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Shining Rhapsody

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356話 事後処理14

356話 事後処理14

 

 

ルークに諭され落ち着きを取り戻したティナ。そうは言っても、時間が無い事に変わりはない。そんなティナの気持ちを推し測る形で、ルークは内心で苦笑する。と同時に愕然とした。

 

(ふっ、焦る気持ちもわか・・・しまった!時間が無いのはオレの方じゃねぇか!!)

 

そうなのだ。仕方ないとは言え、本来ならば何でもかんでも引き受けていられない。急いで止めに行かなければ、ミリエル達がやり過ぎてしまうかもしれないのだ。既に手遅れな気もするが、今なら半分程度の被害で済むかもしれない。仮に100の内90が終わっていたとしても、10を救えるのと救えないのでは大分違う。

 

 

ティナは落ち着いたのだが、今度はルークが焦りだした。

 

(考えろ!まだ魔物は来ない。リリエルなら協力してくれるだろうし、今なら少しは離れ・・・いや、ダメだ!ティナの目がある。ティナに気付かれず離れる方法は・・・ある訳ねぇよ!)

 

焦って考え事をするのは碌な事が無いという、典型的な例である。そしてそんな時に思いつくのは、大抵がどうしようもない事。

 

「うっ!いきなりお腹がっ!!」

「・・・大丈夫ですか?」

「だ、ダメかもしれない!ちょっとトイレ――」

「回復魔法を掛けましょうか?」

(魔法バンザーイ!チクショー!!)い、いや、自分で掛けるから大丈夫!」

「そうですか?」

「あぁ・・・はぁ」

「?」

 

不思議そうに首を傾げるティナだったが、心配なさそうなので周囲の警戒に戻る。ティナは狩りでほとんど魔法を使わないため忘れがちだが、魔法が不得意という訳ではない。寧ろ直接戦闘よりも魔法の方が得意である。ならば何故使わないのかと言うと、素材が痛むから。

 

仕留める程の外傷となれば、その部位は失われる。内蔵を傷つければ肉の味は落ちる。効率の良い食材調達を突き詰めた結果、一撃で首を刎ねるという結論に達したのだ。

 

 

話を戻そう。どうにかしてティナの目を盗み、その間にミリエル達の下へ向かおうとしたのだが――

 

(自然にこの場を離れる・・・無理!)

 

そもそも、ちょっと席を外して転移した所でティナに気付かれる。それ以前に、ミリエル達が何処に居るのかわからないのだから、初めから不可能なのだ。一先ずの答えを導き出し、ルークは改めて考える。

 

(オレは抜け出せない。ならば、どうする?こうなったらリリエルを・・・ダメだ!)

 

リリエルを向かわせるのは本末転倒。ティナにはとっくにバレているのだが、堂々と向かわせたのでは新たな要求をされる可能性が高い。しかもリリエルを向かわせたのでは、合流に時間が掛かり過ぎる。やはりルークがこっそりと移動するしかないのだ。――果たして本当にそうだろうか?

 

(リノア達じゃ一月あっても追い付けないし、この村の住人は論外。残るはティナか・・・ティナ?)

 

大分回り道をしたが、ティナの目があるのならそれを他に向ければ良い。幸か不幸か、その理由ならばある。

 

「ティナ・・・不安だったら、先に学園都市に行ってていいよ?」

「え?ですが・・・」

「村を守るならともかく、今回は村人が無事ならいいんだ。それなら、オレとリリエルだけでもどうにかなると思うし」

「そう言われると確かに・・・」

 

魔物の素材にさえ目を瞑れば、村人を守り切る事は出来る。短時間であれば、リリエル1人でも問題ないだろう。だが学園都市となると、そうは行かない。守る規模も大きければ、住人だけでなく都市そのものを守り切る必要がある。

 

今回防壁を破られる事があれば、修復が終わるまで防衛に時間と人手を割かれる事になる。そうならないようにナディア達を残して来たが、たかが20人程度で大都市全てを守り切ろうというのは無理があった。

 

どんなに凄腕の冒険者であっても、普通はパーティで行動する。高難易度のクエストであれば尚更だ。しかし今回、その範囲が広すぎるとあって、全員が単独で防衛にあたる。連携が取れない分、11人に掛かる負担は計り知れない。単独で熟せるのは、圧倒的戦力を誇るカレンとルーク。そして単独での狩りに慣れたティナだけであった。

 

 

ティナもそれを充分に理解しているからこそ、隠し切れない程に焦っていた。故にあとひと押し。そうとわかれば説得は容易い。ルークも馬鹿ではない。冷静ならば、幾らでも口は回る。だが今回の場合、ある大きな懸念に辿り着いてしまったのだ。

 

「向こうは11に特化したメンバーが多い。手が回り切らなければ抜けられるし、そうなれば焦ってそこから崩される。一番心配なのはナディアなんだけど・・・」

「それはわかります」

「オレが行ければいいんだけど、宣言した手前、真っ先にオレが抜ける訳にもいかない。となると、危ない場所をカバー出来るティナが適任だと思う。って言うか、他に居ない」

「・・・・・」

「それと実は今気付いたんだけど、ちょっとした懸念がある」

「何です?」

「本格的な接敵まではまだ時間があると思うけど、第一陣が散発的に到達してる頃だと思うんだ」

「それがどうしました?」

 

魔物に限らず、生物の移動速度には差がある。その中で重要なのは、種族差でなく個体差。

 

「最初に到達するのは飛行出来る魔物だと思うんだけど、もしその対処に手間取ってるとマズイ事になる。そして、まず間違いなく手間取ってると思う」

「近接戦闘が得意な者ばかりですからね。あぁ・・・遠距離の得意なお母さん達に負担が掛かる、という事ですね?」

「それも無くはないんだけど、それよりもっとマズイ事がある」

「もっとマズイ事、ですか?」

 

これには流石のティナもすぐには思い至らなかったらしく、訝しげに首を傾げる。

 

「もたもたしてると足の速い、つまりはスタンピードで此方に来た魔物が追い付いて来るんだ」

「それはそうかもしれませんが、わかり切っている事ですよね?」

「いいや、問題なのはその後。次に来るのは元々此方側に居た弱い魔物。で、その次に来るのが少し離れた所に居た強い魔物。でもそんな都合良く、交互に辿り着く訳じゃない。何処かで必ず入り交じる。そうなると非常にマズイ」

「?」

「例えば・・・弱いゴブリンの群れを相手にすると、無意識の内に手を抜いてしまうんだ。熟練の冒険者であればある程に。当然だよな、オーバーキルなんて力の無駄だし。そこに見た目には違いのわからない、強いゴブリンが混じってたらどうなる?」

「っ!?」

 

ティナが目を見開く。これこそが、数多くの冒険者が帰らぬ人となった最大の要因である。素人の集団に達人が紛れ込んでいるようなものなのだ。咄嗟に反応出来る程の圧倒的実力差があるならともかく、今のナディアやエレナ達ではそうも行かない。

 

 

無意識の手加減を抑え込もうとして、意識的に力を込めるだろう。即ち、ルークの言う力の無駄を常に保ち続けるという事。誰もが思っているよりもずっと、消耗は激しいだろう。それは即ち、時間の猶予がティナの想像以上に短い事を意味しているのだった。