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Shining Rhapsody

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287話 50階層2

 

 287話 50階層2

 

 

 

 

出会う魔物全てを一撃で仕留め、危なげなく突き進むシュウ。初めの内は魔弾を見せていたその戦いも、50階層を半ばまで進んだ所で魔拳に切り替える。充分ナディアに披露したのと、自身のウォーミングアップを兼ねての事。

 

その魔拳についても魔物を一撃、或いは二撃を以て仕留めていた。ユキの「肉!」という視線を受けて、頭部を破壊するに留める為である。全て一撃でない理由は、単純に身長差があっての事。トロール等の魔物は、高身長のシュウよりも遥かに大きい。拳が届かなかったのだ。

 

足を払ったり、ボディーブローで相手の姿勢を崩す等の工夫を凝らして、相手の頭部を近付けていた。当然これに関しても、ナディアを考慮しての事。魔法を使えないナディアは、不用意に飛び掛かるといった真似が出来ない。いや、決して出来ない訳ではないのだが、身動きの取れない姿勢を作るのはお勧め出来ない。

 

 

そんなシュウの闘い方も、並の冒険者であれば呆然と「凄い」の一言で済ませるだろう。しかし、この場に居るのはいずれも実力者。改めてシュウの恐ろしさを噛み締めてる。

 

「・・・貴女達の夫は恐ろしいですね。」

「そう、ね・・・」

 

ポツリと本音を零したアクアの言葉に、すぐ横に居たナディアが答える。だがその反応も、心が込められたものではない。何故ならシュウの一挙手一投足を、自身の脳裏に焼き付けようと必死なのだ。

 

「オレ達には真似出来ないな。」

「そうじゃな。魔法だけでなく、武器の扱いに於いても隙が無い。さらに素手の戦闘も、となれば・・・正真正銘の化物じゃ。」

「特筆すべきは、規格外の状況判断と処理能力か。あれだけの乱戦にあって、必要最小限の威力に留めてやがる。」

「お手本のつもりなのじゃろうが、果たしてナディアは何処まで近付ける事か・・・。」

 

冷静に分析するエアとアースの先には、多種多様な魔物に取り囲まれるシュウの姿があった。統率の取れた魔物が居ない50階層では、遭遇した魔物が一挙に押し寄せる。ソロで挑む場合、数に対抗する為には幾つかの闘い方というものがある。

 

1つは圧倒的な大火力、或いは広範囲に強力無比な一撃を以ての殲滅。竜王達がこれに当たる。大別するなら、ユキもそうだろうか。本来ならばシュウも此方に含まれる。

 

もう1つは押すか引くかしながら、常に少数を相手し続ける事。これがナディアであり、ユキもある意味含まれる。

 

 

だが現在のシュウはその何方でもない、と言うか両方を選択していた。一挙に押し寄せる魔物達。だがそれは同じ速度、同じタイミングではない。魔物の種類によっては力も速度も異なる。厳密には、同種の魔物であっても個体差がある。

 

どの魔物の攻撃が、どの程度の時間差で到達するか。瞬時に見極め、最適な回避と攻撃を選択して行く。ある程度の実力者ならば、短時間は可能な闘い方。だがシュウは、それを継続しているのだ。竜王達やナディアが驚くのも無理はない。だがそこにあって、やはりユキだけは考えが異なる。

 

(基本的な突きや蹴りだけでも驚異だと言うのに、シュウ君には神崎の技があります・・・。対人戦闘に特化しているとは言うものの、魔物相手に全く使えない訳でもありませんし。今の私では、万に一つも勝ち目は無さそうですね・・・)

 

冷静に戦力差を分析するが、ユキは別にシュウと敵対するつもりなどない。だが冒険者たる者、何時誰と敵対するかわからない。優劣を付けたのは、長年冒険者として活動して来たティナの記憶と経験によるものであった。

 

そんな快進撃というか蹂躙にも、50階層のボス部屋間近で変化が訪れる。突然シュウの構えが変わったのだ。この変化に反応したのはユキ。当然他の者達も、ユキの戸惑いに気付く。

 

「っ!?」

「どうしたのじゃ?」

「ナディア・・・」

「何?」

「絶対にシュウ君から目を離さないで下さい。」

「?・・・わかったわ。」

 

良くわからないが、そう答えるナディア。何時になく真剣な表情のユキに圧倒されたのだ。

 

 

 

 

この時、シュウはウォーミングアップの仕上げに入っていた。

 

(ゴーレムが・・・3体?しかもあの色、前回は居なかったアイアンゴーレムか?クリスタルドラゴンの前に、丁度良い相手かもな。)

 

ここまで肩幅程度に開いていた足を、もう一段階広げる。軽く曲げる程度だった膝をさらに曲げ、左足を前に出す。左手を顔の前、右手は腰の辺りに構える。そのままアイアンゴーレムの突進を待ち構えようとしているのは、ユキ達の目にも明らかだった。

 

圧倒的体格差のゴーレムを相手に、真っ向勝負の様相を呈したシュウ。誰が見ても無謀としか言いようのない光景。それでも動く様子の無いシュウに、距離を詰めたゴーレムが右腕を振り下ろす。

 

「まずは・・・足技。飛燕!」

 

――ドォォォン!

 

ナディア達には頭部を目掛けたハイキックにしか見えなかったのだが、ゴーレムは何故か頭から地面に叩きつけられる。予想外の展開に、誰も声を発する事は出来ない。

 

もう少し知能が高ければ戸惑いを見せたかもしれないが、所詮はゴーレム。残る2体が躊躇う素振りも見せずに襲い掛かる。

 

「次は投げ技。鳴雷!」

 

――ドォォォン!

 

今度は左腕で掴み掛かって来たゴーレムの腕を取った。ようにしか見えなかったのだが、此方も頭から地面へ真っ逆さま。

 

「最後は・・・打撃かな。穿鏨(せんざん)!」

 

――ガァァァン!ズドン!!

 

シュウはゴーレムの右腕を引いただけにしか見えなかった。しかし結果は、胴体から真っ二つ。これには全員が声を上げる。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

「・・・まぁ、こんなもんか。」

 

動かなくなった3体のアイアンゴーレムを一瞥し、シュウが不満そうに呟く。驚愕し固まっていたナディアも、この言葉で再起動を果たす。

 

「ちょっ、今のは何!?」

「ん?何って・・・初歩的な技?」

「な、何が起こったのじゃ!?」

 

初歩的な技。そう言われても納得出来ないエアが聞き直す。

 

「何って、態々手の内を晒す程、オレはお人好しじゃない。自分達で考えてみろよ。」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

 

手の内を晒さない。それはこの場の全員に言える事。結局それ以上は問い質す事も出来ず、ただ只管思考に耽るナディア達なのであった。

 

 

 

 

 

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あとがき

 

随分と更新が滞ってしまい、本当に申し訳ありません。本業があまりにも多忙で、執筆する時間がありません。オマケに体力の面でも余力が無く、休日もほとんど寝て過ごしている状況です。

 

ただ、今後は少しずつ改善されるはずですので、近々執筆を再開出来れば・・・と思っております。予定としては、クリスタルドラゴン戦の後にちょっとした事件を挟んで第二部完結。それから省略した幼少期に入ります。

 

今年中に第三部(幼少期)まで終われるといいな・・・。

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286話 50階層

 286話 50階層

 

 

翌朝、シュウ達は50階層を進んでいた。前回訪れた時と同様、ガーゴイル、キマイラ、サイクロプス、ゴーレムといった多種多様な魔物が群れをなして襲い掛かる。さらには今回も同様に、シュウ単独で相手をして行く。1つだけ異なるのは、愛刀である『美桜』を使っていない事だろうか。

 

「これがシュウ君の編み出した魔拳・・・」

「全部軽く1撃ではないか・・・」

「とんでもねぇな・・・」

「しかもナディアに見せる為に限界まで手加減して・・・」

「・・・・・。」

 

誰もが呆然と眺める中、ナディアだけは動きの全てを食い入るように見つめる。本来であれば、魔物相手に素手で挑むのは愚かな行為。そう考えているシュウも、今回だけは素手であった。しかも繰り出される攻撃の速度は、駆け出し冒険者に毛が生えた程度。

 

どの部位にどの角度で魔拳を撃ち込むと、どういった効果となるのか。しっかりじっくり見せる、ただそれだけの為に。ナディアへのお手本は、ボス部屋の前に辿り着くまで続けられた。徐々に攻撃速度を上げて。

 

 

 

このような展開となった理由。それは50階層に降り立ってすぐの事――

 

「みんなには悪いけど・・・ここからはオレ1人で戦う。」

「何故じゃ?」

「もう少しだけ、ナディアに魔拳を見せておきたい。あとは準備運動かな。」

「準備運動ですか?」

「あぁ。クリスタルドラゴンも、オレ1人で相手をするつもりだし。」

「「「「「っ!?」」」」」

 

予想外の発言に、言葉を失うユキ達。だが説明を聞けば納得のいくものであった。

 

「前回戦ってみて思ったけど、アレを相手に武器は役に立たない。確かに雪椿は美桜よりかなり上だけど、例えるなら・・・アダマンタイトを相手に、鉄か銅かの違いでしかないだろう。決して斬れなくはないんだが、斬る方もタダでは済まない。まぁ正直な所、雪椿の代わりになる刀はそうそう打てないしな。万が一を考えて、ユキには我慢して欲しい。」

「わかりました。」

「「「「え?」」」」

 

まさか即答するとは思っておらず、呆気に取られるナディアと竜王達。前回は相手の姿を見ていなかった為、普通であればやる気になっていたはず。だがユキはブレない性格なのだ。

 

そう!食えない物に興味など無いのである!!

 

それ以外にも理由はある。シュウが告げたように、雪椿は特別なのだ。たった一振りを作り上げる為に打った刀の数は、優に千を超える。ユキの驚異的な殲滅速度は、雪椿によって支えられていると言っても過言ではない。ユキが狩る魔物の量を考えれば、失った場合の影響は計り知れない。それこそ世界規模で。

 

どんな刃物も、使えば切れ味は鈍る。つまり、刀にとってはダメージとなるのだ。もしもクリスタルドラゴン相手に死闘を繰り広げれば、いつかは折れる。それが理解出来たからこそ、ユキは身を引いたのだ。

 

どんな鍛冶職人だろうと、作り出す武具が人生最高レベルとはならない。作る刀が全て国宝級であれば、後世の者達が優劣をつけたりはしない。ユキもそれは理解しているのだ。

 

「そして竜王達。アンタらが本来の姿で、本気で戦えば余裕なんだろうけど・・・それだとナディアやナディアの姉さんが危険だ。」

「相手次第じゃ手加減出来ないだろうからな。」

「上手く加減出来るかわからんしのぅ。」

「・・・・・。(やはり、そこに自分は含まないのですね)

 

シュウの言葉に同意するエアとアース。だがアクアだけは捉え方が異なっていた。ユキの名を出さなかったのは、意図的なのだと見抜いていた。実は現時点で、アクアだけが全員の実力を正確に見抜いている。

 

竜王それぞれとシュウがほぼ同等、次いでユキ、最後にナディアの順である。膨大な魔力と神力を保有するシュウ。その圧倒的な出力と持久力は驚異的なのだが、それは竜王達にも言える事。生物の頂点に君臨する竜種。その王ともなれば、内包するエネルギーは計り知れない。加えて竜鱗という強靭な鎧、巨躯から繰り出される爆発的パワー。総合的に判断すると、どちらが勝っても不思議ではない。

 

だと言うのに、シュウは余裕を崩さない。竜王同士の争いに巻き込まれても、自分ならば対処出来ると理解しているのだ。それはつまり、本気の竜王2体を相手にしても勝てるという事。竜王達の間ではこの世界において、その状況に何とか対処出来るのはカレンだけと考えられていた。

 

だからこそ、アクアは警戒を強める。何がキッカケで敵対するかわからない、思考の全く読めない相手。それが神族なのだから。

 

 

そんなアクアの様子を窺うでもなく、シュウは残るナディアに告げる。

 

「ナディアは・・・問題外かな。」

「・・・実力不足なのはわかってるわ。」

「いや、実力云々よりも精神面。だって最初から人質を取られてるだろ?ソックリな見た目なんだ、ゴブリンでもわかる。前回もいきなりナディアを狙って来たんだし、ナディアが前に出るのはマズイ。」

 

悔しさで拳を握り締めるナディアに、シュウは首を横に振って説明する。それに口を挟んだのはユキ。

 

「クリスタルドラゴンが、お姉さんに何かをすると考えているのですか?」

「しないとも限らないだろ?」

「確かにそうですね。現状がどうあれ、元は竜かそれに似た存在。ゴブリンよりも下は有り得ないはず。」

「それに正直ナディアには悪いけど・・・いざとなったらオレは、ナディアとユキを優先する。」

「・・・わかってるわ。」

 

 

もしも相手がナディアの姉に何かをしても、シュウは決して動揺しない。迷わない。万が一の場合は、ナディアの姉を見捨ててでもクリスタルドラゴンを始末するつもりなのだ。

 

その時が訪れた場合、自身には下せないだろう決断。迎えるであろう結末。それを想像し、覚悟を決めるナディア。そんな決意の表れた彼女の表情を見て、シュウは頷いてから告げる。

 

「最初は限界まで手加減して戦う。徐々に速度を上げるから、絶対見逃すなよ?」

「任せて!」

 

 

気合の入ったナディアの表情に、大丈夫そうだなと自身も気を引き締めるシュウであった。

 

 

285話 50階層へ3

 285話 50階層へ3

 

 

肩を落としてトボトボと歩くナディアを尻目に、シュウ達は少しだけ移動のペースを落とす。単にナディアを案じてのものではない。先頭を歩くシュウが黙り込んでしまった為だ。そんなシュウの様子が気になったのか、アクアがユキに小声で話し掛ける。

 

「貴女達の夫は、先程から一体何を悩んでいるのです?」

「・・・わかりません。」

「あの魔道具の後から様子がおかしいようですね。」

「えぇ。おそらく、本来は常時起動する類の物だったのだと思うのですが・・・」

「そうですか・・・。」

 

ユキならば何か知っているかもしれない。そう思い至っての質問であったが、答えは得られないと知り落胆するアクア。それもそのはず。封印に関してはエレナ、魔道具に関してはランドルフしか知らないのだから。つまり両方を知るのはシュウだけである。

 

そのシュウはと言うと、様々な仮説を立ててはどう立証するかに思考を割いていた。

 

 

――隠蔽の魔道具が機能していないのは、魔力の質が変化した。これはほぼ確定だろう。アークが融合と表現していた事からも、異物が混ざり込んで変質したと考えるのが妥当。ひょっとしたら肉体が2つになってて、どちらかの肉体が致命傷を負っても生き延びられるなんて期待も少しあったけど・・・融合なら違うだろうな。検証する訳にもいかなかったから、この情報は凄くありがたい。

 

次に魔力の質が変化した事についてだが・・・影響はこれまでの魔道具だけに留まりそうだ。魔力登録型の魔道具はこれしか無いし、この点も問題無い。魔法も従来通りに使えるし、何の違和感も無かった。今の今まで気付かなかったくらいだしな・・・。オレとユキに限ってはどっちの姿でもいいように、魔道具を2つずつ用意する事にしよう。

 

ここまでは後でユキにも伝えておこう。問題はそれ以外だ。

 

 

気が回らなかった、というかすっかり忘れてたんだけど・・・この体になってもルーク時代の封印は有効のまま。ユキの病を治療した事や肉体を作り変えた事を考慮しても、単純に混ぜ合わせただけ。問題なのは、これが魔法ではなさそうだって事だ。

 

神の能力に関してはサッパリだが、アークが最低でもそういう能力を有しているのはわかった。だが問題はソコじゃない。大事なのはオレとユキ、カレンの能力について。態々アークが出張って来た事を考えると、1柱・・・というか11人の能力は違うと見るべきだろう。これはつまり――

 

 

シュウが導き出した結論。それは『自力で発現させなければならないのではないか』というものだった。個々人によって異なるのであれば、手取り足取り教える事は出来ない。概要ならば可能かもしれないが、詳細については無理だろう。そう思わざるを得ない。だがここまで考えて、ふと脇道に逸れる。

 

 

――同じ能力じゃない?いや、転移については同じ・・・厳密には違うのか。違う?本当に?――

 

 

異世界転移を使える条件は何か。上級神達の言を信じるのであれば、『脱下級神』である。この時までシュウは、いずれ中級神になれば使えるようになると思っていた。思考を放棄していたのである。だが思い返してみると、色々と矛盾している事に気付く。

 

 

――カレンは上級神に匹敵する実力があると言っていた。にも関わらず、未だ下級神のままなのはどういう訳だ?これはつまり実力・・・神力の量ではない?いや待て、今は転移だ。

 

異世界転移は1度、中級以上の神に連れて行って貰うものだとばかり考えてた。だがそれだと、全面的に異世界転移を禁止する説明が出来ない。教えを請う類の能力であれば、その時しっかり説明すればいいんだから。これはつまり・・・その気になれば、どんな下級神でも異世界転移は出来る!?――

 

 

 

突拍子もない結論。それを導き出したのは、シュウが2人目であった。1人目が誰で、何故禁止となったのか。この時のシュウは知る由もない。現時点で言える事。それは・・・最高神にとって不幸中の幸いだったのが、シュウの現在地が転移禁止のダンジョン内だった事だろう。

 

この時もしも転移出来る状態であれば、シュウは確実に試していた。だがすぐには転移出来ない状況なのと納得のいく結論を出した事で、この件を暫く棚上げしたのである。まぁ、忙しくて忘れたとも言うのだが・・・。偶然にも救われたアークではあったが、彼がこの事実を知る事は無い。

 

 

 

 

ゆっくりとしたペースで進む一行。49階層出口付近での野営を挟み、翌朝には50階層へと足を踏み入れたのであった。

 

 

284話 50階層へ2

 284話 50階層へ2

 

 

「ゔぁぁぁぁん!ごべんなざぁぁぁい!!」

「泣いてもダメ!」

「許してぇぇぇ!」

「絶対に許しません!!」

 

仁王立ちするシュウと、その足に縋り付くナディア。何故このような状況に陥っているのかと言うと、シュウが本気でキレた為である。

 

基本的にシュウは嫁達に寛大である。過去にその怒りを爆発させた相手はスフィアだけとあって、他の嫁達に危機感は無かった。

 

 

普段温厚な者程、怒った時は恐ろしい。それはシュウにも言える事。決して女性に手を上げない分、最も効果的な罰となって襲い掛かる。大人の女性であるスフィアは、大人しく受け入れたのだが・・・中身がまだまだ子供のナディアには受け入れられなかった。それ故に必死の抵抗である。

 

「自業自得じゃな・・・」

「それはそうかもしれませんが・・・」

「えげつねぇな・・・」

「・・・・・。」

 

シュウが下した沙汰に、竜王達が戦慄する。ユキに至っては声も出せない程だ。これがもし自分だったら。そんな想像を巡らせたのだろう。

 

 

一体何が起こったのかと言うと―――

 

「食べ物を使った悪戯は料理人として見過ごせない!ナディアは1ヶ月間プリン禁止な!!」

「なっ!?」

 

あまりの厳罰にナディアが凍りつく。その隙に、シュウはナディアの持つアイテムボックスに魔力を込める。この階層では魔法を使えないが、魔力を込める事は出来るのだ。

 

「製作者権限で、今持ってるアイテムボックスは使用禁止にしたから!」

「えっ?・・・え?・・・えっ!?」

 

驚愕の事実に、ナディアは必死にアイテムボックスを操作する。だが何度やっても反応しない事で、シュウの顔とアイテムボックスを何度も見返したのだ。だが何度見返しても、初めて見るシュウの表情に変化は無い。結論は覆らないと判断し、それなりに頭の回るナディアは対処法を考える。

 

(帝都の商会で・・・は売ってないんだったわ。なら城の料理人に頼めば・・・ルークの目があるから無理!寧ろ1ヶ月は献立から消える。あとはティナの非常食に・・・残ってる訳ないじゃない!!・・・・・詰んだ・・・。)

 

 

どう足掻いてもプリンを入手する事は出来ない。そう理解し、呆然とするナディア。だが大人しく受け入れられる性格ではない。いや、元Sランク冒険者でありギルドマスターだった彼女は、強者というか権力者故の傲慢さを持っている。結果、最後の悪足掻きに打って出た。泣き落としである。

 

自分に甘い夫ならば、もっと軽い罰にしてくれるだろうと。だがそれはナディアの考えであり、シュウの考えとは違う。そもそも、1ヶ月はかなり軽い罰なのだから。

 

シュウが作るスイーツは、プリンだけではない。今では数え切れない程の種類を提供しているのだ。1ヶ月どころか半年プリンを作らなくとも、他の嫁達は気にも止めないだろう。ナディアだけが食べられないようにするなら性格が悪いかもしれないが、シュウにその気はない。みんな平等に食べられないのである。

 

一見公平且つ平等に見えてしまう罰ではあるが、見方を変えれば恐ろしい事でもある。一時的ではあるが、この世界からプリンが消えるのだ。どれだけ努力しようとも、決して入手する事が出来ない。大げさに言うなら、ロストマジック、古代の遺産である。

 

 

 

何故このような状況に陥っているのかと思うかもしれないが、それは当然ルークが調理法を秘匿しているからにほかならない。とは言っても、欲に目が眩んでの事ではない。

 

ルークとしては、調理法を知られるのは構わなかった。聞かれれば懇切丁寧に教えただろう。だがそれは、この世界が平和ならという注釈が付く。

 

卵の希少性だけでなく、砂糖を始めとした調味料も貴重なのだ。一時の利益に群がる相手は、販売する商人に留まらない。生産者すらも危ういのである。根こそぎ奪ってしまえば、その希少性は跳ね上がる。後々出回らなければ、価格は安定して上がるのだから。

 

そこまで考えた上で、ルークは調理法を含めた材料までを秘匿したのだ。現状を維持すれば、余計な騒動には発展しないだろうと踏んで。そしてそれは正解だった。現在帝都の地下で作られている砂糖に関しても、帝国の軍隊が警備にあたっている。そこまでしなければ守り切れない物なのだ。

 

 

 

 

縋り付くナディアを振り払い、シュウはユキ達の下へと歩み寄る。

 

「・・・少し厳し過ぎるのではありませんか?」

「本当は1年でも良かったんだけどな。」

「ひぃっ!?」

 

シュウのとんでもない発言に、ナディアが泣き止む。

 

「今回はそこまで時間を無駄にしなかったし、もし水を持って無くても故意に道を間違えれば戻る事は出来た。」

「「「「あぁ・・・」」」」

 

ここまで30分しか経っていない事もあって、時間のロスは少ない。最悪の場合でも、道を間違える事で40階層へは容易に戻る事が出来る。厳罰を与える程ではないと判断したのだ。

 

「だが、何が起こるかわからないダンジョンでやっていい事ではないだろ?」

「そう、ですね。」

「まぁ、食べ物を使った悪戯は別にいいんだけどさ。」

「良いのか?」

「あぁ。粗末にしなければ構わないよ。お菓子に激辛な香辛料を使った悪戯もあるでしょ?」

「確かにありますね。」

「今回のは、相手と場所次第では命の危険を伴う内容だったから、かな。」

「なるほどのぉ。確かに干物になるかと思ったのじゃ・・・。」

「オレも体験してるから、あの辛さはわかる。だから総合的に判断して1ヶ月。」

「「「「なるほど。」」」」

「・・・・・。」

 

全員が納得の結論。それはナディアも同じだった為、これ以上の異議を申し立てる事は出来ない。だが素直に受け入れる事も出来ない為、無言を貫くしかなかったのだ。

 

それよりも、ユキ達にはもっと気になる事があった。

 

「それはそうと、魔道具には製作者権限という物があるのですね?」

「ん?あぁ。やっぱり悪用された場合を考慮する必要はあるからね。都合良く製作者が対処出来る事は少ないだろうけど。」

「なるほど。」

「ならば、お主が付けておる魔道具が機能しておらんのもソレか?」

「え?」

 

エアの問い掛けに、驚かされたのはシュウである。自身が製作した魔道具しか所持していないのだから、それもそのはず。だからこそ、シュウにはどの魔道具を指しているのかがわからない。

 

「ほれ、その服に付けておる飾りじゃ。魔石が付いておるのじゃから魔道具なのじゃろ?」

「っ!?あ、あぁ・・・コレか?コレは今必要じゃないんだよ。」

「なんじゃ、そういう事か?」

「エア、アイテムボックスとか言うのだって常に機能してる訳じゃないだろ?」

「おぉ!確かにそうじゃの!!」

「「・・・・・。」」

 

シュウが見せた刹那の動揺。エアとアースは気付かなかったようだが、アクアとユキは何かを感じ取ったのだろう。2人が眉をひそめたのだが、それに気付く者はいなかった。

 

 

 

(隠蔽の魔道具が機能していない、だと?一体何時から・・・。アイテムボックスは問題無く機能している。2つの大きな違いと言ったら、使用者に合わせて作られているかどうかだけど・・・まさかっ!!ひょっとして、シュウの姿には反応しないのか!?だとすると・・・間違いなく母さんには気付かれただろうな。まぁ、気付かれても特に問題じゃないからいいけど、詳しく検証する必要はあるだろうな。)

 

使用者に合わせて作られた、隠蔽の魔道具。だがそれは使用者の魔力を登録するだけの物。姿が変わっただけだと思っていたシュウにとって、この情報は重要なものであった。自身に施された封印が露見する事については何の問題にもならない。何となく隠しているだけなのだから。

 

問題なのは、魔力の質について。シュウとユキの肉体が齎す影響を、放置する訳にはいかないだろう。この先に待ち受けるのは、かつて引き返す事となった強敵なのだから。

 

 

283話 50階層へ1

 283話 50階層へ1

 

 

シュウによって放たれた禁呪の炎が消え、辺りは静けさを取り戻す。とは言っても、全くの無音ではない。と言うのもボス部屋の前には現在、人の声が響き渡っていた。だがそれは予想外の人物の声。

 

「―――お主の旦那も悪いが、お主はもっと悪いのじゃぞ!」

「・・・はい。」

「そもそも何が起きるのかもわからんのじゃ!油断していられる程、お主は強くもなかろう!?」

「・・・ごめんなさい。」

 

声を荒げているのはエア。その相手であるナディアは現在、地面に正座させられている。何故このような事態となっているのか。それはナディアがシュウに怒りをぶつけた為に起こったのだ。

 

 

普通に考えればシュウが悪い。だがそれは、普通の状態であればの話。と言うのも、彼女達が置かれている状況は普通とは言い難い。今居るのは、危険と隣合わせのダンジョン。魔物も居れば罠もある。そんな特殊な状況下にあって、ナディアは無防備な姿を晒していた。そんな自身の行動を棚に上げてシュウに食って掛かったのだが、それがエアには許せなかったのだ。

 

そんなナディアに救いの手を差し伸べたのはシュウ。半分は自分のせいで叱られているのだから、その行動も頷ける。

 

「元凶はオレなんだし、そこまでにしてくれないか?」

「・・・やれやれ、わかったのじゃ。」

「悪いな。さぁ、ナディアも立って。」

「・・・ありがとう。」

 

シュウが差し伸べた手を、渋々と言った表情で掴むナディア。非常に面白くないのだが、ここで不満を口にしては逆戻りとなるのは理解している。元ギルドマスターだけあって、そこまで馬鹿ではないのだ。

 

 

一方で、説教を中断させられたエアも不満を抱いている。ムスッとしたエアとナディア。間に挟まれて居心地の悪そうなシュウ。そんな3人に苦笑しつつ、先へと進むユキ達。

 

 

 

そんな重苦しい空気も、そう長くは続かない。何故なら階段を降り切った彼女達の目に、これまでとは異なった景色が映り込んで来たからだ。

 

「これは・・・」

「本格的にダンジョン、と言った形ですね。」

 

整備された洞窟、或いは坑道といった光景に驚いたエアとアース。そんな2人に、2度目の訪問となるユキが説明を行う。

 

「以前と同じなら、ここからは迷路です。」

「「迷路?」」

「はい。49階までの間に1度でも道を間違えると、今立っている場所まで戻されます。」

「「はぁ!?」」

 

2人が驚くのも無理はない。順調に進んでも時間の掛かる道のり、それが迷路である。それを1度も間違えるなと言うのだから、とんだ無理ゲーだろう。

 

「しかも魔法は使えず、蒸し暑い環境が続きます。ですが魔物は一切現れません。」

「攻略が絶対に不可能と言うわけでもない、か・・・。」

「・・・道中に水や食料はあるのですか?」

 

逸早く問題点に気付くアクアは流石だろう。感心しながらも、ユキは最も大事な説明を続ける。

 

「水はありませんが、食料はあります。ですが、絶対に食してはいけません。」

「食うな、だと?」

「えぇ。食べると耐えられない程に喉が乾くみたいですよ。」

「・・・地味だが強力な罠だな。」

「「・・・・・。」」

 

一通りの説明が終わると同時に、遅れていたシュウ達が追い付く。当然エアにも説明は必要なのだが、意外にも引き受けたのはナディア。

 

この時、シュウ達は何も思わなかった。だからこそ、後ろでナディアが説明する声に耳を傾けたりはしない。悪く言えば油断。良く言えば予想外。いい年した大人がするとは思わなかったという・・・。

 

 

まさかそんな未来が待ち受けているとは思わず、シュウ達は充分に警戒しながら先へと進む。前回よりも相当早いペースで辿り着いたのはジャングル。果実の楽園とでも呼ぶべき場所であった。

 

事前に説明を受けていれば、凶悪な果実に気を取られる事はない。それ故に、ユキが気になったのは他の部分。この質問が無ければ、あんな事は起こらなかっただろう。

 

 

「シュウ君?」

「ん?」

1度も迷わず辿り着きましたけど、ひょっとして・・・覚えているのですか?」

「道順の事?それなら50階層まで完璧に覚えてるよ。」

「「「はぁ!?」」」

 

まさかの答えに、ユキとアース、そしてアクアが驚きの声を上げる。何故なら、普通は地図が無ければ不可能な芸当だからだ。ここまでの道のりですら、前回は3時間を要した。冒険者パーティ『森の熊さん』がマッピングした地図をもとにして。今回は現在地の確認をカットしたお陰で相当に速い。驚異的な身体能力も相まっているのだが、だがそれでも30分は掛かっている。

 

かつては天才と持て囃されたユキも、ここまでの道順を覚えるので精一杯。かなりの早歩きでも、50階層までは10時間程掛かる。そんな巨大迷路の道順を、完璧に覚えていると言うのだから格が違う。

 

「オレの場合、ここに来るのは2度目だしね。」

「「「・・・・・。」」」

 

1度も2度も、大した違いではない。到底受け入れ難い事実に放心するユキ達。そんな彼女達の目の前で事件は起こる。

 

「美味しそうな果実があるではないか!・・・おぉ、美味いのじゃ!!」

「「「「っ!?」」」」

「・・・ぷぷっ!」

 

興奮したエアの大声に、シュウ達は一斉に顔を向ける。その背後で笑いを堪え切れないナディア。そう、食ってはいけないという説明だけを、意図的にしなかったのである。仕返しというか逆恨み。叱られた事を根に持っての犯行である。

 

「ひぇっ!?の、咽が!!」

「くっくっくっ、あーっはっはっはっ!」

「み、水・・・」

「偉そうに説教するからよ!!」

「「「「・・・・・。」」」」

 

まさかの展開に、シュウ達は言葉を失う。だが呆けてもいられないとあって、すぐさまアクアが駆け付ける。

 

「アクア!水を頼むのじゃ!!」

「ここでは魔法を使えませんよ?」

「ガーン!」

「あーっはっはっはっ!!」

 

笑い転げるナディアに冷たい視線を向けながら、シュウは水の入った樽を手渡す。

 

 

 

 

「・・・アレが同じ嫁でいいのか?」

「・・・そちらこそ、加護を与えてもよろしいのですか?」

「「・・・・・。」」

 

人選を間違えたかもしれない。本気でそう思うユキとアースなのであった。

 

 

 

 

 

 

―――あとがき―――

長らく更新が滞ったこと、本当にすみませんでした。書く時間はあったのですが、とてもそういう気分になれなかったのです。

 

幼少の頃から面倒を見てくれていた、兄のような人の突然の訃報。その心の整理もつかぬままに齎された、数年間闘病を続けていた幼馴染の訃報。コロナウィルスの影響で、私はどちらの葬儀にも出席する事が出来ず・・・夢でも見ているような毎日でした。

 

ですが、ある程度は心の整理もついたので、活動を再開しようと思います。そんな私に言える事。それは―――別離は突然です。自分が出会った人達との関係を、今一度見つめ直して欲しい。心からそう思います。

 

 

282話 シュウの失敗

282話 シュウの失敗

 

「何とか窒息せずに済みそうだな。」

「ですが、ボス部屋だけは素通りする訳にもいきませんよ?」

「そうだよなぁ・・・仕方ない、サクッと倒して来るか。」

 

シュウとユキの会話からもわかるように、一行は現在ボス部屋の前に居た。ここまで一切の戦闘も無く、真っ直ぐ上空を突っ切ったのである。ダンジョンを作った者が見たら憤慨しただろうシュウ達の行動だったが、それを咎める者などこの場には居ない。

 

そしてシュウが言ったように、この階層で苦戦するようなボスは居ないと思われた。と言うのも、シュウは今回も鑑定魔法を使用していたのである。

 

 

ある程度ボスの正体を察したシュウは、1人ボス部屋の扉を開けながら呟く。

 

「しかし、この鑑定魔法・・・巫山戯た人物の思考が反映されてるだろ。」

 

◆スノーさん

種族:雪?ゴーレム?

年齢:?

レベル:73

称号:40階層ボス、美白の女王

 

 

恐らくは雪のゴーレムなのだろうソレは、名前からも想像出来るようにスノー○ンに近い姿形をしているはず。そう考えていたシュウの予想は、残念ながら的を得ていた。但し、微妙に違っている部分がある。

 

「・・・スカート履いてやがる!」

 

角ばったゴーレムではなく、大分丸みを帯びたゴーレム。そしてしっかりとスカートを履いていたのだ。故にスノーさん。真っ白な女性という事で、美白の女王である。そんな美白の女王が、シュウの視界を埋め尽くしていた。

 

「しかも何体居るんだよ・・・。レベル73って平均値か?だとすると、冒険者で言う所のSからSSランク相当だよな。このダンジョン、ボスの強さの振れ幅がデタラメ過ぎるだろ。」

 

シュウが文句を言うのも当然である。シュウは数えるのを諦めたが、ゴーレムの数は100体を超えている。単体でレベル70ならばCからBランク相当なのだが、それが10体も居ればランクは1つ上がる。20体ならもう1つ上がる訳ではないが、100体も居れば1つか2つはランクが上がるだろう。

 

ケロベロスは単体だった為、確実にCランク。冒険者の人数にもよるが、Dランクのパーティであれば問題無く倒せる。それが10階層進んだだけでSランク超えなのだから、シュウの苦言も納得である。

 

 

それはともかく、今は目の前の敵である。加えてボス部屋にも雪はある。つまりナディアでなくとも寒いのだ。シュウにとっても持久戦は好ましくない。ならばどうするか。答えは1つしかない。ボスの種族や数に関係なく、それは予め決めていた。その為のソロ討伐である。

 

 

「コレを使うのも久しぶりだな・・・

 

炎よ来たれ

その身は我が矢となり

その身は我が鎧となりて

我が力を贄とし 我が命を聞け

我が力を燃やして 灼熱と化せ

その身は罰を その身は弔いを

眼前を埋め尽くす炎よ

天を焦がせし劫火よ

その全てを包み込め

浄化を齎す高貴な炎よ

この世の全てを焼き尽くせ

 

インフェルノ!』 」

 

 

シュウが放ったのは炎の禁呪。帝国兵を殲滅したソレは、地獄の業火とでも呼ぶべき代物。かつて数キロ四方を焼け野原に変えた恐るべき魔法は、ボス部屋に存在する雪諸共焼き尽くす勢いで広がって行く。

 

ほんの一瞬の出来事だが、この時点でシュウは自らの過ちに気付く。ボス部屋は広いと言っても、精々100メートル四方。その数十倍を焼き尽くす炎は、瞬きする間に行き場を失う。するとどうなるか。答えは簡単、行く場所が無いのだから帰って来るのだ。

 

「え?やべ・・・退避!」

 

全力疾走でボス部屋の扉を開け放つ。当然扉の前にはシュウを待つユキ達の姿があった。しかし今のシュウには彼女達を気遣う余裕など無い。だがユキ達もそれなりの実力者。シュウが見せる必死の形相に異変を察知し、すぐさま扉の横へと避難する。

 

 

この時点で気になるのが、全身を毛布に包まれている人物。周囲の様子など窺い知る事も出来ないのだから、その場に取り残されるのは当然であった。全員がその事に気付くも、時既に遅し。

 

「「「「「あ・・・」」」」」

 

全員が口を大きく開け、只ただ見守る事しか出来ない。

 

 

取り残されたナディアの、不幸にして幸いだった事。それは視界を塞ぎ、地面に這いつくばっていた事だろう。炎は上昇するのだ。ある程度の距離を取っていた事で、ナディアが炎に包まれる事は無かった。無かったのだが・・・

 

「寒い寒い・・・あれ?何だか暖かくなって来た・・・熱っ!!」

 

地獄の業火と形容するだけあって、その温度も凄まじい。数十メートル離れたところで、逃れられるはずがないのだ。勢い良く毛布を放り投げて頭を上げる。その視界に広がるのは灼熱の炎。

 

「ヒィッ!熱っ!!雪、雪!?って無いじゃない!!」

 

耐えきれない程の熱波に、慌てて雪を探すも周囲にあるのは水溜りのみ。周囲の雪など、ナディアが暖かいと思った時には溶けていたのだ。

 

全員が手遅れになる前にナディアを救おうと魔法の準備をしていたのだが、右往左往するナディアの様子に胸を撫で下ろす。

 

「・・・良し!ナディアも暖まったみたいだな!!良かった良かった。」

「「「「・・・・・。」」」」

 

 

苦し紛れの言い訳をするシュウに、誰もが冷ややかな視線を向けるのであった。

 

 

281話 ユキの想い

 281話 ユキの想い

 

 

暖を取り何とか復活?を果たしたナディア達。しかし暖まったのは体だけで、外の気温は相変わらず低いまま。このまま外に出れば、同じ事の繰り返しである。

 

そんな時頼りになるのは、風を自在に操るエア。暖まった部屋の空気をナディア達に纏わせ、一気に抜けてしまおうと考えたのだ。

 

だが完全に外気と隔離する事は出来ない。いや、正確には容易く出来るのだが、隔離する訳にはいかない。何故なら、呼吸によって酸素を消費してしまうからだ。外気を遮断するという事は、密閉空間を意味する。寒さは我慢出来るかもしれないが、酸欠は我慢出来ない。即ち、空気が入れ替わる前に雪原を抜けなければならなかった。

 

とは言っても、如何に竜王であろうとそれは不可能。どう足掻いても、5階層を抜けるのに30分は掛かる。直線距離にして10キロ。只飛ぶだけであれば、エアの速度で2分程度。しかしいきなりトップスピードとはいかない。普通は徐々に加速するものなのだ。当然減速にもある程度の時間を要する。

 

これがエア単独で、且つ戦闘中ともなれば話は違う。周囲を一切顧みず、急加速や急停止を行う事だろう。だが今は、その背に乗る者達が居るのだ。ナディア達を気遣った結果、トップスピードに到達する前に減速しなければならない。

 

加えてダンジョンの出入り口の大きさも問題であった。竜の姿のままでは、通り抜ける事が出来ないのだ。階層の出入り口を通過する際に人の姿に戻り、徒歩で階段を進む。そうした一連の行動を含めると、1階層を抜けるのに最低でも5分以上掛かるのだ。

 

当然全員が急げば時間の短縮は可能となる。だがそれは、空気をコントロールするエアにとって負担でしかない。外気が流れ込むリスクを追ってまで、急ぐ理由は無かったのだ。

 

 

そして現在、シュウ達は38階層の上空を突き進んでいた。

 

「エアを除いて5人。計算上、酸素だけなら10時間は保つんだけど・・・。」

二酸化炭素濃度等の、計算出来ない物もありますからね・・・。」

「竜の呼吸なんて、研究されてるはずも無いからなぁ。」

「この世界の住人達は、地球と比較すると酸素の消費量も多いはずですし。」

「ギリギリかもしれないな・・・」

 

暖を取った部屋の大きさから、ザックリした酸素量を算出したシュウとユキ。だがそれは地球での話。この世界に当て嵌まる保証は無いし、ひょっとしたら未知の気体もあるかもしれない。加えて生態の不明な竜種まで居る。

 

エアの背中で焚き火をするわけにもいかないのだから、その表情は深刻であった。そんなシュウ達とは正反対なのが、会話に加わっていないナディア達。

 

「ナディア・・・せめて顔だけでも出したらどうなんです?」

「嫌よ!急に冷気が流れ込んだらどうするのよ!!」

「・・・駄目だこりゃ。」

「「・・・・・。」」

 

お手上げだとばかりに肩を竦めるアース。今のナディアには、シュウとユキも冷ややかな視線を向けざるを得ない。何故ならナディアは今、全身を毛布で覆い隠しているからだ。

 

 

こんな状態でどうやって階層の出入り口を進んだのかと言うと、勿論シュウに運ばれて。しかもお姫様抱っこやおんぶではない。猫のように丸くなった状態を辞めようとしなかった為、仕方なく頭上に掲げられたのだ。

 

ナディアに甘いシュウだったが、ユキがそれを咎めるような事も無い。何故なら、ナディアを嫁に選んだのがティナだったからである。これにはシュウも意外に思ったのか、率直に理由を尋ねていた。

 

 

 

「叱らないんだな?」

「何をですか?」

「ナディアに甘いって。」

「あぁ・・・ふふっ。そうですね。ですが、ナディアはいいんですよ。」

「?」

 

ナディアはいい。その理由がわからず、シュウは首を傾げる。ユキが構わないと言ってる以上、深く掘り下げるべきでは無いのかもしれない。しかし気にならないはずがなかった。

 

「どうして私が・・・ティナが、ナディアをコチラ側に引き込んだのかわかりますか?」

「どうして?・・・・・知り合いだった、から?」

「知り合いというだけで、アナタの妻に誘うと思っているのですか?」

「いや、無いな。」

 

ユキの指摘に、シュウは自身の言葉を撤回する。ティナは100年以上も冒険者を続けているのだから、当然知り合いの数は多い。そんな理由で嫁を選んでいては、シュウの身が保たないだろう。

 

「これでもアナタの好みは把握しているんですよ?」

「いやいや、村には同年代の女性なんていなかっただろ!?」

「ターニャとか?」

「そ、それは・・・」

 

ターニャとはウサギの獣人で、ティナよりも年下である。ナディアよりも年上なのだが、獣人の寿命は人族よりも長い為、見た目は20代前半であった。そして幼少期のルークが鼻の下を伸ばしていた事を、ティナはしっかりと目撃している。見た目は子供、頭脳はオヤジのルーク曰く『リアルバニーちゃん』なのだ。

 

「私が亡くなってからのシュウ君を知りませんから断言は出来ませんけど、タイプですよね?」

「いや、その・・・」

「タイプですよね?」

「・・・はい。」

 

眩しい程の笑顔で迫るユキに、シュウは顔を逸しながら白状する。そんなシュウに対し、ユキは苦笑混じりに告げる。

 

「ふふっ。別にアナタを責めている訳ではありませんよ。」

「え?」

「私が先立った事で、アナタが誰よりも辛い想いをしたであろう事は、私が誰よりも理解しています。ナディアを引き込んだ時、私にはユキとしての記憶はありませんでした。ですが、何故かそうしなければならないような気がしたのです。」

「・・・・・。」

「ですが、今ならわかります。アナタは・・・シュウ君は、孤独だった私に家族を作ってくれようとしました。真っ直ぐ私だけを見て、ただ只管私だけの為に。そんなアナタに、私も家族を作ってあげたかったのです。」

「ユキ・・・」

「シュウ君の1番を譲るつもりはありません。ですが私は、変わらない恋なんて無いと思っています。大きくなるか、小さくなるかのどちらかです。ですから競い合い、高め合って行ける恋敵を求めました。」

「それがナディア?」

「はい。ナディアならきっと、永遠の恋敵となってくれると信じています。」

「そうか・・・ありがとう、ユキ。」

 

 

打ち明けられたユキの想いに、シュウは感謝の言葉しか浮かばなかった。やはりユキという存在は別格なのだという実感を噛みしめるシュウではあったが、それでも時と場所は選ぶべきだろう。

 

「あのぉ・・・」

「何だ、アクア?」

「盛り上がっている所申し訳ありませんが、本当にアレが永遠の恋敵で良いのですか?」

 

不本意ながらも割り込んできたアクアが指を差す方へと視線を向けるシュウとユキ。そこにはまたしても顔だけ出して冷ややかな視線を向けるナディアの姿があった。

 

「ちょっとアンタ達!2人でイチャつかないでよ!!」

「だったら毛布を取って混ざればいいだろ?」

「嫌よ!急に寒くなったらどうするのよ!!って雪が降ってるじゃないの!?全く、何で白いのよ!もっと暖かそうな色にしなさいよね!!あぁ、嫌だ嫌だ。」

「チンピラじゃねぇか・・・」

「「「「「・・・はぁ。」」」」」

 

散々悪態をついて、再び毛布に顔を埋めるナディア。寒くなったらまた毛布を被るなりすれば良いと思う一同だったが、言った所で無駄だろうと思い溜息を吐く。

 

「私は人選を間違えたのでしょうか?」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

 

ユキの疑問に、誰もが沈黙するしかなかった。正直に答えればチンピラを敵に回すし、どうフォローしても嘘くさいのだから。