人気ブログランキングへ

Shining Rhapsody

オリジナル小説の投稿がメインです

240話 立ち向かうべきモノ

 240話 立ち向かうべきモノ

 

完全に落ち込むアークを引き摺る形で、ヴィクトリア達は後ろへ下がる。部屋の中央にはルークと嫁達、そしてエレナとアスコットが集まった。

「それでは臨時の家族会議を開催します。議題はルークとティナさんの見た目が別人に変化する件について。意見がある方は挙手をお願いします。」
「「「「「はい!」」」」」

スフィアの言葉を受け、ほぼ全員が手を挙げる。初めに発言を許されたのはルビアであった。

「同時に話し合うよりも、先にティナの件に集中したら?折角両親も出席してるんだし。」
「確かにそうですね・・・」
「なら、オレ達の意見を先に言わせて貰って構わないか?」

アスコットの提案に、嫁達全員が頷く。無反応だったのは、ルークとティナだけである。その様子を見て、スフィアはアスコットに向かって頷くのだった。

「なら言わせて貰うが、オレとエレナはティナの見た目が変わっても構わないと思ってる。」
冒険者という仕事柄、四肢の欠損だったり顔が変わったりというのは良くある話よ。ティナが冒険者になった時点で、私もアスコットも覚悟しているわ。」
「だからティナがどんな姿になろうとも、元気でいてくれればそれでいい。」
「何が起きても、ティナは私達の娘よ!」
「お父さん、お母さん・・・はい!!」


血の繋がり以上に深い絆で結ばれた親子に、室内に居た全ての者達が微笑むのであった。結局ロクな議論も無いままに、ティナの件は終了となる。

「最終的な判断はティナさんに一任する事にしましょう。では続いてルークの件です。エレナ殿とアスコット殿。何かおっしゃりたい事はありますか?」
「オレ達か?う〜ん・・・」
「元々見た目が違うものねぇ・・・」
「今更だな。」
「無いわね。」
「・・・・・。」

この2人の言い分はもっともである。ティナとは違い、早い段階で実の子ではないと告げている。見た目も全くと言っていい程異なる。今更見た目がどう変わろうと、2人の扱いが変わる事など無いのだ。

これに若干不満だったのがルークである。しかし2人の気持ちも理解出来る為、表立って文句を言う気にもならない。結果として、目で何かを訴えるだけとなった。当然届く事など無いが。


「では、私達の意見次第となりますね。」
「「「「「う〜ん・・・」」」」」

全員が唸るのも無理はない。全員に共通して言えるのは、一目惚れだったという事である。今となっては内面を重視しているが、それは見た目がどうでも良いという訳ではない。同じ顔が並んでいるのは抵抗を覚えるが、それ以外に不満は無いのだ。

どうしたものかと唸る嫁達に対し、ヴィクトリアがある提案をする。

「どうせならルーク・・・神崎秀一の姿を見て判断したら?アナタ!」
「ん?あぁ、ほれ。」

完全に落ち込んでいたアークが手を翳すと、空中に1人の男性が姿を表す。

ーーガタン!

「シュウ君!?」
「「「神崎シェフ!?」」」
「確かに前世のオレだな・・・若い頃の。何で金髪なのかは置いといて。」
「「「「「っ!?」」」」」

ティナは驚き立ち上がり、ルークは他人事のように呟く。若返った上、金髪なのだから無理もない。息を呑む嫁達を他所に、ルークは疑問を投げかけた。

「オレが金髪って事は、ティナもそうなのか?」
「あぁ。神の肉体に作り変えたからな。だが、髪の色は自由に変えられるだろ?」
「それもそうか。・・・ん?」

髪の色程度であれば、魔道具や魔法で容易に変えられる。それを思い出して納得したルークは、ふと嫁達の様子が気になり視線を向けた。そこには、カッと目を見開き固まる嫁達の姿。この時、嫁達の思考は完全に一致していた。

((((( コレは・・・いい!!)))))

ここまで好みが一致するのも稀なのだが、嫁達はアリだという結論に至る。むしろ、アークと同じ姿よりも好ましい程である。同時に火がついた者達がいた。異世界召喚組である。

彼女達はいいオヤジである秀一に対して好意を寄せていた。そんな相手の若かりし頃の姿がそこにある。ときめくなと言うのは酷だろう。


「みんなどうした?」
「「「「「ハッ!?」」」」」
「まずは一旦、決を採りましょうか?」
「そうね!」
「意義なし!」
「ルークの見た目が変わる事に賛成の方、挙手をお願いします。」

ルークの呼び掛けにより我に返った嫁達。こちらもロクに議論しないまま、突然の採決となる。そして結果はというとーー


「全会一致で可決されました。これにより我々妻一同は、ルークが前世の姿となる事を容認します。むしろ推奨します!」
「え?いや、あの・・・」
「「「「「何か!?」」」」」
「何でもありません。」

全員がピンと伸びた美しい挙手を披露する。まさか全員が賛成するとは思っておらず、それでいいのかと口を挟む。しかし嫁達の鬼気迫る姿に、何も言えなくなるルークであった。因みにティナは、必死に笑いを堪えている。

 

世界の終わりとばかりに落ち込んでいたアークだったが、この結果により本来の調子を取り戻す。しかしヴィクトリアとシルフィに対して頭が上がらなくなるのは言うまでも無い。


「さて、ならさっさと済ませるか。『御霊移し』って儀式をする必要があるんだが・・・まずはルークからだ。ほれ、行くぞ?」
「行くって何処へ?」
「神域よ。」
「え?あ、ちょっと!」

アークによって無理やり連れて行かれるルーク。そんなルークに構う事なく、シルフィとヴィクトリアが説明を行う。

最高神にしか執り行えない『御霊移し』は時間が掛かる。その間2人は無防備になるから、安全な神域に向かう必要がある。しかもそこは時間の流れが緩やかな空間。戻って来るのはあっと言う間。」
「『御霊移し』と呼ばれているけど、実際は吸収とか融合に近いのよ。条件もかなり厳しいみたいね。肉体って魂の器として形作られる物なんだけど、その魂が納まる部分が同じじゃないと成功しないって話よ。」
「つまり、転生前後の肉体が揃って初めて行える儀式。本来は有能な者を神に迎え入れる為のモノ。」

神が産み出される仕組みの1つ。聞いた所でどうしようもないのだが、自分達の知らない知識を整理していると、アーク達が戻って来た。

「あれ?」
「変わってない?」

見た目に変化の無いルークの姿に、ルビアとナディアが声を上げる。

「今すぐ変えなきゃいけない理由も無いからね。時期を見て変える事にしたよ。」
「「「「「ちっ!」」」」」
「・・・・・。」

一斉に舌打ちされ、何とも言えない気持ちのルーク。そんなルーク達に構わず、アークとティナが転移する。

 


「ここが神域・・・」
「そうだ。ここは特殊な場所なんだが、他の場所は足を運ぶ事になるだろう。さて、その祭壇に横になれ。時間が掛かるから、眠っても構わん。」
「わかりました。」

息が詰まる程の神聖な空気に戸惑うティナ。しかしアークはさっさと終わらせたいのだろう。ほとんど説明する事もなく儀式に取り掛かる。言われた通りに横になって目を閉じるティナ。

どれ程の時間が経過しただろう。不思議と何かを考える事も無く、ひたすら無心のティナに声が掛かる。

「終わったぞ。」
「これは・・・」

自分の体を見回すが、特に変化は見られない。そう思った矢先、自身の髪が目に入る。美しい銀髪が、ルークやカレンと同じ金髪に変化していたのだ。だが変わったのは髪の色だけではない。魔力を失い、代わりに神力を得ているのが感じ取れる。

「御霊移しを行った者は、念じるだけで姿を変えられる。試してみろ。」
「・・・本当に、昔のまま・・・。」

アークが用意した姿見の前で目を閉じて念じるティナ。すぐに瞳を開くと、そこには若かりし頃の雪が立っていた。

「本当は2人同時でも良かったんだが、お前に渡す物があってな。」
「何です?」
「コレだ。」
「っ!?こ、これはまさか・・・」

雪の前に現れたのは、純白のウェディングドレス。完成を目前にして生涯を終え、着る事の出来なかった憧れの存在。動揺する雪に、アークが事情を説明する。

「幸之進と静から預かったものだ。いずれ必要になるだろ?」
「はい・・・ありがとうございます!」
「オレがあの2人と接触したと知れば、アイツが噛み付いて来るだろうからな。それを着る時まで秘密にしといてくれ。」
「ふふふっ。わかりました。」


未だにルーク達が結婚式を挙げない理由。それはルークが18歳まで待って欲しいと頼み込んだ為である。それを後押ししたのはティナであった。だがそれは、ルークの気持ちを理解しての事ではない。3年の内に、全種族から嫁を集めようと思ったからだ。

これまでは、何故そんな事を考えていたのか自分自身でも良くわからなかった。しかし記憶を取り戻した事で、その理由がわかったのである。


「戻る前に聞くが、その姿でいいのか?」
「う〜ん・・・やはりエルフ族の姿にします。」
「そうか。」

アークの言葉に数秒考え、今まで通り『ティナ』の姿を選択する。夫婦揃って似たもの同士だと感じたアークは、それ以上何も言わなかった。

 

アークとティナが戻ると、その場にいた全員が驚く事となった。

「ティナ!?」
「髪の色が・・・」
「カレン様やルークと同じ・・・」
「彼女も我々と同じ神族となった。」
「そういう事だ。悪いがここからが本題だ。驚いてる場合じゃないぞ?」

驚く者達を諌める最高神。彼の言葉で全員が席に戻る。


「これで準備は整った訳だが・・・一体何から話したもんかな。」
「準備?オレ達が前世の姿になる事が、か?」
「あぁ、そうだ。ん〜、そこから説明するか。今回お前に前世の姿を提供した理由は、敵から身を隠すのが目的だ。」
「「「「「敵?」」」」」
「今はまだ無理だが、お前ならいつか必ず勝てる。その為の時間を稼ぐのが狙いだな。」
最高神が勝てないような存在がいるのか?まさか・・・魔神?」

アークの口ぶりから、神々ですら手を焼いていると判断したルーク。思い至るのは、今尚異なる世界において争いを続けている存在。しかしアークは首を横に振っていた。


「実のところ、魔神には2つの勢力がある。1つは我々と争う勢力。もう1つがヴィクトリアとはじめとした、同じ者達を敵とみなした勢力。」
「だから、最初に挙げた魔神の勢力だろ?」
「いいや、そいつらは下っ端だ。親玉は別にいる。」
「「「「「っ!?」」」」」
「我々の本当の敵、それは原初の神々。全ての世界を創り出した2柱・・・すなわち『創生2柱』と呼ばれる創造神だ。」
「「「「「なっ!?」」」」」


居合わせた誰もが、最高神こそが最高位の神だと考えていた。しかしアークの口から飛び出したのは、誰もがすんなりと理解出来る存在。世界を創造した、至高の存在なのだ。受けた衝撃の大きさたるや、全員の人生において最たるものであった。