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Shining Rhapsody

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346話 事後処理4

 346話 事後処理4

 

 

「気になる点、ですか?」

「あぁ、道中の敵が使ってた武器なんだけど、なんかしっくり来なくてさ・・・」

「しっくり来ない?それは不自然な点があると言う事ですか?」

「不自然と言うか、何だろうな・・・見慣れてないからそう感じるのかな?」

「?」

 

珍しくハッキリしないルークの様子に、ティナはただ首を傾げることしか出来ない。

 

「これなんだけどさ・・・」

「これは・・・?」

 

ルークがアイテムボックスから取り出した物。それは非常に特徴的な形をした武器だった。

 

「特徴を見るに刀じゃなくて太刀っぽい気はするんだけど、何だかモヤモヤするんだよ」

「鋩子と横手筋・・・ルーク、おそらくこれは長巻直しだと思いますよ?」

「長巻直し?長巻直し・・・あぁ、長巻直しか。へぇ、初めて見たな。・・・・・長巻直し!?」

 

ティナの口から告げられた言葉を理解するのに、ルークはかなりの時間を要した。何故なら日本で暮らしていた時ですら、実物を目にした経験が無かったからだ。刀には長巻直し造りと呼ばれる物もあるのだが、作るつもりも無かったためルークは学んでいない。どういった物かは知っているが、それは刀鍛冶ではなく歴史から学んだ程度。

 

何故ティナが詳しく知っているのかと言うと、神崎家の祖父母を尋ねて来る親しい知人の中に、刀剣類を持ち込む者も少なくなかった為だ。彼らはユキの体調を考慮した上で、本当に仲の良い知人の場合に限り同席を許可していた。ユキとしても良い退屈しのぎとあって、鮮明に記憶に残っていたのである。

 

そんなユキの知識があるからこそ、ティナには気になる事がある。

 

「長巻直しがあるということは、薙刀や長巻も何処かにあったのでは?」

「いや、まだ見てないな。というかそんなの、地下通路じゃ振れないだろ?」

「それもそうですね。では、ここを抜けた先に・・・」

「あるかもしれないな。そして、ランドルフさん経由で広まったのかと疑ってたけど、長巻直しとなるとそれも違う訳だ。」

「ルークが知らない物を、作れるはずがありませんからね」

 

ティナは断言したが、ランドルフに作れないと決まった訳ではない。もしかしたら、突然閃いて作った可能性はある。だが彼らを取り巻く環境を誰よりも熟知しているからこそ、ティナは言い切った。彼らの中に槍を使う者すら居ないのである。薙刀や長巻では武器として長過ぎる。

 

鍛冶師として長年追い詰められていたランドルフだからこそ、気分転換に使い手の居ない武器を作る時間など無かったのだ。それに、パッと思い付いて作ったにしては、目の前にある長巻直しの完成度は高過ぎる。

 

「となると、確実に居るな・・・転生者か転移者が」

「はい。それも、私達より相当昔の方かもしれません」

 

 

ティナが昔の人物と告げた根拠は、当然長巻直しにある。ユキと同じ時代か少し前に生きた人物であれば、ほぼ確実に日本刀を作るからだ。使い手の身体能力によっては太刀や大太刀になるかもしれないが、長巻という選択肢はほぼ無いだろう。

 

相当長巻に精通した者でなければ作れないが、そういう人物は刀剣全般に秀でているはず。そんな者が異世界にやって来る確率と言ったらお察しの通り。そうなると、考えられるのは長巻が一般的だった時代の人物。だがそこにはルークが異を唱えた。

 

「昔の人ってのは飛躍し過ぎじゃないかな?」

「何故です?」

「そもそも長巻直しが存在するという事は、始めに長巻を作ったからだ。でも何で槍以外に長柄の獲物を必要としたと思う?」

「・・・ひょっとして魔物ですか?」

「そう考えるのが自然だと思う」

 

ティナが自分と同じ答えに辿り着いた為、ルークがそれ以上の説明をしなかった。補足しておくと、よりリーチの長い槍ではない理由は、その人物が槍を苦手としていたからではない。魔物の群れに遭遇した時、突くよりも斬る方が生存する確率が高いからだ。

 

確かに槍は強いが、魔物の群れを相手にするには相当の実力が必要となる。動き回る相手の急所を、的確に突かなければならないからだ。しかし刀剣ならば、突く以外にも斬るという選択肢がある。どちらも行える長巻、もしくは薙刀がどうしても必要だったのだろう。何故ならその人物は、重大な欠点を抱えていたと考えられる為だ。

 

「その方は転移者だったのですね?」

「おそらくそうだろう。仮に転生したなら魔法が使えるはずだから、長柄である必要は無いし。で、時が経つか人が集まるかして行く中で、取り回しの良い長さに造り変えたんだろうな」

「普通は魔法を使いますからね」

 

ある程度の間合いなら、普通は魔法や飛び道具で対処する。だからこそ一般では、持ち運びに邪魔な槍等を使う者は少ない。好んで使う冒険者は居るが、使用者の多くは兵士である。それ程魔法は優れているのだ。

 

映画等の光景を思い出してみると、マシンガンを構える兵隊が槍や剣を装備していただろうか?いいや、普通はナイフである。誰だって銃があればそちらを選ぶだろう。邪魔な物を装備する必要など無いのだ。

 

 

「アークは転生者も転移者も居ないと言ってたけど、あれは真っ赤な嘘だったのか、もしくは本当に知らなかったのか・・・」

「私は後者な気がしますけどね」

「何で?」

「女神カナンの被害者である月城さん達に対し、シルフィさん達が随分と必死になっているからです」

「あ〜、前例があればそこまで慌てる必要も無いよな」

「それに言い方は悪いですが、見ず知らずの他人でしたら態々隠す必要は無いと思いますよ?」

「・・・それもそうか」

 

 

ティナに言われて納得したルーク。今考える事でも無かったのだと、気付かせてくれたティナに笑みを向けるのだった。