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Shining Rhapsody

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355話 事後処理13

355話 事後処理13

 

 

「お2人共、そこまでです!」

「・・・リノア?」

「リノア・・・さん?」

「私達も学園都市に向かいますから!」

「「っ!?」」

 

突然の宣告に、ルークとティナが揃って息を呑む。2人が驚いたのは、リノア達が付いて来る気なのかと思ったからだ。狙って告げたのなら策士だが、当然リノアにそのような意図は無い。焦って説明が不足しただけの事。

 

どのようにして向かうつもりなのかを言っていたら、2人がそこまで驚く事は無かった。だが転移するつもりだった2人に同行するとなれば、村の者達を置いて行くことになる。そこはまぁ百歩譲ったとしても、激戦が予想される学園都市にリノア達が向かう。そんなのは危険でしかない。だからこそ驚いたのだ。

 

「学園都市って・・・」

「危険なのですよ!?」

「覚悟は出来ています!」

 

頭の良い者同士であれば、言葉足らずでも良い。相手の意図を汲んで会話が成立するのだから。しかしリノアは違う。決して頭が悪い訳ではないのだが、通常とは異なる思考。所謂天然である。普通は噛み合わないはずの会話が、どういう訳か噛み合ってしまう。

 

「学園都市へ向かうという選択は素晴らしいと思いますが・・・」

「幾ら覚悟があっても、リリエルだけで守り切れるかどうかだよな・・・」

「いいえ、私達が魔物に遭遇する心配はありませんから!」

「そうなのですか?でしたら・・・」

 

自信満々に言い切ったリノアに、思わずティナが信じかける。だがティナより学園都市に詳しいルークが不審に思う。そんな場所があっただろうか、と。

 

「ちょっと待った。リノアは何処に居るつもりだ?」

「え?地下ですけど?」

「・・・え?」

「地下・・・あぁ、そういう事か」

「ひょっとして、地下通路を通って学園都市へ戻るという事ですか?」

「はい!」

「あの地下通路ですか・・・」

 

ティナが自分の通って来た道程を思い出していると、考えを察知した村の代表が口を挟んできた。

 

「えぇと、村の者達が使っている通路でしたら、魔物が入り込んでもすぐに対処出来ます。それにかなり深く岩盤の硬い地層の下を通っておりますから、例え竜種の群れが上で暴れたとしても崩落する危険は無いはずです」

「確かにそうですね」

「魔物が入り込んでも対処出来る、というのは?」

「ご存知かと思いますが、あそこは非常に入り組んだ造りとなっております。そこには侵入を報せる魔道具が仕掛けてありまして・・・」

「あぁ、だから至る所で待ち伏せしてる者が居たのか」

「ひょっとして・・・あの者達の奇襲を、正面から返り討ちにされたのでしょうか?」

「あぁ、かなりの人数が居て面倒だったな」

「そ、そうですか・・・」

 

代表が言い淀んだのは、ルークが難なく対処したからではない。正規の入り口を通った場合、一人前の冒険者であればほとんど迷い込まない構造になっているからだ。待ち伏せしていた者達のほとんどが、道中の抜け道から入り込む魔物を警戒して配備されていたのである。

 

まさかそこまで迷っていたとは思わず驚いたのと、ルークに対して気を遣ったのであった。

 

 

「ともかくそういう訳で、リノア様達の事は我々にお任せください。戦えない者達の避難という意味でも、地下へ向かうしかありませんので」

「そういう事ならわかった」

「それで、申し上げ難いのですが、我々にも移動の準備がありまして・・・」

「ん?あぁ、そういう事なら全員の準備が終わるまでの警護はオレがしよう。地下通路へ荷物を運び込むなら半日でいいか?まぁ、焦らずしっかり準備するといいさ」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 

ルークの言葉に甘える形で、準備へと向かう村人達。会話を聞かれる心配の無い距離まで離れたのを確認し、ティナがルークに文句を告げる。

 

「準備に半日ですか?此方も時間が無いのですけど?」

「焦る気持ちはわかるけど、少し落ち着いたら?」

「・・・落ち着いていますから」

「いいや、落ち着いてないから。焦って自分の事しか見えてないよね?」

「どういう意味です?」

 

不機嫌そうに聞き返すティナに、ルークは内心苦笑しつつも説明する。

 

「この村の者達がするのは、単なる移動の準備じゃないよ」

「?」

「魔物の群れが押し寄せる以上、全員が村を離れるというのは防衛を放棄するって事だろ?すると、この村はどうなる?」

「防衛しないと・・・そういう事ですか。すみません、配慮が足りませんでした」

「いや、オレに対してなら構わないさ。それに彼らに対して急かすような真似はしなかったんだし、気にする必要は無いと思うよ」

 

 

防衛しない、つまりは為すがままである。防壁のしっかりした大都市ですら壊滅の恐れがあるのだ。魔物の大群が押し寄せるとなれば、村などあっという間に蹴散らされるだろう。だからこそ、彼らが向かったのは村を棄てる準備。

 

住む場所の斡旋等はリノア達がする。だが数名ならともかく、100名以上居るのだ。住居の用意だけでも数日、家財道具となればそれ以上掛かるだろう。全員が纏まっての生活となれば、ひょっとすると数十日住む場所すら見つからない可能性の方が高い。ならば安全な地下通路での生活も覚悟の上で、家以外の全てを運び出そうと言うのだ。

 

 

恐らく半日でも足りないだろう。そう思ったティナは、ルークが自分のために泥をかぶったのだと気付くのだった。