353話 事後処理11
353話 事後処理11
リノア達の件が一先ず片付き、ルークは今後の動きを確認する。
「それじゃあ、ティナはオレと一緒に学園都市へ向かうとして・・・リノア達はどうする?」
「どうする、とは?」
「一旦城へ帰るか、スフィア達の居る獣王国へ行くか、それともここに残るか」
最も安心なのは獣王国で匿って貰う事だが、リリエルが居るため何処に向かっても心配ない。問題なのはこの村の住人達だろう。転移で一緒に連れて行く訳にも行かないし、リノアに一任した以上はルークが勝手に決めるのはまずい。
「えぇと、いずれはここにも魔物が押し寄せるのですよね?」
「どう・・・だろうな?最悪の場合でも結界があるし、案外大丈夫なんじゃないか?」
「何故ですか?」
「魔物の討伐をミリエル達に任せたから」
「えっ!?」
「「「「「?」」」」」
ルークの説明に驚いたのはリリエル。他の者達はその理由がわからず、揃って首を傾げる。
「みんなに任せちゃったんだ〜」
「あぁ」
「だからルークは急いでたんだね〜」
「ちょ――」
「リリエルさん?詳しく聞かせて頂けますか?」
慌てて口止めしようとしたルークだが、位置関係が悪かった。リノアの正面に立っており、物理的にリリエルの口を塞ぐには回り込まねばならない。一方のティナはリノアの背後。即ちリリエルのすぐ横である。本気を出せば移動速度では勝てるのだが、そんな事をすればリノアが驚いて倒れるかもしれない。
ティナがリノアの背後へ移動していなければ。目の前に立っているのが戦闘経験のある者だったら。そんな不運が重なったとしか言いようがなかった。
「あれ?知らないの?私達って、万全の状態まで復活してるでしょ?」
「それは知ってます」
「今までは回復手段が無くて節約してたけど、今はルークが居るからその必要も無いよね?」
「まぁ、そうですね」
「だから〜、大暴れしちゃうと思うよ〜?」
「なるほど・・・はい?」
一度は納得したティナだが、すぐに聞き返す。大量の魔物を殲滅するのだから、結果的には大暴れという表現も適切なのではないか。そう思ったのだ。しかしリリエルの様子を見るに、問題行動なのは明らか。
「大暴れとは、どの程度のモノなのです?」
「う〜ん、ルークの指示にもよるけど・・・良くて魔物は跡形も残さず消し飛ばす。酷いと地形が大きく変わっちゃうんじゃないかなぁ?」
「そうですか・・・ルーク?」
「い、いや、そのためにカレンを同行させたから・・・」
「え〜?カレン様1人じゃ、殺す気でもないと今のみんなは止められないでしょ〜?」
「へぇ・・・」
笑顔のティナだが、その目は笑っていない。流石のルークも、これには恐怖で反応が遅れる。本来ならば驚異的な頭脳と身体能力を駆使し、既に全力の土下座へと移行していたはず。明らかに出遅れたのだが、それでも体が勝手に反応した事で思考が再開する。
まだ間に合う。誠心誠意、謝罪しようとして腰を落とす。だがこの中途半端な体勢で、予想外の展開が訪れた。
「まぁ、いいでしょう(問い質すまでもありませんでしたね)」
「す・・・へ?」
「今、魔物の食材がどれ程貴重であるか、皆さんが理解していないとは思いません。それに起きてもいない事で誰かを責めるのは理不尽というもの。結果を見て判断しましょう」
「い、いいの?」
「はい。ですから、その可笑しな体勢を止めてください」
「わかった・・・」
ティナのお叱りを回避し、ルークは心の底から安堵する。だがリリエルの言葉によると、それはあくまで先延ばしに過ぎないのは明白。だからこそティナが釘を刺す。
「結果を見て判断しますから、最悪を回避するよう動いてくださいね?当然被害が大きいようでしたら、その責任の取り方についても」
「あぁ、承知しているよ」
「では、リノアさん達の動向に話を戻しましょう」
「え?あ、はい!」
「この村のみなさんに対し、ルークが直接指示を下すのは良くありませんから、私が助言します」
「えぇと、すみません。それは何故でしょう?」
王族としての教育は受けているが、踏み込んだ政治的駆け引きとなるとリノアは弱い。リノアは、というより普通の王女は、と言った方が良いだろう。だからこそティナが口を挟む事にしたのだ。それを自覚しているからこそ、リノアは素直に質問した。
「そちらの方々については、先ほどリノアさんに一任されましたよね?」
「はい」
「それなのにルークが口を出しては、リノアさんを蔑ろにしていると捉えられてしまいます」
「それは・・・ルークが私を通して指示するのならば、問題無いのではありませんか?」
「通常ならばそうです。ですが今回は違います」
「通常・・・ではないのでしょうか?」
「えぇ。まず、そちらの方々は帝国の民ではありません。ですからどういった背景でリノアさんに仕える事になったのか、我々以外に知る者が居ないのです。これを周知させるには時間が掛かります」
「ルークの口から説明して貰えれば良いのではありませんか?」
知らせるだけなら、リノアの言った通りだろう。だがそれは上辺だけでしかない。
「それで誰もが納得出来れば良いのですが、事はそう単純でもありません。まずルーク・・・皇帝陛下の口から説明は行われます。これは絶対です。その時点で最初の反発が起こります」
「私達を誘拐した者達が罰せられていないから、ですか?」
「違います。誘拐された王族の女性が皇帝の后のままであるという点です」
「「っ!?」」
リノア、クレアは失念していたのだろう。例え傷一つ、指一本触れられていなくとも、王侯貴族にとっては誘拐されたという事実そのものがマズイのだ。これが妾であればまだ良いのだが、今回の場合は正室と側室である。そんな者達が離縁もせず、これまでと変わらぬ立場のまま。これはどの国であっても、まず有り得ない事。せめて子供でも居れば反発も少ないだろうが、ルーク達の場合はそうもいかない。
「まぁ、これについてはルークとスフィアに任せておけば、どうとでもなるでしょう。最悪、お2人の立場が妾扱いになるかもしれませんが、私達にはどうでも良い事ですし」
「仕方なく順番を決めてますからね・・・」
「クレアさんの言う通りです。まぁ、それは良いとして、次の反発がリノアさんのおっしゃった内容です。この証明に少しだけ時間は掛かりますが、みなさんはそれ程大変でもありません」
「時間ですか?」
「はい。欠損を回復出来る魔法薬を調合し、実際に効果を証明してみせる事ですね」
「「「あぁ・・・」」」
これにはリノア、クレア、エミリアが頷く。欠損の治療が出来るとなると、かなり貴重な回復役であり作製可能な者は少ない。それを魔法で行えるルークは、正にチートである。
リノア達が揃って納得したため、ティナはそれ以上の説明を省くのだが、実は効果の証明に時間が掛かる。何故なら被験者の選定が面倒なためだ。スラム街に行って適当に見繕うのが手っ取り早いのだが、それでは役人や貴族が納得しない。何しろ彼らの身の回りに、欠損で苦しむ者が居るからである。名も知らぬ者に貴重な魔法薬を使うくらいなら、自分達に寄越せと考えるのだ。
つまり、権力者の争いによって被験者選びに時間が掛かるということ。今回リノア達はポンポン使ったが、それでも流石に国中の者達に行き渡るまでは用意出来ない。必要な薬草の絶対数が少なく、量産するのが不可能なのだ。
「ここまでで何か質問はありますか?」
「「「いいえ・・・」」」
「ちょっといい?」
あまり一気に説明しても付いて来られないだろう。そう考えたティナがリリエル以外の3人に問い掛ける。リリエルが蚊帳の外なのは、彼女が興味無さそうにしていたから。それにリリエルが理解する必要は無い。彼女はあくまで護衛という立ち位置であり、調合には参加していないのだから。
今の所は全て理解出来ているため、リノア、クレア、エミリアが揃って首を横に振る。安心したティナであったが、意外にも手を上げたのはルークであった。
「何です?」
「今その説明は必要かな?」
「帝国に戻る前に説明しておかなければなりませんよね?」
「なら今すぐ帰らなきゃいいんじゃない?別に1日2日遅れても大した問題にはならないだろ?」
「ここでの生活に不自由しているかもしれませんよね?」
「それは本人達に確認すれば済む話であって、時間が無い今、無理に最初から説明する理由にはならないよな?」
「ルークがそれを言っては命令になりますよね?矛盾しませんか?」
「そうならないように確認するんだろ?」
「ですからその行為が――」
「だから確認だと――」
夫婦喧嘩とまでは行かないが、互いに一歩も譲らないため言い争いに発展してしまうのだった。