人気ブログランキングへ

Shining Rhapsody

オリジナル小説の投稿がメインです

343話 事後処理1

 

 343話 事後処理1

 

 

ルークが学園都市で穴を掘る少し前。慌ただしく出撃準備を進めるエリド村に動きがあった。戦力にならないスフィアが戦支度を眺めていると、背後から声が掛けられたのだ。

 

「ただいま戻りました」

「ティナさん!と・・・ミリエルさん達?」

「やっほ〜」

 

振り返って現れた者達の名を呼ぶスフィア。だがその声は自信無さ気だった。何故なら、ティナ以外の見た目が全く同じだったからだ。リリエルだけはリノア達と共に居るはず。しかし何処かで入れ替わっていようものなら、瞬時に見分ける自信が無い。今回の場合、リリエルの名を出さなければ不正解は有り得ない。だが別行動の彼女達は予測が出来ないとあって、外れる確率は10分の1。スフィアとしては10%が非常に大きなものだった。

 

そんなスフィアに対し、呼ばれたミリエルが呑気に手を振って答える。

 

「ティナさんはルークの所へ向かったはずですよね?これは一体・・・?」

「戦力として、手を貸して頂く事になりました」

「はい?」

 

事態を飲み込めないスフィアが、ティナに説明を求める。が、返って来た答えも理解に苦しむ物で、思わず聞き返した。そんな2人の様子を訝しんだ者達が、続々と集まって来る。

 

「どういう事だ?」

「ルークが言うには、カレンさん2人分の戦力との事です」

「・・・何?」

「私が2人、ですか?」

「はい。ルークが言うには――」

 

アスコットからの問いに短く答える。だが此方も理解に苦しむ。いや、わかり易い説明に理解は出来たのだが、信じられるかどうかの問題だろう。今度は名前の挙がったカレンが声を上げる。だがティナも全てを鵜呑みにしている訳ではなく、ルークの言葉を伝える事にした。

 

とは言っても、それ程詳しく説明があった訳でもない。ティナが伝えるには、然程時間を要するものでもなかった。

 

「そう、ですか・・・」

「カレンさんは何かご存知ですか?」

「私も実際に見た訳ではないのですが、彼女達の戦いぶりは我々に匹敵するものだと伺っております」

「なるほど・・・ルークの誇張でもないのですね」

「えぇ。彼女達11人が、戦闘に特化していない下級神と同等かそれ以上、と考えて良いでしょう」

「では布陣を再考すべきでしょうか。とは言っても、あまり悠長にしている時間はありませんし・・・カレンさんにお願いがあります」

「何です?」

「ミリエルさん達を連れて、まずはミーニッツ共和国を西へ向かって頂けますか?他の皆さんは学園都市を。殲滅が済んだ者から随時、ヴァイス騎士国に向かいましょう」

 

ティナの提案は、当初エリド村の者達が請け負うはずだったもの。そしてカレンは本来、学園都市を1人で受け持つ手筈となっていた。これは学園長と取引を交わした、スフィアの意向を汲んでのもの。

 

そして何故ミーニッツから西へ向かうのかと言えば、その先にはリノアとエミリアの祖国があるからだ。一方で東にはクレアの祖国があるのだが、そちらは少し余裕がある。手短に告げられた作戦だが、今回は誰もが理解出来るものだった。

 

全員が揃って首肯し、まずはカレンがミリエル達を連れて転移する。それを見送ったティナ達はと言うと、まだ全員の準備が整っていない。支度を急ぐよう告げ、ティナはスフィアの腕を取り移動する。珍しく強引なティナに、スフィアが戸惑うのも無理はないだろう。

 

「ティ、ティナさん?」

「申し訳ありませんが、少し相談に乗ってください」

「相談ですか?」

「・・・ここなら大丈夫でしょう」

 

耳の良い獣人が多いとあって、ティナはみんなから距離を取るべく自宅へと場所を移したのだ。

 

「セラとシェリーを付けますので、戦えない方々を連れて獣王国に避難して頂けませんか?」

「どういう事です?」

 

こちらも当初の予定では、エリド村で留守番をするはずだった。当然護衛の為に人員を割く必要はあったが、それは村にて待機する者が請け負う事で対処しようと考えての事。ギリギリの人数で回そうとしていた作戦を変更する意味は、回転の早いスフィアなら瞬時に理解出来る。

 

「予定に無かった行動をとる、という事ですね?」

「はい。少し胸騒ぎがしまして、ルークと共に行動しようかと・・・」

「胸騒ぎ?・・・ですが、ルークに問題は無かったのですよね?」

「そうなのですが、実はルークの身を案じての事ではないのです」

「?」

 

ルークの心配はしていないと言うのに、胸騒ぎを覚える。いまいち要領を得ないティナの説明に、スフィアは首を傾げた。

 

「何かあったのだと思います。平静を装ってはいましたが、何か他の事に気を取られているような・・・」

「隠し事ですか?何か疚しい事があると?・・・まさか他の女性に手を出したとか?」

「ふふっ、それはありませんよ。誰よりもハーレムの恐ろしさが身に沁みているでしょうから」

「それもそうですね。女性(仲間)を増やすのは我々の方でした。ですが、それでは一体?」

「それを確かめる為にも、私が同行しようと思ったのです」

「幼少の頃から一緒のティナさんには、全てお見通しですからね。わかりました」

 

 

ルークが知れば震え上がるようなやり取りの末、ティナの考えを受け入れたスフィア。ルークに関する事柄は、ティナに任せておけば間違いはない。仮に多少の不満を抱いたとしても、その程度は我慢するだろう。何しろルークがハーレムを築いたのは、ティナにそう仕向けられたからなのだ。

 

美貌で劣るスフィア達が、こうしてルークと共に居られるのはティナのお陰。それを良く理解しているスフィア達の、最も頭の上がらない相手がティナである。本来なら足を向けて寝られないレベルなのだが、それを望まなかったのもティナだった。

 

ハーレムが男にとっての夢である事は間違いない。だがそれは物事の側面に過ぎない。もしも妻同士が不仲なら、間に立つ夫の心労は計り知れない。逆に妻同士が一致団結しようものなら、夫が太刀打ち出来るはずもない。ルークの場合は後者だが、これは全てティナの作戦通りだった。

 

 

そうと決まれば、留守番組のスフィア達も移動の準備に取り掛からねばならない。みんなの居る場所へと戻ったティナとスフィアは、計画の変更を告げるのだった。それを聞いていた男性陣が、ルークを気の毒に思ったのは言うまでもない。