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Shining Rhapsody

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250話 SSS級クエスト2

 250話 SSS級クエスト2

 

 

 

翌朝シュウとユキを送り出し、物資の補給に向かったエレナ達。20人で手分けすればそれ程時間もかからず、昼には城へと戻る事が出来た。

 

すっかり上達した料理人達の作る昼食に舌鼓を打ち、与えられた部屋で休んでいると不意に城内が慌ただしくなる。

 

「何かしら?」

「わからん。まぁ、用があれば呼びに来るだろう。」

「アスコットの言う通りじゃな。」

 

ブランシェ夫妻の会話に、ランドルフが口を挟む。全員が1つの部屋に集まっている以上、聞かれて困るような会話ではない。エレナもアスコットも特に気にした様子もなく、続けて声を発しようとした時、扉をノックする音が室内に鳴り響く。

 

「入っていいわよ。」

「失礼します。」

 

重厚な扉を開けて入って来たのはスフィアであった。

 

「問題でもあったのかしら?」

「えぇ、まぁ。問題と言えば問題ですね・・・。」

「「「「「?」」」」」

 

スフィアにしては珍しくハッキリしない物言いに、全員が揃って首を傾げる。

 

「ユキさんの独断で、また妻が増えたのですよ。」

「それは・・・」

「何か、スマン。」

 

自分達の娘が原因と聞かされ、思わず謝罪を口にするアスコット。しかし嫌味を言う訳でもなく、あっさりしたスフィアが説明を始める。

 

 

「妻が増えるのは事前に話し合っていた事ですから構いません。ただ予定外の人物と言いますか・・・。」

「誰なの?」

「シャルルーナ第二王女です。」

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

何故そのような展開になるのかわからず、全員が一斉に声を上げる。

 

「ユキさんが言うには、『私がエルフじゃなくなったから、席が1つ空いたでしょ?繰り上げ当選です!』と。」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

どうフォローしたら良いのかわからず、誰もが口を噤む。ティナの考えている事すら理解出来ないのに、ユキの頭の中がどうなっているのか理解出来るはずもない。しかしスフィアを始めとした嫁達には予感めいたものがあった。だがそれも口に出してこそ。誰も何も言わなかった為、城内は今ただただ慌ただしくなっているのだ。

 

「まぁ、それはみなさんと無関係ですから、今は置いておきましょう。私が訪ねて来たのは昨晩の依頼に関してです。」

「依頼というと、SSS級クエストの事じゃな?」

「えぇ。誠に勝手ながら、冒険者ギルドに指名依頼という形でお願いしておきました。出来ればこれから、受注に向かって頂きたいのです。」

「どういう事だ?別にギルドを通す意味は無いだろう?」

 

スフィアの言葉に、アスコットが疑問を呈する。スフィアも予想していたのか、すぐに理由を告げる。

 

「今現在、冒険者ギルドの業務は滞っています。理由は・・・わかりますね?」

「えぇ。採取、護衛、討伐。どれも今の冒険者には不可能な状況だもの。」

「そうです。つまり、職員の給料を満足に支払う事が出来ないのです。依頼しても失敗しますから。」

「つまりあれか?ギルドの取り分を確保する為、今回の依頼をギルド経由で、って事か?」

「はい。今回の依頼、みなさん全員を指名しました。20名に対し、用意した報酬は白金貨2000枚です。」

「「「「「2000枚!?」」」」」

 

つまり、1人頭白金貨100枚という、前代未聞の報酬額。これにはエレナですら驚きを隠せなかった。

 

「今回の依頼がSSS級クエストだと納得させる為、我々がギルドに支払う手数料は白金貨で400枚。お陰で冒険者ギルド本部を通す事になり、今まで時間を割く羽目になったのですが・・・みなさんには関係ない話ですね。」

「ティナ・・・ユキが暴れないようにすればいいのよね?」

「サラさんでしたか?本当の所は貴女のおっしゃる通りです。」

「本当の所?」

「そうです。考えてみて下さい。カレンさんならともかく、相手は名も知らない女性です。そんな依頼がSSS級だと思いますか?」

「思わないわね・・・。」

 

相手がSランクのティナであれば、S級クエスト。盛りに盛ればSS級かもしれない。しかしティナの名前は使えない。カレンを対象にしようと思っても、見た目で間違いなくバレる。ユキの実力は誰にもわからないが、SSSランクのルークが言うのだから信じるしかない。

 

冒険者ギルドの支部長が頭を抱えてしまった為、直接本部への依頼となったのだ。それもルークの名前で。結局は金で解決した事になるが、悪事を働いている訳でもないので即断即決だった。

 

 

「ギルド職員の為ってのは理解したが、冒険者には何も無しか?」

「実は今まで、ティナさんが魔物の解体を依頼していました。冒険者に支払う報酬は充分過ぎる程です。言い換えれば、冒険者ギルドの取り分が少なかった事になります。」

「あ〜、事前に手順を踏んだ、正式な依頼じゃないもんな。」

「納得したわ。」

 

 

誰よりも冒険者ギルドの内情を知るエレナとアスコットが納得し、他の者達もまた視線を合わせる。何となくそんな物なのかと、それ以上どうこう言うのを控えたのだった。

 

 

「今回は体裁を考慮して、複雑な依頼内容となりました。詳しい事は、冒険者ギルドにて確認して下さい。」

「了解した。すぐに向かう事にする。」

「ありがとうございます。それでは失礼します。」

 

礼を述べて、扉へと向かって歩き出すスフィア。しかし扉に手を当てながら、その動きを止めてしまう。これに気付いたエレナが問い掛ける。

 

「どうしたの?」

「・・・今回の一件、何故か嫌な予感がします。くれぐれもお気をつけ下さい。」

「え?えぇ、わかったわ。ありがとう。」

「いいえ、それでは。」

 

 

本当に心配した様子のスフィアに面食らったエレナであったが、すぐに礼を述べる。スフィアが立ち去った後、言いようのない不安が全員に襲いかかる。

 

 

「・・・大丈夫かしら?」

「わからない。だが相手の根底にあるのはティナだろ?」

「しかしルークだけでなく、スフィア皇后の様子からも察するに、今回はただ事ではなさそうじゃぞ?」

「本当に別人だと思った方がいいんじゃない?」

 

仲間達の会話を聞きながら、不意にアスコットが呟く。

 

 

「別人、か・・・。」

「ひょっとして、アナタも?」

 

アスコットの表情から何かを読み取ったのか、エレナが訳のわからない質問を投げ掛ける。これには誰もが反応した。

 

「何か感じたのか?」

「あぁ。・・・少しティナを放っとき過ぎたと思ってな。」

「「「「「?」」」」」

「私達って、あまりティナの行動に注意とかして来なかったでしょ?」

「まぁそうじゃな。放任主義とでも言うのか・・・。」

「でも私は悪い事だと思わなかったわよ?」

「それはオレ達も同じさ。間違ったとは思わない。相手がティナだったら、な。」

「食欲に忠実だったせいで、他の教育が足りなかったんじゃないかと思うのよ。だから前世の人格が色濃く現れたんじゃないかって・・・。」

 

教育方針が間違っていなかった事は、ティナの人となりが証明していた。だがそれは、言い換えれば自我が希薄だったのではないかという事でもある。

 

人生の荒波に揉まれ、強烈な人格を形成していたら、ティナのままだったのではないかと考えたのだ。だがそれは、ある意味で厄介な人物を生み出していた事だろう。

 

 

「予想出来なかったんだから仕方ないさ。それよりも、さっさとギルドに行った方が良くないか?」

「そう、だな。今更どうにもならない事は、この際置いておこう。」

「じゃあ、ギルドに向かいましょうか。」

「待て。ギルドにはエレナとアスコットだけで向かってくれ。」

「どうした?」

「さっきまで、どこかで甘えがあった。オレ達は武器を準備しておく。夜までには調整しておきたい。」

「同感じゃな。」

「・・・本気か?」

 

リューの提案に乗るランドルフ。見回せば全員が同じ気持ちなのが見て取れる。だからこそアスコットは聞き返した。改めて準備する武器が、神器を破壊する為に作られた物を意味しているのがわかったのだから。

 

「良くわからないからこそ、万全を期して臨む。エレナとアスコット以外、その準備が出来ていないんだ。」

「わかった。」

 

SSS級クエストなのだから、最善を尽くすのは当たり前。誰よりも理解しているからこそ、それ以上聞き返すような愚かな真似はしなかった。

 

 

慌ただしく武器の調整に入るランドルフ達を尻目に、エレナとアスコットは冒険者ギルドへと向かうのであった。

 

 

 

 

場所は移り変わってギルド支部長室。ソファーに座るのはエレナとアスコット。そして冒険者ギルド帝国支部長、ロイド。初老の男性ではあるが、アスコットに負けず劣らずの体躯を誇っている。元Sランク冒険者の彼が、今回の依頼で頭を抱えた人物である。

 

 

「スフィア皇后陛下からは、何と聞かされている?」

「詳しい事は何も。ギルドで聞けって言われて来たが、どんな依頼なんだ?」

「う〜ん、表向きは護衛依頼となっている。」

「表向き?じゃあ裏があるのかしら?」

「あぁ。今回の依頼、達成条件が特殊なんだ。」

「「特殊?」」

「護衛対象の生死は不問。成功条件は全員の生還、失敗条件は・・・」

「「?」」

「建造物及び人的被害を出す事だ。」

「「・・・は?」」

 

そんなのは護衛ではなく防衛だ。そう思ってしまった2人が呆気にとられる。

 

「当然の反応だな。簡単に説明するが、護衛任務ってのは方便だ。内容を聞けば、誰でも防衛任務だと言うだろう。」

「何でまた防衛任務じゃないんだ?」

「騒ぎになるのを恐れたのさ。そんな危険人物がいるなんて噂になってみろ。帝都中が混乱に陥るだろ?それに、護衛対象は帝都の外に向かうと言う。今や1歩でも外へ踏み出せば危険地帯だろ?SSS級クエストだと言われても、疑問に思う奴はいないのさ。」

「「あぁ・・・。」」

 

もっともな説明に、何も言い返せない2人。スフィアから詳細を聞かされていたロイドは、2人の反応に苦笑する。

 

「ふっ・・・お前さん達には同情するが、こっちも生活が掛かっててな。悪いが頑張ってくれ、としか言えないんだよ。」

「金で買収されたりとかしてないよな?」

「あの嬢ちゃんがそんな事すると思うか?」

「無いでしょうね。でも、何らかの便宜を諮る事ならするんじゃない?」

「・・・・・。」

「図星かよ!」

「ち、違う!お前らの娘の解体依頼を、正式な依頼として扱って貰うだけだ!!」

「「・・・・・。」」

 

 

 

それを買収と言わずして何と言うのか。だが自分達の娘を引き合いに出され、何も言い返せないエレナとアスコットであった。