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Shining Rhapsody

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351話 事後処理9

 351話 事後処理9

 

 

ルークは返答に窮する男性から視線を外し、残った者達を順番に観察して行く。すると牽制する形で先に観察していたティナが声を掛けた。

 

「ルーク、この方達は・・・」

「オッサンの集まりだな」

「・・・・・」

 

どういう訳か、今目の前に立っているのは50歳前後の男性ばかり。振り返って、先程斬り伏せた者達の顔を良く見る。此方はそれよりも若い者達で構成されている。ここから推察される事の1つを、ルークは思わず口にした。

 

「故郷を捨てられない年寄りと、都会に憧れて飛び出す若者の対立・・・」

「ルーク?」

「ごめん、冗談だから」

 

的外れである事はルーク自身もよくわかっている。注視すべきは年齢ではなく他の部位。そこには気付いたが、そこまで至った経緯を推測するには少し時間が足りない。つまりは考えをまとめる為の時間稼ぎ。

 

「・・・左右の腕や足のバランスがおかしい者達が多いのを見るに、つい最近まで欠損していたんだろうな」

「確かに・・・そのようですね」

「そんな者達の所へ偶然にも、魔法薬を研究していたリノア達が連れ去られて来た。部位欠損を治療出来るポーションを作れるようになったと聞いているし、研究用に相当な数の素材を渡してあると聞いている」

「あぁ、なるほど。経緯は不明ですが、恩を感じた者達がリノアさん達の側についたと」

 

ルークの説明でティナも同じ考えに辿り着く。すると先頭に立っていた初老の男性が口を開いた。

 

「お二方のおっしゃる通りです。我等はあの方々に救われました」

「だから仲間を裏切ったと?」

「仲間・・・そのように見えるのでしょうな」

「「?」」

 

ルークの問いに対し、険しい表情を浮かべる男性。これにはルークとティナも首を傾げる。

 

「確かに同じ村に住んではおりましたが、我等は邪魔者扱いされていたのですよ」

「それは腕や足の欠損と関係が?」

「えぇ。任務を遂行する中で怪我を負い、戦えなくなったのが我等です」

「任務と言うのは暗殺などの類ですか?」

「暗殺?いえいえ、過去にはそのような者も居たようですが、今生きている者達の怪我は護衛や魔物の討伐によるものです。それに貴族から後暗い仕事を引き受けては、いずれ口を封じられてしまいます。それ故、何度もあの者達を止めようとしたのですが、邪魔者と思われている我等には難しく・・・」

 

確かにこの者の言う通りだろう。人に言えないような仕事をしていれば、使えなくなった時に処分されるのは誰にでもわかる。真っ当な仕事しかせず、その中で負傷した者達だからこそ、今日まで生き延びられたのかもしれない。だがそれが真実であるとも言い切れない。

 

 

 

「そうなのかもしれないが、その辺は後で確認するしかないな。それよりも、女子供の姿が一切見えない理由は?」

「ほとんどの者達は村にある家の中に居る為です」

「「ほとんど?」」

「えぇ。腕の立つ者が数名、リノア様達の護衛としてお側に仕えておりますので」

「「はぁ!?」」

 

まさかの展開に、ルークとティナが驚く。この男性の言葉が本当なら、結界の中に招き入れたと言うのだ。リリエルが居るから心配ないとは言え、何があればそのような展開になるのか。流石のルーク達にも想像出来ない。

 

「・・・どうしますか?」

「そうだな。リノア達の無事を確認したい所だけど・・・それは周囲の安全確保が終わってからでもいいだろう」

「既に安全は確保されていますよね?」

「ん?まだこの者達と、他にも村に残ってるんだろ?」

「それは・・・1人残らず処刑する、と言う意味ですか?」

「「「「「っ!?」」」」」

「あぁ。皇族にちょっかいを出したんだ、普通は死罪。それなりの理由が無い限り、オレが勝手に法を曲げる訳にはいかないだろ?」

「「「「「そんなっ!?」」」」」

 

自分達はリノア達を守っていた。それなのに死刑を宣告され、全員が揃って異を唱える。しかしこの場合はルークが正しい。王族に危害を加えた場合、一族諸共処刑されるのが慣例である。幾らリノア達を守っていたと喚こうが、同じ村の住人達が誘拐した事実は消えないのだから。裁く者によっては命を繋ぎ止めるかもしれないが、それでも幾分か罪が軽くなる程度だろう。

 

「そもそもお前達の誰か1人でも、何処かに通報しようと行動したのか?」

「「「「「それは・・・」」」」」

「だったら交渉の余地は無い。そして現時点でハッキリしているのは、オレ自身がこの村の住人達に襲われたという事。リノア達を守るフリをしていたと捉える事も出来る以上、お前達の言葉を信用する事は出来ん。まぁ、リノア達の証言でもあれば話は別だが・・・」

「でしたら!」

「だがリノア達は脅迫されて、虚偽の証言をするかもしれない。そしてオレには真偽を確かめている時間が無い。そうである以上、今手元にある情報だけで判断するしかないだろ?つまりは一族郎党、尽く死罪だ」

「「「「「そ、そんな・・・」」」」」

 

非情な物言いをしているが、これはルークの本心ではない。別にリノア達を守ってもらう必要は無かったが、それでも上空から確認した感じでは守ってくれていたように見えた。タイミング良く報酬の取り分で揉めている所に出くわした、とは思えない。

 

 

ルークは常々、恩には恩を、仇には仇を返すべきと考えている。つまりルークにとって、彼らは恩人と言える。そのような者達に対し、恩を仇で返すような真似はするはずがない。だがこの場で、その事実を知るのはティナのみ。そんな彼女が口を挟まないのは、例え些細な情報だろうと与えてはならないと考えていたから。誰であろうと、ルークの性格を利用される訳にはいかない。当然である。ルークの事を熟知しているのは嫁達くらいのもの。それ以外の者がルークを利用する行為など、言ってみれば何がキッカケで爆発するかわからない爆弾を相手にしているようなものなのだから。

 

 

ルークの性格を理解しているティナだからこそ、何故ルークが嘘を吐いたのかが理解出来た。

 

(敢えて追い込んでいるのは、相手の出方を伺って情報を手に入れようとしているからですね。仮に恩人だろうと、自棄になって襲い掛かって来る者は処断。その場合は私も動くとして、それ以外ならこのまま静観、しかないでしょうか・・・)

 

この後の反応を予測し、自分が取るべき行動を決定する。とは言っても、わかり易い反応以外は見守るしかないのだが。

 

 

「さぁ、他に申し開きがあれば聞くが?」

「「「「「・・・・・」」」」」

「何も無ければ一族全員、このまま処刑だぞ?」

「「「「「・・・・・」」」」」

 

もう猶予は無いとばかりに追い込むルーク。一方、ルークを納得させる手段が見つからず、何も言い返せない者達。何らかの反応が欲しいルークではあるが、このまま口先だけで追い込み続けるのは不自然。そう考えての最終勧告。

 

「・・・何も無いようだな。なら仕方ない。オレの手で――」

「あ!ルーク〜!!」

「オレの手で・・・」

「ひょっとして、お迎えですか〜?」

「・・・・・」

「リノアさん・・・私以上ですね」

 

 

あと一歩という所で、この場に相応しくない呑気な声が響き渡る。シリアスな雰囲気を全開にして仕切り直そうとしたルークだったが、空気の読めないリノアは知ったこっちゃない。こちらに向かって大きく手を振るリノアを眺めながら、ティナは苦笑混じりに呟くのだった。空気を読む事に関しては、自分の方がまだマシだよ、と。