349話 事後処理7
349話 事後処理7
ティナを地下通路に残し、ルークは学園都市の外へと転移した。何れは訪れた事の無い場所にも転移出来るようになるのかもしれないが、今はまだ違う。理由は不明だが、転移出来るのは一度訪れた場所に限定される。
地下通路の入り口から、どの方角へどの程度の距離を進んだのか把握している。ならばそこから空を飛んで近付こうというのである。偵察が済んだらティナの待つ場所へ転移すれば良いのだから、何とも簡単な役目である。
ルークとしても、ティナを残しておく事に不安が無かった訳ではない。だがキッパリと断られては、しつこく誘う気にならなかった。ティナも自分の意思で飛び回れるならまだしも、他人任せで空の旅はしたくない。飛行機のように実績を積み重ねてもいなければ、竜王の背という謎の安心感も無い。そんな危険なアトラクションなど、まっぴらごめんである。
誘いを断られたルークだが、特に拗ねた様子もない。当然だろう。高い所が苦手なんだろうな、程度にしか思っていないのだから。そのうち誰かがハッキリ告げてくれるのを待つしかないだろう。飛行という行為に関して言えば、ルークは信用出来ないのだと。
「え〜と、この向きだとあっち・・・ん?」
地下通路の入り口を前に、目的の方角を向いたルーク。それと同時に、何やら慌ただしく動き回る者達の気配を感じ取る。
「この気配はナディア達か?1人ずつ分散するのかと思ったけど、数人の気配が纏まってる所を見ると、チームを組んで対処するつもりか。この分だと案外大丈夫そうだが・・・そもそも、そんなに魔物が来るのか?」
騒ぎの張本人には、そこまで大事になっているとは信じる事が出来ない。ティナを待たせているが、その時間が数十秒伸びる程度であれば構うまい。そう判断して、本来の目的地とは異なる方向へと飛び立った。魔物の群れが押し寄せるのが事実であれば、遠くからでも何らかの兆候は捉えられるはず。そう考えて、上空から観察しようと考えたのだ。
ルークは猛スピードで、ミーニッツ共和国の王都がある方角へと斜めに飛び上がる。水平に移動しないのは、何処まで進めば確認出来るか不明なため。元々半信半疑な上、そちらに時間を割いてはティナに叱られる可能性がある。ある程度区切りをつけて行動すべきだろう。
数十秒後、かなりの高高度に到達すると、空中に静止してじっくり目を凝らす。するとルークの目に異変が映り込んだ。
「う〜ん・・・ん?んん?・・・マジかよ」
遥か彼方の森から飛び立つ、おびただしい数の鳥。その横に見える平原に視線を移せば、地平線を埋め尽くす程大きくうごめく黒い影。ハッキリとは見えないが、魔物で間違いないだろう。
「あの距離だと、学園都市までは3時間くらいか?ってか、前回のスタンピードより多くね?」
当然である。前回のスタンピードやって来た魔物に加え、元々生息していた魔物までもが一斉に逃げ出したのだ。その勢いは、大都市が1時間も経たずに粉微塵になる程だ。実際は防壁を避ける魔物も居るだろうから、壊滅するにはもう少し時間が掛かるはず。
「この国より北にはカレンとミリエル達が向かったんだよな?だったら魔物の殲滅に関しては大丈夫か。問題はこっちだよな・・・村のみんなでも無事には済まないだろうし」
例え危機的状況に陥ったとしても、カレンは転移出来るし、ミリエル達は飛んで逃げる事が出来る。それに実力的にも不安は一切無い。寧ろ心配なのは、やり過ぎないかという事。魔物を殲滅するのに、国まで一緒に滅ぼしては本末転倒。この時点で、ルークが抱いた危機感は限界に到達する。
「流石にあの数を相手にしたら、カレンでも余裕は無くなるだろ。そうなればとんでもない一撃を繰り出すに決まってる。ヤバイ!ナディア達に手を貸して、それからミリエル達がやり過ぎないように監視しないと!!っと、その前にリノア達の回収か!?一番余裕ねぇのはオレじゃねぇか!」
そう、今最も時間が無いのはルークである。そもそも、リノア達の下へも魔物の群れが押し寄せる可能性があるのだ。のんびりしている時間は無い。ティナ以上に危機感を抱いたルークは、慌てて移動を開始する。時間短縮のため学園都市上空へと転移し、そこから全速力で目的の方角へと飛び立った。
数分後、ティナの気配を感じ取り急停止。そこから周囲を見渡し、目的の場所を見つけ出す事に成功する。だがそこには、予想通りの光景と予想外の光景が入り交じっているのであった。これには焦っているはずのルークも思わず思考停止に陥る。
「これは・・・どうなってるんだ?」
ルークが幾ら考えたところで、正解を導き出す事は出来ないだろう。いや、正解には案外容易に辿り着くかもしれない。だが、それが正解だという確信は得られない。こういう時どうするのかと言うと、誰かに相談するしかない。その相手が今はティナという事である。
ルークが上空からティナの下へと転移すると、待ち侘びていたティナが問い掛ける。
「どうでしたか?」
「いや、うん。村はあったよ」
「そうですか。それで、どうだったのです?」
「どう・・・なってるんだろうな?」
「?」
「なんかリノア達、守られてるっぽい」
「一体誰が、誰からリノアさん達を守っていると言うのです?」
「暗殺者が・・・暗殺者から?」
「・・・はい?」
自分は何を言っているのだろう。そう思い首を傾げながら答えたルークに対し、ティナも同じように首を傾げるのだった。