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Shining Rhapsody

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352話 事後処理10

 352話 事後処理10

 

 

何とも言えない表情のルークが待っていると、ログハウスから出て来たリノア達が揃って駆け寄る。

 

「お待たせしました!ティナさんもいらしてたんですね?」

「えぇ。あまり時間がありませんから」

「時間、ですか?」

「・・・・・」

 

状況を把握出来ていないリノア達が、互いの顔を見つめながら首を傾げる。こういう時、真っ先に事情を説明するべきルークは黙り込んだまま。シリアスをぶち壊された挙げ句、意図せず制限時間を設ける事態を招いた張本人。流石に自分の口からは言い出し難かった。

 

そんなルークに代わり、ティナが詳しく説明する。事態を飲み込んだリノア達は、ルークへと視線を向けた。

 

「私達は大丈夫ですから、お二人はすぐにでも向かって下さい!」

「いや・・・その前にやっておかなきゃならない事がある」

「何でしょう?」

「ここの住人達の処刑だ」

「「「「「っ!?」」」」」

 

処罰ではなく処刑。つまりは皆殺しである。有無を言わせないルークの態度に、誰もが思わず息を呑む。本来なら然るべき場所で事情聴取が行われるのだが、それすらも必要ない状況だと言うことが容易に理解出来てしまった。

 

こうなってしまうと、帝国内に意見を差し挟める者は居ない。唯一許される可能性があるとすれば、皇帝の家族――つまりはリノア達である。

 

「ま、待ってください!」

「・・・発言を許そう」

「この方々は、私達を守ってくださいました!」

「確かにそうなのかもしれないが、少なくともオレは守られてない」

「それは・・・」

「仮にリノア達の誘拐と相殺しても、ここの住人達が皇帝暗殺を目論んだ分は裁かなければならない」

 

相殺。この言葉で、勘の良い者は気付く。

 

「でしたら――」

エミリア、オレが発言を許したのはリノアだけだ」

「っ!?失礼致しました」

 

淡々と告げたルークに対し、エミリアはすぐさま頭を下げる。この場で気付いたのは、ティナとエミリアの二人。これがリノアでなくスフィアだったら、きっと二人は気を揉む事なく傍観していられただろう。ルークに出来る最大限の譲歩なのだが、リノアが気付けるかどうかで未来は正反対へと進むのだから。

 

「リノア、他に言いたい事は?」

「・・・元学友、友人の命も奪うと言うのですか?」

「少なくともオレは、自分を誘拐するような者を友とは呼ばない」

「・・・・・」

 

政治にも、ましてや駆け引きにも不慣れなリノアが、見当違いの切り込みを見せる。当然そんな事ではルークを切り崩す事など出来ない。

 

リノアの後ろに居るエミリアでは、手助けする事が出来ない。この場で唯一助けを出せるのは、ルークの死角に立つ自分だけだろう。そう思ったティナが、飲み物を飲む仕草をする。

 

「?・・・!?の、喉が乾きませんか!?」

「は?」

 

突然の問い掛けに、ルークは鳩が豆鉄砲をくらったような表情を見せる。エミリアは俯きながらしかめっ面をし、ティナは大きく首を振っていた。

 

「・・・気遣いは嬉しいが、生憎喉は乾いていない」

「そ、そうですか・・・」

 

ルークの返答に対し、リノアは上の空。何故なら、ティナの新たなジェスチャーに夢中だったからだ。

 

 

何かを飲む動作の後、服の中に引っ込めていた右手を外に出すティナ。この時点で、静観していたクレアも気が付いた。だが発言を許されていない以上、彼女もリノアを見守るしかない。

 

「ゆっくり考えを纏めて欲しい所だが、残念な事にあまり時間が無い。少し急いで貰えるか?」

「え?わかりました(飲んで、腕を出す?喉が乾いた・・・)亀?」

「亀?」

「「ぶふぅー」」

 

想像していなかった発言に、エミリアとクレアが堪えきれずに吹き出す。ティナは必死に笑いを堪えながら、大きく首と手を振る。

 

「え?あれ?違う?」

「・・・・・ティナ、さっきから何をしているんだ?」

「な、何もしていませんよ?」

 

不正解が意外だったのか、リノアの口から心の声が漏れ出す。彼女の視線がティナに釘付けだった事で、流石にルークも何が起こっていたのかを悟る。振り向きながら確認するが、ティナは明後日の方向を向きながら惚けた。

 

「はぁ。まぁいい。悪いけど、リノアの後ろに行ってくれるか?」

「・・・わかりました」

 

部外者から見れば、自分の目の届かない所でコソコソしていたティナを咎めた格好になる。それに渋々従うティナの構図に映るのだが、実際は違う。現状ではルークとティナにしか出来ない、阿吽の呼吸である。

 

 

リノアの背後に回るべく、ゆっくりした足取りで移動するティナ。そんな彼女がすれ違いざま、リノアだけに聞こえるよう囁いた。

 

(態々魔法薬で欠損を治したのですよね?)

「え?・・・っ!?」

 

幾ら天然なリノアでも、王族としての教育は受けている。駆け引きには不慣れでも、知識は持ち合わせていた。魔法薬での治療、しかもティナは『態々』と付け加えた。ならばどういう展開に持ち込むべきかは理解出来る。

 

「ル――皇帝陛下!恐れながら申し上げます!!」

「何だ?」

「この者達は、我々が貴重な魔法薬を用いて欠損を治療致しました」

「ほう?」

「それなのに処刑してしまっては、消費した魔法薬が無駄になります」

「確かにそうだな」

「つきましては、この者達に対する刑を再考頂けないでしょうか」

「いいだろう。そうだな・・・ならば、この者達の命はリノアに預ける。但し、何か問題が起きた場合、リノアが責任を以て処刑しろ」

「はい!ありがとうございます!!」

「お前達もそれでいいか?」

「「「「「ははっ!」」」」」

 

 

天然と大根役者による三文芝居ではあったが、そこに口を挟む者はいない。住人達は死にたくないし、

リノア達も折角治療した者達を殺されては堪らないのだ。それに一見損得の無さそうなルークにとっても、今回の件はそれなりに利益がある。

 

 

最も狙われやすいリノアが、恩を売って兵力を得る。出来れば裏切る可能性の低い者達に任せたいと思うのは当然である。しかもこの者達ならば、リノアを通して諜報に使えるかもしれない。ひょっとしたら烏合の衆という可能性もあるが、だとしてもマイナスになる事は無い。

 

 

折角打った一芝居が無駄にならず、ホッと胸を撫で下ろすルークだった。

 

 

351話 事後処理9

 351話 事後処理9

 

 

ルークは返答に窮する男性から視線を外し、残った者達を順番に観察して行く。すると牽制する形で先に観察していたティナが声を掛けた。

 

「ルーク、この方達は・・・」

「オッサンの集まりだな」

「・・・・・」

 

どういう訳か、今目の前に立っているのは50歳前後の男性ばかり。振り返って、先程斬り伏せた者達の顔を良く見る。此方はそれよりも若い者達で構成されている。ここから推察される事の1つを、ルークは思わず口にした。

 

「故郷を捨てられない年寄りと、都会に憧れて飛び出す若者の対立・・・」

「ルーク?」

「ごめん、冗談だから」

 

的外れである事はルーク自身もよくわかっている。注視すべきは年齢ではなく他の部位。そこには気付いたが、そこまで至った経緯を推測するには少し時間が足りない。つまりは考えをまとめる為の時間稼ぎ。

 

「・・・左右の腕や足のバランスがおかしい者達が多いのを見るに、つい最近まで欠損していたんだろうな」

「確かに・・・そのようですね」

「そんな者達の所へ偶然にも、魔法薬を研究していたリノア達が連れ去られて来た。部位欠損を治療出来るポーションを作れるようになったと聞いているし、研究用に相当な数の素材を渡してあると聞いている」

「あぁ、なるほど。経緯は不明ですが、恩を感じた者達がリノアさん達の側についたと」

 

ルークの説明でティナも同じ考えに辿り着く。すると先頭に立っていた初老の男性が口を開いた。

 

「お二方のおっしゃる通りです。我等はあの方々に救われました」

「だから仲間を裏切ったと?」

「仲間・・・そのように見えるのでしょうな」

「「?」」

 

ルークの問いに対し、険しい表情を浮かべる男性。これにはルークとティナも首を傾げる。

 

「確かに同じ村に住んではおりましたが、我等は邪魔者扱いされていたのですよ」

「それは腕や足の欠損と関係が?」

「えぇ。任務を遂行する中で怪我を負い、戦えなくなったのが我等です」

「任務と言うのは暗殺などの類ですか?」

「暗殺?いえいえ、過去にはそのような者も居たようですが、今生きている者達の怪我は護衛や魔物の討伐によるものです。それに貴族から後暗い仕事を引き受けては、いずれ口を封じられてしまいます。それ故、何度もあの者達を止めようとしたのですが、邪魔者と思われている我等には難しく・・・」

 

確かにこの者の言う通りだろう。人に言えないような仕事をしていれば、使えなくなった時に処分されるのは誰にでもわかる。真っ当な仕事しかせず、その中で負傷した者達だからこそ、今日まで生き延びられたのかもしれない。だがそれが真実であるとも言い切れない。

 

 

 

「そうなのかもしれないが、その辺は後で確認するしかないな。それよりも、女子供の姿が一切見えない理由は?」

「ほとんどの者達は村にある家の中に居る為です」

「「ほとんど?」」

「えぇ。腕の立つ者が数名、リノア様達の護衛としてお側に仕えておりますので」

「「はぁ!?」」

 

まさかの展開に、ルークとティナが驚く。この男性の言葉が本当なら、結界の中に招き入れたと言うのだ。リリエルが居るから心配ないとは言え、何があればそのような展開になるのか。流石のルーク達にも想像出来ない。

 

「・・・どうしますか?」

「そうだな。リノア達の無事を確認したい所だけど・・・それは周囲の安全確保が終わってからでもいいだろう」

「既に安全は確保されていますよね?」

「ん?まだこの者達と、他にも村に残ってるんだろ?」

「それは・・・1人残らず処刑する、と言う意味ですか?」

「「「「「っ!?」」」」」

「あぁ。皇族にちょっかいを出したんだ、普通は死罪。それなりの理由が無い限り、オレが勝手に法を曲げる訳にはいかないだろ?」

「「「「「そんなっ!?」」」」」

 

自分達はリノア達を守っていた。それなのに死刑を宣告され、全員が揃って異を唱える。しかしこの場合はルークが正しい。王族に危害を加えた場合、一族諸共処刑されるのが慣例である。幾らリノア達を守っていたと喚こうが、同じ村の住人達が誘拐した事実は消えないのだから。裁く者によっては命を繋ぎ止めるかもしれないが、それでも幾分か罪が軽くなる程度だろう。

 

「そもそもお前達の誰か1人でも、何処かに通報しようと行動したのか?」

「「「「「それは・・・」」」」」

「だったら交渉の余地は無い。そして現時点でハッキリしているのは、オレ自身がこの村の住人達に襲われたという事。リノア達を守るフリをしていたと捉える事も出来る以上、お前達の言葉を信用する事は出来ん。まぁ、リノア達の証言でもあれば話は別だが・・・」

「でしたら!」

「だがリノア達は脅迫されて、虚偽の証言をするかもしれない。そしてオレには真偽を確かめている時間が無い。そうである以上、今手元にある情報だけで判断するしかないだろ?つまりは一族郎党、尽く死罪だ」

「「「「「そ、そんな・・・」」」」」

 

非情な物言いをしているが、これはルークの本心ではない。別にリノア達を守ってもらう必要は無かったが、それでも上空から確認した感じでは守ってくれていたように見えた。タイミング良く報酬の取り分で揉めている所に出くわした、とは思えない。

 

 

ルークは常々、恩には恩を、仇には仇を返すべきと考えている。つまりルークにとって、彼らは恩人と言える。そのような者達に対し、恩を仇で返すような真似はするはずがない。だがこの場で、その事実を知るのはティナのみ。そんな彼女が口を挟まないのは、例え些細な情報だろうと与えてはならないと考えていたから。誰であろうと、ルークの性格を利用される訳にはいかない。当然である。ルークの事を熟知しているのは嫁達くらいのもの。それ以外の者がルークを利用する行為など、言ってみれば何がキッカケで爆発するかわからない爆弾を相手にしているようなものなのだから。

 

 

ルークの性格を理解しているティナだからこそ、何故ルークが嘘を吐いたのかが理解出来た。

 

(敢えて追い込んでいるのは、相手の出方を伺って情報を手に入れようとしているからですね。仮に恩人だろうと、自棄になって襲い掛かって来る者は処断。その場合は私も動くとして、それ以外ならこのまま静観、しかないでしょうか・・・)

 

この後の反応を予測し、自分が取るべき行動を決定する。とは言っても、わかり易い反応以外は見守るしかないのだが。

 

 

「さぁ、他に申し開きがあれば聞くが?」

「「「「「・・・・・」」」」」

「何も無ければ一族全員、このまま処刑だぞ?」

「「「「「・・・・・」」」」」

 

もう猶予は無いとばかりに追い込むルーク。一方、ルークを納得させる手段が見つからず、何も言い返せない者達。何らかの反応が欲しいルークではあるが、このまま口先だけで追い込み続けるのは不自然。そう考えての最終勧告。

 

「・・・何も無いようだな。なら仕方ない。オレの手で――」

「あ!ルーク〜!!」

「オレの手で・・・」

「ひょっとして、お迎えですか〜?」

「・・・・・」

「リノアさん・・・私以上ですね」

 

 

あと一歩という所で、この場に相応しくない呑気な声が響き渡る。シリアスな雰囲気を全開にして仕切り直そうとしたルークだったが、空気の読めないリノアは知ったこっちゃない。こちらに向かって大きく手を振るリノアを眺めながら、ティナは苦笑混じりに呟くのだった。空気を読む事に関しては、自分の方がまだマシだよ、と。

 

 

350話 事後処理8

 350話 事後処理8

 

 

自分の見た物がしっかりと伝わっていない。そう思ったルークは、ティナに詳しく説明を行う。

 

「事前に渡しておいたログハウスを出してたし、結界もきちんと設置してた。リノア達の姿は見えなかったから、ちゃんと立て籠もってるんだと思う。で、問題なのは・・・それを守るようにして取り囲む者達と、さらにその外側を取り囲む者達の姿があったって事だ」

「二重に包囲していた訳ではなく、ですか?」

「違うだろうな。包囲する者達が互いに武器を構えて向かい合ってたから」

「何故そのような状況に陥ったのかが気になる所ですが・・・リノアさん達を奪い合っているとは考えられませんか?」

 

仲間割れ。ティナの考えはもっともである。ルークの情報収集に穴があるとすれば、上空からでは声が聞き取れないという事だろうか。まぁ仮に仲間割れだとしても、都合良くその瞬間に立ち会えなければ、声を聞き取っても大した情報など得られない。

 

だが視界のみでも得られる情報は有る。ティナの言う仲間割れの部分に関しては、ルークも同意見だった。

 

「全員の服装が似てたから、仲間割れなのは間違いないと思う。でもティナが考えているような事ではないだろうな」

「何故です?」

「相手が利口な者達なら、結界を破る前に戦力を減らしたりしないだろ?半数でも破れると思っているのかもしれないけど、大人数の方が労力は少ないし確実性も増す」

「確かに・・・」

「まぁ、これはオレの考えであって確実とは言えない。しかも短時間だったから、ほとんどわからなかったと言ってもいいだろうな」

 

控えめに言っているが、リノア達の居場所が知れただけでも大きい。それに、既に捕われていたなら、取るべき行動は変わっていただろう。選択肢の数が減っただけでも良しとすべき。そう考えていそうなルークに対し、ティナは疑問をぶつけてみた。

 

「ちなみに、元々はどうするつもりだったのですか?」

「ん?リノア達以外を一気に殲滅する予定だった。ティナは?」

「私ですか?私は、向かって来る者達を問答無用で斬り伏せるつもりでした」

「「・・・・・」」

 

似たもの夫婦である。何も知らない者から見れば、ティナの方が若干控えめに映る。だが言っておく。ティナに対話する意思は無かった。即ち、ティナがいきなり飛び出せば、ほぼ全ての者が反射的に構えてしまう。その時点で斬り伏せられる未来が確定してしまうのだから、ルークの行動と大差ない。互いにそれが理解出来てしまったが為に、無言で見つめ合う結果となったのだ。そんな気まずい空気を誤魔化すかのように、ティナが咳払いをする。

 

「んんっ!それで、どうしますか?」

「あ、あぁ・・・一番外側を取り囲む者達を倒してから様子を見るってのは?」

「その者達が、実はリノアさん達の味方という可能性はありませんか?」

「そう言われると・・・」

 

ティナに言われて気付く。今のルークとティナには、敵味方の区別がつかない。見方によってはどちらも味方と言えるかもしれないし、全員が敵という可能性だって残されている。結局言えるのは、情報量が不足していて答えが出ないということ。よって、互いに時間を気にする2人が導き出した答えは同じ物だった。

 

「「行ってから考えよう(ましょう)!」」

 

結局そうなるのかと思わなくもないが、情報収集をした甲斐が少しはあった。勘違いで斬られる犠牲者が居なくなったのだから。そしてもう1つの成果が、突撃の仕方である。

 

 

 

地下通路の出入口からではなく、リノア達が居るであろうログハウスの結界横に転移したのだ。これには膠着状態だった暗殺者達も反応が出来ない。そんな者達に警戒しつつ、ティナはルークに向かって声を掛けた。

 

「「「「「・・・・・」」」」」

「この結界は通り抜ける事が出来ないのですか?」

「出来ないな。発動させた者が許可しない限り、製作者や魔力を込めた者でも無理みたいだった」

「そうですか。ですが、そうでなければ安全を保証出来ませんよね」

「まぁな。さて・・・オレはフォレスタニア帝国皇帝、ルーク=フォレスタニアだ。お前達は突っ立ったままでいいのか?」

「「「「「っ!?」」」」」

 

ルークの挑発を受け、我に返った者達が反射的に飛び掛かる。が、何の策も無しに向かって来る者達に苦戦するはずもない。ルークは飛び掛かって来た者達を容易く斬り伏せ、その場から動かなかった者達へと視線を向けた。

 

「で?残った者達は様子見か?それとも敵対する意思が無いのか?」

「わ、我々は――」

 

ルークの問いに、初老の男性が答えようとする。だがそれを遮る形でルークが言い放った。

 

「まぁお前達が何を言おうと、オレが信じるとは限らないんだけどな?」

「それは・・・」

 

ルークの言葉に、初老の男性が言葉を失う。この場でルークが信じるのは、ティナを除いては姿を見せないリノア達だけ。どう足掻こうと、ルークを納得させる答えを持ち合わせていない事に気付いたのだ。

 

 

そんな相手の反応を確かめているのか、はたまた単に性格が悪いだけか。ともかくルークは悪い笑みを浮かべたまま、男性の言葉を静かに待ち続けるのだった。

 

349話 事後処理7

 349話 事後処理7

 

 

ティナを地下通路に残し、ルークは学園都市の外へと転移した。何れは訪れた事の無い場所にも転移出来るようになるのかもしれないが、今はまだ違う。理由は不明だが、転移出来るのは一度訪れた場所に限定される。

 

地下通路の入り口から、どの方角へどの程度の距離を進んだのか把握している。ならばそこから空を飛んで近付こうというのである。偵察が済んだらティナの待つ場所へ転移すれば良いのだから、何とも簡単な役目である。

 

ルークとしても、ティナを残しておく事に不安が無かった訳ではない。だがキッパリと断られては、しつこく誘う気にならなかった。ティナも自分の意思で飛び回れるならまだしも、他人任せで空の旅はしたくない。飛行機のように実績を積み重ねてもいなければ、竜王の背という謎の安心感も無い。そんな危険なアトラクションなど、まっぴらごめんである。

 

 

誘いを断られたルークだが、特に拗ねた様子もない。当然だろう。高い所が苦手なんだろうな、程度にしか思っていないのだから。そのうち誰かがハッキリ告げてくれるのを待つしかないだろう。飛行という行為に関して言えば、ルークは信用出来ないのだと。

 

 

 

「え〜と、この向きだとあっち・・・ん?」

 

地下通路の入り口を前に、目的の方角を向いたルーク。それと同時に、何やら慌ただしく動き回る者達の気配を感じ取る。

 

「この気配はナディア達か?1人ずつ分散するのかと思ったけど、数人の気配が纏まってる所を見ると、チームを組んで対処するつもりか。この分だと案外大丈夫そうだが・・・そもそも、そんなに魔物が来るのか?」

 

騒ぎの張本人には、そこまで大事になっているとは信じる事が出来ない。ティナを待たせているが、その時間が数十秒伸びる程度であれば構うまい。そう判断して、本来の目的地とは異なる方向へと飛び立った。魔物の群れが押し寄せるのが事実であれば、遠くからでも何らかの兆候は捉えられるはず。そう考えて、上空から観察しようと考えたのだ。

 

ルークは猛スピードで、ミーニッツ共和国の王都がある方角へと斜めに飛び上がる。水平に移動しないのは、何処まで進めば確認出来るか不明なため。元々半信半疑な上、そちらに時間を割いてはティナに叱られる可能性がある。ある程度区切りをつけて行動すべきだろう。

 

数十秒後、かなりの高高度に到達すると、空中に静止してじっくり目を凝らす。するとルークの目に異変が映り込んだ。

 

「う〜ん・・・ん?んん?・・・マジかよ」

 

遥か彼方の森から飛び立つ、おびただしい数の鳥。その横に見える平原に視線を移せば、地平線を埋め尽くす程大きくうごめく黒い影。ハッキリとは見えないが、魔物で間違いないだろう。

 

「あの距離だと、学園都市までは3時間くらいか?ってか、前回のスタンピードより多くね?」

 

当然である。前回のスタンピードやって来た魔物に加え、元々生息していた魔物までもが一斉に逃げ出したのだ。その勢いは、大都市が1時間も経たずに粉微塵になる程だ。実際は防壁を避ける魔物も居るだろうから、壊滅するにはもう少し時間が掛かるはず。

 

「この国より北にはカレンとミリエル達が向かったんだよな?だったら魔物の殲滅に関しては大丈夫か。問題はこっちだよな・・・村のみんなでも無事には済まないだろうし」

 

例え危機的状況に陥ったとしても、カレンは転移出来るし、ミリエル達は飛んで逃げる事が出来る。それに実力的にも不安は一切無い。寧ろ心配なのは、やり過ぎないかという事。魔物を殲滅するのに、国まで一緒に滅ぼしては本末転倒。この時点で、ルークが抱いた危機感は限界に到達する。

 

「流石にあの数を相手にしたら、カレンでも余裕は無くなるだろ。そうなればとんでもない一撃を繰り出すに決まってる。ヤバイ!ナディア達に手を貸して、それからミリエル達がやり過ぎないように監視しないと!!っと、その前にリノア達の回収か!?一番余裕ねぇのはオレじゃねぇか!」

 

 

そう、今最も時間が無いのはルークである。そもそも、リノア達の下へも魔物の群れが押し寄せる可能性があるのだ。のんびりしている時間は無い。ティナ以上に危機感を抱いたルークは、慌てて移動を開始する。時間短縮のため学園都市上空へと転移し、そこから全速力で目的の方角へと飛び立った。

 

数分後、ティナの気配を感じ取り急停止。そこから周囲を見渡し、目的の場所を見つけ出す事に成功する。だがそこには、予想通りの光景と予想外の光景が入り交じっているのであった。これには焦っているはずのルークも思わず思考停止に陥る。

 

「これは・・・どうなってるんだ?」

 

ルークが幾ら考えたところで、正解を導き出す事は出来ないだろう。いや、正解には案外容易に辿り着くかもしれない。だが、それが正解だという確信は得られない。こういう時どうするのかと言うと、誰かに相談するしかない。その相手が今はティナという事である。

 

 

ルークが上空からティナの下へと転移すると、待ち侘びていたティナが問い掛ける。

 

「どうでしたか?」

「いや、うん。村はあったよ」

「そうですか。それで、どうだったのです?」

「どう・・・なってるんだろうな?」

「?」

「なんかリノア達、守られてるっぽい」

「一体誰が、誰からリノアさん達を守っていると言うのです?」

「暗殺者が・・・暗殺者から?」

「・・・はい?」

 

 

自分は何を言っているのだろう。そう思い首を傾げながら答えたルークに対し、ティナも同じように首を傾げるのだった。

 

 

348話 事後処理6

 348話 事後処理6

 

 

ティナの助言により、順調に罠を回避してペースを上げたルーク達。途中で待ち伏せしていた刺客も巻き込んでいる為、一切の無駄が無い。だが変わったのはルークの魔法だけではない。いつの間にか、ティナが先頭を突き進んでいた。

 

ティナが合流しても、ルークの引きの悪さが改善されるはずもなく。ティナの迫力に負けたルークが要求を受け入れたのだ。ルークとしても、罠の心配が無ければ誰が先頭でも構わない。刺客も魔法で対処出来るし、ティナ自身が先導する形なら遅いと言われる心配も無い。そういった意味では、渡りに船だろうか。

 

何の心配もいらなくなったルークだが、余裕が生まれた事でこれまでとは違った方向へ思考が向く。

 

(そう言えば、ティナに変わってから一度も行き止まりを見てないな。もしかして・・・行き止まりはもう無かったんじゃないか!?)

 

そんなはずは無い。自分に都合のいいよう解釈しているだけである。だが考えを口に出さなかったのは褒めても良いかもしれない。何故なら、万が一そんな事を言おうものなら、ティナに白い目で見られていた可能性が高いからだ。

 

そんなルークの思考を読み取った――はずはないが、徐々に減速してティナが立ち止まる。何事かとティナの先に視線を向けたルークもまた、納得した様子でティナの隣に並び立つ。

 

「やっと出口みたいだな」

「えぇ。随分と走りましたが、此処は一体どの辺りなのでしょうか?まさか・・・」

 

馬車の数倍ものスピードを維持したまま、かれこれ1時間は経過しただろうか。移動距離にして50キロは優に超えている。進む方角によっては帝国領内という可能性も。そう考えたティナだが、それはルークによって否定された。

 

「通って来た道と歩数から計算すると、学園都市の北東約30キロだな。てっきり王都方面、しかも学園都市との中間付近だと思ってたけど、全く見当違いの方角だった。」

「え?まさか、歩数を数えながら道を記憶していたのですか?」

「当然だろ?方角と距離が判ればバカ正直に出口を通らなくても、一旦出直して空から様子を伺えるんだ。冒険者にとっても基本じゃないのか?」

「自由に空を飛べるのは、ほんのひと握りです!」

「・・・え?」

 

ティナの指摘で思い起こす。言われてみれば、空を飛んでいたのはルークと竜王達、そしてリリエル達程度。共通しているのは、みんな翼を持っているという事。ルークは例外である。多種多様な魔法はあれど、どういう訳か飛行魔法は存在しない。

 

ルークが飛んでいるのは風魔法によって。人を吹き飛ばす程の突風をその身に受けて、である。真っ直ぐ飛ぶ事が出来る者は居るが、それは吹っ飛んでいると言った方が正しいだろう。一瞬飛行しているカレンも脳内を過ったが、主に驚異的な脚力で移動していた事を思い出す。そう、カレンの場合は基本的にジャンプなのだ。

 

 

ルークは空中で制止したりもするが、あれは緻密な制御などではなく力技である。風で吹き飛ばされる体を、反対方向から同じ威力の風で相殺しているだけなのだ。血の滲むような訓練の賜物ではあるのだが、その様子を眺めていたエレナ達が呆れて物も言えなかったのは言うまでもない。

 

カレンも含め、普通は風魔法で空を飛ぼうとは思わない。コントロールが難しく、一歩間違えれば墜落である。だったら多少時間が掛かろうとも、走って飛び跳ねた方がマシと言うもの。

 

 

「え〜と、じゃあ、ひょっとして・・・」

「あの出口から外へ出ます」

「罠だったら?」

「その時は転移して逃げれば良いではありませんか」

「・・・・・」

 

間違ってはいない。万が一リノア達が人質に取られていようと、転移してしまえば自分達に被害は無い。人質を取るくらいならば、ルークとティナを取り逃がしても手を出したりはしないだろう。しかしルークとしては、慎重に慎重を重ねたい。状況がわからない以上、迂闊に姿を見せるべきではないと思っている。

 

 

じっくりと情報収集をしたいルーク。一刻も早くエレナ達の応援に駆け付けたいティナ。珍しく立場の逆転した2人の間に、かつて無い緊迫した空気が流れる。互いに無言のまま、見つめ合うこと数十秒。先に折れた、と言うか仕掛けたのはティナだった。

 

「オムライス食べ放題で手を打ちましょう」

「は?・・・いいだろう」

 

 

『コイツ、何言ってんだ?ひょっとして食べたいだけなんじゃ・・・』一瞬そんな考えが頭を過ったルークだが、すぐ様ティナの提案を受け入れる。ここで睨み合っていても埒が明かない。折角ティナが折れてくれるのだ。ムキになって飛び出されるよりは、オムライスを作りまくった方が遥かに良い。そう判断したのである。

 

 

一方のティナはと言うと――出来る限り時間は掛けたくない。ならば此処でいがみ合って時間を浪費するより、とにかく動いた方が建設的だろう。だが自分の案を受け入れさせるには、説得に時間が掛かり過ぎる。だったらいっそ、情報収集をさせれば気が済むはず。それに上空から眺めるだけなら、長くて数分。しかも名案が浮かぶかもしれないし、無ければ突撃するだけの事。

 

 

ティナが強かなのは、黙ってルークの案を受け入れても良いのに、本来ならばする必要のない要求を付け加えた所にある。只の負けを、勝ちを譲った形にしてしまったのだ。いや、どちらかと言えばティナの勝ちだろう。米の無いこの世界で、心ゆくまで米料理を堪能出来る確約を取り付けたのだから。

 

 

347話 事後処理5

 347話 事後処理5

 

 

ティナのお陰で気掛かりが1つ消え、表情が大分明るくなったルーク。そんな彼とは対象的に、ティナの表情はあまり優れない。何故なら会話をした分だけ時間を費やしたからだ。

 

「ルーク、すみませんが少し急いで頂けますか?皆さんの事が心配ですので・・・」

「ん?そんなに・・・いや、わかった」

 

そこまで心配せずとも、エリド村の者達であれば23日は大丈夫だろう。一瞬そう思ったルークだが、今回ばかりは急いだ方が良いかもしれない。そう考え直し、言い返すのを思い留まった。ミリエル達がやり過ぎないか、未だに心配なのだから。

 

再び長巻直しを収納し、ティナに目で合図を送ってから走り出す。これまでは最低限の罠にだけ対処しつつ進んで来たが、この先はそうもいかない。追走するティナが居るからだ。

 

ルークの足取りと寸分違わずに移動する事は出来ない。足の長さと脚力に差がある為だ。ルークは大分ペースを落としているのだが、ティナにとってはほぼ全力だった。身体能力の差が、そのまま罠の回避性能に繋がる。ルークならば届く1歩がティナには遠い。

 

(見た感じ、このスピードでもあまり余裕は無さそうだな・・・。仕方ない、進み方を変えるか)

 

少しだけ振り返り、ティナの様子を窺い方針を180度転換する。可能な限り罠を発動させ、対処しながら進もうというのである。ルークの速度は落ちるが、ティナに余裕が生まれる。それにルークは相当な余力を残しているのだから、もう少し力を出せば良いだけの話。

 

地面や壁に仕込まれた罠を片っ端から発動すべく、ルークはその算段に移る。とは言うものの、手や足、刀で四方を突きながら走る訳にもいかない。考えるまでもなく魔法に絞られた。

 

(火はダメだし、狭いから風も微妙。水と土は足場が悪くなるから・・・氷一択か。まぁ、氷も溶けたら水と一緒なんだけど・・・飛び散らないだけマシってところか。選択肢が多いように見えて、全く無かったな)

 

ここに戻って来ないのなら、地下通路がどうなろうと構わないのではないか。そう思ってしまうが、何時でも転移すれば良い訳でもない。リノア達以外にも囚われている者が居た場合、正規の手続きを踏んだ方が良かったりもする。

 

他にも被害に合った者達が居たからついでに連れて来ました、ではルークが最後まで面倒を見なければならない。何でもルークが関わっていては、やがて首が回らなくなってしまうだろう。それに上に立つ者として、部下の仕事を奪うのはよろしくない。

 

 

考えが纏まったルークは、突然の急停止。何事かと思ったティナは、息を整えながら声を掛けた。

 

「はぁ、はぁ・・・ルーク?」

「小さめの氷を撃ちまくれば・・・何とかなるよな?」

「え?」

「少し足場が悪くなるから、気を付けて走って」

「はい?」

 

聞き返すティナに答えることなく、ルークは魔法を発動させる。ルークの前方に現れたのは、数え切れない程大量の小さな氷の粒。それを一気に撃ち出すと、着弾と同時に駆け出した。これにはティナも呆気に取られ、ルークを追い掛けるのが遅れる。

 

「チート、という言葉で片付けるにはあまりにも・・・っ!?追い掛けなければ!」

 

魔法を覚えたての者以下の威力しかないルークの魔法。だがティナが驚いたのはその威力。足元に転がる氷の粒は、どれも同じ大きさだった。魔法は威力を上げる方が簡単なのだ。大魔法は規模に見合った魔力を込めれば良い。だが威力を抑え込むのは違う。誰にでも無意識に発動する基準が存在するのだ。その基準以下で魔法を行使する場合、非常に緻密な制御を要する。

 

単発でも難しい極小規模な魔法を、ルークは数え切れない程に放っている。しかも走りながら、途切れる事なく。一切の無駄が無いそれこそが、ルークの強さの秘密かもしれない。そんな事を思いながら慌てて後を追った。

 

 

転がっている氷の粒が小さい事もあり、ティナが踏んでも砕ける。お陰で然程苦労する事なくルークに追い付いた。そんなティナの耳にルークのボヤキが届く。

 

「にしても、罠が多すぎだろ!馬車はどうやって通ったんだよ!!」

「日数が経過してますから、ゆっくり準備したのではありませんか?」

「・・・正論だな」

「ふふっ。あ・・・」

 

始めは罠など仕掛けられていなかったのだろう。そして通り過ぎた所から順に罠を仕掛けていったのではないか。そんなのは少し考えればわかる事だが、魔法に集中しているためかルークは気付かなかったらしい。そんなルークに苦笑したティナだったが、突然ある事に気付く。ティナの不穏な声に、ルークは足と魔法を止めて振り返った。

 

「どうした?」

「いえ、非常に言い難い事に気付いてしまいまして・・・」

「言い難い事?」

「はい」

 

ティナの考えが読めず、ルークは首を傾げながらティナの言葉を待つ。出来れば言わない方が良いのかもしれない。そう思うティナだったが、多分ルークは諦めないだろう。それにきちんと伝えた方が、ティナとしても目的を達成し易い。

 

「えぇと、ルークは罠を発動させる為に魔法を放っていますよね?」

「あぁ、そうだな」

「その・・・地下通路の内側を土魔法で覆ってしまえば・・・罠を気にする必要も無くなるのでは?」

「え?・・・はっ!?」

 

 

360度隈なく氷の粒をぶつけるのも、土魔法で覆ってしまうのも、消費する魔力量に大差は無い。寧ろ土魔法で一気に覆ってしまう方が簡単なのだ。愕然とした様子のルークに、ティナは心の中で謝りつつも呟くのだった。才能の無駄遣い、と。

 

 

346話 事後処理4

 346話 事後処理4

 

 

「気になる点、ですか?」

「あぁ、道中の敵が使ってた武器なんだけど、なんかしっくり来なくてさ・・・」

「しっくり来ない?それは不自然な点があると言う事ですか?」

「不自然と言うか、何だろうな・・・見慣れてないからそう感じるのかな?」

「?」

 

珍しくハッキリしないルークの様子に、ティナはただ首を傾げることしか出来ない。

 

「これなんだけどさ・・・」

「これは・・・?」

 

ルークがアイテムボックスから取り出した物。それは非常に特徴的な形をした武器だった。

 

「特徴を見るに刀じゃなくて太刀っぽい気はするんだけど、何だかモヤモヤするんだよ」

「鋩子と横手筋・・・ルーク、おそらくこれは長巻直しだと思いますよ?」

「長巻直し?長巻直し・・・あぁ、長巻直しか。へぇ、初めて見たな。・・・・・長巻直し!?」

 

ティナの口から告げられた言葉を理解するのに、ルークはかなりの時間を要した。何故なら日本で暮らしていた時ですら、実物を目にした経験が無かったからだ。刀には長巻直し造りと呼ばれる物もあるのだが、作るつもりも無かったためルークは学んでいない。どういった物かは知っているが、それは刀鍛冶ではなく歴史から学んだ程度。

 

何故ティナが詳しく知っているのかと言うと、神崎家の祖父母を尋ねて来る親しい知人の中に、刀剣類を持ち込む者も少なくなかった為だ。彼らはユキの体調を考慮した上で、本当に仲の良い知人の場合に限り同席を許可していた。ユキとしても良い退屈しのぎとあって、鮮明に記憶に残っていたのである。

 

そんなユキの知識があるからこそ、ティナには気になる事がある。

 

「長巻直しがあるということは、薙刀や長巻も何処かにあったのでは?」

「いや、まだ見てないな。というかそんなの、地下通路じゃ振れないだろ?」

「それもそうですね。では、ここを抜けた先に・・・」

「あるかもしれないな。そして、ランドルフさん経由で広まったのかと疑ってたけど、長巻直しとなるとそれも違う訳だ。」

「ルークが知らない物を、作れるはずがありませんからね」

 

ティナは断言したが、ランドルフに作れないと決まった訳ではない。もしかしたら、突然閃いて作った可能性はある。だが彼らを取り巻く環境を誰よりも熟知しているからこそ、ティナは言い切った。彼らの中に槍を使う者すら居ないのである。薙刀や長巻では武器として長過ぎる。

 

鍛冶師として長年追い詰められていたランドルフだからこそ、気分転換に使い手の居ない武器を作る時間など無かったのだ。それに、パッと思い付いて作ったにしては、目の前にある長巻直しの完成度は高過ぎる。

 

「となると、確実に居るな・・・転生者か転移者が」

「はい。それも、私達より相当昔の方かもしれません」

 

 

ティナが昔の人物と告げた根拠は、当然長巻直しにある。ユキと同じ時代か少し前に生きた人物であれば、ほぼ確実に日本刀を作るからだ。使い手の身体能力によっては太刀や大太刀になるかもしれないが、長巻という選択肢はほぼ無いだろう。

 

相当長巻に精通した者でなければ作れないが、そういう人物は刀剣全般に秀でているはず。そんな者が異世界にやって来る確率と言ったらお察しの通り。そうなると、考えられるのは長巻が一般的だった時代の人物。だがそこにはルークが異を唱えた。

 

「昔の人ってのは飛躍し過ぎじゃないかな?」

「何故です?」

「そもそも長巻直しが存在するという事は、始めに長巻を作ったからだ。でも何で槍以外に長柄の獲物を必要としたと思う?」

「・・・ひょっとして魔物ですか?」

「そう考えるのが自然だと思う」

 

ティナが自分と同じ答えに辿り着いた為、ルークがそれ以上の説明をしなかった。補足しておくと、よりリーチの長い槍ではない理由は、その人物が槍を苦手としていたからではない。魔物の群れに遭遇した時、突くよりも斬る方が生存する確率が高いからだ。

 

確かに槍は強いが、魔物の群れを相手にするには相当の実力が必要となる。動き回る相手の急所を、的確に突かなければならないからだ。しかし刀剣ならば、突く以外にも斬るという選択肢がある。どちらも行える長巻、もしくは薙刀がどうしても必要だったのだろう。何故ならその人物は、重大な欠点を抱えていたと考えられる為だ。

 

「その方は転移者だったのですね?」

「おそらくそうだろう。仮に転生したなら魔法が使えるはずだから、長柄である必要は無いし。で、時が経つか人が集まるかして行く中で、取り回しの良い長さに造り変えたんだろうな」

「普通は魔法を使いますからね」

 

ある程度の間合いなら、普通は魔法や飛び道具で対処する。だからこそ一般では、持ち運びに邪魔な槍等を使う者は少ない。好んで使う冒険者は居るが、使用者の多くは兵士である。それ程魔法は優れているのだ。

 

映画等の光景を思い出してみると、マシンガンを構える兵隊が槍や剣を装備していただろうか?いいや、普通はナイフである。誰だって銃があればそちらを選ぶだろう。邪魔な物を装備する必要など無いのだ。

 

 

「アークは転生者も転移者も居ないと言ってたけど、あれは真っ赤な嘘だったのか、もしくは本当に知らなかったのか・・・」

「私は後者な気がしますけどね」

「何で?」

「女神カナンの被害者である月城さん達に対し、シルフィさん達が随分と必死になっているからです」

「あ〜、前例があればそこまで慌てる必要も無いよな」

「それに言い方は悪いですが、見ず知らずの他人でしたら態々隠す必要は無いと思いますよ?」

「・・・それもそうか」

 

 

ティナに言われて納得したルーク。今考える事でも無かったのだと、気付かせてくれたティナに笑みを向けるのだった。