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Shining Rhapsody

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358話 戦闘準備

358話 戦闘準備

 

 

状況と情勢の予測に思考を巡らすティナだが、じっくり考えさせる猶予は無い。まぁこれも予測に過ぎないのだが、いい意味で外れていれば考える時間はある。

 

「それで、どうする?あまり考えている時間は無いと思うし、今なら送って行けるけど?」

「・・・ではリリエルさんには私からお伝えして来ますので、お願いします」

「あぁ、わかった」

 

この場所へ魔物が到達するには、まだ時間がある。ルークが離れても問題は無いし、リリエルが居れば少し位の遅れは問題無いだろう。何より力を温存しておきたいティナにしてみれば、ルークが送ってくれるのは有り難い。そう考えたティナは、リリエルに説明すべく走り去った。

 

少しでも力を温存すべきだが、ウォーミングアップを兼ねての行動でもある。あまりルークに手間を掛けたくない気持ちの方が大きかったが。

 

 

「さて、ティナだったら死にはしないと思うが、疲れて足元を掬われる可能性はある。それに・・・今回ばかりは、幾ら雪椿でも折れるだろうな」

 

どんな名刀も使えば切れ味は鈍るし、そのまま酷使すればいずれは折れる。ルークは武器を消耗品と割り切っているから然程気にしないが、ティナは違う。いや、一流の冒険者なのだから、頭ではわかっている。しかし、だからといって愛用の武器が折れても気にしないというのは無理なのだ。

 

雪椿が折れるとなれば、かなり無茶な状況であるのは間違いない。そんな時に愛刀が折れてしまえば、確実に動揺するだろう。それは非常にマズイ。

 

そして、もしも無事に今回の事態を乗り切ったとしよう。そうなると、次に考えなければならないのはティナの戦力低下である。雪椿と同等以上の名刀など、すぐには準備出来ないのだから。今まで斬れていたモノが斬れない。そうなれば手数が増え、刀身の損耗も早まる。思うように戦えないストレスは使い手を、なかなか同等以上の刀を造れないストレスは作り手を追い込む。そんな負の連鎖が目に見えるのだ。

 

「研ぎまで終えて、どうしても納得のいかなかった刀身が三振り。万が一を考えてハバキと鍔、柄を用意しておいたのは幸いか。流石に鞘は無いけど、今回ばかりはアイテムボックスに入れておけば何とかなるな。流石はオレだ」

 

自画自賛しながら、ルークがその場から消え去る。数分後、再び元の場所に現れたルークは、持っていた三振りの刀を地面に突き刺した。

 

「ルーク?」

「ごめん、ひょっとして待った?」

「いいえ、私も今戻りました。ところでそれは?」

「うん?まぁ、雪椿になれなかった刀、かな」

「俗に言う影打ちという物ですか?」

「ははは。影打ちって漫画じゃないんだから、そんな大層な代物ではないよ」

 

ルークはティナの言葉に苦笑する。謙遜しているが、実はルークの愛刀である美桜と比べても遜色ない出来である。刀としては素晴らしい出来なのだが、ティナが持つには相応しくないというだけの理由で日の目を見なかった、何とも可哀想な刀である。

 

「ティナ、今回はこの三振りを使って欲しい」

「え?私には雪椿がありますけど・・・」

「あぁ、この三振りが使える間、雪椿は使用禁止ね」

「っ!?」

 

突然の禁止令に、ティナが愕然とする。

 

「幾ら優れていようと、雪椿も所詮は消耗品だ。どんなにティナが大事に扱おうと、酷使すれば必ず折れる。そして残念なことに、雪椿に代わる刀を用意するにはあまりにも時間が掛かるんだ。鍛冶に専念する時間が無い以上、それだと取り返しがつかない」

「その為の代用品ですか?」

「あぁ。本来なら廃棄するはずだった刀だから、全部折れたって問題ない」

「ですが・・・」

「心配する気持ちはわかるけど、そこそこの刀だから大丈夫だと思うよ」

「そこそこ、ですか?」

「そう、美桜と同じ位」

「それを世間では名刀と呼ぶのでは・・・」

 

戸惑うティナだが、ここで自分が何を言っても無駄だと諦める。何よりティナとしても、愛着のある雪椿が折れるのは非常に困るのだ。それに完全に使用を禁じられた訳でもない。この三振りの刀が使い物にならなくなれば、使っても良いと言われているのだから。

 

だからと言って、ルークが用意してくれた刀をぞんざいに扱うつもりもない。美桜と同等なら、明らかに名刀の類である。

 

「それと鞘までは用意出来ないから、アイテムボックスから直接出し入れして欲しい」

「わかりました。ちなみにですが、もし無事な刀があれば鞘を作って頂けますか?」

「いや、弱いゴブリンを100200斬るんじゃないんだ。まず間違いなく折れる」

「ですから、もしもの話です」

「・・・わかった。だからって、切れ味が鈍ったらすぐ交換、じゃダメだからな?本来なら雪椿も消耗品と言ってやれれば良かったのに、言えないからやむを得ない処置として出したんだし」

「・・・わかっています」

 

互いの思考が読めるため、釘を差しあったルークとティナ。ティナが使うには相応しくないのだから、鞘を作りたくないルーク。出来れば一振りも損なう事なく、何とか切り抜けたいティナ。

 

 

意地を張り合って危険を作り出す事はない。そう考え、あっさりと譲歩し合う2人であった。