人気ブログランキングへ

Shining Rhapsody

オリジナル小説の投稿がメインです

348話 事後処理6

 348話 事後処理6

 

 

ティナの助言により、順調に罠を回避してペースを上げたルーク達。途中で待ち伏せしていた刺客も巻き込んでいる為、一切の無駄が無い。だが変わったのはルークの魔法だけではない。いつの間にか、ティナが先頭を突き進んでいた。

 

ティナが合流しても、ルークの引きの悪さが改善されるはずもなく。ティナの迫力に負けたルークが要求を受け入れたのだ。ルークとしても、罠の心配が無ければ誰が先頭でも構わない。刺客も魔法で対処出来るし、ティナ自身が先導する形なら遅いと言われる心配も無い。そういった意味では、渡りに船だろうか。

 

何の心配もいらなくなったルークだが、余裕が生まれた事でこれまでとは違った方向へ思考が向く。

 

(そう言えば、ティナに変わってから一度も行き止まりを見てないな。もしかして・・・行き止まりはもう無かったんじゃないか!?)

 

そんなはずは無い。自分に都合のいいよう解釈しているだけである。だが考えを口に出さなかったのは褒めても良いかもしれない。何故なら、万が一そんな事を言おうものなら、ティナに白い目で見られていた可能性が高いからだ。

 

そんなルークの思考を読み取った――はずはないが、徐々に減速してティナが立ち止まる。何事かとティナの先に視線を向けたルークもまた、納得した様子でティナの隣に並び立つ。

 

「やっと出口みたいだな」

「えぇ。随分と走りましたが、此処は一体どの辺りなのでしょうか?まさか・・・」

 

馬車の数倍ものスピードを維持したまま、かれこれ1時間は経過しただろうか。移動距離にして50キロは優に超えている。進む方角によっては帝国領内という可能性も。そう考えたティナだが、それはルークによって否定された。

 

「通って来た道と歩数から計算すると、学園都市の北東約30キロだな。てっきり王都方面、しかも学園都市との中間付近だと思ってたけど、全く見当違いの方角だった。」

「え?まさか、歩数を数えながら道を記憶していたのですか?」

「当然だろ?方角と距離が判ればバカ正直に出口を通らなくても、一旦出直して空から様子を伺えるんだ。冒険者にとっても基本じゃないのか?」

「自由に空を飛べるのは、ほんのひと握りです!」

「・・・え?」

 

ティナの指摘で思い起こす。言われてみれば、空を飛んでいたのはルークと竜王達、そしてリリエル達程度。共通しているのは、みんな翼を持っているという事。ルークは例外である。多種多様な魔法はあれど、どういう訳か飛行魔法は存在しない。

 

ルークが飛んでいるのは風魔法によって。人を吹き飛ばす程の突風をその身に受けて、である。真っ直ぐ飛ぶ事が出来る者は居るが、それは吹っ飛んでいると言った方が正しいだろう。一瞬飛行しているカレンも脳内を過ったが、主に驚異的な脚力で移動していた事を思い出す。そう、カレンの場合は基本的にジャンプなのだ。

 

 

ルークは空中で制止したりもするが、あれは緻密な制御などではなく力技である。風で吹き飛ばされる体を、反対方向から同じ威力の風で相殺しているだけなのだ。血の滲むような訓練の賜物ではあるのだが、その様子を眺めていたエレナ達が呆れて物も言えなかったのは言うまでもない。

 

カレンも含め、普通は風魔法で空を飛ぼうとは思わない。コントロールが難しく、一歩間違えれば墜落である。だったら多少時間が掛かろうとも、走って飛び跳ねた方がマシと言うもの。

 

 

「え〜と、じゃあ、ひょっとして・・・」

「あの出口から外へ出ます」

「罠だったら?」

「その時は転移して逃げれば良いではありませんか」

「・・・・・」

 

間違ってはいない。万が一リノア達が人質に取られていようと、転移してしまえば自分達に被害は無い。人質を取るくらいならば、ルークとティナを取り逃がしても手を出したりはしないだろう。しかしルークとしては、慎重に慎重を重ねたい。状況がわからない以上、迂闊に姿を見せるべきではないと思っている。

 

 

じっくりと情報収集をしたいルーク。一刻も早くエレナ達の応援に駆け付けたいティナ。珍しく立場の逆転した2人の間に、かつて無い緊迫した空気が流れる。互いに無言のまま、見つめ合うこと数十秒。先に折れた、と言うか仕掛けたのはティナだった。

 

「オムライス食べ放題で手を打ちましょう」

「は?・・・いいだろう」

 

 

『コイツ、何言ってんだ?ひょっとして食べたいだけなんじゃ・・・』一瞬そんな考えが頭を過ったルークだが、すぐ様ティナの提案を受け入れる。ここで睨み合っていても埒が明かない。折角ティナが折れてくれるのだ。ムキになって飛び出されるよりは、オムライスを作りまくった方が遥かに良い。そう判断したのである。

 

 

一方のティナはと言うと――出来る限り時間は掛けたくない。ならば此処でいがみ合って時間を浪費するより、とにかく動いた方が建設的だろう。だが自分の案を受け入れさせるには、説得に時間が掛かり過ぎる。だったらいっそ、情報収集をさせれば気が済むはず。それに上空から眺めるだけなら、長くて数分。しかも名案が浮かぶかもしれないし、無ければ突撃するだけの事。

 

 

ティナが強かなのは、黙ってルークの案を受け入れても良いのに、本来ならばする必要のない要求を付け加えた所にある。只の負けを、勝ちを譲った形にしてしまったのだ。いや、どちらかと言えばティナの勝ちだろう。米の無いこの世界で、心ゆくまで米料理を堪能出来る確約を取り付けたのだから。