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Shining Rhapsody

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342話 侵攻30

 342話 侵攻30

 

 

ルークは一切の躊躇もなく、次々と貴族と思しき者達の首を刎ねて行く。自らが発した言葉通り、誰の声にも耳を貸さず。命乞いにも、罵声にも顔色1つ変える事なく。そんな悪魔の如き所業もやがて、最後の1人を残すところとなる。

 

「・・・さて、耳を貸さないとは言ったが、仮にも一国の王だ。残される者達への申し送りもあるだろうから、少しだけ待ってやる。今回の一件に加担していない文官達に、簡潔な引き継ぎをするだけの猶予をやろう」

「何故・・・何故だ!?何故ここまでの事をする!?」

「オレに対する問いに答えるつもりはない。時間を無駄にするな」

「貴様!?」

「言い残す事が無いなら、生かしておく理由も無いんだが・・・ちゃんと理解してるか?」

「黙れ、黙れ!こんな真似をして、タダで済む、と――」

 

ミーニッツ国王の言葉が最後まで発せられる事はなかった。忠告が無視されるとわかり、言葉を遮る形で美桜を一閃したのだ。そのまま血振りをして納刀すると、国王の最後を確認することなく振り返って歩き出す。

 

最初は貴族達を全員を始末し、すぐにでも学園都市へ転移するつもりだった。しかし謁見の間の入り口付近に集まった、文官や使用人達の様子に違和感を覚え留まる事にしたのだ。

 

違和感の正体を探るべく、普段よりもゆっくりとした足取りで歩み寄る。その理由は、少しでも長く思考を巡らせようとの考えから。

 

(使用人達の中には青褪めた表情の者もいるけど・・・この惨状にも大半は冷静で取り乱した様子もない。何故だ?殺されない自信がある?いや、どちらかと言えば諦めに近いような・・・)

 

標的になったなら仕方ない。そんな雰囲気を醸し出しているように感じられる。だがそれはそれで不自然な部分がある。そうまでして城に留まり続ける理由に心当たりが無い。

 

(何か離れられない理由があるのか?だが一体・・・文官はともかく、使用人達が城を離れる事で失う物って・・・まさか信用、と言うかその立場か?一旦逃げ出せば、後々そこを指摘される。そうなれば城には居られないのかもしれない。だがそれには・・・)

 

導き出された1つの仮説。ルークの予想通りなら、彼らの目論見は外れる事となる。何故なら、それにはある事が前提に無ければならないのだから。そしてそれは、ルークの予定に無い物なのだ。

 

「あ〜、先に言っておくが・・・帝国がこの国を治める事は無いぞ?」

「「「「「え?」」」」」

「帝国には、今の状況で領地を望む貴族なんか居ないんだ。当たり前だろ?」

「で、では!この国の貴族に!!」

 

ルークの見捨てるような物言いに、1人の文官が食い下がる。

 

「いやいや、それだとこの国の王が変わるだけじゃないか。それにこの国の有力な貴族なら、ほとんどあそこに転がってるだろ?」

「それは・・・」

 

全員が揃ってルークの指差す方へと視線を向け、改めて事実を確認する。

「それにどの道、王都の治安を維持するだけの兵も居ないんだ。手を挙げる貴族は居ないし、居たら単なる愚か者だ。そう長くは保たないだろうさ」

「「「「「そんな・・・」」」」」

 

ルークと彼らのやり取りをもう少しだけ補足するなら、この場に留まった者達は誰よりもわかっていたのだ。城を、国を維持するには自分達が欠かせないという事を。

 

いずれは帝国の人材に取って代わられるかもしれない。だがそれは数年先の事。新たな人材となれば、育つまで待たなければならない。ましてや今すぐ他国の城に移り、国としての機能を維持出来る人材など限られる。しかもそれだけ優秀な者となると、既に要職に就いている訳で。つまりは今居る者達のほとんどを、そのまま雇うしかないのである。

 

 

そんな彼らの目論見も、ルークによって実にあっさりと打ち砕かれる。そうなってしまうと、彼らが次に取る行動など決まっている訳で。

 

「今すぐ支度しないと!

「私は家族を迎えに行かなければ!」

「どけ!」

「ちょっと!何するのよ!!」

 

我先にと醜い争いを始めながら、一斉に大移動を敢行したのだ。それから数十秒後。傍観していたルークだけがその場に取り残される。

 

「・・・・・まぁ、気を取り直してリノア達の所へ向かうとするか」

 

人の本性を垣間見たルークだったが、今回は彼らが勝手に思い込んだ事。早めに知れて良かったはずだと自分に言い聞かせ、今見た光景をさっさと忘れる事にしたのだった。

 

 

気持ちを切り替えたルークが次に向かったのは、大体の目星が付いている学園都市。防壁を吹き飛ばした貴族街である。目的の場所は王都からも繋がっているのだろうが、探すとなると規模が大き過ぎる。学園都市との中間にあるとは思うが、見当違いの場所という可能性もある。その点、学園都市ならば王都よりも方向が絞り易い。何故なら学園都市近郊には魔の森があり、そちらは候補から外す事が出来るのだから。

 

「目指す方角は拓けてない場所。とは言っても近くには無いだろうし、魔の森以外だとしても結構な範囲なんだよな・・・。地道に、地下にあるだろう隠し通路を探すしかないか」

 

王都よりは方向を絞り込めるとは言っても、360度が180度になっただけ。距離も不明である以上、空から虱潰しに探すのは現実的ではない。もしも森の中にあろうものなら、確実に見付けられる保証も無いのだ。結局は隠し通路を探し出し、そこを進むしかない。

 

 

魔法を使って楽は出来るのだが、学園都市の回りで地道に穴を掘り始めるルークだった。