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Shining Rhapsody

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352話 事後処理10

 352話 事後処理10

 

 

何とも言えない表情のルークが待っていると、ログハウスから出て来たリノア達が揃って駆け寄る。

 

「お待たせしました!ティナさんもいらしてたんですね?」

「えぇ。あまり時間がありませんから」

「時間、ですか?」

「・・・・・」

 

状況を把握出来ていないリノア達が、互いの顔を見つめながら首を傾げる。こういう時、真っ先に事情を説明するべきルークは黙り込んだまま。シリアスをぶち壊された挙げ句、意図せず制限時間を設ける事態を招いた張本人。流石に自分の口からは言い出し難かった。

 

そんなルークに代わり、ティナが詳しく説明する。事態を飲み込んだリノア達は、ルークへと視線を向けた。

 

「私達は大丈夫ですから、お二人はすぐにでも向かって下さい!」

「いや・・・その前にやっておかなきゃならない事がある」

「何でしょう?」

「ここの住人達の処刑だ」

「「「「「っ!?」」」」」

 

処罰ではなく処刑。つまりは皆殺しである。有無を言わせないルークの態度に、誰もが思わず息を呑む。本来なら然るべき場所で事情聴取が行われるのだが、それすらも必要ない状況だと言うことが容易に理解出来てしまった。

 

こうなってしまうと、帝国内に意見を差し挟める者は居ない。唯一許される可能性があるとすれば、皇帝の家族――つまりはリノア達である。

 

「ま、待ってください!」

「・・・発言を許そう」

「この方々は、私達を守ってくださいました!」

「確かにそうなのかもしれないが、少なくともオレは守られてない」

「それは・・・」

「仮にリノア達の誘拐と相殺しても、ここの住人達が皇帝暗殺を目論んだ分は裁かなければならない」

 

相殺。この言葉で、勘の良い者は気付く。

 

「でしたら――」

エミリア、オレが発言を許したのはリノアだけだ」

「っ!?失礼致しました」

 

淡々と告げたルークに対し、エミリアはすぐさま頭を下げる。この場で気付いたのは、ティナとエミリアの二人。これがリノアでなくスフィアだったら、きっと二人は気を揉む事なく傍観していられただろう。ルークに出来る最大限の譲歩なのだが、リノアが気付けるかどうかで未来は正反対へと進むのだから。

 

「リノア、他に言いたい事は?」

「・・・元学友、友人の命も奪うと言うのですか?」

「少なくともオレは、自分を誘拐するような者を友とは呼ばない」

「・・・・・」

 

政治にも、ましてや駆け引きにも不慣れなリノアが、見当違いの切り込みを見せる。当然そんな事ではルークを切り崩す事など出来ない。

 

リノアの後ろに居るエミリアでは、手助けする事が出来ない。この場で唯一助けを出せるのは、ルークの死角に立つ自分だけだろう。そう思ったティナが、飲み物を飲む仕草をする。

 

「?・・・!?の、喉が乾きませんか!?」

「は?」

 

突然の問い掛けに、ルークは鳩が豆鉄砲をくらったような表情を見せる。エミリアは俯きながらしかめっ面をし、ティナは大きく首を振っていた。

 

「・・・気遣いは嬉しいが、生憎喉は乾いていない」

「そ、そうですか・・・」

 

ルークの返答に対し、リノアは上の空。何故なら、ティナの新たなジェスチャーに夢中だったからだ。

 

 

何かを飲む動作の後、服の中に引っ込めていた右手を外に出すティナ。この時点で、静観していたクレアも気が付いた。だが発言を許されていない以上、彼女もリノアを見守るしかない。

 

「ゆっくり考えを纏めて欲しい所だが、残念な事にあまり時間が無い。少し急いで貰えるか?」

「え?わかりました(飲んで、腕を出す?喉が乾いた・・・)亀?」

「亀?」

「「ぶふぅー」」

 

想像していなかった発言に、エミリアとクレアが堪えきれずに吹き出す。ティナは必死に笑いを堪えながら、大きく首と手を振る。

 

「え?あれ?違う?」

「・・・・・ティナ、さっきから何をしているんだ?」

「な、何もしていませんよ?」

 

不正解が意外だったのか、リノアの口から心の声が漏れ出す。彼女の視線がティナに釘付けだった事で、流石にルークも何が起こっていたのかを悟る。振り向きながら確認するが、ティナは明後日の方向を向きながら惚けた。

 

「はぁ。まぁいい。悪いけど、リノアの後ろに行ってくれるか?」

「・・・わかりました」

 

部外者から見れば、自分の目の届かない所でコソコソしていたティナを咎めた格好になる。それに渋々従うティナの構図に映るのだが、実際は違う。現状ではルークとティナにしか出来ない、阿吽の呼吸である。

 

 

リノアの背後に回るべく、ゆっくりした足取りで移動するティナ。そんな彼女がすれ違いざま、リノアだけに聞こえるよう囁いた。

 

(態々魔法薬で欠損を治したのですよね?)

「え?・・・っ!?」

 

幾ら天然なリノアでも、王族としての教育は受けている。駆け引きには不慣れでも、知識は持ち合わせていた。魔法薬での治療、しかもティナは『態々』と付け加えた。ならばどういう展開に持ち込むべきかは理解出来る。

 

「ル――皇帝陛下!恐れながら申し上げます!!」

「何だ?」

「この者達は、我々が貴重な魔法薬を用いて欠損を治療致しました」

「ほう?」

「それなのに処刑してしまっては、消費した魔法薬が無駄になります」

「確かにそうだな」

「つきましては、この者達に対する刑を再考頂けないでしょうか」

「いいだろう。そうだな・・・ならば、この者達の命はリノアに預ける。但し、何か問題が起きた場合、リノアが責任を以て処刑しろ」

「はい!ありがとうございます!!」

「お前達もそれでいいか?」

「「「「「ははっ!」」」」」

 

 

天然と大根役者による三文芝居ではあったが、そこに口を挟む者はいない。住人達は死にたくないし、

リノア達も折角治療した者達を殺されては堪らないのだ。それに一見損得の無さそうなルークにとっても、今回の件はそれなりに利益がある。

 

 

最も狙われやすいリノアが、恩を売って兵力を得る。出来れば裏切る可能性の低い者達に任せたいと思うのは当然である。しかもこの者達ならば、リノアを通して諜報に使えるかもしれない。ひょっとしたら烏合の衆という可能性もあるが、だとしてもマイナスになる事は無い。

 

 

折角打った一芝居が無駄にならず、ホッと胸を撫で下ろすルークだった。