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Shining Rhapsody

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347話 事後処理5

 347話 事後処理5

 

 

ティナのお陰で気掛かりが1つ消え、表情が大分明るくなったルーク。そんな彼とは対象的に、ティナの表情はあまり優れない。何故なら会話をした分だけ時間を費やしたからだ。

 

「ルーク、すみませんが少し急いで頂けますか?皆さんの事が心配ですので・・・」

「ん?そんなに・・・いや、わかった」

 

そこまで心配せずとも、エリド村の者達であれば23日は大丈夫だろう。一瞬そう思ったルークだが、今回ばかりは急いだ方が良いかもしれない。そう考え直し、言い返すのを思い留まった。ミリエル達がやり過ぎないか、未だに心配なのだから。

 

再び長巻直しを収納し、ティナに目で合図を送ってから走り出す。これまでは最低限の罠にだけ対処しつつ進んで来たが、この先はそうもいかない。追走するティナが居るからだ。

 

ルークの足取りと寸分違わずに移動する事は出来ない。足の長さと脚力に差がある為だ。ルークは大分ペースを落としているのだが、ティナにとってはほぼ全力だった。身体能力の差が、そのまま罠の回避性能に繋がる。ルークならば届く1歩がティナには遠い。

 

(見た感じ、このスピードでもあまり余裕は無さそうだな・・・。仕方ない、進み方を変えるか)

 

少しだけ振り返り、ティナの様子を窺い方針を180度転換する。可能な限り罠を発動させ、対処しながら進もうというのである。ルークの速度は落ちるが、ティナに余裕が生まれる。それにルークは相当な余力を残しているのだから、もう少し力を出せば良いだけの話。

 

地面や壁に仕込まれた罠を片っ端から発動すべく、ルークはその算段に移る。とは言うものの、手や足、刀で四方を突きながら走る訳にもいかない。考えるまでもなく魔法に絞られた。

 

(火はダメだし、狭いから風も微妙。水と土は足場が悪くなるから・・・氷一択か。まぁ、氷も溶けたら水と一緒なんだけど・・・飛び散らないだけマシってところか。選択肢が多いように見えて、全く無かったな)

 

ここに戻って来ないのなら、地下通路がどうなろうと構わないのではないか。そう思ってしまうが、何時でも転移すれば良い訳でもない。リノア達以外にも囚われている者が居た場合、正規の手続きを踏んだ方が良かったりもする。

 

他にも被害に合った者達が居たからついでに連れて来ました、ではルークが最後まで面倒を見なければならない。何でもルークが関わっていては、やがて首が回らなくなってしまうだろう。それに上に立つ者として、部下の仕事を奪うのはよろしくない。

 

 

考えが纏まったルークは、突然の急停止。何事かと思ったティナは、息を整えながら声を掛けた。

 

「はぁ、はぁ・・・ルーク?」

「小さめの氷を撃ちまくれば・・・何とかなるよな?」

「え?」

「少し足場が悪くなるから、気を付けて走って」

「はい?」

 

聞き返すティナに答えることなく、ルークは魔法を発動させる。ルークの前方に現れたのは、数え切れない程大量の小さな氷の粒。それを一気に撃ち出すと、着弾と同時に駆け出した。これにはティナも呆気に取られ、ルークを追い掛けるのが遅れる。

 

「チート、という言葉で片付けるにはあまりにも・・・っ!?追い掛けなければ!」

 

魔法を覚えたての者以下の威力しかないルークの魔法。だがティナが驚いたのはその威力。足元に転がる氷の粒は、どれも同じ大きさだった。魔法は威力を上げる方が簡単なのだ。大魔法は規模に見合った魔力を込めれば良い。だが威力を抑え込むのは違う。誰にでも無意識に発動する基準が存在するのだ。その基準以下で魔法を行使する場合、非常に緻密な制御を要する。

 

単発でも難しい極小規模な魔法を、ルークは数え切れない程に放っている。しかも走りながら、途切れる事なく。一切の無駄が無いそれこそが、ルークの強さの秘密かもしれない。そんな事を思いながら慌てて後を追った。

 

 

転がっている氷の粒が小さい事もあり、ティナが踏んでも砕ける。お陰で然程苦労する事なくルークに追い付いた。そんなティナの耳にルークのボヤキが届く。

 

「にしても、罠が多すぎだろ!馬車はどうやって通ったんだよ!!」

「日数が経過してますから、ゆっくり準備したのではありませんか?」

「・・・正論だな」

「ふふっ。あ・・・」

 

始めは罠など仕掛けられていなかったのだろう。そして通り過ぎた所から順に罠を仕掛けていったのではないか。そんなのは少し考えればわかる事だが、魔法に集中しているためかルークは気付かなかったらしい。そんなルークに苦笑したティナだったが、突然ある事に気付く。ティナの不穏な声に、ルークは足と魔法を止めて振り返った。

 

「どうした?」

「いえ、非常に言い難い事に気付いてしまいまして・・・」

「言い難い事?」

「はい」

 

ティナの考えが読めず、ルークは首を傾げながらティナの言葉を待つ。出来れば言わない方が良いのかもしれない。そう思うティナだったが、多分ルークは諦めないだろう。それにきちんと伝えた方が、ティナとしても目的を達成し易い。

 

「えぇと、ルークは罠を発動させる為に魔法を放っていますよね?」

「あぁ、そうだな」

「その・・・地下通路の内側を土魔法で覆ってしまえば・・・罠を気にする必要も無くなるのでは?」

「え?・・・はっ!?」

 

 

360度隈なく氷の粒をぶつけるのも、土魔法で覆ってしまうのも、消費する魔力量に大差は無い。寧ろ土魔法で一気に覆ってしまう方が簡単なのだ。愕然とした様子のルークに、ティナは心の中で謝りつつも呟くのだった。才能の無駄遣い、と。