが嫁達はそれぞれ、故郷の事を心配しているだろう。ルークも自分が良ければ他の者はどうでもいい、等とは思っていない。だがリノア達の件に、そろそろ決着をつけたいのも事実。

 

「悪いけど、オレは今回の一件にケリをつけたい」

「そう、ですか・・・」

「だがオレのせいみたいだから、責任は感じてる」

「えぇ」

「だからオレが責任を持って戦力を用意しよう」

「?」

 

戦力を用意する。言葉の意味は理解したが、そのような戦力を保有していると言った報告は受けていない。首を傾げるティナに対し、少し待つように告げてルークは何処かへ転移してしまう。

 

待つ事数分。戻って来たルークの背後には、ティナも良く知る者達の姿があった。

 

「リリエルはリノア達と一緒だから残る9人。正体を隠す必要も無いから、全力を出していいと言ってある」

「シシエルさん達ですか・・・えぇと・・・」

 

彼女達の実力だが、実は他の嫁達には教えていない。カレンは何となく知っていそうだが、それも正確ではない。だからこそティナは言葉を選ぼうとした。そんなティナの考えを察し、ルークが遮るように説明する。

 

「みんな全盛期の力を取り戻してるみたいだから、心配しなくていいと思うよ?」

「それ程なのですか?」

「あぁ。魔力を使わずに移動出来るから、持久力と機動力に関してはカレン以上だと思う。11じゃ敵わなくても、5人掛かりならカレンといい勝負だろうし」

「え!?」

 

想像以上の高評価に、思わずティナが驚きの声を上げる。だがこれ以上は、口で説明するより実際に見た方が早いだろう。そう判断したルークは、未だ戸惑いを見せるティナに彼女達を押し付け、強引に向かわせてしまうのだった。

 

 

 

「少し強引だったけど仕方ないよな。あのまま説明を続けてたら、余計な事まで言っちゃいそうだったし。1つだけ懸念があるとするなら、ミリエルとイリエルがやり過ぎやしないかって事なんだけど・・・」

 

嫁達にもお調子者と良く知られるリリエルは居ないが、何も集団に1人とは限らない。リリエルが代表者として接するお陰で上手く誤魔化せているが、ミリエルとイリエルもお調子者なのだ。いや、言い直そう。所謂問題児である。

 

 

もし彼女達がやり過ぎたら、大事の前の小事と言って逃れよう。そう心に誓うルークであった。